「将来、AIに仕事を奪われるのでは?」と漠然とした不安を抱えている人も多いことだろう。では、AIに代替できない能力を身につけるにはどうしたらよいのだろうか。

慶應義塾大学の鶴光太郎先生は、「性格スキル」を伸ばすことが重要だと言う。研究室で詳しくお話を聞いてきた。

鶴光太郎先生
鶴 光太郎/経済学者。慶應義塾大学大学院商学研究科教授。近著に『人材覚醒経済』(第60回日経・経済図書文化賞)、『性格スキル 人生を決める5つの能力』などがある。

AI時代には、性格スキルが重要だ

将来的に多くの職業がAIに代替されると言われています。では、AIに仕事を奪われないためにはどうしたらいいのか。私は、人間の本質的な能力である「性格スキル」を鍛えるべきだと考えています。

「性格スキル」とは、経済学や心理学で非認知能力と呼ばれてきたものです。

学力などテストで測れる能力、たとえば偏差値やIQのことを認知能力といいますが、対してテストで測れない社交性、好奇心、責任感など個人の性格特徴を非認知能力といいます。現在、その非認知能力のことを「性格スキル」と呼んでいるのです。

性格スキル(非認知能力)とは:学力で測れない能力(社交性・好奇心・責任感など)のこと。認知能力とは:学力で測れる能力(偏差値・IQなど)のこと。

認知能力には大きくわけて、知識と論理力があります。AIには高い学習機能があり、人間の脳をはるかに凌ぐ知識量をインプットすることができます。また、学習した知識をもとに、論理的な判断を下す能力も飛躍的に高まっています。将来的に、情報や知識から結論を導き出す業務は、AIに置き換わる可能性が高いでしょう。ですが、AIですべての業務が完結するかというとそうではありません。

たとえば、医療の現場では、データや事象にもとづく症例の判断はAIに置き換わる可能性があります。しかし、治療を受ける患者さんは人間です。

気丈な人、不安に怯えている人、さまざまな状況の人がいて、実際はその患者さんの性格や状況に合わせて治療やケアの計画が組まれます。患者さんの心に配慮した治療の最終判断はAIにはなかなか難しい。

患者さんに最適な治療をするためには人のチカラ、すなわち性格スキルが必要なのです。

「ビッグ・ファイブ」が人生の成功を決める

では、性格スキルには、具体的にはどういう性格特徴があるのでしょうか。

心理学の世界では、性格を「ビッグ・ファイブ」という5つに分解しています。「真面目さ」「開放性」「外向性」「協調性」「精神的安定性」の5つです。

性格スキルのッグ・ファイブを説明している表。以下、「性格スキル:定義:側面」。「真面目さ:計画性、責任感、勤勉性の傾向:自己規律、粘り強さ、熟慮」「開放性:新たな美的、文化的、知的な経験に開放的な傾向:好奇心、想像力、審美眼)」「外向性:自分の関心や精力が外の人や物に向けられる傾向:積極性、社交性、明るさ」「協調性:利己的ではなく協調的に行動できる傾向:思いやり、やさしさ」「精神安定性:感情的反応の予測性と整合性の傾向:不安、いらいら、衝動が少ない」。※Heckman and Kautz(2013)を元に作成。

仕事の業績や生産性の高さとビッグ・ファイブの関係については、これまで多くの研究がされてきましたが、そのなかでもとりわけ重要なのが真面目さです。真面目さは、年間所得や学歴を高めるという研究結果が出ています。

ただ「真面目さ」をそのまま受け取ると、誤解が生じるかもしれません。「真面目さ」は小さなことをコツコツと、バカ真面目にという感じではなくて、「野心を持ち目標に向かって自分を律しながら、どんな困難があっても粘り強く責任感を持って努力していく資質」です。「やり抜く力」と置き換えてもいいでしょう。たとえば、資金も人材も乏しいベンチャー企業で新しいサービスを生み出すためにチャレンジを続けることなどが当てはまります。ちなみに、AI時代では、この真面目さがさらに重要になると言われています。

仕事の成果でいうと、「真面目さ」の次は「外向性」「精神的安定性」「協調性」「開放性」の順に、相関関係が強い、という結果が出ています。

性格スキル5つの要素のなかで、それぞれ職業と相関の強いものがあり、たとえば、営業職は外向性との相関が高く、医者では低いです。芸術家などは開放性の側面であるイマジネーションが重要になってきます。

また、精神的安定性の側面である自尊心や自力本願、やり抜く力といった真面目さは、すべての職業に必要だと言えるでしょう。

仕事の成果との相関係数を表したグラフ。※Barrick and Mount(1991)を元に作成。

いずれにせよ、学歴、学力といった認知能力だけでは人生の成功は決まりません。 どんな学歴の人であっても、性格スキルが高まれば賃金も高まるということを、シカゴ大学のジェームス・ヘックマン教授が発表しています。

日本の大企業も、性格スキルを見て人材を採用しているはずです。どこの大学かで学力ももちろん見ているでしょう。それだけでなく、組織のなかで粘り強くやっていけるかなどの性格スキルを見られています。社会に出ると、テストができるよりも、答えがないものに対してのチャレンジを求められるわけです。

だからこそ、学歴、学力だけでなく性格スキルが重要になってくるのです。また、スキルというくらいなので、性格スキルは大人になっても伸ばせます。

性格スキルを鍛えるには?

下の表を見てください。これは、大人になってからも十分性格スキルを鍛えられることを示しています。

ビッグ・ファイブの中でも人生の成功で特に重要な役割を占める「真面目さ」「精神的安定性」「協調性」については、10代の伸びよりもむしろ、20代、30代の伸びが大きいことがわかっています。

逆に、「開放性」に含まれる「審美眼」「好奇心」などは20代以降は伸びません。たとえば「審美眼」は、子どものうちから美術館に行く環境などにあって養われないと、大人になってから伸ばそうと思っても難しいのです。

このように、伸びないものもあるのですが、だいたいのスキルは大人になってから伸びます。特に、一番重要な「真面目さ」にいたっては、生涯を通して伸び続けるのです。

成人になっても伸びる性格スキル、伸びない性格スキルを表した棒グラフ。※Roberts,Walton,and,Viechtbauer(2006)を元に作成。

それでは、性格スキルはどうやって伸ばしたらいいのでしょうか。

社会に出ると、一人でできる仕事というのは少ないため、いろんな人との関わりが必要になり、外向性や協調性は意識して高めていく機会が多くなります。社会に出て性格的に変わったという人は意外に多い。学生の時は人見知りだった教え子が、社会人になってから会うと積極的になっていたというケースはよく目の当たりにします。

また、これまで真面目さについては、特に日本の場合、長時間労働や転勤などで高めてきた部分がありました(長時間労働は粘り強さを、転勤は新しい環境でチャレンジする力を高めました)。

ただ、もはやそういう時代ではありませんし、別のやり方で鍛えていく必要があります。

たとえば、新しいプロジェクトに自ら手をあげてみるとか、異業種交流会に参加してみるとか。意識的に新しい環境に飛び込む、責任を負って仕事をやり遂げる経験が、真面目さを鍛えることにつながると思いますね。

性格スキルを鍛えるのは、仕事や勉強での努力に限りません。趣味だっていいのです。大事なのは、たとえうまくいかなくても目標に向かって努力していくことです。

音楽がダメだった人が、演奏にトライする。何が起こるかといえば、何もできないわけです。でも頑張って続けていけば、成長を実感できると思います。

やろうと思ったことがうまくできなかったり、人前で失敗したりすることはカッコ悪いことかもしれません。ですが、そうしたカッコ悪い体験を重ねることによって、おのずと性格スキルが鍛えられるのです。

失敗して恥をかきたくない、というのが一番いけません。ちっぽけなプライドを捨てないと、人間的な成長は難しいと思います。

口ベタでコミュニケーション力が低かった新入社員が、先輩のアドバイスにより毎日一発ギャグを人前で披露することを続けていたら、いつの間にか口ベタも治り、ついには営業成績でトップを取ったという話もあります。彼は、ちっぽけなプライドを捨ててカッコ悪い体験を重ねて成長したのです。

AIの進化などもあり先が見えない時代ですが、ぜひ読者のみなさんにも、カッコ悪いことに挑戦して、性格スキルを高めていってほしいです。

鶴 光太郎(つる・こうたろう)

慶應義塾大学大学院商学研究科教授。東京大学理学部数学科卒業。オックスフォード大学経済学博士。経済企画庁調査局、OECD経済局エコノミスト、日本銀行金融研究科研究員、経済研究所上席研究員を経て現職。近著に『『人材覚醒経済』(第60回日経・経済図書文化賞)、『性格スキル 人生を決める5つの能力』など。

取材・文/有馬美穂
撮影/津田 聡