大胆なリストラのニュースが流れ、就職人気もかつてほどではない銀行。このまま、衰退していくのだろうか?
「どうせなら銀行のトップに話を聞きたい!」と取材を申し込んだら奇跡的にアポが取れた、東京スター銀行の佐藤誠治頭取にお話を聞いてきた。
厳しいセキュリティチェックを経てうかがったのは、一般人はまず入れない頭取室。
緊張しまくる私たちに頭取は銀行の「今」をわかりやすく説明してくれた。

銀行を取り巻く環境はガラリと変わった!

編集部
単刀直入にお聞きします。銀行って儲かっているんですか?

佐藤頭取
いや、それはどうかな。昔のようには儲かっていない、というのが本当のところかもしれない。

編集部
リストラとか支店を減らすとか、ニュースになっていますね。

佐藤頭取
みんな思ってるんでしょうね、銀行ってどうなっちゃうんだろう、って。メガバンクは採用人数が半減。ある銀行は、今後10年で1万5千人を減らして半分近くにしたいらしい。リストラではなくて自然減でそこまでもっていくと聞いています。基本は事務部門の削減ですね。

編集部
窓口で待つお客さんが、昔より少なくなっていると聞きます。

佐藤頭取
そう。支店の窓口に来るお客様はこの10年で半減しています。今は公共料金はコンビニ、預金の出し入れはATMやインターネット。だからどの銀行も、支店を減らしてコストを下げる。

編集部
そういえば、銀行の支店長ってえらい人のイメージでしたが。

佐藤頭取
いや、それは十数年前の話ですよ。今はもう支店長のステイタスはさほど高くない。法人部門はまた別ですが、個人客相手の支店の支店長って儲からないので肩身狭くて…。

編集部
そもそも昔に比べて、どうして儲からなくなったのですか?

佐藤頭取
痛いとこつきますね。でもこれを話さないと銀行のことわかってもらえないから、話します。原因は2つあるんです。

編集部
2つですか。
銀行でお金を借りる人が減った!

佐藤頭取
1つは世の中の資金需要が減ってしまった。簡単に言えば資金を必要とする会社が極端に少なくなったのです。

編集部
借り手がいない、と。

佐藤頭取
経済の拡大期には世の中に商売のタネがいっぱいあって、みんなお金を借りたがった。経済の成長率で見るとはっきりしています。1960年代の高度成長期は15%、いざなみ景気(2002年2月~2008年2月)の6年間は平均2ケタあった。1980年代でも5〜6%。
今は、「6年間も経済は成長している」って政府は言っていますが、成長率、何%か知っていますか?

編集部
えーと(汗)、かなり低いですよね。給料はあまり上がっていないし…。

佐藤頭取
ですよね。この6年間の成長率は1%あるかないかですよ。これで景気がいいって言えます?

編集部
銀行が貸す金額は、どのくらい減っているんですか?

佐藤頭取
預金などで集めたお金の中で、どれほど貸しているかを示すのを預貸比率と言いますが、高度成長期は120%くらい。集めた預金が100あって、120も貸していた。足りない分は市場調達といって銀行間市場や社債発行で賄っていた。
それが今は67%。銀行には預金全体の33%の金が余っているんです。これは金を生まない金。以前は国債を買ったりしていましたが、今は低利もしくはマイナス金利で日本銀行に流れ込んでいます。

編集部
昔は、銀行にお金を借りたい会社がたくさんあったわけですね。だから、銀行の支店長もえらそうだった…。

佐藤頭取
当時の印象としては、確かに銀行はいばっていた。国全体で資金が足りない中でお金を貸してあげる、ある意味、殿様商売。金を集める仕組みを持っていたので、それをどこにどう配分するかが仕事でした。
お金を貸す会社や人を選べたのです。今は借りてくれる方々を探すのが大変で…。
常識ではありえない、マイナス金利

編集部
そして、儲からないもう1つの理由は?

佐藤頭取
簡単なことですよ。金利が低いというより低すぎる。金利が低ければ、特に預金との利ザヤが取れない。以前は10年国債で2%ほどの金利がついて普通だった。今は0.1%ですよ。全銀行で200兆円余っている資金に利ザヤがつかずに放置している状態。国債にもし0.5%の金利がついたら国債を買えば少しは儲かるかな、というくらいの淡い期待しかないんです。

編集部
なるほど。金利水準の問題なんですね。

佐藤頭取
マイナス金利に至っては、もう理解しにくい。お金預けてその手数料払う、ってことですから。 常識では理解できないことが起きているんです。

編集部
マイナス金利って、つまり、預けたら利息がつかないどころか、元のお金が減っていくということですよね?

佐藤頭取
そう。でもこれは、一般の人が金融機関に預けた時の話ではなく、金融機関が日銀に預けた時の話です。金融機関が日銀に預けるのをやめて企業に融資するように期待して、そういう政策がおこなわれたんですよ。
世界が一つになれば、先進国はデフレになるに決まっている

編集部
日銀といえば、デフレを止めるために金利を下げ、市中にお金をジャブジャブ流しましたよね。なぜ、それだとデフレが止まるんでしょう?

佐藤頭取
お金がたくさん市中に流れると、お金を使いやすくなるだろうと考えてのことです。すると当然、買いたい人が増えて、物の数が限定されていれば物価が上がる。「お札を刷ればインフレになる」。学校でそう習いましたよね。

編集部
習ったかもしれないですが、すでに記憶が(汗)。

佐藤頭取
お金をたくさん借りてくれる環境を作れば、インフレになるといわれていました。繰り返しになりますが、借りたお金を使ってくれればモノが売れ、消費が活発になり、生産も増えますから。お金を借りやすい環境を作るのにいちばん手っ取り早いのは、金利を下げることです。今までは金利を下げれば、会社も個人も金を借りてくれました。
でも、ここ10年以上、その効果が見られないんです。

編集部
いままでの常識が通用しなくなっているんですね。

佐藤頭取
デフレ退治が金融政策でできるんでしょうかねえ。本当かな? と思いますよ。デフレの本質はグローバリゼーションにあってですね…。

編集部
グローバリゼーション? 日本だけじゃなくて、世界規模でってことですか。

佐藤頭取
世界中、電化製品などの耐久消費財はみんなデフレなんですよ。
ちょっと考えればわかることです。製造業はどこも海外で作る。人件費が安いから生産コストが下がる。技術は先進国から持って行き、私は長くタイにいましたが従業員は優秀で労賃は日本の10分の1。良くて安い物が作れ、それが日本に入ってくる。
グローバリゼーションが進めば、海外製品の安い製造コストを反映して、物価が下がってデフレになりますよね。古典的な経済学では、物の数が一定で、買う人が増えればインフレになると教わった。でも今は、モノは海外から無限に入ってくる。従って、特に耐久消費財や衣料品などについてはインフレになるわけがないのです。また、インフレになると、人々はモノを買うためにお金を借りるようになりますが、今はそのような状況ではなく、購買意欲が低く、お金も借りないという傾向ですね。

編集部
なぜ、インフレの時、お金を借りてモノを買うのでしょうか?

佐藤頭取
たとえば、不動産の例で考えてみましょう。不動産が上がると予測すれば、お金を借りてでも買おうという人がいますよね。一方、下がると思えば、お金を借りてまで買おうとは思わない。インフレも同じですよ。物価が上がると思えば、今のうちにお金を借りてでも設備投資をしておこうという会社も出てきますね。逆にデフレなら、今の設備でやり繰りしようとする。ますます需要が減っていく。これがデフレスパイラルです。

編集部
なるほど。よくわかりました。グローバリゼーションが進むと、安い商品が海外から入ってきて、デフレが進むということですね。銀行にとっては、悪い環境が続きそうですよね。では、銀行はどうするんですか?

佐藤頭取
私は常々、「銀行は経済のサポーターだ」と言っているんです。サポートすべき人が変わったのなら、サポーターも変わらなくてはいけません。サポーターとしての銀行が変われるかどうかが大事です。
銀行の新たな儲けのタネは?

編集部
銀行に、具体的な対策はあるんでしょうか?

佐藤頭取
どの銀行もいろいろ手を打ってはいるとは思います。一例をあげましょう。
東京スター銀行が全力で取り組んでいることですが…。
年金不安ってありますよね。年金は大丈夫なのかという大問題。これから20年間で生産年齢人口が1350万人減、約2割減る。公的年金を支えている人は、今は一人の受給者に対して2.3人。これが2050年には1.3人に減るのです。要するに騎馬戦が肩車になるんですね。普通に考えて2.3人だったら年金も大丈夫かもしれないけど、1.3人になったらもう無理だろうと。

編集部
年金、これから支給額が減っていくんでしょうね。

佐藤頭取
2050年に私は90歳だから、切実な気持ちは薄いのですが、今年の新入社員はそのときまだ55歳なんですよ。65歳支給の今の形が続いていたとしても、もらうまでにあと10年も時間がある。

編集部
元々不安だったのですが、さらに不安になってきました。

佐藤頭取
若い人は、見通しが立ちにくいんですよ、自分の老後が。市場は縮小するし、働き口はロボットやAIに取って替わられそうだし。将来の備えとし、着実な資産形成は大事です。

編集部
資産形成ですか。ちなみに、銀行には手数料が入るんですか?

佐藤頭取
はい、個人の資産形成や資産運用のお手伝いをして、手数料をいただきます。
人生100年時代と言われていますよね。プロとして、その見通しをつけるお手伝いをしましょう、ということです。

編集部
できるんですか、そんなこと?

佐藤頭取
日本の個人金融資産は1850兆円もあるのですが、そのうち投資信託に回っているのがどのくらいかわかりますか?

編集部
すみません、やっていないのでわかりません(汗)。

佐藤頭取
たった3.8%なんです。定期預金だと毎月積み立てても10年たってもほとんど増えません。私たちは着実な積み立て投資などの知恵を提供して65歳で4000万円作りませんか、とお勧めしています。金融資産で2500万円、自宅資産で1500万円、合わせて4000万円。公的年金が出るという前提で考えれば、これなら90歳、100歳まではなんとかもちます。年の利回り4%の資産形成手段は実際にいろいろとあるんです。

編集部
そ、それはいつから始めれば?

佐藤頭取
なるべく早いに越したことはないですが、20年は欲しいので遅くても45歳くらいから始めてもらいたいです。
お手伝いを私たちはしたいのです。

編集部
銀行もいろいろ考えているんですね。
変わる銀行。ここ数年が正念場

編集部
ところで、銀行員というとハードワークのイメージがどうしてもあって。やはり今も?

佐藤頭取
それはどうでしょうね。仕事が面白ければ、夢中になってやるのが普通じゃないですか。仕事は時間の切り売りと考えないほうが良いと思います。

編集部
でも、働きすぎは嫌なんですが…。

佐藤頭取
実は、私も嫌な時はありましたよ。

編集部
えっ! 頭取にもそんな時代が? 仕事大好き人間に見えますが…。

佐藤頭取
私は7年商社にいて途中で銀行に入りましたが、最初の半年間は「ここは人材の墓場だ」って思っていましたよ。優秀な人をなんで潰しちゃうんだ、って。

編集部
それはどうしてですか?

佐藤頭取
単純作業が多いんです。ドブ板踏んでも預金を集めてこい、という時代でしたから。そのうちモノを考えなくなっちゃうし、マニュアルでしか動けなくなる。作業を単純化したほうが昔は儲かりましたからね。つまらない仕事が多かったですね。もちろん今はそんな時代じゃないですよ。

編集部
銀行員の仕事がAIに取って替わられるという話もありますが。

佐藤頭取
銀行の重要な仕事は信用分析、与信分析です。つまり貸したお金が返ってくるかの見極め、目利きです。これってAIでは限界があると思います。 個人金融のある部分はできるかもしれませんが、儲けの柱の法人金融がすべてAI化できるかというと、難しいでしょうね。会社は、最終的には何で決まると思います?

編集部
売上? 将来性? ビジネスモデル?

佐藤頭取
それもありますが、最終的には社長(その会社のトップ)なんです。AIは社長の力量や人間力を見抜けないでしょ。

編集部
経営には、人間としての力が重要、ということですね。どうしても金融ってクールで堅い印象しかなかったのですが、それだけじゃなくて、変わってきているんですね。面白い仕事かも。

佐藤頭取
まだまだ日本に銀行は多すぎますから、淘汰はされていくでしょう。ここ数年が正念場です。でも、人口が減って、働き手が少なくなっても、銀行の果たす役割はかえって大きくなると考えているんです。儲けの場所は変わるかもしれませんけれど。銀行、大丈夫ですよ。任せてください。
佐藤誠治(さとう・せいじ)
1958年、香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、商社の東京貿易に入社。三井銀行に移り、バンコク支店長や、大和証券SMBCでの企業の合併・買収の担当、また、三井住友銀行常務執行役員として大企業取引などに携わった。
退任後、三井倉庫に勤務の後、2017年から東京スター銀行代表執行役頭取として陣頭指揮を執っている。
取材・文/竜野つとむ
撮影/ケニア・ドイ