「自分のために生きよう」最近、メディアやSNSでこんなメッセージをよく見かけるようになりました。でも、“自分だけ”のためにがんばるのって長い目で見ると意外としんどくありませんか? 誰かのためにと思えばこそ、力が湧いてくることもあると思います。
今回お話を伺ったのは、“誰かのために生きる人生”を体現しているタレントの加藤綾菜さん。お笑い芸人のカトちゃんこと加藤茶さんの奥様です。
「85歳まで現役でいたい」という夢を持つカトちゃんのため、綾菜さんは食育や介護の資格を取得。妻として夫を献身的にサポートしています。
そんな“カトちゃんファースト”な日々を送る綾菜さんに「自分のためより誰かのために生きた方が幸せですか?」と、素朴な疑問をぶつけてみました。
カトちゃんのために生きる人生の中で自分の幸せを見つけた

——ご結婚10周年おめでとうございます! 今日は、「自分のためより誰かのために生きた方が幸せなのか?」というテーマでお話をお聞きしたいです。
加藤綾菜さん(以下、加藤):ありがとうございます! というか答える人、私で大丈夫ですか?(笑) 結婚当初は“毒妻”のイメージが先行していたと思うので……。
——失礼ながら、たしかに……。でもその時から180度イメージが変わりましたよね。
加藤:ありがとうございます。結婚した当時は45歳という年齢差から、世間から“財産目当ての結婚”だと言われていました。今思えば、私の派手な服装や盛り髪も印象がよくなかったんだと思います。
——外見から決めつけられているところはありましたよね。
加藤:「カトちゃんの奥さんだからちゃんとしなくちゃ」という思いがぜんぶ裏目に出てしまっていました。本当に未熟でしたし、加藤茶と生きていく覚悟が足りていませんでした。

——なるほど。結婚当時の華やかな外見は綾菜さんなりの努力だったんですね。しかし、世間からのバッシングは相当酷かったですよね……。
加藤:引越しをしても家バレするのは当たり前で、家や事務所に届いたクレームはコピー用紙で10万枚を超えていました。なかでも一番心苦しかったのは、親友のネイルサロンにクレームの電話が1日200件かかってきたことです。
——それは精神的にも相当応えたのでは?
加藤:そうですね。家族や友人が励ましてくれたけど、外に出るのも怖くなってしまう時もあって。尊敬している久本雅美さんに相談したら「他人がどう思うかより、自分がどう生きたいかだよ」と元気づけてくださって……。
——素敵な言葉ですね。
加藤:そこで「世間からどう思われても、私はちーたん(カトちゃん)のために生きたいんだ」と、前向きな自分を取り戻すことができました。
——それで今の綾菜さんがあるんですね。そのほかにもカトちゃんのために生きたいという気持ちが深まった瞬間はありますか?
加藤:はい。結婚生活を送る中で2度、覚悟した瞬間がありました。
——2度も?
加藤:はい。1度目は5年前にパーキンソン症候群でちーたんが倒れて入院した時。2度目はコロナ禍で感じました。
——食育や介護の資格をとるなど、献身的にカトちゃんを支えられていますよね。
加藤:いつ何が起きるかわからない状況の中で「1日も無駄にしたくない」「後悔しないようにちーたんを支えたい」と強く思うようになりました。
——まだまだやりたいことが色々出てくるご年齢ですし、誰かのために生きる人生って大変じゃないですか?
加藤:誰かのために生きる人生は、自分の喜びに繋がることを結婚して実感しました。仕事も同じことが言えると思います。周りの人に喜んでもらえるようにがんばると、結果自分も嬉しい。それが、自分の人生を生きることなんだと私は考えています。
自己犠牲じゃない。主体的に誰かのために生きる人生とは?

——とはいえ、“誰かのために生きる人生”というと、自分を犠牲にしている印象があります。ぶっちゃけ“カトちゃんファースト”って大変じゃないですか?
加藤:たしかに、仕事と主婦業、介護の勉強を両立させることは簡単なことではありません。でも、介護に関心を持つきっかけをくれたのはちーたんだったんです。
——どんなことがあったんですか?
加藤:5年前にちーたんが入院した時、点滴生活を余儀なくされて体重がどんどん減ってしまう中、私は何もできなかった。けれども今は、いざという時に助けになる知識と心構えがある。そのためにどれだけ苦労したとしても、私にとっては何もできないよりずっと幸せなことなんです。
——なるほど。カトちゃんのためにやっていることが、結局自分にとっての幸せに繋がるというか、ハッピーが循環しているんですね。
加藤:はい。“カトちゃんファースト“な日々も同じです。介護の学校で丸1日家を空けてしまう日は、前の日からちーたんの朝昼晩のご飯を仕込んでおきます。
——すごい! 3食もつくり置きするのってなかなか大変ですよね。
加藤:そこまでしなくても……と思う人もいるかもしれないけれど、結果的にその方が自分にとってメリットがあるんです。だって、ちーたんはもともと野菜と魚を一切食べない偏食なんですよ。だから私のいないところで何を食べているか、考えるだけで気が気じゃなくて(笑)
——確かに、自分にとってメリットがあることかを考えてみると、つい腰が重くなってしまうことでもやる気が出そうですね。
加藤:そうなんです。最近始めた介護のボランティアでも、また別の“誰かのために生きる人生で得られる喜び”を見つけることができました。
——お〜本当に幸せがめぐっている感じがしますね。
加藤:はい。ボランティア先でケアを担当したおばあちゃんに、「1ヶ月に1度しかない外出で、久しぶりに楽しい時間が過ごせた。またお願いしたい」と言ってもらえて。
——それは嬉しいですね。仕事でも、自分を犠牲にしている感覚に陥ることってあると思います。たとえば“やらされ仕事”に対してはどう向き合いますか?
加藤:それこそ、私だったらその“やらされ仕事”を全力でやり切って、自分にとってメリットのある機会に変えます。どんな仕事にも意味があると思えばやり抜ける力が出るし、その中から新しい可能性が見つかると思います。
——でも、やらされ仕事だとモチベーションがなかなか上がらないってこともありますよね。
加藤:やる気が出ないのは、その仕事に愛情を持てるかどうかの差だと思います。まずは、そこを見直してみるといいかもしれません。
——仕事でも愛情を持つことが大事なんですね。
加藤:私も芸能の仕事を始めたばかりの頃は、初めての環境で何も分からず悩んでいた事がありました。それでちーたんに愚痴ったら、「まだ一人前じゃないのに一人前なこと言うな! まずは3年がんばれ」と叱責されたんです(笑)
——カトちゃんからそんなアドバイスが……! では、現状自分の仕事に愛情が持てない人はどうすればいいと思いますか?
加藤:その“やらされ仕事”を、ただ自分がやらなくちゃいけないことと捉えるのか、それともその仕事をやることで助かる人がいると考えられるのかで、違いが出てくるかなと思います。
——仕事の向こう側にいる誰かを意識してみるということですね。
加藤:はい。やっぱり何事も自分の中だけで完結させてしまうと、やる気が出なかったり、甘えが出てしまったりする。だからまずは、喜んでくれる人の顔を思い浮かべてみてください。それを繰り返すことで、やらされ仕事にも自分なりの意味が生まれたり、愛情を持てたりするようになると思います。
まだ見ぬ“誰か”に出会うために必要なのは勇気とご自愛
——「この人のためにがんばりたい」と思える存在にまだ出会えていないという人もいると思います。どうすれば、それほど自分にとって大きな存在に出会えるのでしょうか?
加藤:うーん。強いて言うなら「もしかしたらこの人は……」とビビッときた時に、アクションを起こせる勇気と行動力があるかでしょうか。
——たしかに、綾菜さんは思い立ったらすぐ行動される性格のようにお見受けします。
加藤:そうですね。私の勇気と行動力は、母の教育と中学生時代に経験したいじめが大きく影響していると思います。幼い頃から母に「勇気は?」と聞かれたら「出すものー!」と答える習慣がありました。意外とそれが自分の中に大きく根付いていたんですよね。
——その習慣がいじめられた時に役立った?
加藤:はい。クラスメイトから無視されていたので、毎朝教室に入るのが怖かったんです。でも、その掛け合いを思い出すと不思議とドアを開けられるんですよ。本当に勇気が出たんです(笑)

——綾菜さんにとって魔法の言葉だったんですね。
加藤:そうなんです。つらかったけど、でも、いじめを通して学んだこともありました。
——と、いいますと?
加藤:それは「人は変わらない」ということです。だから愚痴を言ったりして、相手が変わることを期待するんじゃなくて、必要なのは自分が変わることなんだなと。
——そう思うようになったきっかけがあったんですか?
加藤:実際に、私を無視していた人に笑顔で挨拶をし続けたら、相手の反応が変わったことがありました。仕事でも同じことが言えると思います。
——仕事のために自分を変える勇気が必要だと?
加藤:はい。勇気を出して一歩踏み出してみると、自分の向き不向きがわかったり、今まで自覚していなかった得意分野が見えてきたりすることもあります。
——と、いうと?
加藤:実は以前出演した番組では、ネガティブなイメージのオファーだったので、正直出演を悩んでいました。ですが、思い切って挑戦したことで結果的に良い反響をいただけたんです。
——なるほど。では、綾菜さんは仕事でどう人と関わるようにしていますか?
加藤:私は仕事相手に対して、信頼をしても過度な期待はしないようにしています。相手に期待してしまうと、期待通りにならなかった時に、勝手に裏切られた気分になってしまうので。できる限り“ありのままの相手”を受け入れるようにしていますね。
——最後に、どうすれば綾菜さんのように“誰かのために”生きる覚悟を決められるのか、アドバイスをいただけますか。
加藤:“誰かのために”生きるといっても、影の人になる覚悟や自己犠牲の精神は必要ありません。だって、自分の人生、自分が主役じゃけー。私のモットーは、自分の人生を生き切ること。その目標として、主体的にカトちゃんを支える人生を選んでいます。
——自分の人生を生きることが、“誰かのために”生きることだったのですね。
加藤:私の場合はそうですね。そのためにも、まずは自分を大切にしてください。やっぱり自分を大切にできない人は人も大切にできない。誰かのための人生を生きることもできません。
——ありがとうございます。誰かのためにというのは仕事でも生きる考え方ですね。
加藤:そうですね。人って自分のためだけだったらがんばれないけど、関係する人が多い仕事ほど、責任感が生まれてがんばれたりしますよね。誰かのためにがんばることって結局自分のためになるけー。こんなにシンプルでわかりやすい幸せの循環はないんじゃないでしょうか。一緒にがんばりましょう!
加藤綾菜(かとう・あやな)
広島県出身。1988年4月12日生まれ。2011年に加藤茶さんと結婚。45歳の年の差婚が話題になるも、世間からは酷いバッシングの嵐を受けた。最近では献身的に夫を支える良き妻としてメディアで取り上げられるように。2018年、タレントとしての活動を開始した。
Twitter:@katoayana0412
Instagram:@katoayana0412
取材・文/文希紀 (@gigi_kikifumi )
撮影/小原聡太(@red_tw225)