キャリアの道筋をつくるのは、仕事だけではない

早いもので、社会に出て20年が過ぎました。働きはじめは勝手がわからず、手探りだった20代、自分のキャリアを模索した30代を経て、40代の現在、自分のキャリアだけでなく、身近な人のキャリアについても話を聞く機会が増えてきました。

現在は転職エージェントで働いているのですが、様々な人の話を聞いてきて、思うことがあります。それは、働き方や働いてきた内容というのは、「その人自身の物語」なのだ、ということ。

何を選び、何をしてきたか、というのは、その人の環境や選択の積み上げであり、本当に人それぞれ。大きな転身を果たす人もいれば、まっすぐに同じ技術を磨き上げる人もいて、さまざまです。そこで感じるのは、人生の物語に「捨て」エピソードはないんだなということ。

「芸は身を助く」と言ったりしますが、自分の趣味や個人的な活動が、思いもかけない形で仕事に役立ったパターンが、多くあります。「私なんて、大した能力はない」と思っていた人が、意外なスキルを身につけていること、けっこうあるんです。

今回は自分も含めたエピソードを紹介しながら、そんなことを考えてみようと思います。

日記ブログ運営が思わぬスキルに

わたし自身でいうと、子供の頃から作文をしたり、日記をつけるのが好きでした。「考えたことをまとめて構成し、文章にするのが楽しい」というシンプルな思いで、古くはテキストサイトの運営や、mixi日記でつらつらと自分の考えを書き散らし、リアクションがあると嬉しくて、その反応を参考にまた文章を書く、という繰り返しでした。

ブログブームに乗って開設した個人ブログも早10年。起きた出来事について自分の感じたこと・考えたことを、文章としてまとめる、という作業には、3つの要素があると思っています。

  1. 自分の感情や考えたことを客観的にとらえられる
  2. 感情や考えに筋道をつけ、ストーリーとして構成できる
  3. 構成したものを文章としてまとめ、第三者に伝えられる状態にできる

日記ブログを運営していると、この3つを知らぬうちに繰り返すことになります。おのずと、自分の経験を言葉で表現する力が身につきました。こうしてコラムを書くときも同じです。もらったテーマに関して自分が感じたこと、考えたことを文章として表現できる、という能力が活きています。

そしてこれを仕事として活かせるようになったのが、「広報」という職種です。40歳を過ぎて新たに経験することになったこの職種では、もともと身につけていた「伝えたいことをまとめて、文章としてアウトプットする」という経験が、思いのほか求められていたのです。

もちろん「広報」という職種が担う業務内容は、これ以外にも幅広くあるのですが、会社がメッセージを発信する主な手段のひとつに「プレスリリース」というものがあります。新しいサービスの発表であるとか、会社が社会とのコミュニケーションをする上でよく使われる方法です。

「会社」が何を考え、何を伝えたいかを客観的に捉えて、ストーリーとして構成し、第三者に伝わるようにまとめる。これはプレスリリース文を書く上で、必須のプロセスです。

会社がどんなメッセージを発信したいか、そのメッセージをどう捉えてほしいかを考えるだけでなく、アウトプットまでできる。これは日記ブログの運営で身についた、「自分の考えをまとめ、他者が読みやすいように文章として表現する」というスキルを転用できるのだ、と気づいたとき、本当に「人生に無駄なことはない」のだと実感しました。

バンド活動の経験を活かし、Webプロデューサーに

以前の職場に、バンド活動をしているアルバイトさんがいました。現在のようにTwitterやSNSが盛んではなかった時代、ライブ告知やバンド紹介をするのは主にケータイサイト。いわゆるホームページサービスを利用して、HTMLを駆使し、自分好みのサイトを作成、更新するスタイルがメインでした。

その会社はネットサービスを運営する企業だったので、HTMLが理解でき、自分で更新ができる、という彼のスキルが、すでに活きていたんですね。そしてそこで出会った人脈を活かし、彼はさらにバンドのホームページを充実させていきました。

同僚として出会ったデザイナーや、エンジニアの力を借りて、動画であったりライブ映像であったり、さらに豊かな表現ができるようになっていくのですが、そこで彼が身に着けたスキルというのは、こんな感じだったのではないかと思います。

  • 自分の表現したいことを他者に伝えられる
  • 他者の成果物と理想像を照らし合わせ、適切にフィードバックできる
  • それらの進行状況をマネジメントできる

その後、10年ぶりに再会したとき、彼はこのスキルを活かしてWeb制作会社を立ち上げ、プロデューサーとして稼ぎながら、バンド活動も並行できるようになっていました。

どんな仕事にも共通するのは、「理想像をイメージして他者に伝え、その成果物をマネジメントする」というスキルです。まず、自分の理想像を定義して伝えられること。しかし、仕上がってきたものについて、何がどう足りないかをフィードバックするのは、意外と難しい。そして物事に締め切りはつきものなので、それらをマネジメントしてゴールまで持っていけるのは、立派なプロダクトマネジメント能力です。

彼は自分のバンド活動を通じてこれらのスキルを身につけ、仕事として転用することで、どちらも諦めないスタイルを確立したのだと思うと、本当に「人生に捨てエピソードはない」と思うのです。

「捨て」エピソードはない。キャリアの見積もりをあげていこう

経験を積み上げたものが「キャリア」になる、というのはあたりまえのことですが、そこにスキルの転用が加わると、キャリアの掛け算が発生します。

Aというスキルの積み上げと、Bというスキルの積み上げは、一見すると別々のものに見えるかもしれません。でも要素を分解してみると、意外と共通点があったり、転用できる技術があったり、新しい発見があるのではないかと思うのです。

わたし自身、ただ好きで文章を書いてきて、こうしてコラムを書かせてもらったりはするけれど、正直これだけで食べていけるほどではないな……と思うことが、多々あります。

もちろん、自分が好きでやってきたことなので、それがお金に繋がらなかったからといって、無駄なことだとも思いません。

でも、人生に「捨て」エピソードはない、とも思うのです。自分が好きでやってきたこと、続けてきたものに価値はある。だったら、それをうまく仕事に転用することはできないだろうか? そんなふうに考えて、自分のキャリアの見積もりをあげていければ、どんなに楽しいか。

そのためには、まず自分が何を好きで、何を続けてきたのか。それにはどんな要素があるのか、を分解してみる、というのは、ひとつの方法かもしれません。意外と「ただ好きで続けてきたから……」ということに宝物が隠れているかもしれませんし、仕事で身につけたことの掛け算で、新たなキャリアが見えてくることもあるのではないだろうか、と思うのです。

「わたしなんて」と思ってしまう気持ち、よくわかります。わたしもそうです。

でも、20年働いてきて思うのは、1日の3分の1は働いているのだな、ということ。それだけの時間をかけている「仕事」について、もう少し踏み込んで考えてみてもいいんじゃないか、と思うのです。

仕事とプライベートの切り分けは上手にしつつも、自分がどんな武器を持てているのか、もっと分解して考えてみる。このコラムがそのきっかけになれたら、とても嬉しいです。

この記事を書いた人

はせおやさい

はせおやさい

会社員兼ブロガー。仕事はWeb業界のベンチャーをうろうろしています。一般女性が仕事/家庭/個人のバランスを取るべく試行錯誤している生き様をブログに綴っています。

ブログ:インターネットの備忘録