ロボリューションの小西康晴です。さまざまなサービスロボットの開発案件に関わる中で感じていることを、当社のロボット観やロボット論なども交えながら執筆します。
開発におけるコンセプト作成のアプローチ
小西 康晴
プロフィール
1977年、大阪府生まれ。2000年、慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科(1期生)卒。2002年、慶応義塾大学大学院理工学研究科空間環境デザイン専修(吉田和夫研究室)修了。修論テーマは「自律走行自転車ロボットの開発」。同年、村田製作所に入社。産業用ロボットの研究・開発および電子部品PR用ロボット開発に関わる。2005年ロボットテクノロジーに無限の可能性を感じ退社。同年4月、父が経営する生野金属に入社(現在、新事業開発部 部長)。06年6月サービスロボットの開発・導入コンサルティング事業を行うロボリューションを設立し、代表取締役に就任する。
大和ハウス工業「住宅床下点検ロボット開発プロジェクト」(平成18年度経済産業省「サービスロボット市場創出支援事業」)をコーディネートし、PJ採択後も深く関与。その他、各種ロボット開発プロジェクトに参画し、プロデュース・コンサルティング業務をおもに活動している。
2006年度、2007年度、ロボットラボラトリー、次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」におけるRooBOブレインズ技術アドバイザーを務めるほか、国際デザインコンペティション2006 テーマ「ROBOT」、同2007 テーマ「ROBOT2」にて技術専門委員も務める。
(記事提供)
日刊工業新聞社・ロボナブル
ロボリューション(http://www.robot-revolution.com/)の小西康晴です。さまざまなサービスロボットの開発案件に関わる中で感じていることを、当社のロボット観やロボット論なども交えながら執筆します。ロボットメーカーさんとユーザーさん両者との架け橋になれるような内容を目指します。読者のみなさんには、気軽に読んでいただけると幸いです。
第1回は、当社のサービスロボット開発・導入コンサルティング業務のファーストステップである「コンセプト作成」について紹介します。
これまで、さまざまなサービスロボットの開発案件に関わる中で、設計前のコンセプト作成がいかに大事であるかを痛感しています。
私は、RTを活用することで生まれる価値を、『機能価値』と『感性価値』の2つに分けて考えています(図参照)。「価値」という単語を使う理由は、技術者視点ではなく顧客視点で物事を捉えるためです。
まず機能価値とは、次の5つの項目を指します。「機能性」「安全性」「保全性」「耐久性」「信頼性」です。これら5項目に関する技術の蓄積が多い企業こそが、真の技術的な強みを持ったRT関連企業だと考えています。
当社でBtoBビジネスをコンサルテーションする場合、コンセプトの作成段階で重要なことは、ユーザー企業さんの機能価値に関する希望を深く聞くことにあります。 当社には、「導入効果プライオリティ」と呼んでいる指標があります。「作業時間の短縮」「コスト低減」「作業者負担/危険の低」・・・など、ロボット導入後に求める効果について、ユーザー企業さんに優先順位を付けてもらっています。この指標が後々ロボットに仕様変更が生じた際、大きな役割を果たします。
ロボットの設計・製作段階での仕様変更は、「変更による効果」の面でトレードオフの関係が鮮明になる場合が多く見られます。例えば「設計変更により、さらなる安全性向上(設計変更しなくてもリスクは許容範囲内に低減されている)につながるが、コストが増大し、作業者の負担も増える」といったケースです。 このような場合、上記の指標がないと議論だけが飛び交い、なかなか結論に至りません。したがって、コンセプトの作成時には「何を大事としてロボット開発に取り組むのか?」を明確にしておくこと、そして、機能価値を構成する上記5項目について、それぞれコンセプトをしっかりと立てておくことが重要です。
次に、「感性価値」について説明します。 サービスロボットは、21世紀初旬に『豊かさの象徴』となることは間違いありません。これは、富裕層のステータスや虚栄心を満たすための贅沢品という意味ではありません(そのような市場はもちろんあるでしょうが)。ここで言う豊かさとは、「豊かさ=選択肢が多いこと」を意味しています。つまり、一般消費者の選択肢の1つにロボットが食い込んでいくという意味です。
モノが溢れ、モノに不自由することがない現代において、ロボットがユーザーの選択肢の1つに組み込まれるためには、「現状よりも満足させる何か」がロボットに求められています。その答えを見つけることは容易ではありません。 しかし、その困難に立ち向かう1つの手段が『感性価値の創造』であると私は考えています。つまり、サービスロボットは、モノの豊かさだけではなく、心の豊かさも提供することが重要だと考えています。 そこで私は、感性価値を構成するファクターを5つに分類してコンセプトメイクをしています。「デザイン」「こだわり」「調和」「共感」「遊び心」です。これらは、ユーザーに対して「+αの訴求力」を生みます。
また私は、歴史的背景からも、感性価値の創造はロボットのコンセプト構築と相性が良いと考えています。 ロボットの語源は、「小説家カレル・チャペックが創作し、1920年に発表した戯曲の中で使用したものが広まり、一般的に使用されるようになった」(ウィキペディアフリー百科事典より)とされています。つまり、「実体としてない機械に近いもの」に対して、「ロボット」という名前が先行して生まれたために、現代でも人によってロボットの定義は異なり、かつ曖昧です。
その曖昧さに対して、ロボット開発メーカーは、明確な回答を準備しておく必要があります。「どうしてそのロボットが誕生したのか?」「なぜ自社でこのロボットを開発しなければならなかったのか?」「このロボットは未来にどのような社会貢献を果たし、経済価値および文化価値を生むのか?」といった質問に対する明快な答えを、社会に伝えていかなければなりません。 今後、サービスロボットとエンドユーザーをつなぐ「コミュニケーションデザイン」を行う努力も、サービスロボットを開発する企業に求められるでしょう。
一方、機能価値と感性価値で満ち溢れたサービスロボットにも、『競合』が存在することを忘れてはなりません。画期的でイノベイティブなサービスロボットでなければ、必ず競合となるロボット以外の道具や人やサービスが存在します。ユーザーの論理からすれば、すでにあるモノと価値を相対評価し、総合的にコストパフォーマンスで優れたロボットでなければ購入しません。 したがって、ロボット開発側の市場創出のスタンスとしては、「今までなかったサービスロボット市場を構築する」のではなく、「どの既存カテゴリーにロボットイノベーションを巻き起こし、新たな価値を創造できるか」を明確にするところから、サービスロボットビジネスは芽生えると考えています。 簡単に言うと、「ロボットを使って、どのパイを食いに行くのか」を明確にすることです。
最後に、以上述べた内容は、あくまでロボットの設計・開発に入る前のコンセプト構築の一部分に過ぎません。機能価値と感性価値の2つが整理されてはじめてロボットの仕様書となり、抽象的な言葉が具体的な数字へと落とし込まれます。その先に、ようやくプロジェクトチームの組成、ロボットの設計・開発フェーズが待っています。 そして、実用化フェーズを経て、そのさらに先に必ずサービスロボット分野での『大きな経済価値と文化価値の創出』が待っていると信じています。