成功している同級生がまぶしい。Facebookでの、みんなの近況報告に嫉妬してしまう。「なんで自分だけうまくいかないんだろう?」「自分のほうが努力しているのに」。そんなネガティブな思考に陥ってしまうこと、あると思います。

本当は卑屈な自分を受け入れ、ありあまる負のエネルギーを前向きな方向につなげたい。でも、立ち直り方がわからない。そんな時におすすめしたい本があります。『ただのオタクで売れてない芸人で借金300万円あったボクが、年収800万円になった件について。』(小学館)です。

著者は、お笑いコンビ天津の向清太朗さん。向さんは「吟じます」のエロ詩吟でおなじみの、木村さんの相方です。「大ブレイクした相方を横目に、嫉妬で闇落ちしてしまった」と話す向さんですが、現在は漫才など芸人の仕事のほか、”副業”のライトノベル原作やイベントプロデューサーとしても大活躍。漫才にこだわらず好きなことをやろうと思考を切り替えた瞬間に、年収が上がっていったのだとか。

仕事がなく、借金まみれのドン底にいた向さんが、稼げるようになったのは、好きなことややりたいことを、遠慮せずにどんどん口にするようになったから。自分の強みを知り、仕事につなげるためのヒントを伺いました。

闇落ちを経験したことで見えてきたもの

向清太朗
向清太朗(むかい・せいたろう)。1999年に木村卓寛とお笑いコンビ「天津」を結成、ボケを担当。エロ詩吟の相方。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。

──共に頑張ってきた相方が、一人だけボーンと売れっ子になってしまったんですよね。向さん、精神的にだいぶしんどかったのでは。

向清太朗さん(以下、向):当時は「俺のお笑いは間違ってないのに!」「なんでアイツだけが売れるんだ!」と、嫉妬まみれでした。木村くんが売れまくっているのに、僕は仕事がなくて13連休……完全に闇落ちでした。

──そんな向さんを受け止めて支えてくれたのは、吉本の先輩芸人さんたちだったそうですね。

:自分より売れている先輩たちが、僕の存在を肯定してくれたのはありがたかったです。ブラックマヨネーズの吉田さんは、何も言わずに食事に誘ってくれました。ちょうど相方の小杉さんが「ヒーハー!」で大ブレイクしていた頃だったので、僕の気持ちをわかってくれたんです。

──経験者ならではの優しさですね。

:華丸大吉の大吉さんも、「愚痴があるなら聞くよ」と、黙って聞いてくれました。最後に「僕は華丸に愚痴なんてまったくないけどね」と、バッサリ言われちゃったんですけど(笑)。

ロザン菅さんからは、「天津というコンビを、会社として考えてみようよ」と言われましたね。「会社全体の業績が上がっているのに、自分だけが拗ねてどうするんだ」と言われました。そして麒麟の川島さんには「絶対にお前が活躍できるターンがくるから、それまで芸を磨いておけよ」と。素敵な先輩の言葉で救われました。

──闇落ちの経験が、今に活きていることは?

:闇落ちしている人に対して、優しくなれることですね。売れていない後輩に対しても、説教じゃなくて、具体的な解決策を言えるようになりました。やっぱり、実力があって、ずーっと負けなしで売れている芸人って、できない人ができない理由がわからないんですよ。

──強者のアドバイスって、あんまり参考にならないですよね。

:闇落ちした経験があれば「そうなるよな」って思えますから。でも、今の若い子に接するのって、とっても難しいんですよね。

──急に管理職サラリーマンっぽい言葉がでてきましたね。

:ネタを書かず、バイト漬けでライブも出ない、売れないまま芸歴10年……みたいな後輩もいます。それでも彼らは「マネージャーが何もやってくれない」って言うんですよ。「お前が何もやってないんだよ!」って、説教したくなっちゃうんですけど、それじゃ彼らに伝わらない。彼らは、それがわからないから10年も売れてないんですよ。

──腐っている後輩をフックアップするために、どんなことをしていますか?

:僕がプロデュースしているイベントに誘って、「一緒に舞台やろうよ」って、活躍の場を提供してます。

──後輩の世話焼きまで……! 

:僕も先輩のイベントに呼んでもらって、「俺、ウケた!」って思ったこともあったんです。でも、あれは先輩の優しさあってこそ。昔、ブラックマヨネーズの吉田さんに言われたんです。「お前が舞台上で40点のボケをしても、先輩が面白く拾えば、90点にできる」と。

──心強いですね。

:でも、そのボケを「なんやそれ。おもろないわ」と、0点にすることもできるんだぞ、って。「だから、俺にもっと好かれておけ」って(笑)。若い頃に、ちゃんと教えてくれた先輩がいたからよかったですね。お笑いは、結局人と人ですから。

芸人という核があるから他の仕事がうまくいく

向清太朗
闇落ちしていた頃のエピソードを、一言ひとこと噛みしめるように語ってくれた向さん。

──今でこそさまざまな肩書きを持つ向さんですが、もともと「芸人はお笑いに専念すべき」という思考だったんですよね?

:僕は、お笑いだけに向き合って、思い詰めちゃったから闇落ちしたんですよ。昔は「漫才がしっかりできる芸人」がかっこいいと信じていたんです。「爆笑レッドカーペット」に相方が出演して、短いネタだけでドーンと売れたのは、気に食わなかったんです。

──やっぱり。

:でも、品川庄司の品川さんに、「休みがあるのも悪くないよ。何でもできるんだから、本当にやりたいことをやりなよ」と言ってもらえて。仕事がない時期には小説を書いたり、アニメとお笑いのイベント「アニワラ」の企画書を作っていました。副業といっても、どこからどこまで芸人の仕事なのかなんて考えなくていいと思うんです。「人を楽しませる」マインドは完全に芸人ですから、そのためのツールは何でもいいと思っています。

──信念はブレていないんですね。

:ラジオDJ、アニメ関連の出演、構成作家、執筆、イベント主催など、いろいろやっています。でも、それだけで仕事になっているわけじゃない。僕が芸人じゃなかったら、ライトノベルだって出版できなかったはず。あくまで、ベースは芸人。そこに強みがあると思っています。

──領域をちょっとズラしただけで変わるんですね。そもそもお笑い以外の仕事を始めた最初のきっかけはなんだったんですか?

:「4コマ漫画への愛を語ってほしい」と、先輩のトークライブに呼ばれたことです。即OKしたけど「僕の知識は舞台で発表できるほどのものなのかな?」と不安でした。月に21冊の4コマ漫画専門雑誌を買っていたけど、自分にとってはあたりまえのことだから、それが売りになるなんて思ってもいなかったんです。でも、そこでのトークがウケて。「4コマ漫画芸人」としてTV番組からもオファーがきたんです。

──自分にとっての「あたりまえ」が、とんでもない武器になったんですね。

:そこから「芸人の僕だからできることって何だろう?」と広い枠で考えるようになりました。

みんながやらないことを、あえてやってみよう

向清太朗
向さんと名刺交換。芸人さんから名刺をもらったのは初めて。「何それ」と批判されたこともあったそう。

──向さんは、個人のサイトを立ち上げたり、名刺を作ったりと、個人で営業もされていますね。

:芸人やタレントは名刺を持たないので、驚かれます。吉本にはアニメのイメージがないし、僕に仕事を依頼したくても、どこに連絡していいかわからない方もいます。取りこぼしている仕事があるはずなので、自分からアピールするようにしています。ライトノベルも、自分で出版社に企画を出したのがきっかけです。

──みんながやらないことをはじめて、周囲からの反応は?

:他の芸人から「媚びてる」と、悪口を言われることもありました。アニメの仕事をはじめたときも、「気持ち悪い」「ネタもやらんと、何が芸人や」と言われましたね。

──心は折れなかった?

:大丈夫でした。みんな、自分と違うことをしている人を否定したかっただけなんだと思います。闇落ちしていた時に助けてくれた仲良い人たちは、「そんなのやめろ」なんて、絶対に言わなかった。「ええやん! じゃあどうして仕事とっていく?」って、建設的な話をしてくれました。

「にわか」と言われても「好き」と口にしたほうがいい

向清太朗
カメラを向けると色々なポーズを次々に取ってくれる。向さんの「人を楽しませよう」という気持ちがすごい。

──お笑い以外の活動を始めてみて感じたことは?

:副業、いいですよ! 業界によって、求められることやハードルの高さがまったく違う。戦う場所を変えるだけで評価は変わります。僕は、芸人としてはまだまだ売れていない。けど、アニメの世界に行ったらボケ放題! 芸人同士の舞台より、笑い取るぞ! のガツガツ感がありませんからね。

──向さんの仕事が増えたきっかけのひとつは、SNSでの発信ですよね。

:SNSでも、現場でも積極的にアニメ好きをアピールしましたね。みんな「好き」とか「得意」とか、どんどん口にするべきです! 僕もアニメファンから「にわか」って叩かれることもあります。でも、なにがなんでも発信するべきなんですよ。

──知識量やファン歴は、関係ないですか? 「さらに上のオタク」に引け目を感じてしまうことって、ありませんか。

:今、アニメが好きなら「アニメが好きです!」でいいんです。他人の目を気にしないでほしいですね。やっぱり、叩かれるのは怖いです。でも、ビクビクしたってお金にはならないですから。僕も散々SNSで叩かれてきたけど、死んでないし(笑)。

未経験の仕事でも「できます」と即答すべき

──向さんが、新しい仕事に挑戦するときに心がけていることは?

:仕事の依頼を受けた時に、「できない」とは絶対に言わないようにしています。やったことないことも「できます」って言い切ることが大事です。その上でもちろん、結果は出す。努力でカバーできる挑戦なら、絶対にやるべきです。できることだけやっていると、その範囲でしか仕事がこなくなりますから。

──なるほど。成長をとめないためにも、ビビらずやってみることが大事なんですね。

:あとは、きちんと叱ってくれる人には、定期的に会うようにしています。僕は小さなコミュニティでは「成功したね」と言われることもあるけど、まだまだですから。

──真面目ですね!

:芸歴が長くなるほど、わがままで頑固な人が増えるんです。誰も何も言ってくれないし、注意してくれないから。しかも、本人に自覚がなかったりする。だから、僕は変な方向にいかないように、ちゃんと叱ってもらう機会を作っています。

スケジュール帳と向き合い、仕事の量と質を数値化する

向清太朗
「僕もニワカと叩かれたけど死んでないですから」と笑う。誰もが叩かれる時代だからこそ「好き」と口にすることに価値がある。

──自分を高めるためには、仕事の振り返りも必要ですよね。向さんはどうしてますか? 

:過去のスケジュール帳を全部とっておいて、毎年、仕事の量と質・年収を比較しています。

フットボールアワーの後藤さんに言われたんです。「ひとつひとつの仕事について、お前だからきたオファーなのか、他のヤツでもできる仕事なのか考えろ」って。ジャンル別に仕事を分類して、それぞれの伸び率をカウントしていますね。去年は、アニメ関連の仕事が252本ありました。そうしているうちに、仕事の精度も上がっていきます。

──ストイック!

:「この仕事はなくなるかもしれない」という危機感は常に持っています。芸人って、山ほどいるんです。「なんで天津を使っているのか」なんて、本当は誰にもわからないんですよ。もしかしたら、誰でもいいのかもしれない。だからこそ「次もこの枠を取るぞ! 頑張ろう」と、思えるんです。

向清太朗(むかい・せいたろう)

1980年生まれ。広島県福山市出身。NSC大阪21期生。1999年に木村卓寛とお笑いコンビ「天津」を結成、ボケを担当。エロ詩吟の相方。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。著書に『ただのオタクで売れてない芸人で借金300万円あったボクが、年収800万円になった件について。』、『クズと天使の二周目生活』シリーズ(いずれも小学館)などがある。

Twitter:@tenshinmukai

<取材・文/小沢あや(@hibicoto) 撮影/鈴木勝>