給料はなかなか上がらないし、銀行預金ではお金は増やせない。ということで、「投資に挑戦してみたい」と考える人は少なくないはずだ。でも、いざ挑戦しようとすると「投資って危なくない?」「投資するなら、株?」などと、疑問が次々にわいてくるのではないだろうか。
そこで、資産運用に詳しいモーニングスター社長の朝倉智也さんに、「初心者にも安心な投資」について、お話を聞いてきた。

投資に挑戦するのはアリ? やるなら株式投資?

編集部
給料もそれほど上がらないし、そろそろ投資の勉強をしてみようかと思っています。
投資といっても株式くらいしか思い浮かばないのですが…。

朝倉さん
いえ、私は株よりも「投資信託(投信)」をお勧めします。なぜなら、株よりも投資信託のほうが損をしにくいからです。

編集部
それはどうしてですか?

朝倉さん
損をしにくい最大の理由は分散投資です。詳しくは後で説明しますが、投信は少ない資金で手間なく分散投資ができるので、株よりも安定した運用が可能なのです。
また、投信は「時間がたっぷりある」若い世代と相性がいいんです。18年1月には、投信を使った資産形成を後押しする国の制度「つみたてNISA」もスタートして、いま注目度が高まっているんですよ。

編集部
投信というのはどんなしくみの商品なんですか?

朝倉さん
投信は、たくさんの個人投資家から集めた資金を、運用会社の「運用のプロ」が合同運用してくれる商品です。「ファンド」と呼ぶこともありますね。「運用のプロ」は、ファンドマネジャーと呼ばれます。投信の大きな魅力は、少額から購入できて、世界中の株式や債券などのさまざまな資産に分散投資できる点にあります。

朝倉さん
先ほどの、株との比較の話に戻しましょう。
たとえば10万円を投資するケースを考えてみましょう。10万円だと、株はせいぜい数銘柄しか買えません。1銘柄でも大きく値下がりしたら、目も当てられないことになるでしょう。そもそも、安定的な資産運用のためにはできるだけ多くの銘柄に分散して投資すべきなのですが、個別株への投資では分散投資は難しいんです。

編集部
なるほど。ところで、投信はいくらから買えるんですか?

朝倉さん
投信を販売する会社によって異なりますが、大手ネット証券なら100円から買えますよ。ただし、ちゃんとお金を増やしたいなら投資額はある程度大きくする必要があります。たとえば100円投資して1割値上がりしたら得られる利益は10円ですが、100万円投資して1割値上がりすれば利益は10万円になりますよね。投資額が小さいと、いくら運用利回りを高めても、得られる収益額は小さくなってしまいます。
月1万円の投資に意味はある?

編集部
そういえば、ある有名人が「投資は貧乏人がやっても無意味だ」と言うのを聞いたことがあります。投資を考えているけど、捻出できるのは月に1万円くらいという人も多いと思うんです。やっぱり、投資をしても意味がないでしょうか。

朝倉さん
そんなことはありません!
「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェットは、投資はスノーボール、つまり「雪だるま」だと言っています。資産運用では、投資したお金を「複利」の考え方で運用するのが大きく増やすための重要なポイントです。

編集部
複利というのは、どういう意味ですか?

朝倉さん
元本(元手となるお金)のみに利息がつくのは「単利」です。これに対して、「元本+利息」にさらに利息がつく「複利」。複利運用なら、お金がまさに雪だるまのように増えていくんです。たとえば毎月1万円ずつ30年間投資する場合を考えてみましょう。投資元本は1万円×12×30=360万円ですが、年5%で運用できたとして計算すると、30年後には投資した資産が830万円以上になるんですよ。
先ほどの「時間がたっぷりある」若い世代と相性がいい、というのはこのことです。若ければ長期間投資できて、複利の恩恵を受けられます。お年寄りだと、なかなかそうもいかないですから。
投信選びは「コスト」に注意!

編集部
投信のメリットはわかりましたが、デメリットはないんですか?

朝倉さん
投信はプロに運用をお任せする商品ですから、手数料を払う必要があることは知っておきましょう。手数料にはいくつか種類がありますが、特に注意したいのは「信託報酬(運用管理費用)」です。信託報酬は年0.1〜2%程度ですが、運用期間中、日割りで資産から差し引かれていくので信託報酬が高いとその分だけ収益が悪化することになります。投信選びでは、できるだけ信託報酬が低いものを選ぶのが鉄則です。

編集部
手数料がかかるんですか……ちょっと抵抗があります。

朝倉さん
でも、自分で株式投資をすることを考えると、銘柄を選んだり値動きをチェックしたりといった手間がかかって大変なんですよ。仕事で忙しいと、投資のことを考えたり情報収集したりする時間を取るのは難しいものでしょう。投資は、少しだけコストを払ってプロに任せ、仕事に集中できるようにするのは合理的だと思いますよ。

編集部
なるほど、確かにそうかもしれませんね。具体的に、信託報酬が低いお勧めの投信はありますか?

朝倉さん
投信には、「インデックスファンド」と「アクティブファンド」があるのですが、これから投資を始める人には「インデックスファンド」がお勧めです。インデックスファンドというのは、東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価といった指数(インデックス)に連動するように運用されている投信です。組み入れ銘柄の選定のための調査などに手間をかける必要がなく機械的に運用できるので、全般にコストが低いのが特徴の1つです。

編集部
コストが低いという以外にもメリットはありますか?

朝倉さん
インデックスファンドを買うのは「市場全体」を保有することと同じですから、多くの銘柄に偏りなく分散投資できるのはメリットでしょう。また、運用会社やファンドマネジャーによって運用成績が左右されることはほとんどありません。つまり、同じ指数に連動する商品なら運用成績はほぼ同じなんです。コストが安いものを選べばOKというわかりやすさも魅力です。

編集部
では、アクティブファンドはどういう投信なんでしょうか?

朝倉さん
アクティブファンドは、様々な運用方針に沿い市場の平均以上の利益を出そうとする投信です。ただし、信託報酬がインデックスファンドに比べて高いのです。また、ファンドマネジャーの腕が運用成績を左右するので選択が難しく、初心者には少しハードルが高いかもしれません。
投信は危なくない? 買い方のコツは?

編集部
投信は安定的に運用できるということですが、そうはいってもリスクはあるんですよね?危なくないですか?

朝倉さん
一般にリスクという言葉は「危険性」という意味で使われていますよね。しかし、投資の世界では、リスクは「危ない」という意味ではなく「収益のブレ」のことをいうんです。まずはここを押さえましょう。

編集部
リスクがあるから危ないわけではないんですね。

朝倉さん
金融商品を買うときに知っておきたいのは、リスクとリターンが表裏の関係にあることです。リスクが低い商品を選べば期待できるリターンは低くなり、高いリスクを取る商品でしか高いリターンは期待できません。この原則をふまえたうえで、「リスクを抑える運用方法」を知って実践することが大切です。

編集部
リスクを抑える方法があるんですか?

朝倉さん
ええ、ポイントは「長期・分散・積み立て投資」です。一般に、運用期間が長いほどリスクは下がることが知られています。たとえば、あるデータでは、いつ投資を始めても(リーマンショックのような大暴落があったとしても)、15年間保有すれば投資額よりもプラスになっていると明らかにされています。ですから、投資は10年以上の長期で実践したほうがいいでしょう。

編集部
なるほど。分散投資が大切なのはさきほどのお話でわかりましたが、積み立て投資がいいのはどうしてですか?

朝倉さん
高いときに買って損をするリスクを抑えられるからです。「毎月3万円ずつ買う」など、定期的に決まった額だけ購入すると、高いときにたくさん買ってしまう心配がありません。つまり、値動きにより価格が高いときは少なく、価格が安いときには多く買うことになって、平均購入価格を抑える効果があるんですよ。

編集部
ちょっとピンとこないのですが……もう少しわかりやすく教えてください!

朝倉さん
たとえば定期的に1万円分ずつ投資信託を買うケースを考えてみましょう。図を見てください。価格が70円から130円まで動くなか、一定額ずつ買うことで平均購入価格を抑えられているのがわかるでしょう。また、このように毎月同じ金額を買うほうが、毎月同じ量を買うより、価格が抑えられることがわかっています。

編集部
うーん、でも70円のときに買えたらベストですよね?

朝倉さん
もちろんそうですよ。でも、いつが買いどきなのかを当てるのは非常に難しいでしょう。「今が買いどきだ!」と思ったのが130円のときだったら目も当てられませんよね。

編集部
確かに、いつが買いどきか見極めることは初心者には難しいので、この買い方はよさそうです。

朝倉さん
結局、投資は積み立てで「機械的に一定額ずつ買う」のが最も合理的な方法と言っていいでしょう。「買いどき」をねらって頭を悩ませる必要もないので、精神的にもラクなんですよ。

編集部
なるほど、よくわかりました。初心者の資産運用は、投資信託を「長期・分散・積み立て投資」で買うのがいいということですね。
朝倉智也(あさくら・ともや)
1966年生まれ、モーニングスター株式会社代表取締役社長。
98年モーニングスター株式会社設立に参画し、2004年より現職。第三者投信評価機関の代表として、常に中立的・客観的な投資情報の提供を行い、個人投資家の的確な資産形成に努める。
著書に『<新版>投資信託選びでいちばん知りたいこと』『一生モノのファイナンス入門』『マイナス金利にも負けない究極の分散投資術』『「iDeco」で自分年金をつくる』など多数。
Twitter:@tomoyaasakura
取材・文/千葉はるか
撮影/津田聡