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脳は鍛えるより「わくわく」させよう

自己啓発に関心のある方ならば、一度は佐藤富雄氏の本を手にしたことがあるだろう。それもそのはず、過去に数十冊に及ぶ著書を記し、累計で270万部を売り上げている。
「人は誰でも『口ぐせ』通りの人生を送っています」
佐藤氏はこう主張する。
人は考えているようにしゃべり、しゃべっているように考えているわけだ。よって、人前で話すのが苦手だと考えている人は、そのような機会がおとずれると必ずあがってしまう。
また、人は自分自身に対して「自己像」をもっている。自分の能力や資質などについて自分なりの考え方をもっているということだ。人は自己像通りの人生を送っている。ならば、自己像を変えれば、人生を変えることも可能だ。
つまり、言葉や自己像は人の意識の表れであり、意識は体を支配している。
例えば、人は不安を感じると、それだけで顔色が悪くなったり、体調を崩したりすることも少なくない。
佐藤氏は、言葉と意識の関係、加えて意識と体の関係、とりわけ自律神経に着目し、四十数年にわたって研究、実践してきた。その結果、確立したのが「口ぐせ理論(R)」だ。この理論をもとに佐藤氏が開催するセミナーでは、多くのビジネスマンや学生が学んでいる。
その間、脳に関する研究は進み、新しい様々な事実が明らかになってきた。
従来の「口ぐせ理論(R)」に最新の脳科学をとりいれた佐藤氏は、新刊「脳が悦ぶと人は必ず成功する」の中で、「脳は鍛えるより『ワクワク』させたほうがいい」と述べている。ビジネスマンが生き残るには、仕事におけるスキル、アイデア、人脈などが不可欠だ。それらを、「ワクワク」から生み出された「ひらめき脳」が思いのままにできるという。
佐藤氏はそれを自らの人生で実証してきた。とにかく何ごとにも前向きで明るい。自分のやりたい仕事を次々と成功させ、その見返りとして得た生活を楽しんでいる。76歳の今でも、スポーツカーを乗りこなし、スキーの腕前は国際A級。2006年にはロシアの戦闘機「ミグ」で大気圏外を経験した。次なる目標は、80歳でケンブリッジに入学することだ。
ここまで読んで、「ワクワク」してきたアナタ、すでに脳は刺激されているかもしれない。

転職するなら「快」の状態で

佐藤氏にもサラリーマンの経験がある。当時の日本経済は右肩上がりで、会社からは終身雇用と年功序列が保証されていた。いわゆる「日本式経営」だ。ゆえに、転職にネガティブなイメージがあったことは否定できない。にもかかわらず、佐藤氏自身、何度か転職をしている。

「役員として誘われたことも含めて、これまでに4、5社へ転職しています。職を移ることは決して悪いことではありません。むしろ、いいことではないではないかと私は考えています。
いい仕事をしたい、今の仕事が合わない、その他、給料や人間関係など、様々な理由やきっかけがあるでしょうが、収入はさておき、今の仕事に疑問をもったら、転職してみる、挑戦してみることが大切です。
ただ、私の場合、転職するたびに収入はうなぎのぼりになり、最終的には人の3倍にもなりました(笑い)」

時代は変わり、雇用市場は流動化し、自らの可能性を試すために、キャリアを重ねるために、転職は積極的に行なわれるようになった。
ところが、いざ転職に踏みきろうとすると、不安を感じて、躊躇してしまう人も少なくない。

「これから先のことは誰にもわかりません。転職することで生活が一変することもあるでしょう。
しかし、変化することは幸運が訪れるときの前ぶれなのです。いや、そのように自分へ暗示をかけます。
あるとき、外資系の企業から引き抜かれたことがありました。そのころの私は英語ができませんでしたから、とても不安でした。
でも、面接のときは、しゃべりすぎるほどしゃべったのです。少しでもいい条件をもらいたかったものですから(笑い)。
転職を考えているとき、なかでも面接のときなどは、脳が“快”の状態になっていなければなりません。その状態で面接にのぞめば、会話のリズムもよくなりますし、思いがけなくいい言葉が出てくることもあります」

佐藤氏は、サラリーマン時代、人事や採用を担当したことがあり、経営陣のひとりとして役員面接にのぞんだこともある。

「(就職希望者に)夢があるかどうか、まずそれを見ます。相手の話す内容がロジックだけなのか、それともイマジネーションが含まれているのか。これらのことを慌てないで話しているか。
もっとも注目する点は、親を尊敬しているか。人を喜ばせることを知っているか。この2点です。
親を尊敬できないと、なかなか他人を尊敬しづらい。 社会では人間関係を円滑にしなければなりませんし、あらゆる仕事にはチームワークが欠かせません。そのためにも、人を尊敬することができなければならないのです。

ワクワク感が「ひらめき」を生む

佐藤氏の理論は多くの人たちから支持されている。セミナーに参加したビジネスマンや学生は自信をもち直し、モチベーションを高めているという。

「こだわりのある人は、どうしても理屈で考えてしまいます。大脳では納得していても、感情を揺さぶられることはありません。結局、生き方には反映しないことになります。
一方、大脳では考えず、インスピレーションで判断する人は、心がときめき、モチベーションも上がるようです。素直な人、明るい人といってもいいでしょう。
では、素直でない人、暗い人は、ダメだということでしょうか。そんなことはありません。素直になれる方法、性格を変える方法があります。
頑固な人には、そのようになった理由があるはずです。まず、それは何なのかを明らかにします。そして、自分が頑固だということを認識すること、つまり受け入れなければなりません。
そこで、自己暗示にかけるわけです。これには言語を使います。自分がなりたい姿、なりたい自分とはどのようなものかを口に出すのです。1日に20回でも30回でもかまいません。いつでもいいのです。僧侶がお経を唱えているのと同じだと考えてください」

佐藤氏が提唱した「口ぐせ理論(R)」は大きな話題となった。その後、脳科学が飛躍的に発達したことに伴い、自説にそれらを加えて発表したのが、「脳が悦ぶと人は必ず成功する」だ。

「人の感情は、自律神経に影響を及ぼしますが、自律神経の根の部分が大脳周辺系で、感情脳とも呼ばれています。ここに脳を活性化するヒントがあると考えたのです。
脳には原始的な部分が残っています。それがあらゆる動物にある視床下部で、欲望をつかさどっているのです。それは快適に生きることへの欲望であり、動物にとって最優先の目的と言っても過言ではありません。
この原始的な脳から生まれた『ひらめき』によって、私たちは生き残ってきたとも考えられるわけです。
『ひらめき』とは『願望を達成する能力』と言い換えることもできます。例えば、お客さんに商品を買ってもらいたいとき、そのために必要な策、すなわち営業法を考えなければなりません。それが『ひらめく』ことなのです。
多くの成功者たちはこの『ひらめき』を利用してきました。『ひらめき』があったからこそ成功できたのです」

原始的な脳は誰もがもっている。これを佐藤氏は「ひらめき脳」と呼ぶ。では、「ひらめき」を生み出すことは誰にでもできるのだろうか。

「『願望を達成する能力』は誰の脳にも備わっているのです。それでも『ひらめき』が生まれる人とそうでない人がいます。『ひらめき』が出ないからといって、頭の回転が悪かったり、思考能力が劣っていたりするわけではありません。脳に対して願望が伝わっていないだけなのです。
『胸がときめくような期待』や『ワクワクするような感情』をもつことができれば、『ひらめき脳』を刺激し、自然と『ひらめき』が促されるようになっています。モチベーションを上げることと言ってもいいでしょう。
これまでも私はいかにモチベーションを上げるかということを考えてきました。その答えは、常に心を“快”の状態にしておくことです。
そのような状態にしておけば、『人生を満たす面白いこと』も『目の前の問題がうまくいくヒント』も脳が勝手につくり出してくれます。
若いころに私は海外でロレックスの腕時計を初めて見ました。絶対に手に入れてやると強烈に思いました。すると、不思議なことですが、それだけの収入を得られるようなアイデアがどんどん出てきたのです。
『ひらめき脳』を刺激する強い欲望を感じると、いいアイデアが生まれ、そうすれば、ほしいものが手に入り、モチベーションが高まります。それにより、一段上に進むためのアイデアがまた浮かび、その達成にワクワクする欲望を再び感じるようになるわけです。
でも、今から思うと、素敵な女性とつき合っていたときがもっともワクワクしていたかもしれません(笑い)」

よく歩き、よく寝て、よく遊べ

必死になって考えても、いいアイデアや解決策が出てこないこともある。佐藤氏は、脳はもともと「ひらめく」ようにできていると考えており、そのキーワードとなるのが「ウォーキング」「睡眠」「遊び」だ。

「『気持ちいいなあ』と感じるとき、脳の中は『脳内ホルモン』が充満しています。この『脳内ホルモン』は歩くことによって効率よく分泌されますから、『ひらめき脳』をつくるためには『ウォーキング』が最適です。試しに15分くらい歩いてみてください。気分が高揚してくるはずです。
私が現在のような快適な生活を手に入れることができたのも、40代から始めた運動によるものが大きく、今でも熱海の自宅に居るときは、毎朝1、2時間ほどウォーキングをして、それから自宅に引いた温泉に入っています。朝から“快”の状態ですから、次々といいアイデアが思いつくわけです(笑い)。
一方、私たちは睡眠中に『ひらめき』を導き出す活動を行なっています。それは『情報整理作業』といってもいいでしょう。       
いい睡眠とは、地震があっても気がつかないような深い睡眠です。脳の疲労は体で取り除きます。少し運動をすればいいのです。それにより今度は体が疲労を感じますから、そうすれば自然と深い眠りが得られます。
何かを成し遂げるためには、海馬の力が不可欠です。解決するための材料、つまり情報を海馬が集めてきてくれます。やがてそれが『ひらめき』を生むのです。例えば、車がほしいと思えば、それまでは気にならなかったのに、街を走っている車がいやに目に入ってくるようになります。同時にいろんな情報が集まってきますが、これなどは典型的な例です。
海馬は死ぬまで発達することがわかっています。海馬の力を高めるには、何より学習することです。私は、80歳でケンブリッジ大学に入って考古学を学ぼうと思っています。そこで日々英語を勉強していますが、こういった語学でもいいですし、マージャンのようなものでもかまいません。
ただし、最近、モナコに住むのもいいなあと思い、モナコの大学にしようかなと迷っているのですけどね(笑い)。
お勧めしたいのは、人間そのものの勉強です。偉人やで伝説をつくったような人は、必ず苦境を抜け出す経験をしています。彼らから学ぶことはたくさんあるはずです。
『脳トレ』が流行っています。確かに計算は速くなったりしますが、脳をワクワクさせるわけではありません」

「学ぶ」こととともに、「遊ぶ」ことも「ひらめき」を促す“快”の状態をつくるうえで欠かせない。
また、人の力を借りて「ひらめき」を引き出すこともできる。そのためには広い人脈をもつことだ。

「子どもたちが一心不乱になって遊ぶのは、そこに感動があるからです。それが遊びの原点ともいえます。
大人の遊びもそれと同じですが、うまく遊べない大人は、子どものときに遊びによる感動を体験していません。だから、大人になっていい遊びを発見できないのです。
テレビゲームを夢中になってやっている子どもがいますが、それでもかまいません。遊びに良い悪いはありませんから、会社の帰りにゲームセンターに寄ることしか楽しみがないとしても、それも遊びのひとつだと思います。
人脈力とは、友だちをつくる力のことです。10年前を思い出してください。そのときに親しかった人と今でもつき合っていますか。つき合うのはかまいませんが、メンバーがまったく変わっていないようならば、それは問題があります。
新しいつき合いが広がっていなければなりません。そのためには人間が好きでないと。
私の場合、人と会い、おいしい酒を飲みながら語るために働いていると言ってもいいくらいです。
もちろん、常に“快”の状態を保てるとはかぎりません。もしスランプに陥ったのなら、旅行をお勧めします。すぐに行ける小旅行がいいかもしれません。
旅行では異質な世界を経験できますから、感動が生まれます。結果としてモチベーションも高まるのです。
その意味では、部屋の模様替えをするだけでもいいでしょう。私の場合、お金に余裕があったので、引越しをしていましたね(笑い)」

佐藤 富雄 北海道北見市出身。作家。生き方健康学者。ルーマニア・スピール・ハーレ大学教授。ルーマニア名誉領事。全国各地でセミナーや「口ぐせ理論実践塾」を開催している。著書は「脳が悦ぶと人は必ず成功する」「あなたが変わる『口ぐせ』の魔術」「ぜったい幸せになれる話し方の秘密」「50歳からの勉強法」など多数。

参考書籍

脳が悦ぶと人は必ず成功する
佐藤富雄 (著),
(Nanaブックス ・¥ 1,260 )

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