「勉強でも仕事でも、頑張れば頑張るほど、成果が出にくくなる。むしろ頑張らない方が、断然、成果に結びつきやすい」。

そんな目からウロコの話を耳にした。そして実際に成功者ほど、実は“頑張っていない”のだという…。

とても気になるので、勉強法や仕事術にくわしい宇都出雅巳先生に、理由を詳しく聞いてみた!

宇都出雅巳
宇都出雅巳(うつで・まさみ)。トレスペクト教育研究所代表。記憶術と速読術を研究・実践し、脳科学や心理学、認知科学の知見も取り入れた独自の学習法を確立。受験生やビジネスマン向けの講義や指導を行う。

頑張りが必要なことほど、途中でイヤになる

Dybe! ライター

編集部

「頑張れば頑張るほど、成果が出にくい」というのは本当なんでしょうか?

宇都出雅巳

宇都出氏

はい、本当です。なぜかというと、勉強でも仕事でも「頑張ろう!」と思うほど、挫折もしやすいからです。頑張らないほうが、むしろ続きやすいんですよね。

Dybe! ライター

編集部

頑張るほど挫折をしやすいというのは、なぜなのでしょう?

宇都出雅巳

宇都出氏

頑張るには「ウィルパワー=意志力」が必要で、ウィルパワーは限りがあるからです。

Dybe! ライター

編集部

ウィルパワー……初めて聞きました。意志の力っていうことだと思うんですが、限りがあるとはどういうことですか?

宇都出雅巳

宇都出氏

ウィルパワーは、ゲームによく出てくる“ライフゲージ”をイメージするとわかりやすいです。元気な時は満タンだけど、何かで頑張ったりガマンをすることで、だんだんゲージが減っていく。そしてウィルパワーがゼロになると、もうまったく頑張れなくなる。

Dybe! ライター

編集部

なるほど、わかりやすい。

宇都出雅巳

宇都出氏

ウィルパワーは限りがあるものだというのは、実験でも証明されています。事前に“ガマン”をさせられたグループと、何もさせられなかったグループとに分けてパズルを解かせたところ、ガマンさせられたグループの方が明らかに途中であきらめる人が多かったのです。

だからこう言えます。頑張らないといけないもの、つまりはウィルパワーがたくさん必要なものほど、途中で挫折しやすく、当然、結果も出にくい。言い換えれば、頑張ろうと思えば思うほど、結果的に頑張れないというわけです。

Dybe! ライター

編集部

確かに、気合を入れて壮大なノルマを掲げた時ほど、あっさり挫折している気がします。

宇都出雅巳

宇都出氏

特に日本人は、「頑張ること」自体を目的にしやすいところがあります。苦しめば苦しむほど偉いというような精神論に陥りやすいんです。でも肝心なのは結果を出すことであり、頑張るかどうかは本来、二の次のはずです。

やり始めることで“やる気ホルモン”が出る

宇都出雅巳

Dybe! ライター

編集部

では「頑張らないで成果を出す」には、どうすればいいのでしょう!?

宇都出雅巳

宇都出氏

それには、やることのハードルをとにかく下げることです。

Dybe! ライター

編集部

ハードルを下げるとは、具体的には?

宇都出雅巳

宇都出氏

たとえば試験勉強で問題集を解くとします。いざ問題を読んでみて難しいなと思ったら、さっさと解答と解説を見てしまうのです。

Dybe! ライター

編集部

え、見ちゃうんですか(笑)。じっくり考えた方が勉強になりそうな気もします。

宇都出雅巳

宇都出氏

もちろん解けるのなら解けばいいですが、わからないのにウンウン考え込んでしまうと、ウィルパワーを大きく使ってしまいます。そうした勉強法では、そのうち挫折しかねません。

でも、わからない場合は解答を見てOKとすれば、問題集に向かうハードルが大きく下がります。それならやってみようかな、と思えます。そして、そうやって解答・解説を読むことで知識のストックが少し加わる。すると問題集に向かうハードルがより下がる。そしてまた問題で詰まったら、解答・解説を読んで知識のストックを上げる。またハードルが下がる。ひたすらその繰り返しです。

Dybe! ライター

編集部

確かに、これならあまり苦しまずに続けられそうです。でも、それではたして学力が身につくのでしょうか?

宇都出雅巳

宇都出氏

1冊を繰り返し読み、同じ問題に何度も接することで、より確かな学力が身につきます。ただ作業のハードルが低いので、苦もなく、むしろちょっと楽しみながらできるでしょう。

また、やる気というものは出そうと思って出るのではなく、行動することで脳からやる気ホルモンのような物質が出ることがわかっています。だからハードルを下げてちょっとでもいいからやり始めることで、次第にエンジンが温まってくるのです。

Dybe! ライター

編集部

やればやるほどノッてくるんですね。

宇都出雅巳

宇都出氏

もし1日などの短期の頑張りで成果が出せるものであれば、“頑張り”に頼るのもいいでしょう。でも勉強でも仕事でも、大きな成果を出すには、長期的に取り組むが必要があります。受験や資格の勉強はもちろんだし、仕事の成績を上げるのでも、昇進でも、会社経営でも、さらにはスポーツでも趣味でもダイエットでも、全てがそうです。

だからこそ、やることのハードルを意識的に下げ、とにかくやり続ける。やっているうちに知識の蓄積や、やる気ホルモンの分泌により、どんどん調子が出てくる。

頑張らないからこそ、長く続いて成果が出せる、つまりは結果的に“頑張れる”というわけです。

Dybe! ライター

編集部

なるほど。他にも具体的なやり方はありますか?

小さな工夫が、成功と失敗の分かれ道に

宇都出雅巳

宇都出氏

長く続けるには、習慣化することが何より大事です。習慣化すると、やろうと思わなくても勝手にやる状態となり、ウィルパワーを使わなくて済むからです。習慣化するには、ランチの後に縄跳びをやるとか、夜に歯磨きしながら今日学んだことを復習するとか、“必ずやること(ランチ、歯磨きなど)”と紐づけるのがコツです。

習慣づけるには、絶対にできることから始めるのも重要です。たとえばジョギングなら、いきなり張り切ってめいっぱい走るのではなく、まずは朝起きて玄関に行くまでをノルマにするとか。

Dybe! ライター

編集部

確かにいきなり頑張っちゃうと、次やる時に「ジョギング大変だから、今日はやめておこう…」となりそうです。

宇都出雅巳

宇都出氏

ハードルを下げるという意味では、寝る前にランニングウェアを枕元に置いておくとか、あらかじめランニングウェアを着て寝てしまう、というのも有効です。朝起きてからウェアをクローゼットから引っ張り出すという時点でウィルパワーがかかり、ハードルが上がってしまうからです。

一見、馬鹿らしく感じるかもしれませんが、意外とこういうちょっとしたことで、やるかやらないかが決まるんです。

Dybe! ライター

編集部

では、読書ではどうでしょう。読まずに放置したり、読むのが苦痛で途中で投げ出してしまう本も少なくありません。

宇都出雅巳

宇都出氏

開かないままになっている本や参考書は、まずタイトルだけでも読むことから始めます。これならハードルが下がって読めるでしょう。タイトルだけでも読めば、好奇心が出てきて、本を開きたくなってきます。ここでもハードルを下げて、目次だけ読みます。そうすると、「◯◯ってどういうこと?」「ここは面白そうだな」という自分的な引っ掛かりが出てくるので、そのページに行って読んでみる。見出しを追うだけでもOKです。そして読んでいるうちに詰まったら、また目次に戻る。

すると、ちょっと中身を読んだことにより、新たな引っ掛かりが出てきます。そうしたらまたそのページに行って読む。詰まったら目次に戻る。それを繰り返します。

一番よくないのは、“じっくり読み込んでやる!”と意気込んで先頭ページから読み進み、理解できない箇所は何度も行きつ戻りつして読み解こうとすること。それではじきに読むのがイヤになり、投げ出すことになるでしょう。

Dybe! ライター

編集部

そうか、別にページ順に読む必要はないんですね!

宇都出雅巳

宇都出氏

はい、小説などストーリー性の強い本でなければ、好きな所から読めばいいのです。

さらにもう一つ、本や参考書を読むためのウルトラCがあります。

Dybe! ライター

編集部

なんでしょう?

成功者ほど、毎日“淡々と”やっている

宇都出雅巳

宇都出雅巳

宇都出氏

カッターなどで背表紙に切り込みを入れ、本をバラしてしまうのです。

Dybe! ライター

編集部

マ、マジですか!?

宇都出雅巳

宇都出氏

そうすれば300ページ、400ページの分厚い本も、100ページとかの薄さに分けられます。分厚いという時点で開きにくかったり、持ち運びにくかったりでウィルパワーがかかります。だからハードルを下げてやるのです。

Dybe! ライター

編集部

かなり特殊な手法ですが、確かにハードルは下がりそうです(笑)

宇都出雅巳

宇都出氏

勉強や企画書づくり、レポートなどの作業がどうしても始められない場合は、キッチンタイマーを使うという手もあります。

Dybe! ライター

編集部

キッチンタイマー?

宇都出雅巳

宇都出氏

100均とかで売っているやつですね。それをセットし、「とりあえず10分だけ作業しよう」とやり始める。こうすることでハードルを大きく下げられるし、やり出すとたいてい「もっとやろう」となるものです。

Dybe! ライター

編集部

別にタイマーを使わなくても、時計でいいのでは?

宇都出雅巳

宇都出氏

タイマーを使わないと、途中でちょくちょく時間が気になったりして、それでまたウィルパワーを使ってしまうんです。

Dybe! ライター

編集部

なるほど、徹底してますね!

宇都出雅巳

宇都出氏

それと、なかなか成果が出せない人にありがちなのが、「30分ではろくな作業ができないから、明日にしよう」と後回しにしてしまうことです。

でも成果を出している人の多くは、5分でも時間があれば勉強したり、本を読んだり、アイデアを練ったりしています。こうして作業あたりのロット=最小単位を下げることでやる頻度が上がり、やるうちに勢いも出てきて、結果的に取り組む時間の総計も長くなるのです。

Dybe! ライター

編集部

ちなみに、先生は最近ダイエットに成功されたそうですね。どうやってダイエットを成功させたのですか?

宇都出雅巳

宇都出氏

まず代謝を上げるために筋肉をつけようということで、毎日スクワットを40回続けました。ただし最初は10回とか20回という確実にできる回数から始めました。

それと並行して米、パン、麺類をやめて糖質制限を行いました。おかずは何でも食べてOKというルールにしてハードルを下げたら、思ったほど大変ではなかったですね。

Dybe! ライター

編集部

やはり、続けるために「頑張らないでできる仕組み」を作ったんですね。

宇都出雅巳

宇都出氏

ダイエットの話とはスケールが違いますが、たとえばイチロー選手などは、決して毎日「いくぞ!!!!!」とテンションを上げて頑張るのではなく、やるべきことを習慣化して淡々とやり続けた末に成功を手にしたのだと言われています。

やるべきことの中から“いま確実にできること”を見つけて、とにかく「止まらずに動き続ける」。それが全てではないでしょうか。

宇都出雅巳(うつで・まさみ)/トレスペクト教育研究所代表

1967年生まれ。東京大学経済学部卒。出版社、コンサルティング会社勤務後、米国に留学してMBAを取得。帰国後、外資系銀行勤務を経て、2002年に独立。30年にわたり記憶術と速読術を研究・実践し、脳科学や心理学、認知科学の知見も取り入れた独自の学習法を確立。受験生やビジネスマン向けの講義・個別指導のほか、企業研修や予備校講師の指導も行う。

ホームページ:トレスペクト教育研究所

<取材・文/田嶋章博(@tajimacho) 撮影/津田 聡>