仕事で最も大切なのは「犠牲心」

約20年お笑い芸人をやってきて、自分とは比べ物にならない「天才」をたくさん見てきた。

たとえば、今やテレビで見ない日がない売れっ子の千鳥さん。彼らは、自分のためではなく「その場がウケるため」に笑いを取っている。若手芸人のように、自分が売れたくて、「自分のため」に笑いを取りにいくスタイルとは、まったく違う。

たいてい、MCの方がゲストに話を振ってウケると、話を振った人の手柄にもなる。「ゲストからこんな面白い言葉を引き出せたのは、俺ですよ」と。

でも大悟さんとノブさんは、モデルさんや女優さんのゲストが、VTR中にポツリとつぶやいていたことを見逃さない。そして、使われないくらいの小声でささやき、パスを出す。そうするとテレビ上では、ゲストの発言だけが際立つことになる。

モデルさんや女優さんの中には、口下手な人も少なくない。しゃべりを芸にしている職業ではないから、当たり前だ。慣れないバラエティー番組に、身構えてしまう方もいる。そんな中で、喋りやすいパスを出してくれる千鳥さんは、救いなんだ。だからこそ、視聴者だけでなく、テレビの現場でも信頼され、好かれるんだと思う。

MCとしての「自分の手柄」より、「場の空気」を優先することができる芸人が、どれだけいるだろうか。成果をしっかり出しつつも、自己主張はしない。そして、柔軟。時には自分が下がってでも「その場が面白い、楽しい」という雰囲気を優先し、その空気を作れる人が、売れるのだと思う。

芸人界で、にわかに「裏回し」という言葉が流行っている。これは「ひな壇の中のプチMC」のようなものだ。この第一人者が、麒麟の川島さんだろう。

川島さんは、自分の笑いのためではないツッコミを連発し、自分がよく見られないようなガヤを積極的に入れる。彼はもちろん、芸人としてもスペックが高い素敵な方だが、他人を盛り上げるために自分の芸を使っている。結果として、テレビに欠かせない存在になっている売れっ子だ。

僕はずっと芸人だから会社員の実態はわからないけど、どんな仕事でも、成果を出すためには「自分だけのおいしさ」より、周囲をサポートする犠牲心が必要なのではないだろうか。

「自分は凡人だ」と自覚したほうがいい

芸人の世界では、「芸人に面白いと言われる芸人」は、みんな売れた

妙なことをしないで愚直に頑張って、でも何故か、突然妙なことで売れる。野性爆弾のくっきー!さんや、ロバートの秋山さんは、ずっと同業者の間で「天才」と言われていた。彼らはめちゃくちゃ才能あるのに不器用で、世間に寄せるのが苦手なんだと思う。

最初にスポットがあたったのは「顔モノマネ」っていう妙な芸だった。本人たちは昔からまったく変わっていないのに、世間が彼らを「面白い!」と感じる瞬間が突然やってきた。

「焦らず自分らしく居続ける」。それで売れるのが一番だけど、それが叶うのは才能がある天才だけ。僕のような平凡な人間が仕事を続けるためには、まず自分のことを「才能がないと認める」ことが重要だと思う。

僕は、数々の天才芸人たちと出会って「こんな人たちと戦うのは無理だ」と悟った。「お笑いで面白く思われよう」と考えることをやめた。我ながら芸人としてはどうかと思うけど、それでもお仕事はもらえたから、その場では「俺しかできないようなことをしよう」と考えるようになった。

凡人が「コツコツ」を放棄するな

残酷な話だけど、世の中、目の前の仕事をコツコツやるしかない凡人がほとんどだと思う。もちろん、僕もそうだ。でも、みんな「やりたいことをやろう」と夢を見て、横道にそれてしまう。それは何故か? 自分のことを過大評価しているからだ。

才能がある人や天才は、みんな売れている。売れてないってことは才能ないし、一生コツコツやるしかない側の人間だっていうことでしょ。でも、希望がないわけではない。本当にコツコツやってきた人は、結果が出てくる。コツコツやりながら「夢を見ない」ことって、実はすごく大事だと思う。

凡人こそ自我を捨てて、言われた通りにやりきること

僕ら「平成ノブシコブシ」に仕事がやってくるのは、ネタの大会で勝ってないのが大きな理由だとも分析している。

R-1、M-1、キングオブコントで決勝まで行けたような天才たちは、テレビ出演時、番組制作サイドによってアレンジされたネタをやることが多い。当然、みなさんプライドがある。「ここではやりたくない」「こういうのはやりたくない」とか。もちろん、売れているから仕事も選ぶことができるだろう。

しかし、平成ノブシコブシは違う。どんな劣悪な環境でも、言われたとおりに全部やってきた。35歳くらいまでは、本当にもうテレビ局の犬のように。虫も食べたし、「泣いてください」と言われれば全然泣けなくても涙を流した。相方の吉村も、トークで「〇〇さんと逆のこと言ってください」と言われたら、信念を曲げてでも全部従っていた

本当に手応えがない30代だった。でも、ようやく40くらいになって、今までやってきたことが回収できている気がする。いただく仕事の毛色が変わってきた。昔僕らが辛酸を舐めた時代に、ADとして頑張っていたスタッフさんたちが出世してきたから。

ずっと愚直にやってきた僕らのことを、すぐ側で見てくれていた方々。今までの努力をねぎらって、実力を認めてくれているのもあると思う。「あとはどうせ死ぬだけだ」って思ってたのに、意外と報われるもんだ。

凡人にしかできないこともある

僕は凡人だが、不幸ではない。凡人にしかできないことは、たくさんある。天才は、やっぱりどっか1本ネジが抜けている人も多い。根本的にはもちろん、天才たちには負けてると思っているが、だからこそ「自分は自分のやるべきことをコツコツやろう」と思って進んできた。

不器用な凡人でも、努力の方向性を間違えずに頑張っていれば、誰か見つけてくれる。見つけてもらえなかったら、それまでの人生だ。

この記事を書いた人

徳井健太

徳井健太(とくい・けんた)

吉本興業所属。お笑いコンビ・平成ノブシコブシのツッコミ担当。相方は吉村崇。バラエティ番組『ゴッドタン』の「腐り芸人セラピー」で、芸人やお笑いへの分析力が高く評価される。デイリー新潮にて『逆転満塁バラエティ』、TOKYO HEADLINEにて『徳井健太の菩薩目線』連載中。

Twitter:@nagomigozen

YouTube:徳井の考察