18禁のマークが光るそのビルに、勇気を出して入ってみる。階段を2階まで昇ると、おもむろに訊かれる。「人間ですか?」――。

ひと昔前は、ちょっと危険な街だと思われていた新宿歌舞伎町。ここにロボットのショーが見れるとして、外国人観光客が殺到する「ロボットレストラン」がある。そして、その向かいに、ロボットではなく「人間」をウリにするレストランがオープンした。その名も「人間レストラン」。店のホームページによれば、コンセプトは「ロボットが多数派となった近未来における人間のたまり場」だという…。

とても気になるので、行ってみることにした。

店に着くまでが一つの冒険

人間レストランがあるのは、新宿・歌舞伎町。外国人観光客で賑わうあのロボットレストランの向かいにある。いざその住所に行ってみると、ビルには「18禁」のマークが。あれ??

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

でも入り口の脇にひっそりと店の看板があった。ここで間違いないようだ。それにしてもこのロケーション、中に入るにはけっこうな勇気が必要…。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

ともかく階段を昇る。この階段が恐ろしく急で、狭い。そしてやっとのことで2階にたどり着いたとき、冒頭の言葉をかけられることになる。「人間ですか?」

実はこれ、18禁の店(風俗店)のスタッフからかけられる言葉だ。要は、「うちの店のお客さんですか、それとも人間レストランのお客さんですか」と尋ねているのだ。ここは「人間です」と答えて、先へ進もう(笑)。

3階に着くと、この案内がある。店はさらに上にあるようだ。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

4階へ上がると、ようやく店の入り口に着く。いざ、入店。そこには、案外と広々した空間が広がっていた。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

カオスなロケーションに比べると、中はかなりまともで、むしろおしゃれで洗練された雰囲気だ。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

カウンター席だけでなく、ボックスシートや畳の小上がり席まである。ゆったりとくつろげそうなお店だ。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

オーナーの手塚マキさんが出迎えてくれた。手塚さんは10代のときから歌舞伎町のホストクラブで働きはじめ、No.1ホストとして活躍した後、26歳で独立起業。今や歌舞伎町でホストクラブやバーなど計15店舗を運営し・アルバイトを含め約300名の従業員を抱える。ちなみに手塚さんの奥さまは、日本を代表するアート集団・Chim↑Pomのエリイさんだ。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

そんな手塚さんが新たにこの人間レストランを立ち上げたのは、2018年7月のこと。開店の経緯を聞いたところ、意外な事実が明らかになった。

新宿ではロボット支配が進んでいる!?

手塚さん「実はこのビル、ロボットレストランの会社の持ち物で、この部屋ももともとはロボットレストランの従業員の寮だったんです」

なぜロボットレストランの寮だったところに、人間レストランを作ることに!?

手塚さん「そもそもの始まりは、僕が同じく歌舞伎町で手がける『歌舞伎町ブックセンター』(※) が立ち退きにあったことでした。この店が入っていたビルがロボットレストランの会社に買収され取り壊されることになり、うちの店も出ていかなくてはいけなくなったんです。で、ロボットレストランが『かわいそうだから』と代わりに貸し出してくれたのが、この部屋でした。だから我々は、ロボットの傘下みたいなものなんです。ロボットに支配されて生きています」

(※)LOVEをテーマに掲げる書店&バー。2018年10月いっぱいでいったん閉店。2019年初頭に歌舞伎町内に移転オープン予定。

ロボットに支配されているというのは冗談にしても、実際に歌舞伎町ではいま、ロボットレストラングループの勢力がこうしてどんどん拡大しているという。もしかするとそれは、AIやロボットの台頭で肩身がどんどん狭くなっていく人間の行く末をも暗示しているのかもしれない。

そんな人類の近未来を象徴する場所がある。この店のバルコニー席だ。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

すぐ目の前には、まるでロボットたちが勢力を誇示するかのように、ド派手なネオンが輝いている。それが手元のお酒や料理を悲しく染め上げる。通りを見下ろせば、ロボットレストランに翻弄される人間たちが右往左往している。近い将来、こんなふうにロボットから隅に追いやられてコソコソ酒をあおる日が本当にやってくるのかもしれない…。

そんなしがない妄想を、手塚さんは一蹴してくれた(笑)

手塚さんロボットやAIが台頭する未来を、悲観することはまったくないと思います。だって今まで人間がやっていた多くの作業を、ロボットがやってくれるようになるだけですよね。その分、人間はこうして人と飲んだり話したり、想像したり哲学したりといった人間らしい活動に、より多くの時間を割けるようになるわけです。だからシンプルに、ロボットが仕事をしてくれてラッキーと思えばいいんじゃないですかね」

面倒くさい仕事はロボットやAIに任せ、人間は趣味や知的な活動に専念する。実はそんな生活を大昔の人たちが既に実現させていたと手塚さんは話す。

手塚さん「古代ギリシャの時代がそうだったと思うんです。当時、労働は全て奴隷が担っていて、それ以外の市民は、人間とはなんだ、政治とはなんだというのをひたすら語り合っていたと言います。だからあれだけ哲学が発達し、民主主義が生まれた。この先は、その奴隷の役割をAIやロボットが担うのだと僕は考えています。そのおかげで人間は日々、人間ならではのたしなみに没頭できる。それはすごく幸せな毎日だと思います」

言ってみればそれは、人間がより人間らしく生きられる世界なのかもしれない。

人間レストランは「人間」がウリ

そんな人間レストランでは、各種のお酒とともに、おつまみや軽食も楽しめる。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

目玉メニューの一つが、行者にんにくTKG(卵かけご飯)だ。北海道から取り寄せた行者にんにくには醤油がしっかりしみていて、ごはんと卵にめちゃくちゃ合う。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

そして手塚さんは、人間レストランの一番のウリは、その名の通り「人間」だと言う。

手塚さん「うちのグループでは10年ほど前からバーを運営してきましたが、これまで特に看板商品のようなものはありませんでした。ではなぜ続けてこれたかというと、結局は『人』なんです。従業員にはこう言い続けてきました。接客するのではなく、人としてお客さんと関わっていこう。何かを買ってもらうのではなく、この人から買いたいと思われるような人間になろう、と

手塚さんのグループでは、人間レストランを含め6軒のバーを運営していて、バー部の50人ほどのスタッフが交代で各店舗に勤務しているという。だから、「人間レストラン」ができたのも自然ななりゆきだったと話す。

「結局、うちはずっと人間で商売してきました。そしてたまたまロボットレストランの向かいに物件が空いた。それならここは『人間レストラン』だねと、自然な流れで決まりました。やっぱりうちは人間だよねと。だから決して奇をてらっているわけではないんですよ」

実は人間レストランには、「人間メニュー」なるものが存在する。主要スタッフの基本データとともに、得意料理や病歴、逮捕歴、性癖などの項目まであり、まさしく“人間ならでは”な内容となっている。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

また食べ物メニューの中には「人間餃子」というものもある。一から手作りで作っていて、作る人によって餃子の包み方が大きく変わるという、これまた人間らしい一品だ。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

店内には「やっぱり人間が好き」と書かれた書も置いてある。さすがは人間レストラン!

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

店を出たところには、お土産コーナーが設置されている。歌舞伎町にゆかりのある雑多な品々が揃う。よく見てみると、手型入りの色紙は有名力士のものだったりもする。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

ロボットレストランの向かいにひっそりたたずむ、人間レストラン。そこは決して、ロボット社会における人間の悲哀を象徴する場所ではなかった。むしろ、人間の素敵な未来を先取りできる場所だったのだ。ぜひ一度バルコニー席に座り、ロボットレストランのネオンを浴びながら、人間であることの幸せをかみしめてほしい。

歌舞伎町 人間レストラン NNGN

とまあ、そんな小難しいことを考えなくても、歌舞伎町観光を兼ねてフラっと1杯飲みに寄ってもいいし、ボックス席や小上がり席で合コンなんかも意外性があってすごく良さそうだ。ただ、入り口に18禁マークがあるので、合コンはシャレの通じる相手を選びましょう(笑)。

歌舞伎町 人間レストラン「NNGN」

  • 住所:〒160-0021
       東京都新宿区歌舞伎町1-13-11
       甲斐ビル4F
  • TEL:03-6265-9700
  • 営業時間:18:00~5:00
  • 定休日:無休
  • HP歌舞伎町 人間レストラン NNGN

<撮影/津田 聡>