SNSをはじめとして、ビジネスパーソンも自己プロデュースを意識せざるをえない時代です。キャラ立ちしている方々は、どんな風にブランディングしていったんでしょうか。

ヒントをいただくべく、プロレスラーの方にお話を伺いました。現役最高のレスラーを決める「プロレス総選挙」で、棚橋弘至選手や内藤哲也選手といった超人気レスラーに次いで2017年、18年と2年連続6位にランクインした黒潮“イケメン”二郎選手(WRESTLE-1所属)です。

黒潮“イケメン”二郎の入場シーン
リングに上がりそうで上がらないパフォーマンスが大人気((C)WRESTLE-1)

実は、このキャラクターはもともと会社の無茶振りからうまれたそう。突然、「お前、明日からイケメンやって」と命じられた黒潮“イケメン”二郎選手。困惑しながらも、「やるしかない」と自分を殺して(?)イケメン仕草を突き詰めた結果、今の人気につながったそうです。

乗り気じゃない仕事を命じられながらも、頑張れた理由とは? 彼のキャリアについても聞きました。

突然降ってきた「イケメン」の肩書き

黒潮“イケメン”二郎
黒潮“イケメン”二郎(くろしお・いけめん・じろう)。WRESTLE-1所属のプロレスラー。ジャケットに手鏡の“イケメン”スタイルでブレイク。180cm、90kg。

──もともと「イケメン」は会社からの無茶振りでうまれたキャラクターなんですよね。

黒潮“イケメン”二郎(以下、イケメン):ある日突然「お前、明日からイケメンやって」って言われて(笑)。完全なる無茶振りですよ! プロレスも人気商売だから、「女性ファンを獲得するためには、ウチの団体にもイケメンキャラが必要だ」って判断だったみたいで。

──イケメンの称号がいきなり降ってきたんですね。

イケメン:当時、20歳だったんですけど「イケメンなんてできないよ……」って葛藤の中でやってましたね。プロレスには自信あったけど、そもそも自分がイケメンじゃないってことには薄々気づいてましたから(笑)。

──苦しみながらも、リングの上ではイケメンをやりきっていたんですね。

イケメン:やっぱり、プレイヤーとして会社に所属してるわけですから。「ウチにいてもらわないと困る」という存在になるまでは、自分を殺さなきゃいけない時期ってあると思うんですよ。

──プロレスラーにも、そんな会社員っぽいお悩みがあるんですね……。

イケメン:言われたらもう、やるしかない。「自分でもやれるイケメンキャラを作り上げなきゃ」と、アイデアを書き出していきました。ジャケット着て、ことあるごとに「フィニーッシュ!」って叫ぶとか。入場曲も「究極のイケメンって誰だ?」と考えた結果、福山雅治さんの「HELLO」にしたんです。

──その入場パフォーマンスが話題になって、今ではTVで紹介されるまでになりましたね。

イケメン:最初は、ジャケットもオヤジが演歌歌手からもらったステージ衣装みたいなので、小道具の鏡も100均で買ったやつに自分で星のシールつけていました。今思うと、超みっともないんですけど、その貧乏臭さがお客さんにもウケて。気がついたら今があるって感じです。

──ファンも「支えてあげなきゃ!」みたいな気持ちになったんですね。

イケメン:今の新人って、最初からちゃんとしたコスチュームを用意するヤツも多くて。もったいないと思うんですよね。

──もったいない?

イケメン:だって、パンツ一丁でデビューしておけば、ゼロからキャラを作っていけるし、コスチュームを作るだけでレスラーとしての進化を演出できる。その機会を自分で捨ててるわけですから。

──いきなり無理しなくてもいいんですね。たしかに、成長過程を見せられると応援したくなります。

月給2万円! 絶望の毎日だった下積み時代

黒潮“イケメン”二郎
「自分がイケメンじゃないことには薄々気づいてました」と自らのアイデンティティを否定する黒潮“イケメン”二郎。

──イケメンキャラでブレイクする前は、しんどい下積み時代が続いていたんですよね。

イケメン:19歳でデビューしたんですけど、当時の月給は2万円でした。しかも、選手兼スタッフみたいな感じだったから、会場の手配や備品の管理まで全部やってたんですよ。時給にしたら、マジで10円くらいの感覚ですよ! お金も、バイトする時間もない。毎日が絶望の連続でしたね。「プロレスって、こんなに儲からないんだ」って。

──時給10円……! それでも辞めなかったんですね。

イケメン:まずは4年間だけ続けようと思って。「23歳の時点で、大卒初任給くらい稼げないなら、プロレスはやめよう」と決めていました。ダメだったら、蒙古タンメン中本に就職しようと思ってました。昔、バイトしてた時に社員の給料の話を聞いたことがあって。「中本、こんなにお金もらえるんだ!」って(笑)。中本に行くと、よく店に貼ってある求人情報を眺めてましたね。

──その気持ち、なんとなくわかります。会社がしんどい時、転職サイトで求人を検索しまくってました……。「辞めても仕事あるじゃん!」って、希望がわくんですよね。

イケメン:今の会社に移籍して、初めてマトモな給料がもらえるようになったんですよ! 「あれ、こんなにもらえるの? マジで? プロレス頑張ろう!」って思いましたね。

──ホワイト企業に転職した人みたいな感想ですね。

イケメン:あはは(笑)。そうかもしれません。ずっと同じところにいると、そこでの待遇があたり前に感じてしまいますからね。っていうかそもそも、日本の給与形態っておかしいですよね?

──またサラリーマンっぽい発言が。

イケメン:プロレスラーしかやったことないから会社のことはよくわからないけど、年功序列で年取るだけでも給料上がるんですよね? 

──変わってきてはいるけど、大企業はそうみたいですね。

イケメン:年齢に関係なく、結果を出してる人がもらえるようになればいいのにって思いません? プロレスラーだって、もっと給料もらいたいですよ(笑)!

──もしかしてプロレス業界も意外と年功序列な感じ……?

イケメン:上の世代がやってきたことを否定する気はないけど、ストーリーも演出もどんどん変えていかないと時代には追いつけない。若い世代にアイデアを出させて、採用されたら歩合で払う的なことをやればプロレスはもっと盛り上がると思いますよ。

会社や先輩の顔色を見るようになったらおしまい

黒潮“イケメン”二郎
「時給にしたら10円くらい」と絶望の下積み時代を語る。でも、まったく辛そうに聞こえないのはなぜ??

──「これをやったら上の人ににらまれるんじゃないか」なんて思ったことはありますか?

イケメン:ないですね。相手が誰であろうと、気を使うとか、これはやめておこうと思うことは一切ないです。長州力さんと試合した時も、まったく遠慮しませんでした。

──今は自分をセーブしないように意識してるんですね?

イケメン:お客さんを喜ばせることが仕事だから、会社や先輩の顔色を見ちゃったらおしまいだって思ってます。そもそもプロレスって、やっちゃいけないことをやればやるほどお客さんは盛り上がるんです。社長を殴れる会社ってプロレスだけじゃないですか?

──普通の会社員は絶対無理です(笑)

イケメン:オレ、今の会社に入って2年くらいは怒られっぱなしだったんですよ。「試合後にマイク持ってファンにこう言え、こうやれ」って指示されるんですが、つまらないと思ったら一切やらなかったから。「すみません、忘れてました!」で押し通してました。

──昔は自分を殺していたのに……?

イケメン:逆に、やりたいと思うことがあったら、誰にも言わず勝手にやっちゃってました。あと、会社に「やるなよ」って言われたことは基本的にやってましたね(笑)

──すごい自由にできているんですね。

イケメン:会社もまだ小さくて、波風立てていかないといけない時期だったから、今なら許されるだろうって意識はありました。今は会社も大きくなったし、つまらないと思ったら「こうしません?」ってアイデアを出すようにしてます。

──ちゃんと会社の成長を意識してるなんて意外です。プロレスラーって、個の職業だと思っていました。

イケメン:お客さんが喜んでくれれば何をやってもすべて許されるのがプロレスの世界なんです。ただ、勝手なことをやってお客さんにウケなかったらクビにされても文句は言えませんから、やると決めたことはそれだけの自信をもってやってます。

──自信と覚悟があるから、やりたいことができてるんですね。

イケメン:人の言いなりになってばかりだと、自我を殺されてしまって自分でいられなくなる瞬間がありますよね。だから、上の人に対してはいつでも立ち向かう気持ちでいないとダメですよ。

試合中はお客さんのことしか考えていない

黒潮“イケメン”二郎
カメラマンの無茶振りにもテンション高く応じてくれた。「取材陣みんながもっとイケメンを好きになる」1日でした。

──プロレスラーって怖いイメージがありましたが、イケメンさんは親しみやすいです。

イケメン:良い意味でなめられているんですよ(笑)。今時のレスラーなのかも。従来のプロレスを見てきたファンには新鮮みたいです。友達みたいなテンションで話しかけてくる人も多いですね。

──新規のファンも、ずいぶん増えたのでは? 

イケメン:いなくなっちゃう人もいるけど、会場に新しい顔が見えるとすごくうれしいです。試合中は会場しか見てないって言ってもいいくらい、どう試合を組み立てたらお客さんが盛り上がるかを必死に考えています。会場の規模や場所によっても、やり方を変えてますし。

──常に会場を見て考えてるんですね。

イケメン:プロレスって頭がよくないとできませんよ。でも、なぜかオレは試合中しか頭が働かないんです。この取材もリングの上だったら、もっといい話ができるのに(笑)

──(笑)。他のプロレス団体の試合に出る時は意識が変わりますか?

イケメン:他団体の大会に出る時は、アウェーの会場をどれだけイケメン色にできるかワクワクしてます。試合後にはTwitterでエゴサーチしてますけど、「イケメンがMVP」なんて書かれてたら最高ですね。

──エゴサーチ! 意外です。細かいことは気にしないのかと思っていました。

イケメン:以前は、「お前はいいよな、会社にプッシュされてよ」とかいうヤツもいたんですよ。反論もしなかったけど、内心では「ばーか!」って思ってましたね。会社がオレをプッシュしたんじゃなくて、オレが会社の心をつかんだんだって考えてますから。

──会社の心をつかんだ?

イケメン:お客さんが喜ぶ面白い試合をやってきたから、会社がオレを見て「こいつを使おう」って考えたはずなんです。でも、そうは考えられないヤツもいるんですよね。だから、練習で靴を隠されたこともあって。

──えっ! 靴を隠す……そんな陰湿なこともあったんですね。

イケメン:嫉妬される=売れてるってことだから、嫉妬されたもん勝ちですよね! 後で二階からそいつの荷物をブン投げてやったけど(笑)。

──ちゃんと仕返しはするんですね(笑)。

イケメン:するする。ちゃんとやり返しますよ!

3年スパンで目標設定。次は27歳で人生を圧倒的に変えたい

──黒潮“イケメン”二郎選手としての、これからのキャリアプランは?

イケメン:これはクセなんですが、小学生の頃から3年くらいのスパンで「X歳までにこれをやろう」っていう目標を組み立てています。次の区切りは27歳で「人生を圧倒的に変えたい」と思っているから、26歳になった今、次のアクションに向けて動き出しています。

──もしかして、脱イケメンとか?

イケメン:まだ、具体的には言えないですけど、起爆剤を仕込んでますよ。

──楽しみです! Dybe!世代にはなかなか次の環境に飛び込めずに尻込みしちゃう人が多いんです。最後にそんな人たちにメッセージをお願いします。

イケメン:たしかに、オレの友達でもめちゃめちゃいます。「会社辞めたい」って言い続けて4年、みたいなヤツ。つまらないんだったら自分で切り開くしかないですよ。60歳の人から50歳の人を見たら「まだ若い」ってなるし、50歳が40歳を見てもそう。タイムリミットなんてないんだから、思い立った時がベストタイミング。どんどん動いてほしいって思います。

黒潮“イケメン”二郎(くろしお・いけめん・じろう)

1992年、東京都生まれのプロレスラー。WRESTLE-1所属。11年にSMASHでデビュー。WNCを経て現団体へ。ジャケットに手鏡の“イケメン”スタイルでブレイク。実家は東京竹ノ塚の「鍋屋黒潮」。180cm、90kg。

Twitter:@IKEMEN_JIRO_W1

公式HP:WRESTLE-1公式サイト

取材・文/小沢あや(@hibicoto
撮影/金子山