どんな仕事をしていく上でも、「才能」とは不可欠な要素に感じられますが、プロカメラマン・ブロガーとして活躍するつるたまさんは「自分に才能なんてない」と言い切ります。一見、才能こそがものを言うクリエイティブワークの世界で、長くキャリアを積み重ねてきた戦い方をつづってもらいました。

はじめまして。つるたまと申します。

僕の現在の職業はフリーのカメラマンで、依頼を受けて写真を撮ったり、時にカメラに関する原稿を書くなどして生活しています。今回、若い会社員の方々に何かメッセージを、というオーダーを受けたのですが、改めて振り返ってみると、“写真を撮ってお金をもらう”という、いわゆる職業カメラマンとしての僕のキャリアは、2018年で16年目に入りました。

組織に属する会社員としての経験は約8年しかないので、決して豊富とは言えません。しかし、フリーカメラマンという収支に波がある仕事を続けてきた過程から得た「生存戦略」は、もしかしたら会社員の方にとっても何かの役に立つかもしれない、と思い筆を執ってみました。

さて、あらかじめお伝えしておくと、「自分は才能あふれるカメラマンだ!」と自覚できたことは、ただの一度もありません。

ある事情でやむにやまれずフリーランスとして出発したのですが、その時、仕事をもらえるツテもコネもほとんどありませんでした。では、才能のない、ツテもコネもない人間が、どうして16年間カメラマンとして生きてこれたのか。おそらくその理由は「シャッターを切る」以外の部分で続けきた工夫があったからだと思っています。僕の職業カメラマン人生を振り返りつつ、才能なき者が生き残るために「どのようにあがき、仕事を確立するか」をお伝えしたいと思います。

社カメって知っていますか?

僕の職業カメラマンとしてのキャリアは、社カメから始まりました。社カメとは一般にイメージされるフリーランスや個人事業主のカメラマンではなく、出版社や新聞社のような特定の企業に所属する「社員カメラマン」のことです。子どもの頃からサッカーやプロレスが好きだった僕は、「せっかく撮るならスポーツがいい」と考え、写真専門学校を卒業後、『週刊ゴング』というプロレス専門雑誌の門をたたき、運良く社カメとしての職を得たのです。

つるたまさんが撮影したプロレス(試合中)の写真1
↑『週刊ゴング』時代のものではありませんが、いまでもこうしたプロレス写真撮影は、自分にとって大事な仕事です。(写真はつるたまオフィシャルサイト『一瞬一撮』より)

ちなみに、『週刊ゴング』に採用されたのは写真が上手だったからではない、と思っています。僕が就職活動をしていたのは、ちょうどフィルムカメラからデジタルカメラへの移行期で、デジタル機器の知識があった僕が選ばれたのだと思います。もう一つ、プロレス界に「ジャンボ鶴田」という大スターの選手がいて、偶然にも僕の名字も「鶴田」。面接の際に「もしかして親戚?」とやたら聞かれたことを今でも憶えています。写真撮影の技術云々ではなく、デジタル機器好きであったことと、名字が決め手だったというわけです。

それはさておき、社カメからキャリアがスタートしたのは僕にとって幸運なことでした。今でこそ、撮影機材の価格は低下傾向にあり、インターネット上に写真撮影にまつわる情報がたくさん存在します。こうした状況下であれば、個人で機材と撮影のための知識を蓄えるのは難しくないでしょう。もしかしたら、社カメや著名なカメラマンさんの弟子、といった下積みがなくてもフリーのカメラマンとして出発できるかもしれません。しかし、僕が学校を卒業したばかりの頃は、こうした環境は整っていませんでした。

その点、社カメであれば、会社が所有するプロユースの高価な機材を使え、先輩カメラマンたちの技術を現場で学べます。また、社カメは当然ながら会社員なので撮影という仕事が毎日あり、数多くの現場で撮影経験を積めるのです。そしてこれが重要なことなのですが、社カメであれば、時に手痛い失敗をしたとしても、そこから大事なことを学べるのです。

会社員は失敗できる

フリーのカメラマンの場合、もしも大失敗をして仕事が完遂できなかったら、次の仕事はまずないでしょう。しかし、社カメであれば、たとえ失敗をしたとしても(多分)即クビにはなりません。

まったく自慢になりませんが、僕も数々の失敗をやらかしました。ある試合を撮影し終え、ポジフィルム(当時はまだデジカメではありませんでした)を現像してみると、すべての写真が見事に真っ白で何も写っていなかった、ということがありました。

マニュアルで取り扱うカメラの場合、被写体の光の状況に合わせて、適切な光量になるように手動操作しなくてはなりません。プロレスのリングの場合、リング中央は照明がたくさん当たっていて明るいけれど、リングサイドは非常に暗い、という状況が往々にしてあります。僕は後者の「暗い状況」用にカメラの設定を固定してしまい、肝心なリング中央の環境はカメラにとって明る過ぎる状態にしてしまったのです。こうなると、写真はまるで目がくらんだように真っ白になってしまいます。いわゆる、「露出をふっ飛ばす」という状態です。僕の頭も真っ白になったのは言うまでもありません。

つるたまさんが撮影したプロレス(試合中)の写真を白飛び加工したもの
↑露出をふっとばす、とはこういう状態ですね。思い出したくもありませんが、分かりやすくお伝えするために現像ソフトを使って再現してみました。(加工前の写真はつるたまオフィシャルサイト『一瞬一撮』より)

撮影したものをその場で確認できるデジカメの時代ではなかなか起きないミスですが、当時の先輩カメラマンたちは、こうした何も知らずに撮影していたらミスしてしまうリスクを、あえて事前に僕に教えませんでした。もちろん、その影では先輩が必要な絵を撮ってくれています。僕はあえて失敗させられ、試合の撮影にどんな技術が必要か現場で叩き込まれた、というわけです。

自らの体験から学ぶことで、次はミスしないというマインドはより強くなります。事前にどんなことが起こるのか状況を予測すること、そして、もし起きたときにどう対処すればいいのかを経験情報として積み重ねることで、僕は徐々に一人前へと鍛えられていきました。

常に変化し続ける状況下で、最適な一瞬を写真に収めなくてはならないスポーツ撮影では、「先を読む」という能力が非常に重要です。プロレスであれば、決定的瞬間はリングのどの角から撮ればベストアングルなのかを考えなければ、雑誌に掲載できる写真にはなりません。ですから、カメラマンたちはリング上の選手の動きのクセや手の組み方から、「あ、そろそろ決め技が炸裂する」と次の瞬間に何が起こるのかを予測して行動します。こうした技術も社カメとして場数を踏んだからこそ身についたものでしょう。

つるたまさんが撮影したプロレス(試合中)の写真2
↑選手の動きやクセ、試合展開を見極めつつ、このような技が決まる一瞬を狙います。「先読み」が不可欠です。(写真はつるたまオフィシャルサイト『一瞬一撮』より)

もっとも、「先を読む」とはスポーツカメラマンだけに必要な能力ではないでしょう。上司や同僚が何を求めているのかを察して、そのために行動する。こんな考え方はどんな環境で仕事をしていても役立つものだと思います。僕自身、カメラマンとしてだけではなく、一人のビジネスマンとして、撮影から身につけた「先を推測する」という考え方を大事にしています。

と、ここまで読むと社カメとはなんとも幸せな仕事に思えるかもしれません。しかし、人生いいことばかりではありません。カメラマン、そして社会人として貴重な学びを得た『週刊ゴング』の仕事はあっけなく終わってしまいました。僕の所属していた出版社が、ある日突然出版停止措置を受け、全社員が解雇されてしまったのです。

会社から放り出されたフリーランスカメラマン爆誕!

実は、それ以前から給料の遅配や不払いがあり、不穏な兆候はありました。そこに決定打としての解雇です。僕の人生は大きく変わってしまいました。当時お付き合いしていた彼女とはそろそろ結婚しようか、というタイミングで相手のご両親に挨拶していた直後、いきなり、無職。あまりの罪悪感から、結婚を白紙に戻してもらったのです。

また、解雇になる少し前からお給料が出ていない状況で仕事をしていたので、貯蓄は底を尽き、カードローンなどのキャッシングで生活している状況で、それもやがて満額までいってしまいました。すべてを失う、どころかマイナスからのリスタートを余儀なくされたのですが、ここで僕は初めて「自分がやりたいことは何だ? 自分にできることは何だ?」と考えたのです。

そして、会社を放り出された僕が考えた末に取り組んだのは、やはりプロレスの撮影でした。あるプロレス団体のオフィシャル写真を撮影させてもらい、撮影した写真を販売する許可をいただき、それを仕事にしたのです。プロレスの世界以外につながりがなかった僕にとって、当時は「これしかない」という仕事です。

当時の僕には、今日を暮らすために売れる「目で見えるモノ」を何も持っていませんでした。しかし、自分には写真を撮る技術という目で見えない「できること」が存在していたのです。人の存在意義や価値は、数字や「目で見えるモノ」だけでなく、実は目には見えない「できること」にその人の人柄や経験が詰まっている、と強く実感できました。

当初は、写真ではなく、お好み焼き屋さんやたこ焼き屋さんの面接も受けてみたのですが、写真関連以外の仕事はことごとく不採用です。カメラマンとしての仕事を確立しようと奔走しているうちに、自分にはもう写真の仕事しかない、「自分にできること」を仕事にしよう、という覚悟が生まれてきたのです。

自分の価値を磨く

かくして僕は、予期せぬきっかけでフリーランスのカメラマンになったのですが、カメラマンとして生きていくためには、スポーツ以外の撮影にも幅を広げる必要があります。5年間の社カメ経験のおかげで、徐々に撮影の仕事の依頼をもらえるようになっていったのですが、依頼内容は商品撮影といった物撮りや、スタジオでの人物撮影などです。こうした依頼に、スポーツしか撮ってこなかった自分は対応できません。もちろん、練習し機材も揃え、何とか依頼に応えられるようにしていくのですが、大きな課題は、それぞれの撮影環境に特化したスペシャリストのカメラマンが他にいる、ということでした。

つるたまさんが撮影したスタジオフォト「新製品発表でドヤ顔のディレクター」
↑今ではこうしたスタジオフォトも対応できますが、フリーになりたての頃はそれもままなりません。(写真はつるたまさんが写真を公開している『ぱくたそ』より)

僕にとって経験の浅いジャンルでの撮影では、こうしたスペシャリストたちには到底敵いません。撮影のギャラを低く設定する、というのも一つの手かもしれませんが、それでは先細りになることは目に見えています。ならばこそ、値段ではなく写真撮影のフィールドの中でどのように戦うかを考えなければなりません。僕が見出した戦い方は、「シャッターを切る前」にありました。

並み居るスペシャリストたちと自分を差別化する要素とは、「依頼主の要望を丁寧にすくいあげる」ことでした。例えば、何らかのカタログ掲載用の商品写真撮影を依頼されたのであれば、「どんなカット」が「どのくらい」必要なのかを読み取り、依頼主にこちらから提案するのです。「そんなことか」と思われるかもしれませんが、提案が適切であれば、撮影カット数が削減でき、時間、コストの両面で依頼主にメリットを提供できるのです。こうした提案はもしかしたら制作会社や代理店が持つ機能なのかもしれませんが、僕、つまりカメラマンがその機能を持ち、ワンストップで依頼に対応することは、大きな差別化要因になったと思います。「先を読む」というスポーツ撮影で培った感覚が、ここで生きたのです。

ただ、そこまでカメラマンとしての仕事しかしてこなかった自分にとって、提案や交渉ごとは「なんとなく」やってきたことです。シャッターを切る以外の要素に価値を見出した僕は、ここをさらに強化するべく、ある決断をします。「カメラの販売員になろう」と。

カメラの販売員になって見えた、本当に売るべきもの

都内の量販店で働き始めた僕は、カメラマンとしての経験も含め、商品のスペックを丁寧に説明するように心がけました。しかし、お客さんはわかったようなわからないような表情で、商品を買うことなく売り場を後にしてしまう、ということがありました。なぜだろう、と考えた時に、僕の中にある仮説が生まれました。お客さんはカメラが欲しいのではなく、「撮りたい写真が撮りやすいカメラ」が欲しいのだ、と。

言うまでもありませんが、お客さんは「撮りたい写真」があり、カメラを購入するべくお店を訪れます。なんとなく注目していて欲しい機種の目星はあるけども、他の製品も調べたり比較検討をして悩みつつ、「記憶に残ったこの商品が欲しい!」や「このカメラのほうが撮りやすい」という実感が得られて、購入を決断すると考えたのです。

まるで「顧客が欲しいのはドリルではなく、ドリルが空ける穴」の話のようですが、この仮説を持った僕は、お客さんとのコミュニケーションを変えました。商品の説明をするのではなく、お客さんの「撮りたい写真」がどのようなものなのかをじっくり聞き、撮り方と撮るための機材を提案したのです。例えば、ボケの強い写真を撮りたいけれど、どうやればいいのか分からないお客さんに、そうした写真の撮り方をお伝えしつつ、よくボケる単焦点というタイプのレンズを提案する、というわけです。

つるたまさんが撮影した女性の写真(単焦点レンズを用いて背景をボカしている)
↑ボケみが強い、とはこんな雰囲気の写真です。背景がはっきりとせず、とろけたように見えていますが、これが「ボケ」です。(写真はつるたまオフィシャルサイト『一瞬一撮』より)

こんな風に考えるようになってから、僕の売上は向上したと記憶しています。売上だけではありません。お客さんが僕のことを憶えてくれ、次に何か必要になった際、僕を指名で買ってくれるようになったのです。売っていたのはカメラですが、実は販売する商品は「自分にできること」だと気づいた瞬間でした。

自分を売り込むのではなく、自分を探してもらう

カメラ販売員の仕事は、僕にもう一つの気づきを与えてくれました。それは、「お客さんが何を知りたがっているか」、より正確に言うと「知りたがっていることを、なぜ知らないのか」です。店頭でよく聞かれることは、多くの人が知りたがっていることのはずです。にもかかわらず、僕が説明するまで、お客さんは自分が撮りたい写真の撮影方法を知りません。それもそのはず、当時、インターネット上には写真や撮影に関してプロカメラマンがしっかりとしたノウハウを提示している情報が、非常に少なかったのです。

もちろん、カメラの技術書をひもとけばヒントは見つかるでしょう。しかし、「手軽に気軽に知りたい」という需要に対する供給がインターネット上には不足していました。僕はここにチャンスを見出しました。さっそく自分のポートフォリオサイトとブログを立ち上げ、店頭でお客さんによく聞かれることに対する僕なりの答えを、次々とブログにしたため公開していきました。当時よく書いたのは「〇〇の撮り方」のように特定のシーンに限定した撮影方法をテーマにしたものです。たとえばこんなふうに。

つるたまさんがブログにて公開している「ストロボでの光と影のポートレートライティング」講座の一部を画像化したもの
↑少々古い作例で拙い部分も多く、お見せするのは恥ずかしいのですが……。こんな記事を書きつつ、自分を知ってもらうことに努めたのです。(引用:ブログ『Camera Story』より)

「ライティングをきかせた写真の撮り方」「コスプレをかっこよく撮る方法」のように、シーンを限定することで、お客さんが知りたいこと・困っていることに明確に回答を示せるようにしたのです。

こうした記事をたくさん書いたのには、ある意図がありました。それは「僕というカメラマンの存在を知ってもらうこと」です。

カメラ販売員からカメラマンへの復帰を目論んでいた僕にはカメラマンとしての営業活動が不可欠でした。でも、僕は悲しいほどに飛び込みの営業活動を苦手です。需要があるかどうかも分からないのに、自分をゴリ押しして営業するのにも違和感があります。であれば、自分を必要としてくれるか分からない人に営業をかけるのではなく、「自分を必要としてくれる人に、自分を探してもらい、そして選んでもらおう」と考え、そのためにブログとポートフォリオサイトを活用したのです。

たとえば、「コスプレをかっこよく撮る方法」を知りたい人は、本質的に何に困っているのか。もちろん単純に自分でかっこいい写真を撮りたいという思いで僕のブログを読んでくれる場合もあるでしょう。しかし、読者の方が欲しいのは、かっこいいコスプレ写真であり、それを撮ってくれるカメラマンのはずです。こうした読者の困りごとに対する答えをブログ上で示すことで、その読者は僕というカメラマンの存在を知ってくれ、場合によっては撮影依頼をくれると考えたのです。

実際、カメラ販売員からフリーランスのカメラマンに戻った時、撮影依頼が発生するのは多くの場合ブログやポートフォリオサイト経由でした。今では多くのプロカメラマンたちが優れた情報発信を行っていて、かつてのように新規の依頼が次々と舞い込む、ということはありません。しかし、ブログ経由でつながってくれた依頼人の方々は、現在でも自分の仕事の大事な基礎になっています。

「自分にできるコト」の捉え方が、生き残るための武器になる

つるたまさんが撮影した女性の写真(女性は夕日を背に横を向いている)
(写真はつるたまオフィシャルサイト『一瞬一撮』より)

さて、ここまで読まれて賢明な方はお気づきかと思いますが、僕の生存戦略、特に後半部分に「カメラの技術」はあまり関係ありません。僕がとにかく注力してきたのは、「自分にできるコト」をどのように拡張し、それを人に伝えるか、です。

繰り返しになりますが、僕は決して「写真がうまい」カメラマンではありません。しかし、他者と比較して「自分にはできない」と諦めるではなく、「自分がやりたいこと・できること」に、さらにどんな要素をプラスアルファできるかに思いを巡らせれば、「自分に“しか”できないこと」を作り出していけると思っています。

会社員の方も、自分には才能がない、と嘆くこともあるでしょう。そんなときは少し見方を変えて、「圧倒的なトーク力や企画力はないけれど、問い合わせには即レス・即対応。加えて見積もりは松竹梅の3種類用意する」のように、自分にできることをどのように拡張できるかを考えると、現状を打破する武器が見つかるかもしれません。

誰かと同じ土俵で勝負するのではなく、「自分にしかできないコト」を探り、それを「才能」と置き換えていくことが、大事なオリジナリティになってくれるはずです。僕自身、今後は「カメラマン」だけでなく、写真関連の原稿執筆や編集、Webサイトコンサルといった周辺業務を広げ、「3本の矢」になろうとトライしている最中です。「撮影だけなら他の人に頼むけど、Webの知識もあるならお願いしたい」と頼られるカメラマンとして成長したいのです。そうです、僕自身もまだまだ道半ば。

長くなってしまいましたが、僕が考えて実践してきたことが少しでも皆さんのお役に立てば嬉しいです。

それでは、また!