昨年、古めのマンションに引っ越してからというもの、家にGが出るようになりました……。これまで、5匹ほどと格闘しています!!

深夜に遭遇した時は「ヌヒャーーーー」と、発音したことのない単語を叫びながら明け方まで格闘し、声を枯らしてしまいました……。

ということで、現在我が家にはめちゃくちゃ駆除剤を置いてます。色々あるな……。

そういえばこういう駆除剤って色々な商品が世に出てるよな。粘着シートタイプとか、凍らすタイプとか、泡で包むタイプとか……。

いや、お弁当の新メニューとか服だったら、流行りやら有名デザイナーの提案とか色々な下地があった上で開発が始まるじゃないですか?

じゃあ、こういう駆除剤の開発経緯は? 開発部って全員害虫に詳しいの? 大学時代に虫のこと学んでいたの?????

聞けたら面白そうじゃないですか?

ということで、ゴキジェットでお馴染みのアース製薬株式会社様に今回お話を伺いました!

【話を聞いた人】
渡辺優一さん。アース製薬株式会社マーケティング総合企画本部 ブランドマーケティング部 シニアブランドマネージャー。新卒でアース製薬に入社。研究職を担当後、現在の部署へ

——本日はよろしくお願い致します! 取材前に調べて驚いたんですけど、アース製薬って『モンダミン』も作っているんですね。勝手に害虫駆除製品メーカーだと思っていました。すいません!

渡辺優一さん(以下、渡辺):確かに一般のお客様には害虫駆除製品の印象が強いかもしれませんね。ただ、社内の売上構成比で言うと、虫ケア用品って全体の3割くらいなんですよ。

*虫ケア用品…アース製薬内での害虫駆除製品類の呼び方(こちらの記事では害虫駆除製品と記します)。

——そうだったんですか! WEBサイトを見たら知ってる商品がたくさんあって「あ、これもアースだったんだ!」と驚きました。

——なぜ渡辺さんはアース製薬に入社されたんですか? やはり、学生時代から理系で虫の研究を専攻していたとか?

渡辺:確かに理系は理系なんですけど、化学の有機合成というものを専攻しておりました。なので、どちらかというと薬剤の研究ですね。前述の通り、害虫駆除製品だけの会社ではないので、“弊社の研究職員は生態学等を学んだ人ばかり”という訳ではないんですよ。むしろそういった方は少数派ですね。

どのように害虫駆除製品は生み出されているのか?

——アース製薬では多数の害虫駆除製品が発売されていますが、こういった製品ってどのような経緯で生み出されているんですか?

渡辺:営業等を抜かすと、純粋に製品開発に関わるのは製品開発部研究部・そして私も属しているマーケティング部の3チームですかね。大きく分けるとニーズベースシーズベースの2種類で開発はスタートします。

——ニーズはなんとなくわかるのですが、シーズとは?

渡辺ニーズ(Needs)はお客様の「こういう商品があったらな」という声を受けて「なんとかできないか?」と開発が始まるもの。

シーズ(Sheeds)は研究等によって「この生物にこの成分を与えると、◯◯するのがわかったぞ!」といったような事実を種(Sheed)として、製品に活かせないかと開発が始まるというマーケティング用語ですね。

——ほー。僕は以前、おもちゃの企画開発部員だったんですけど、シーズのような種から自社で研究開発”というのは、製薬会社ならではという感じですね。

渡辺:そうですね。それで言うと弊社の研究部や開発部は、“製薬においての開発”となりますので、主に安全性に問題はないかの確認や、薬事申請等についての進行管理も行う部署になります。言葉の意味がちょっと玩具業界とは異なるかもしれません。もちろん新商品のアイデア出し等はその3チームで行っていますけどね。

たとえば、この殺虫スプレーのスペシャルデザイン版は完全にお客様のニーズを元に開発された製品です。

渡辺:私どもとしましては「どういった商品かわかりやすくするため、パッケージには対象の虫のイラストを!」という考えだったのですが、お客様より「パッケージに書いてある生物名やCGすら見たくない!」という声を多数いただきまして、販売したところ好評をいただき、現在も継続して販売しております。

——なんとなくこの業界の製品開発の様子がわかりました。アース製薬の商品ですと殺虫スプレーの『ゴキジェット』から、凍らせる『凍らすジェット』。最近だと隙間に潜む用の『ゴキプッシュプロ』と、ゴキブリ駆除のフォーマット自体が数年に一度イノベーションを起こしている気がします。

——他社製品には泡で包むタイプとかもありましたよね? 開発途中でボツになってしまった新フォーマットってどんなものがあるんですか? 素人考えだと炎、電気等、使えそうなフォーマットはパッと浮かぶんですが……。

渡辺:うーん、ボツ商品ですか……、難しいですね(笑)。

渡辺:確かに開発中止になった製品ってたくさんあるんですけど、それらって「いつかチャンスが来たら製品化してやるぞ」ってモノばかりなんで、完全に捨てた企画はないんですよ。

——ボツの中には時代がまだ追いついていないタイプの企画もあるかもしれないと!

渡辺:そうですね、あと他社様がこれを見て参考にされたら悔しいので……。すいません(笑)。

一番苦労した製品は天然成分を使用したもの

——これまで開発した製品の中で一番苦労したものってありますか? 

渡辺:それはパッと出てきます(笑)。『天然ハーブのゴキブリよけ』という天然成分だけで作った製品です。

渡辺:弊社の製品って、企画から発売まで1〜2年くらいかかるというのが普通なんですけど、これに限っては8年掛かっているんですよ!

——4倍の開発期間!? なぜですか?

渡辺:天然成分の中で一番効果のある組み合わせや比率の研究に時間がかかったのはもちろんなんですけど、薬事法上でパッケージに「ゴキブリよけ」と記載できるハードルが非常に高かったんですよ。

——ああ! 医薬品の場合、エビデンスがないと使っちゃいけない言葉とか、誇大広告になるから表現に細かいルールがあるんですよね!

渡辺:そうなんです! この商品はちゃんと「ゴキブリよけ」って記載したかったんですよ。そのために、ことこまかに研究成果をデータ化するのはもちろん、「どういう研究をすれば、厚生省が認めるエビデンスとなるか?」というHowの部分から考えないといけなくて……。それで8年掛かったんです。

——へ〜〜……。あの……、すごく失礼な質問で申し訳ないんですけど天然成分使用って8年も掛けるほど重要な要素なんですか? ほんとすいません、個人的にですよ? 「駆除できればいいじゃん」って思ってしまうんですが……。

渡辺:今、サンプル持ってきますね。パッケージを見てもらえばわかると思いますよ

渡辺:こちらなんですけど……。

——ああっ! 天然成分だから、食器棚とか食品に近い場所にも安心して置けるっていう意味なんですね!!

——そうかそうか、確かにこれまでの毒餌剤だと食器棚には置きたくないですもんね。

渡辺:そうなんですよ! 小さなお子様やペットがいる家庭でも安心して使える製品ということで開発したんです。2020年現在、100%天然成分で「ゴキブリよけ」とパッケージに記載できる商品は日本でこれだけなんですよ!

——それがドラッグストアで700円で買えるってスゴイですね。それにしても8年って……。トレンドとか流行が180度変わってることもあり得る期間じゃないですか。

渡辺:はい。ただ、日本人の清潔意識というのは今後もずっと高まっていくと思っておりました。だからこそ、根強く研究して発売までこぎつけた製品なんですよ。

日の目を浴びなかった商品は『レストラン』

——製品の中にはたくさんの時間を掛けたのに売れなくて廃盤となる商品もあるってことですよね?

渡辺:悲しいかな……、そうですね。

——社員さんの中で「これ、自信あったのにな―!」と思える廃盤商品ってありますか? あったら教えてもらいたいな……と。

渡辺:自信あったけど売れなかったやつか……なんだろうな(笑)。

渡辺:あ! これだ!!

渡辺『ゴキブリレストラン』という2008年に発売した製品です!

——ゴキブリレストラン? なんかすごい名前ですね(笑)。どういった商品なんですか?

渡辺:研究によって、ゴキブリにもそれぞれ食の好みがあるということが判明したんですよ。ひとつの味だけの餌だとどうしても各々の好み対応できなくなる、ということで肉・野菜・デザートの3つの味に分けた製品なんですけど……。これはあまり売れなかったですね(笑)。

——ゴキブリ用にフルコースを作ったってことですか!? 効きそうだし、研究成果が出た上での販売ですよね? なぜ売れなかったんでしょう?

渡辺:それは……。

お客様心理です。」

渡辺:これは単品入りでの販売だったんですけど、お客様からするとこういう置き餌剤って安心のために複数置いておきたいんですよね。『ゴキブリレストラン』は1個でも効果がある製品だったんですけど、複数個入りで販売してるブラックキャップ等の複数置きの安心感には勝てなかったんだと思います。

——理論的に正しいのものが市場に受け入れられるというわけではないと……。いや、商品開発って難しいですね……。

渡辺:これ、取引先の評判も上々だったんですよ。そういう意味で『ゴキブリレストラン』は開発側のエゴが出てしまった製品とも言えます(笑)。ただ、この失敗で、我々も心理的安心感も重要な製品の要素だということを学びましたね。今でも画期的でいい商品だと思ってるんですけどね。

——ちなみに『ゴキブリレストラン』というネーミングについては……どうお考えですか?

渡辺:それも今考えてみると……良くなかったんですかね(笑)

——やっぱり(笑)! いや、でも、これこそ時代が追いついていない製品だったのかもしれないですね。

清潔意識の向上にあわせた製品開発を

——身近なモノなのに製品開発の裏側は知らないことばかりですごく面白かったです。今後、この害虫駆除業界はどのように変化していくと思われますか?

渡辺:重複しちゃうんですけど、これからも日本人の清潔意識はどんどん向上していくと思います。我々は海外進出もしてるんですけど、あちらではまだまだ粘着シートタイプが人気で、予防するような駆除剤はまだ需要が少ないんですよ。

——へー! 害虫駆除に対する意識は日本だけガラパゴス的に進化しちゃってるんですね。

渡辺:そうですね。出たらスプレーで直接対処するスタイルから、出る前に予防するが主流になりましたから。だから、その先は手軽さでしょうか? 毒餌剤を置くということすら面倒くさくなって、もっと簡単に使えるフォーマットが開発されるんだと思います。

——スマホでダウンロードできる駆除用品みたないなことですかね?

渡辺:いや、我々はアース製“薬”ですので(笑)。薬剤でそういったフォーマットの開発ができればなと思います。

——興味深い話ばかりでタメになりました! 今回はありがとうございました。

アース製薬の害虫駆除製品開発の話、いかがでしたでしょうか? 世の中にある商品にはすべてニーズとシーズ、そして開発部の知られざる努力が隠されています。

今後もこういった「製品開発」の裏側を可視化していきたいと思います。

ありがとうございました。

取材・文/おおきち(@ookichiinmyhead