「今後20年以内に、労働人口全体の49%がAI(人工知能)やロボットに仕事を奪われる」と、2015年12月に野村総研が発表して話題になりました。以後、AI関係の書籍や特集のブームが続いています。

それに対して、「ウソです。この15年でなくなる仕事はせいぜい9%。日本人も日本のマスコミも労働ホラーが大好きで、騒ぎすぎなんです」というのは、雇用ジャーナリストの海老原嗣生さん。本当ですか? ということで、AIの時代の働き方とあわせてお話を聞いてきました。

海老原嗣生
海老原嗣生(えびはら・つぐお)。雇用ジャーナリスト。最近の著書に『「AIで仕事がなくなる」論のウソ この先15年の現実的な雇用シフト』(イースト・プレス)がある。

AIでなくなる仕事は、せいぜい9%

Dybe!編集部女性記者

編集部

今の仕事が49%もなくなるというのはウソなんですか?

海老原嗣生

海老原さん

私の試算によると、この15年でせいぜい9%減ですね。49%というのは、かなり「粗い研究」と言わざるをえません。実務に明るくない研究者たちの「主観」に頼っていますし、AIにその仕事が置き換えられるかどうかだけで判断しており、AIを導入するコストについては考えられていません。また、雇用創出や働き方改革などのメリット面には触れられてないんです。

Dybe!編集部女性記者

編集部

そうなんですね。でも、9%でも安心できないです。ちなみに、海老原さんがいう9%のなくなる職業には、一体どんなものがありますか?

海老原嗣生

海老原さん

なくなる仕事の筆頭は事務です。私の調査では、この15年間で現在の事務職の約4分の1の310万人分の雇用が減ります。

Dybe!編集部女性記者

編集部

310万人! 実際に事務職はもうなくなり始めてるんでしょうか?

海老原嗣生

海老原さん

AI化しないまでもIT(情報技術)により、かなりの効率化がはかられています。たとえば銀行のバックオフィスなどです。帳票の処理などはITによって自動化することで、人手を介すことなく短時間で処理ができるようになりました。ルールに従った処理業務は、大手企業では今後15年のうちに大幅に減るでしょうね。

Dybe!編集部女性記者

編集部

一般的な事務職はなくなるとして、資格を取ったりスキルアップをしている人たちはどうですか?

海老原嗣生

海老原さん

知的ではあっても、単純ワークはAIに一番向いている仕事なんです。これからスペシャリスト系の仕事はガンガンなくなっていきます。会計、事務などは、スキルアップしろとさんざんビジネス誌などで煽られてきましたが、AIによって取って替わられるでしょう。

Dybe!編集部女性記者

編集部

難関資格を取った人もですか…。コンピュータで完結する仕事はなくなると。

海老原嗣生

海老原さん

そうです。汗臭く営業するのが嫌だから税理士になった、という人は残れなくなります。記帳代行作業などはなくなるでしょうし。「税務査察のときは、私たちが防波堤になって守りますよ」というような、稼ぐための工夫をしている税理士なら残るでしょう。

営業職はAIが台頭しても減らない

海老原嗣生

Dybe!編集部女性記者

編集部

なるほど。反対になくならない職業を教えてください。

海老原嗣生

海老原さん

営業は、15年後でも雇用規模は変わらないと思います。しかも、今嫌だなと思うような営業の仕事は、だいぶ楽になる可能性があります。

これまでは人間が覚えなければならなかったような専門知識をAIが覚えてくれて、さらにこの客はこういうことを求めている、などと教えてくれるようになるかもしれない。AIの言うとおりにやれば売れるし、給料も上がる。結果、企業と人との関係が対等になってくるはずです。

Dybe!編集部女性記者

編集部

明るい話題きましたね! それでも、日本の営業のしかたは「足で稼ぐ」といった根性論的なものが賞賛されますし、AIが入っても変わらない部分はあると思うのですが…。

海老原嗣生

海老原さん

そうですね。日本はいまだに、仕事のしかたも精神論で成り立っているところがありますからね。今、もし日本が欧米型の合理的なビジネスをしていたら、雇用は2、3割減っていますよ。それにもっと早く帰れると思います。

でも日本の慣習のせいで、不必要にたくさん雇用されるようになっているし、AI化されたとしても『営業だろ! なんで直接来ないんだ』っていうお客さんはいるでしょう。

Dybe!編集部女性記者

編集部

目に浮かぶようです。

AIも日本型に進化する!?

海老原嗣生

海老原さん

AIも、日本人に合わせて進化するんじゃないですか。たとえば、いい営業は、少し話せばこの人は買う気がないなとわかる。そして、野球の話がしたそうだから大谷の話をしようとか、もしくはいい企画書を持ってこないとダメなタイプだなとか、すぐ判断できる。

将来的にそれをすべてAIが判断できるようになる可能性があります。買いもしない人に説明して、「うるさい、帰れ!」と言われていた営業も、無駄骨を折らなくてよくなります。ただ日本の仕事の仕方は残るので、AIの指示にしたがい、オッサンと野球の話をし、飲みに行くぞと言われたら行く(笑)。

Dybe!編集部女性記者

編集部

営業はいい感じにAIを使いこなせそうですね(笑)。では、流通サービス系はどうですか?

海老原嗣生

海老原さん

流通サービス系は物理的な作業がこまごま発生するのが特徴なんです。ノウハウをAI化して、ロボットやメカトロニクスなどの機械で自動化しても、間の部分を人の手でつなぐ仕事、つまり「すき間仕事」が絶対に必要になります。

Dybe!編集部女性記者

編集部

「すき間仕事」? 具体的には、どんな仕事でしょうか?

海老原嗣生

海老原さん

たとえば回転寿司であれば、AIが発展すれば、銀座の名店並みの「切り方」「握り方」が実現できるようになります。そうなったとしても、魚の皮をはぐ、湯につける、水にくぐらす、などのこまごまとした「すき間仕事」が残る。そこを人間が請け負うのです。

また、お客さんを寿司レーンのどの場所に効率よく座らせるかはAIが考えてくれるので、実際の誘導という「すき間仕事」だけ人間が受け持つことになります。

Dybe!編集部女性記者

編集部

なんだか、味気ないような気も…。ちなみに、流通サービスだとどれくらいの仕事がなくなるのでしょうか?

海老原嗣生

海老原さん

15年後の雇用は現在より1割減(130万人)程度でしょう。

Dybe!編集部女性記者

編集部

事務よりは少ないですね。

海老原嗣生

海老原さん

AI(頭)、メカトロ(手)が揃って使えるようになって残る仕事は、やはりホスピタリティ系の業務です。だから、流通サービス業では店長クラスは残る。事務系で秘書が残るようにね。

どの産業でも、ホスピタリティ、クリエイティビティ、マネジメントが必要なもので実務、雑務作業が入るものは残ります。依頼や謝罪も人がやり続けると思います。つまり、スマートな仕事はなくなり、やっかいな仕事はなくならないということなんです。

Dybe!編集部女性記者

編集部

なるほど。今後、なくなる仕事は出てくるとして、仕事自体はなくならないんでしょうか?

海老原嗣生

海老原さん

2035年までは人手は足りないという予想が出ています。13万人足りないと言われますが、人口減になりますからもっと足りなくなるのではないかと思っています。売り手市場は続くと思います。

その先の将来は? AIを使う側になれるかどうかは自分次第

海老原嗣生

Dybe!編集部女性記者

編集部

これまでの話をまとめると、IT化しつつ順次パソコンで完結する業務が消えて、AI化も進むけれど、この15年でなくなる仕事は約9%ということでしたね。さらにその先、私たちの働き方はどう変わっていくんでしょうか?

海老原嗣生

海老原さん

将来的には、さまざまな分野に対応できる優れた汎用性AIが出てくるといわれています。そして、機械ができない「すき間仕事」を人が続けていくことになると思います。先ほどの流通サービスだけではなく、どの産業でも「すき間仕事」はあるので、仕事がなくなった人はそこに吸収されるでしょう。ただ、労働環境はホワイトで給料もいいと思いますよ。

将来はAIによって給与は上がり、早く帰れる。すると、余暇をどうする?というのがひとつのテーマになる。余暇の産業ができて、学校でも余暇の過ごし方という科目ができるのではないでしょうか。

Dybe!編集部女性記者

編集部

ワークライフバランスも、というのは理想ですが…。

海老原嗣生

海老原さん

そのかわり出世は望めませんよ。世界中を見ても、出世とワークライフバランスが両立する国はないんですよね。欧州はバカンスをしているイメージがありますが、ほとんどの人は最初から出世しないことが決まっています。一部の人が鬼のように働き、日本の5倍10倍の給料をもらっているんです。新卒横並びでキャリアスタートするなんて、日本くらいですよ。

Dybe!編集部女性記者

編集部

そうなんですか…。割り切ってAIに使われながら「すき間仕事」をして余暇を楽しむか、AIを使う側になって稼ぐかに二極化しそうですね。

海老原嗣生

海老原さん

最初に言ったように日本人は労働ホラーが大好きですが(笑)、物理的業務はだいぶホワイト化されますし、むしろ社会はよくなっていくんですよ。「すき間労働」がやりがいのない仕事だとはかぎらないし、それはそれでいいと思うんですよ。

AIによって仕事の内容は変わるけど、仕事自体がなくなるわけじゃないし、あとは自分次第ですよ。逃げずに創意工夫してやっていく人材は、どんな仕事でもできますし、AIやメカが発達しても必ず残っていくと思います。覚悟を決めて目の前の仕事に取り組む気持ちは、今でも将来でも変わらず通用すると思います。

海老原嗣生(えびはら・つぐお)

えびはら・つぐお。雇用ジャーナリスト。経済産業研究所コア研究員、人材・経営誌『HRmics編集長』、株式会社ニッチモ代表取締役。株式会社リクルートエージェントソーシャルエグゼクティブ、株式会社リクルートワークス研究所特別編集委員。最近の著書に『「AIで仕事がなくなる」論のウソ この先15年の現実的な雇用シフト』(イースト・プレス)がある。

Facebook:海老原嗣生

<取材・文/有馬美穂 撮影/ケニア・ドイ>