「何歳になっても、大好きなロリータファッションを続けます」

堂々と、でも、ごくごく自然体でこう話すのは、ロリータモデルの青木美沙子さん。外務省から「カワイイ大使」に任命され、毎週のように世界中を飛び回る彼女は、現役の看護師でもあります。

モデルとしての地位が確立した今も、二足のわらじを履き続けるのには、どんな理由があるのでしょうか。また、彼女がロリータファッションを貫く原動力はどこにあるのでしょうか。お話を伺いました。

なんとなく始まった、モデルと看護師の複業生活

青木美沙子
青木美沙子(あおき・みさこ)。ロリータモデル・看護師。外務省よりカワイイ大使に任命され、25カ国50都市を歴訪。ロリータファッションの第一人者として活動中。

──ロリータモデルと看護師、ずいぶんとギャップが大きい職業ですよね。スイッチは、どう切り替えているんですか?

青木美沙子さん(以下、青木):ファッションです。白衣を着たら看護師、ロリータ服を着たらロリータ。単純ですね。もう看護師として15年仕事をしているので、慣れました。

──ファッションで気持ちが切り替わるってありますね。

青木:私にとって、ロリータはお仕事であり、趣味でもあります。看護師も好きだからこそ続けられていますが、患者さんの命に関わる仕事です。病院で勤務していた時はストレスフルな日々を乗り切るために、休日はお姫様として過ごしていました。

──2つの仕事を長年続けるのは、かなりのパワーが必要なのでは。

青木:もともと、モデルとしての活動は趣味レベルだったんです。モデルで食べていけるとも思っていなかったし、看護師になったら、やめようと考えたこともありました。でも、結局ズルズル続いちゃって(笑)。

──ズルズル?

青木:看護師って夜勤があって昼間に休める日も多いから、「これ、モデルの仕事も並行してできるんじゃないかな」って考えるようになったんです。ありがたいことに需要もあって続けることができました。

──ロリータモデルの仕事が軌道にのった今も、看護師をやっているのはなぜでしょうか?

青木:モデルのお仕事は不安定ですから、それがストレスや不安になることもありました。その点、看護師は一生続けられるし、国家資格を持ったプロとして誇りの持てる仕事です。だからこそ、看護師の自分は大切な時間。ロリータの自分と看護師の自分がいることで、メンタル的にもバランスが取れているんだと思います。

──とても堅実ですし、精神面でもプラスになっているんですね。

青木:なんとなくで始まった複業生活ですが、今は意識して二足のわらじを続けていますね。ただ、ロリータファッションは、外見から偏見を持たれることがたくさんあるんです。今まで、何度も悔しい思いをしてきました。

ロリータの価値を高めるため、看護師の肩書きが武器になる

青木美沙子
白衣を着たら看護師、ロリータ服を着たらロリータ。ファッションでスイッチを切り替えている。

──ロリータファッションへの偏見と戦うために、どんなことをしていますか?

青木:今は、看護師であることを前面に出すようになりました。「ちゃんとした仕事をしています」というアピールですね。

──確かに、看護師=しっかりしている強い女性のイメージがあります。

青木:ロリータを着ているだけで、「あ、ロリータの人ね」と私自身を見てもらえなかったり、変わった人扱いされたりすることがあるんです。「マカロンしか食べないの?」なんて言われることもありました。だから「看護師だけどロリータもやってます」とアピールすることで、ロリータの価値を高めたいんですよ。

──「肩書きより中身」という風潮もありますけど、そこはしっかり活用してるんですね。

青木:肩書き、超大事です! それは、読モ時代からなんとなく感じていましたね。ストリートスナップを見てみると、文化服装とかバンタン研究所とか、ファッション専門学校の子が多かったんです。そこに「看護学生」がいると、それだけで目立つんです。当時は狙ってやっていたわけではないんですが。

──ブランディングですね。看護師であることは、ロリータとしての青木さんのフックになっている。けど、その逆は大変なのでは? 病院勤務だと、身だしなみとか、とっても厳しそうです。

青木:髪型や服装についてはたくさん怒られてきました。「ここまで外見で判断されてしまうのか……」と落胆することもあります。厳しい職場にいた時には、黒髪のウィッグをかぶって働いていました(笑)。でも、技術面では注意されることが少ないほうだったんです。それは大きな自信につながりましたね。

年齢でファッションをあきらめるなんてもったいない

青木美沙子
病院で髪型や服装を注意されてもコンサバな服は持たなかったという青木さん。

──病院ではたくさん怒られたということですが「無難な服を着ておこう」という思考にはならなかったですか?

青木:私、コンサバな服を持ってないんです。ずっとロリータ! 病院は制服があるし、それでいいと思うんです。周囲の目を気にしたり、年齢でファッションをあきらめたくないんですよ。私は35歳ですが、急にロリータをやめたら、きっと「年齢を気にしてやめたな」「逃げたな」って言われちゃう。SNSで「ババア」って書かれることもあるけど、一生ロリータを着続けます。モデルも、需要があるうちは続けるつもりでいます。

──生涯現役ロリータ宣言! 世界中のロリータたちにとって希望になりますね。

青木:日本人って、集団からはみださないことに美学を持っていますよね。女性の年齢に対する偏見も強いし。「ロリータファッションは何歳まで許されるか」なんてことがよく言われますが、この考えって日本人特有のような気がします。

──確かに。

青木:人と少し違っているだけでびっくりされたり、レッテルを貼られたり……。でも、ロリータファッションは日本発祥。世界中で受け入れられていて、外務省もPRしているカルチャーです。悪口を言っている人はきっと日本の文化だって知らないんでしょうね。

──好きな服を着ているだけなのに「そのファッションは痛い」って言われたらつらいです。

青木:別に誰かに迷惑をかけるわけではないから、自分が好きなファッションで好きな髪型をすればいいと思います。年齢なんて数字でしかないから、ファッションにも髪型にも年齢制限なんてないと思っています。自由に自分で選択して、自分の責任で楽しめばいいんですよ。

──ものすごく心強い言葉です。

青木:私は、“アラフォーロリータナース女子”ですが、みんな、何歳になってもロリータを着ていいと思います。いろんな考え方があるからバッシングされることもあるけれど、一度きりの人生を周りの目を気にして生きていても楽しくないですよね。

──青木さんの読者モデル時代をリアルタイムで見ていたんですが、もともとはカジュアルなファッションでしたよね? ロリータファッションに出会ったきっかけは?

青木:学生時代はお金がなかったので、ちょっとガーリーな古着を好んで着ていました。デニムも普通に履いていましたよ。雑誌でロリータブランドの広告モデルをやることになった時に、初めて袖を通しました。その広告で「ロリータファッションの美沙子ちゃん」と認知が広がったんです。

──もともとロリータを目指していたわけじゃなくて、偶然だったんですね。

青木:撮影現場で一緒になる子たちって、みんな可愛くて細いでしょう? 私は自分に自信がなかったから、そこに並ぶことで、コンプレックスを感じてしまうこともあったんです。でも、ロリータファッションは体のラインも出ないから、気にせず笑顔でいられる。その時から、私にとっての戦闘服になりました。

──ファッションを堂々と楽しむ自信がない人は、どうしたらいいでしょうか。

青木:いきなり「人と比べない」とか「他人を気にしない」っていうのも難しいから、まずはスマホを置いて、外に出てみるといいんじゃないかな。家でSNSを眺めていると、他の人が輝いているように見えて、しんどくなっちゃいますから。好きな服でも自信がなければ、土日だけ着たらいいと思うんです。

ロリータは恋愛するのも大変なんです

青木美沙子
ロリータだとスルーされ、看護師だとたくさんの「いいね!」が。男性のみなさん、どちらも青木さんですよ?

──青木さんは、病院に勤務されていた時もロリータであることを隠していなかったんですよね?

青木:「ロリータです」「モデルのお仕事をしています」と正直に話した上で働いていました。複業が微妙な職場もありましたが、周りはみんな知っていましたね。ロリータであることを隠したのは、出会い系アプリのプロフィールくらいです(笑)。ロリータだとスルーされるのに、看護師にするとたくさん「いいね!」がくるんですよ。どっちも私なのに! 

──出会い系アプリを使ったのは、市場調査ではなくガチ婚活ですか?

青木:結婚願望があるので、婚活パーティーや相席居酒屋とか、いっぱい行きましたね。ロリータは恋愛するのも大変なんです。

──ロリータファッションを理解してくれた男性はいました?

青木:それが、一人もいなかったんです! 待ち合わせ場所で逃げられたり、カフェでお茶するはずが「ちょっとこっちに来て」と人気のない公園に誘導されたりすることもありました。「私と会うのがそんなに嫌なの? 連れて歩くのが恥ずかしいの?」って思っちゃうし、とても辛かったですね。

──そこまで露骨に……。

青木:ショックですよ。「芯が通ってる」ってよく言われるけど、毎日いろんなことに迷っちゃうし、自信ないですよ。落ち込むこともあります。それでも言えるのは、物事ははっきり決めなくてもいいということ。迷うのは、かっこわるいことではないですから。「30歳までに結婚」「35歳までに出産」というライフプランを立てたって、思い通りにいくことは少ないですよね。

──何でもガチガチに決めなくてもいいですよね。

青木:大きな目標だけ持って、なんとなく前に進めばいい。ただ、好きか嫌いかはちゃんと軸を持ったほうがいいです。そこの判断は、自分でしなきゃいけません。人に相談するのはいいけど、他人の言葉で決めたことって、失敗した時に人のせいにしちゃうから。ロリータだって、人に着せられているものだったら、婚活にもバッシングにも耐えられないです。

絶対的な味方がいるからこそ、自分を貫ける

青木美沙子
「両親がいなかったら、どこかで心が折れていたかもしれません」(青木さん)。身近で支えてくれる人の存在は大きい。

──たくさん辛い思いもしてきた中で、青木さんの背中をそっと押してくれる人は?

青木:支えてくれたのは、両親ですね。ロリータであることを親に反対されるという話もよく聞きますが、うちは賛成派なんです。一番身近な人に理解してもらえるのは、やっぱり嬉しいです。

──素敵です。他人から「青木さんちの美沙子ちゃん、派手ね」とか言われたら、ご両親は何て返してるんでしょうか。

青木:たくさん言われてますね。「うちの子は、そういう仕事(モデル)をしてるので」って返しているみたいです。

──強めの擁護じゃなくて、あっさり。良い温度感ですね。

青木:私に対しても、アドバイスをするわけではないんです。否定をせずに、ずっと側にいてくれるんです。ひとつだけ言われていたのは「看護資格は絶対に取りなさい」ということだけですね。「世の中は甘くはないし、資格は持っていたほうがいい。勉強は数年の辛抱だから」と。

──その一言が、今につながっているんですね。

青木:両親がいなかったら、どこかで心が折れていたかもしれません。本当に感謝していますね。

マインドはロリータカルチャーを発信する活動家

青木美沙子
「マインド的にはロリータファッション文化を世界に広める活動家」(青木さん)。その原点には海外での出会いがあった。

──肩書きが読モからモデルになったのは、プロとしての自信がついたからですか?

青木:2009年に、外務省のカワイイ大使に選ばれてからです。海外には読者モデルという概念がなくて「読モ? 何それ」ってなっちゃうから変えました。

──必要に迫られて、だったんですね。

青木:今でも、「私、モデルです」とは思っていないですね。モデルだったら、外国人の方を起用したほうがビジュアルは強いですから(笑)。マインド的には、ロリータファッション文化を世界に広める活動家だと思っています。

──最近はTVや、ビジネスメディアにも活躍の場を広げていますよね。

青木:自分の世界だけじゃなくて、マスに向けて発信したかったので事務所にも入りました。外に出るとアンチや厳しい意見も飛んでくるけど、もっとたくさんの人に知ってほしいんです。

──ロリータファッションを発信したり偏見と戦うのって、相当な覚悟とパワーが必要です。青木さんの原動力は、どこにあるんでしょうか?

青木:外務省のカワイイ大使に任命されてからの10年間で、25カ国・50都市を巡りました。海外のロリータって、熱量が本当にすごいんです。「こんなに世界的なカルチャーなんだから、ロリータへの悪口を払拭したい!」って思ったんです。

──世界中でたくさんの出会いがあったと思いますが、中でも印象深かったのは?

青木:中東のカタール国で、アバヤ(編注:アラビア半島の国々の伝統的民族衣装)の下に、ロリータ服を着ている子たちと出会ったことですね。イスラムの教えでは女性は肌を見せてはいけないから、外出時には真っ黒なローブを着て布で顔を覆います。そんな制約がある中でロリータを選んでくれて、ファッションを楽しんでいる子がいることにとても感動しました。この出会いが、私の活動の原点なんです。

──誰に見せるわけでもない、自分のためのファッションですね。

青木:ブラジルやメキシコにも、ロリータはいます。日本より賃金が安いから、高価なお洋服を買うのは大変なことです。そういう国の子たちが、「美沙子ちゃんをお茶会のゲストに呼びたい」と、渡航費を集めて声をかけてくれたんです。嬉しいので、ギャラなしで会いに行きましたね。

──すごい熱量ですね。

青木:彼女たちの気持ちを背負って日本に帰ってくると、その差に落胆することもあるんです。ギャルファッションだったら、企業スポンサーもつくし、東京ガールズコレクションにも出られます。でもロリータはそうじゃない。ニッチで、肩身が狭いんです(笑)。でも、コツコツやってると、見てくれる人はいます。どんどん広げていきたいと思います。

──青木さんの今後の野望は?

青木:ロリータカルチャーについての本を出すことです。スタイルブックは出してきたけど、写真メインだったから、自分の言葉でしっかり伝えたいですね。オンラインサロンも取り組みたいです。私からの一方的な発信じゃなくて、いろんな人を巻き込んでインフルエンサーや企業とコラボするとか、新しいことにどんどん挑戦して、ロリータを盛り上げていきたいですね。

青木美沙子(あおき・みさこ)

ロリータファッションモデルをしつつ正看護師としても働く。2009年、外務省よりカワイイ大使に任命され、ロリータファッション代表として25カ国50都市を歴訪。2013年、日本発祥のロリータファッション普及目的に日本ロリータ協会を設立、会長を務める。ロリータファッション第一人者として数々のロリータファッション誌で表紙を飾るほか、自身の書籍も出版している。

Twitter:@aokimisako

Instagram:@misakoaoki

<取材・文/小沢あや(@hibicoto) 撮影/moco.(killi office)>