天才に勝てない人間がチャンスを掴むには?

「チャンスを掴める人、掴みきれない人の違いはなんですか」

今回、編集者の方にこんな質問をされた。要素はたくさんあるが、頭に真っ先に浮かんだのは、「バカになれるかどうか」だ。 

長いこと芸人をやっていると、何回か「売れるためのチャンスタイム」がやってくる。今日ここでやるしかない、爪痕をのこすしかない、と強いプレッシャーを感じる仕事。「アメトーーク!」のひな壇に呼ばれたときとかが、まさにそうだ。

このとき、「その場で死んでもいいと思ってる人」が、続々とハネていったと思う。失敗とかスベリを恐れながら前に出るのと、「ここでスベって、仕事が全部なくなってもいい」と、バカになって堂々と前に出ていくのは、全然違う。

中途半端に70〜80点の笑いを取っても意味がないことが多い。スベりまくっていても、いざってときに100点が出せる人が強いのだ。そういう人は、普段は0点でも良い。勝負どきに100点を出すことが出来る芸人は、0点のスベりさえも愛されるし、ウケるようになるから。

「今日で終わりだ、今死ぬ」と思って、ビビらず、全力で走り出せる人が印象に残る。結果として、売れていくんだと思う。

「先輩に好かれているから売れる」はまずない

チャンスを掴むために先輩に好かれようと、交流を頑張るタイプの芸人もいる。

まあ、一筋縄にはいかないんだけど。なんせ、お笑いの人たちはみんな「変」だ。一般的な可愛い後輩を可愛がるのではなく、「才能があるのに不器用な後輩」を愛する。そして先輩付き合いが上手い芸人は気疲れしてしまうのか、先輩付き合いだけして消えていく。

好かれたいあまり、飲み会で周囲の人間に尻尾振ってるような人を仕事で可愛がってる人は、あんまりいない。結局、仕事仲間として背中を押したくなるのは、本業をしっかり頑張っている後輩なんだと思う。

仕事仲間への不満は、自分が足りてない証拠

仕事が上手くいかないことを、相方(仕事仲間)のせいにするヤツも少なくない。

平成ノブシコブシには一時期、根強い「不仲説」があった。僕も、相方・吉村に対する不満をネタにしていじったことがたくさんある。確かに、昔は仲が悪かった。まあ、今も仲良しこよしというわけではないが、僕にとって吉村は、良きビジネスパートナーだと思っている。

人間、自分と同じ考え方をする人に囲まれていた方が気持ちが良い。僕だって、プライベートでは自分に似たタイプとしかつるみたくない。僕と吉村は、タイプがまったく違う。だからこそ、ぶつかりあうこともある。一切口をきかないこともあったし、正直腹立たしいと感じたこともたくさんあった。

でもある日、トレンディエンジェルの斎藤が語っていたことにハッとさせられた。「他人のことがムカつくのは、自分が足りてない証拠だ」と、彼は言ったんだ。

吉村は、僕にできないことをずっと頑張ってやってきている。意見がかぶらないことも多いけど、そもそも得意なことが僕と被っていたら、コンビとしてできる笑いの幅も狭まっただろうし、強烈に嫉妬してたかもしれない。

タイプが違うからこそ、吉村に嫉妬せず、20年以上一緒にお笑いをやれているのだと思う。今はお互い、それぞれ個人の仕事がなんとなくあって、承認欲求がある程度満たされているからこそ、余裕が出てきた部分もあるかもしれない。相方との関係性の良し悪しは、結局自分の気持ち次第なんだ。

「天才はあきらめた」山里良太が天才になれた理由

「天才」といえば、南海キャンディーズの山ちゃんが2018年に『天才はあきらめた』という本を出した。

山ちゃんは自分の仕事について、昔からめっちゃめちゃ真剣に考えてたと思う。本人の性質や才能もあるけど、M-1でブレイクしたときに「10年後の夢を決めましょう」とマネージャーに提案され、「ゴールデン番組のMCになる」という大きな夢を設定したらしい。

夢から逆算して、「今何をするべきか」を徹底的に考えた。テレビの仕事がいっぱい入って忙しい中で、10年後の夢を見据えて「この仕事は少し違うのでやめときましょう」とか「今は出たいかもしれないけど、ちょっとズレるので」と、マネージャーと一緒に選別していったそうだ。

 自分を引き上げてくれるスタッフの提案を受け入れ、まっすぐに実行していった山ちゃんは、本当に売れた。人の言うことを素直に聞くのも、成功の秘訣なんだと思う。

弱点を伸ばすのは時間の無駄

重要な話をする。凡人タイプが、無理して背伸びをしてもロクなことがない

不器用な人間が、無理をして世間に合わせようとすると、キングコングの2人のように、めちゃめちゃ器用なタイプが出てきたときに、まず勝てない。若い頃はどうしても仕事ほしいし売れたいから器用なふりをするけど、本当に器用なやつと器用なふりしてるやつの差は歴然だ。

僕も、若いころはバランス型の芸人になろうとして、「大喜利もネタもMCもやる芸人になるぞ」と考えた時期がある。けど、業界の天才とはレベルが違いすぎるとわかってから、その考えは捨てた。

たとえば、「万能タイプ」の芸人である麒麟の川島さんや博多大吉さん。彼らの芸人としてのスキルをレーダーチャートすると、見事に綺麗かつ巨大な五角形ができるだろう。僕は突出した1点で比較したとしても、彼らには絶対に勝てない。

野球でも、足が超速くて、走塁でしか出てこない選手がいる。そういうタイプは、ずっと走ってりゃいいんだよ。守備とかバッティングを頑張ってみようって時間かけるより、走ることだけに特化して、走塁のことだけ考えてればいい。

結局努力で綺麗な五角形を作ろうとしても、時間の無駄。凡人こそ、一点突破が必要。苦手を克服するより、得意なことを伸ばしたほうが絶対いい。というか、凡人は不器用だからこそ凡人なわけで、自分の弱点を伸ばしている時間なんてない

器用タイプに勝つ唯一の方法

僕は何をやっても、器用な人に勝てなかった。でも、それをコンプレックスだとも感じていない。仕事は「長期戦」だから。

人生は長いから、自分が正しいと思うことをやってるほうが、僕はいいと思う。「売れたい」「成功したい」を軸に置かないなら、それが一番。でも、世間に合わせるのが苦手なら、自分が信じたことをやらないと、器用なやつにはいつまでたっても勝てない

芸人は、バランス型が最初に売れる。そして、次に「本当に面白いヤツ」が売れる。そして、40代以降は、なぜか不器用なりにコツコツやってきたヤツに仕事がやってくる。好きな仕事でなければ、長くコツコツやっていくのは難しいよね。だからこそ、好きな仕事を選ぶことが、めちゃくちゃ大事なんだと思う。

この記事を書いた人

徳井健太

徳井健太(とくい・けんた)

吉本興業所属。お笑いコンビ・平成ノブシコブシのツッコミ担当。相方は吉村崇。バラエティ番組『ゴッドタン』の「腐り芸人セラピー」で、芸人やお笑いへの分析力が高く評価される。デイリー新潮にて『逆転満塁バラエティ』、TOKYO HEADLINEにて『徳井健太の菩薩目線』連載中。

Twitter:@nagomigozen

YouTube:徳井の考察