事故物件とは、事件や事故など何らかの理由で人が亡くなった物件のこと。中には、遺体が死臭を放ち、おぞましい状態になる物件もある。

そんな事故物件の情報ばかりを集めたサイトが「事故物件公示サイト 大島てる」だ。

このサイトを管理・運営するのが、株式会社大島てる代表取締役会長、大島てるさん。東京大学経済学部を卒業後、世界屈指の名門アメリカのコロンビア大学大学院に進学した経歴を持つ、スーツ姿の似合う穏やかな男性だ。

なぜ事故物件サイトを立ち上げたのか、事故物件という「他人の死」に関わるものをビジネスにすることに負い目はないのか、大島てるの仕事論を聞いてきた。

「事故物件公示サイト 大島てる」は偶然の産物だった

大島てる
大島てる(おおしま・てる)。事故物件公示サイト「大島てる」を運営中。情報収集と調査のため全国を飛び回る他、イベント「事故物件ナイト」を札幌・東京・名古屋・大阪で不定期開催中。

──「大島てる」は趣味ではなくビジネスとして運営されているそうですね。単刀直入にお聞きますが、事故物件でお金を稼ごうなんて、どうやって考えついたのですか?

大島てるさん(以下、てる):正直に言うと、単なる偶然です。初めから事故物件サイトをビジネスにしようなどと考えてはいませんでした。そもそも私は経済学の研究者になりたかったので、こうしたサイトを運営することになるなど、当時の私には考えられなかったことです。

──てっきりオカルト好きの人なのかと……。でも、どうして経済学から事故物件に?

てる:家業が不動産業だったのです。大学を卒業した後、アメリカの大学院に進んだのですが、その頃には自分には絶対にかなわない人がいることを思い知らされていました。もうダメだと1年あまりで逃げ帰り、家業を継ぐことにしたんです。

不動産業といっても、規模は違いますが、森ビルのようにマンションやビルを人に貸して家賃をいただく大家側の仕事をしていましたから、新たな物件を取得する時に、知らずに訳あり物件をつかまされるのは避けたかった。そこで事故物件の情報を集め始めたのです。

事故物件公示サイト 大島てる
「事故物件公示サイト 大島てる」。地図上に事故物件が炎のアイコンで表示される。

──大島さんは不動産屋さんだったんですね。オカルト好きの人なんて言ってすみません!

てる:大丈夫です(笑)。現在は不動産業から撤退してサイト運営に専念していますが、サイトを作った時は、それがビジネスになるとも、したいとも考えていませんでした。

ただ、事故物件情報を集めたサイトを立ち上げれば、それを見た人から「あの物件が載ってない」「この情報は間違っている」という情報提供が受けられるだろうと考えたのです。情報というものは、こちらが出せば出すほど集まってくるものですから。

──それが人気を呼んでビジネスになったと……。

てる:結果的にはそうなりますが、簡単な話ではありませんでした。平成17年にYahoo!ニュースで紹介されたことで、一気にアクセスが増えましたが、それまでの丸4年間はつらかったですね……。

あちこち駆けずり回って情報を集めても、ほとんど誰にも見てもらえず、情報提供どころか苦情さえもない。当然、1円にもならないわけですから、いったい自分は何をやっているのかと本当に苦しんでいました。

ここでなら1位になれるとサイト運営の道へ

大島てる
事故現場の写真を顔色ひとつ変えずに出してくる大島さんが、「ちびりましたよ!」と語った事件については記事の後半で。

──不動産業から撤退してサイト運営だけに絞ったのはなぜでしょう。もしかして、サイトが儲かりすぎて不動産業がバカらしくなったとか……。

てる:そうだったらよかったのですが、不動産業からの撤退を決めた時には、まだサイト1本で食べていけると思えるほどの収益はありませんでした。それでも撤退を決めた理由はいくつかあります。ひとつは事故物件を見すぎてしまったこと。もうひとつは利益相反の問題です。あとは私の意地というのが最大の理由かもしれません。

──具体的に説明していただけますか?

てる:情報収集のために「もしこれが自分の物件だったら……」と思うような事故の現場を嫌というほど見て回っているわけです。そうすると大家という職業は非常に危ないことがわかります。自分の物件で事故が起こる確率はそれほど高くないのでしょうが、もう大家業はやめたほうがいいと考えるようになったのです(と言いながら現場の写真を見せてくれる)。

──……。今日は晩ご飯を食べられません。

てる:次に利益相反の問題です。私が大家をやっている以上、「お前の物件で事故があったら、どうせサイトには載せないんだろう」という疑念は消えないわけです。

以前、ある事故物件の大家から訴えられて、情報の削除と損害賠償、さらに謝罪広告を出せと要求されました。その時に相手の弁護士から「自分も大家のくせに、こんなサイトを運営するのは同業者に対する営業妨害だ」と攻撃されたんです。

──裁判の結果はどうだったのでしょうか。

てる:私の完全勝利でした。野球でいえばノーヒットノーランのようなものです。

──そう言い切れるくらいの勝利だったんですね。

てる:私を訴えた大家は、同業者に対する営業妨害だと主張すれば私がサイト運営を止めるだろうと期待したのかもしれませんが、私は逆に大家業からの撤退を決めました。こうして私を訴えても無駄、同業者に対する営業妨害と批判しても無駄だと世間に知らしめることができたわけです。

──大島さん、なんかカッコいいです。

てる:私は経済学の分野では1位にはなれなかったわけで、では大家で1位になれるかといえば、森ビルのような大手に到底かないません。でも、事故物件サイトの分野ではライバルはいない。

サイト運営で食べていける確信はなかったのですが、退路を断ち、1位を目指してとにかくこれでいくしかないと思ったのを覚えています。これはもはや私の意地のようなものかもしれません。

クレームや削除要請には一切応じない

大島てる
「ルール違反の行為を潰すのが使命」と語る大島さんは、少しだけかっこよく見えた。

──裁判では勝ったということですが、それ以外にもクレームを受けたり、情報の削除を要求されたりすることは多いのではないですか?

てる:削除を要望してくるのは大家が多いです。事実に反する情報や、公園での殺人事件などの事故物件とは無関係の情報は削除しますが、そうでなければ一切応じません。

──どうしてですか?

てる:私がビジネスをやる上で最も大切にしているのは法令遵守です。不動産業には宅地建物取引業法という法律があって、「大事なことはお客さんに伝えなさい」といったことが定められています。「もしお客さんが知っていたら契約しなかったような事実は告知しておきなさい」という意味です。「大島てる」という事業は、この告知義務を果たさないヤツを叩くという新しいビジネスなんです。

──どういうことでしょうか。もう少し詳しく教えてください。

てる:告知義務をきちんと果たそうと考えているなら、「大島てる」に情報が載ってもまったく問題ないわけです。それに対して、掲載情報の削除を要望してくるのは、情報を隠蔽しようと考えているからです。そうしたルール違反の行為を潰すのが「大島てる」の役割であり使命と考えています。

──なんだかますます大島さんがカッコよく見えてきました。

てる:不動産業界には、アパートなど賃貸物件の場合、事故物件であることを告知するのは、事故後1人目の入居者までで、2人目の入居者には告知しなくていいという考え方があります。

過去にそういう裁判例があって、それをもとに不動産業者がそう判断しているのですが、これを悪用して、たとえば自社の社員が書類上住んだことにして、もう告知義務はないのだと開き直る不動産業者もいます。

──えっ! そんなことが許されるんですか?

てる:そういう業者は論外ですが、実際には法令のどこを見ても、「2人目には告知しなくていい」とは書かれていません。裁判例をもとに不動産業者がそう判断しているだけなのです。

ですから、2人目ならすべて告知不要かといえばそうではなくて、1人目の入居期間がきわめて短い場合など、ケースによって裁判所が異なる判断を下す可能性は十分あります。したがって、たとえば「もう2人目の入居者が住んでいて告知義務はないのだから削除してください」と言われても、応じることはありません。

把握した事実はすべて公開。住むかどうかはお客さん次第

──でも、告知義務がないものを掲載するのはリスクが高いのでは? それこそ営業妨害と言われかねない気がします。

てる:その点ですが、そもそも、仮に告知義務がなかったとしても、サイトに載せてはいけないということとイコールではないですよね?

──なるほど。義務がないだけで、告知してはいけないってことではないんですもんね……。

てる:もっと言えば、2人目だろうと3人目だろうと、気にする人からすれば嫌なものは嫌なのです。事故から何人目だから大丈夫とか、何年経ったから大丈夫などと、大家や不動産業者の側が判断すべきではありません。

ですから、把握した事実はすべて公開する。その上で、住む・住まないを判断するのはお客さん次第というのが私の姿勢です。

──事故の実態もそれぞれ違いますし、大家さんからすると「これで事故物件扱いされるのはちょっと……」と思う場合もあるのではないでしょうか。

てる:たとえば、入居者が孤独死したけれどもすぐに発見された場合、「告知義務はないのだから削除してください」という要望が寄せられることがあります。たしかに、殺人事件の場合などと違って、世間の事故物件のイメージとは違っているかもしれません。

ただ、死後1日で発見ならセーフだとか、1カ月放置されたけれど遺体が傷んでいないからセーフだとかを、私が判断することはできません。仮に「死後1日で発見なら事故物件ではないが、死後2日経っての発見の場合は事故物件である」といった基準を作っても、なぜ1日ならセーフで2日ならアウトなのか、その理由を合理的に説明することなどできないはずです。

だからこそ、「把握できた事実はすべて掲載する」という方針を採っているのです。

──ご自身で判断しないことが最大のリスクヘッジになっているわけですね。

てる:把握した事実はすべて晒(さら)す。気にするかしないかは一人ひとりの判断というわけです。

人の嫌がることをやる。そこにこそ意義がある

大島てる
事故物件サイトというリスクの高いビジネスをどう運営するか、かなり考え抜いている。ただのオカルト好きではなかった。

──もし「お金を払うから削除してほしい」と頼まれたらどうしますか? 大金を積まれたら気持ちは揺らぎませんか?

てる:絶対に削除しません。むしろ、「お金を払うから削除してください」と頼まれたこと自体を公表します。私はつくづく商売人には不向きだなと思うのですが、お金よりもメンツが大事なんです。振り返れば大金よりもメンツを選んだということが何度もあって……。

もちろん、とりあえず私が食うに困ってはいないから言えることなのでしょうが、こういう儲け方をしたいとは思っていないので、私が交渉に応じることはあり得ません。

──では、「削除しないと大変なことになるぞ」と脅されたら?

てる:無駄です。脅されても情報は削除しませんし、サイトを止めることもありません。

実は、平成29年4月にTwitter上で殺害予告を受けたのですが、すぐに警察に通報しました。半年かかって犯人は捕まりましたが、その間、イベント出演がキャンセルになったり、ホテル暮らしをすることになったりと大変な目にあいました。

念のために言っておきますが、「大島てる」は個人サイトではないので、万一私に何かあってもサイトは存続し続けます。ただ、模倣犯を防ぐという意味では犯人が逮捕されてよかったです。

──殺害予告を受けてもサイトを止めないって、怖くないんですか?

てる:ちびりましたよ!

──意外とノリが軽いんですね。

てる:ただ、ビジネスで成功するためには、「他人に批判されることをやる」「他人が嫌がることをやる」必要があると私は考えています。歴史的にも、機械打ち壊し運動といった無駄な動きがありました。イノベーションは他人の飯のタネを奪うものであり、イノベーターが抵抗されるのは宿命です。

見方を変えれば、新しいビジネスを立ち上げるなら、「これであの職業を消滅させることができるぞ!」くらいの発想が必要なのでしょう。

ただ、表向きは「世のため人のため」などと言わないと批判されますが(笑)

──あれ? 今、大島さんの腹黒さがチラッと見えたような。「大島てる」の正義は……。

てる:それはともかく、若い頃、夢破れてニューヨークから田舎の東京に逃げ帰り、家業のかたわら、1円も生み出さないことをし始めたのが、続けていくうちにいつの間にか仕事になったのです。

経済学を途中で投げ出してしまった以上、また投げ出してしまうようなことはしたくありませんでした。ただただ、その思いで続けてきたからこそ、道が拓けたのかもしれません。ですから、これからも続けていきます。

ひたすら続ける、今回は何があってももう投げ出さない、この想いが私の最大の強みなのかもしれませんね。

大島てる(おおしま・てる)

2005年9月に事故物件公示サイト「大島てる」を開設。当初は東京23区のみの事故物件情報を公示していたが、現在では日本全国のみならず海外の事故物件も掲載している。「事故物件ナイト」など、事故物件イベントを札幌・東京・名古屋・大阪で不定期開催中。

Twitter:@Oshimaland

Facebook:大島てる

<取材・文/(株)ノート 撮影/黒澤宏昭>