こんにちは、地下アイドルでライターの姫乃たまです。

私は長いことずっと、我慢することが社会に参加することだと勘違いしていました。たとえば学校生活は私にとって難しいものだったので、いかにも社会に参加(あるいはそのための準備)をしている感じがしました。反対に、大学を出てフリーランスで働くようになってからは仕事が面白いので、社会人になれていない感じがしていました。

仕事をして、ライブハウスや出版社からお金をもらって、そこから税金を納めても、中学校で苦しんでいた頃のほうが、社会に参加している感覚があったのです。

今の仕事は楽しくて、一緒に仕事をしている人たちも、応援してくれているファンの人たちも好きで、それはいいことのはずなのに、社会には参加できていないような気がしていました。なぜなら心が辛くなかったからです。

「無理をする=人から好かれて認められる」という思い込みがあった

姫乃たま

私が「ああ、社会に参加しているなあ」と実感できていたのは、学校で集団行動をしていた時と、高校生で地下アイドルになって、よくわからないまま自分に合わない活動をしていた時期でした。

上手くできなくて、辛くて、合わない人がいても建前で付き合っていくのが大人になることだと思っていたのです。

その考え方のせいで精神的な負担が積み重なって、18歳の時にうつ病になってしまったのですが、その時も「このままだと社会から弾かれちゃう」と考えていました。つまり、人とまともに喋れなくて、そもそもベッドから起き上がれないような状態にも関わらず、社会に参加している意識があったのです。

自分に向いていないことでも我慢して積極的に取り組むのが、私の中で社会に参加することの定義でした。

もともとアイドルは好きだったわけでも、なりたかったわけでもありません。ひょんなことから人に誘われて、今日まで9年間地下アイドルとして活動しています。大学卒業後も、まさかずっとフリーランスの地下アイドルをして生活しているなんて思ってもみませんでした。今は歌ったり、こうして文章を書いたりして暮らしています。

そのようにぼんやりした調子だったので、地下アイドルになったばかりの頃は、右も左も自分が何をしたいのかもわからず、おかげで最初の3年ほどは辛い時期が続きました。

活動3年目でうつ病になってしまった理由は、過労とか、人間関係とか、いろいろありますが、今思えばすべては、「無理をする=人から好かれて認められる」という思い込みが原因でした。

自分に合わない振る舞いをしたことで負のループが動き始めた

活動当初はお客さんから好かれる(好かれそうな)地下アイドルになるために、流行りのアニメソングを歌ってみたり、顔文字を使って文章を書いてみたり、なるべくアイドルらしい(と思わしき)行動を心がけていました。しかし、私の中に明確なアイドル像はなくて、ましてやなりたい自分の理想像も持っていませんでした。

ただ、自分に向いていないことを無理してやるのが人気につながると思い込んでいたのです。

自分に合わない振る舞いをすると、それを見た人は良かれと思って私に合わない仕事を依頼します。自分に合わない仕事はうまくできなかったり、評価が高くても自分の中で何が良かったのかわからなかったりするので、必ずしも自信につながりません。また、自分に合わない仕事をしている関係者とは相性があまり良くないことがあって、しかしそういう人とも付き合っていくことが社会に参加することという思い込みがあったので、負のループが動き始めました。

しだいに仕事中だけでなく、仕事までの時間も落ち着かなくなって、休みでも気持ちが晴れず、苦手な関係者から連絡が来るとそれだけで辛くて他の仕事に手がつけられなくなっていきました。ほんの少しの憂鬱が、計り知れないほど広大な憂鬱に感じられて、恐怖から注意力が欠けるので、無意味なトラブルにも巻き込まれやすくなります。

だんだん「私は頑張っているのになぜ?」という風に思考も危うくなっていきます。それはしかし、自分自身の思い込みのせいだったのです。

私の思い込みを崩してくれたある出来事

そんな私の思い込みに気づかせてくれた出来事があります。

私のコンプレックスに、脚がありました。太くて短く、子どもの頃からこのたったひとつのことだけで「みんな」から好かれないという諦めがありました。地下アイドルの仕事を始めてからは輪をかけて、これのせいで有名になったり、大きなステージに立ったりはできないだろうと思うようになっていました。

実際にどうであれ、そのことが私の性格や行動を制限していたことには違いありません。

ちょうどうつ病で活動休止していて、また活動を始めようか悩んでいた頃でした。当時、地下アイドルの写真集をディレクションするために、とある撮影スタジオに出入りしていたのですが、そこで脚だけのモデルを頼まれたのです。依頼してくれたのは、スタジオを間貸ししてくださっている写真家の方で、撮影中に時々姿を見かける程度の関係でした。

脚のモデル? 私が?

友人に話したら、「エステとかの広告のビフォー・アフターのビフォーの写真じゃない?」と笑われましたが、結構本気でそうなんじゃないかと思って撮影に行ったのを覚えています。

撮影は本当に私の脚だけを写すものでした。広いスタジオにスポットライトと高そうなカメラやいろいろなものが用意されて、そのすべてが私の脚に向けられます。

写真家の方は、「日本人らしい脚が好きなんだ」と言いました。日本人らしい脚! 物は言いようです。10代だった私は大いに衝撃を受けて、今後はそうやって言おう……と心に決めました。

人にはそれぞれ特徴があって、好きになる側の好みにもたくさんの種類があります。世界中の人は全員、すらっと長くて細い脚だけが好きだと思っていました。

いや、まあそれでもほとんどの人はそのほうが好きで、日本人らしい脚が好きな人は少数派だと思いますが、その時私は、私を好きにならない「みんな」のために無理をするよりも、私を好きでいてくれる人に好きでいてもらえるように生きるほうが幸せなのだと気がついたのです。

別に苦手な人と付き合わなくても、苦手な仕事をしなくても、他に仕事はあります。無意味に無理をすることは自分だけでなく、一緒に働く人に対しても失礼なことでした。そもそも私は自分が参加したいと思い込んでいた「社会」すら、何なのかよくつかめていなかったのです。それに、好かれたいと思っていた「みんな」というものも漠然とし過ぎています。みんなではなく、私は好きな人たちと仕事をして、好きな人たちに認められたら良かったのです。

私が楽しく仕事をしたって誰かの楽しさを奪うわけではありません。そのことをずっと勘違いしていました。どこかではうまくいかなくても、居場所は他にあるし、「みんな」というぼんやりしたものに好かれている実感がなくても、私を好きでいてくれる人は現実にいます。

みんな、自分がどこに身を置くべきか悩んでいる

姫乃たま

あれから時は経って先日、出身大学でゲスト講師をする機会がありました。在学時の私はどうしようもない学生で、授業なんか後方の席でほとんど眠っていたので、いざ話す側になってみると、そんな学生相手に話すのイヤだ……とやや不安でした。

しかし撮影の一件があってから、ライブでも講演でも、全員を惹きつけようとするのではなく、少しでも興味を持ってくれそうな人にだけ気持ちを集中できるようになっていたので、耐え難いほどの不安はありませんでした。100人以上の学生さんがいたら、誰かしら興味を持ってくれるはずです(実際には学生のみなさん、90分間きれいに起きていて、過去の自分を反省しきり……)。

授業では地下アイドルという職業について、そして今書いているような、生きづらさから抜け出すことについて話しました。講義後に声をかけてくれた学生さんが、「仕事って楽しくやってもいいって知ってびっくりしました」と話してくれたのが印象に残っています。彼女も以前の私と同じように考えていたのです。

何人かの学生さんからは具体的な相談も受けました。それぞれ事情はあるけれど、主に「やってみたい仕事があるけど、諦めて就職するべきか悩んでいる」「学校に友人ができない」ことが彼女たちを悩ませているようでした。両方とも、自分がどこに身を置いたらいいのかが問題になっています。

私は就職活動のやり方がわからなくてフリーランスになってしまった(!)のですが、そんなこともわからない私みたいな人は、万が一会社に入れたとしても上手に働けなさそうなので、これでよかったんじゃないかと思っています。

大学での4年間は友達がまったくできませんでしたが、フリーランスになってから仲のいい人はたくさん見つかりました。学校で友達ができなくてもどこかに仲良くなれる人はいるし、仕事は楽しくてやってもいいし、楽しく仕事をしていると楽しく仕事をしている人たちが集まってくるし、仕事で知り合った人とも友達になれることを知りました。

気持ちが楽でいられる場所にいればいい

以前は気力があったら死にたいとばかり思っていましたが、最近は「人生ってもしかしたら短いのかも」とまで思います。どうせならやりたいことはやっておこうかなという気持ちにもなるし、そこまで積極的になれない時も、今日が一番残りの人生が長い日だから、もし生きづらい場所にいたり、どうしても嫌なことがあったりしたら、すぐに他のところに移動しようと思っています。そのほうが、いい場所にいられる時間が長くなるし、ダメでも回復する時間が長く取れるからです。

人はそれぞれで、良さも悪さも、居場所によって評価が上がったり下がったり、活かされたり、反転したりします(私の脚みたいに!)。とにかく気持ちが楽でいられる場所にいることがいいんだと思います。それが別に社会人としてダメなことでもないはずです。

ところで私は歯の矯正をしている女の子が大好きです。講義の後、話し込んでいた学生さんと別れ際に「歯の矯正可愛いね」と言ったら、「やっぱり変わった人ですね」と笑われました。悩んでいる時よりもやっぱり笑った顔が可愛くて、せっかく生きているんだからたくさん笑ってほしいなと思いました。

この記事を書いた人

姫乃たま(ひめの・たま)

姫乃たま(ひめの・たま)

1993年2月12日、東京生まれ。16才よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)がある。

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