ほとんどの人が口にする「私にも悪いところが」という言葉

職場の人間関係のあれこれについて記事を書いていると、よく相談を受けることがあります。そこでほとんどの人が口にするのが「私にも悪いところが……」「落ち度があったからですよね……」という言葉です。

僕も悩んできたから、こう考えてしまう気持ちはよくわかります。嫌なことをされているのに、どうも「こうなったのは自分が悪かったからだ」と思ってしまいがちですが、はっきり言いましょう。自分が悪いと追い詰める必要はまったくない。どうして追い詰める心理になってしまうかの解説は専門家にお任せするとして、まず僕から言えることを2つにまとめておきます。

第一に、世の中も人間関係も複雑なので100%どちらかが悪いという問題そのものが少ないということです。多くの問題は白黒ではなく、その間の濃淡で決まっていきます。自分「に」悪いところがあることと、自分「だけ」が悪いというのは完全に別であるということ。これを忘れないでください。

次に自分「に」悪いことがあったとしても、それを理由に上司や会社による理不尽な扱いやハラスメントは正当化できないということです。こう問い直してみてください。自分「に」落ち度があったとして、だからといってハラスメントを受けてもいいと言えるのか? これはいじめの正当化とまったく同じ考えです。

普段は理想を語る優等生が見て見ぬふりをする

落ち度があれば人をいじめてもいいのか、と聞かれれば、これに対してイエスという人は圧倒的に少数でしょう。しかし、世の中ではなぜか「落ち度があればいじめてもいい」という態度を示す人が圧倒的に多い。学校にもいたでしょう。普段は理想を語っている優等生が、いじめを見て見ぬふりをする。こんな人が会社にはたくさんいる。

こんな状況に対してどう向き合ったらいいのでしょうか。僕から伝えられるのは、自分の身を守る方法です。あくまで方法なので、高尚な理念もなにもありません。徹底して実務的な方法を取材経験からまとめました。

先に結論も書いておきます。ハラスメントに一人で立ち向かうというのはやはり難しい。だからこそ「大いに人を頼りましょう。大いに人の好意に甘えましょう」。これが何よりも大切です。

理不尽なことに我慢する必要はありません。

事実を集めよう(録音編)

「事実」はとにもかくにも基礎であり、「言った」「言わない」論争にならないためにも事実を記録して手元に持っておくことが重要です。

ハラスメント上司は「事実」を軽視するか、事実があったところで何とかして言い逃れようとする人がほとんどなので、記録があったからといっても過信はしすぎないようにしましょう。

日大アメフト部の監督のようなもので、悪質なタックルをどう考えても指示していて、その調査記録があるのに「認めない」というタイプの人って意外といます。

会議の録音程度なら、スマホについている録音機能で十分です。ちなみに僕もインタビュー取材や急な囲み取材(マスコミ各社で政治家や企業の社長なんかを囲んで話を聞くもの)でiPhoneのボイスメモ機能を使うことがあります。基本はICレコーダーですが、レコーダーの充電が切れていてピンチというときに重宝します。

「黙って記録するなんて、いいのかな?」という遠慮はいりません。 ハラスメントの被害を受けていると大なり小なり心身を病みます。本当に苦しいのです。だからこそ、理不尽な思いをした事実を残しておくことだけはお勧めしたい。証拠さえあれば、体調を整えたあとでも戦えます。遠慮してしまうと、相手の思う壺なのです。

とにもかくにもすべて消さずに取っておくのが基本です。録音がなければ証拠がなくなり、主張の根拠も消える。得するのは上司と会社だけです。

証拠を集めよう(文書編)

録音という証拠はとても強いものですが、簡単に録音ができないケースもあります。そこで大事なのは文書です。社内チャットの記録、送られたメールやLINE、メモがすべて証拠になります。あとは勤怠記録、賃金でもめているなら給与明細もすべて取っておきましょう。

取材でよく聞くのが「あんな人から送られてきたものなんか見たくない。すぐ消した」「えっ、メモなんて証拠になるんですか?」という声です。すぐ消したくなる気持ち、よくわかります。でも、そこでちょっとだけ立ち止まってほしい。文書保存用のメールアドレスに転送する、印刷する、スクショする、このどれかはやっておきたいところです。一度、消したら証拠は戻ってきません。

メモだって立派な証拠です。これは僕が独断で言ってることではなく、朝日新聞に掲載された弁護士・角田有紀子さんのインタビューにも書いてあります。セクハラ案件を念頭に起きたことを詳細に、つまり「いつ、どこで、誰に、何をされたのか」を記録して自分宛にメールをする、ノートなどに書き込むことも十分な証拠になる。そう角田さんは言っています。

「事実と意見を分けておくこと」も大事です。「いつ、どこで、誰に、何をされたのか」は事実関係を記したものです。そこでどういう思いになったというのは、別の段落に書き込んでおきましょう。

  • いつ:2018年10月14日午後6時ごろ
  • どこで:会社のミーティグルームにて。
  • 誰に:上司の〜〜と1対1。
  • 何をされたのか:「〜〜〜」「〜〜〜」と発言(行為)があった。
  • どう思ったか:(ここで自分の思いを書く)

こんな感じでフォーマットを作って、メモを残しておくと良いと思います。

弁護士に相談しよう

いざ会社と戦うと決めた場合、弁護士はとても頼りになる味方です。ポイントになるのは弁護士にも専門、得意分野があるということです。ハラスメントと戦う時に、弁護士資格があるからといって、誰彼構わず相談するのはお勧めできません。

企業法務や離婚問題が得意という弁護士に労働問題を相談しても「それは難しいよね」で終わってしまうケースは十分に考えられます。職場のハラスメント問題なら、労働問題に強い弁護士に相談するのが鉄則です。ブラック企業が社会問題化しているので、労働問題を扱う弁護士も検索すればすぐに見つかります。

会社の法務担当に頼りすぎるのはリスクがあります。もちろん問題の程度にもよりますが、法務も社員であり、組織の関係者です。どちらの主張がより妥当かではなく、雇われている組織を守り、組織の論理を優先するのは職業上、当然のことです。

最初に法務に相談して解決しそうなら、そのまま法務に相談する。事態が動かず、これはいよいよ上司、会社と戦うと決めたら弁護士という手はずでもいいかと思います。

遠慮しないで、仲間を頼ろう

いろいろ書いてきましたが、問題はここからです。実際に会社と戦ったケースでは、発言があったか否かといったシンプルな事実を認めさせるだけで数ヶ月以上の時間を要することが少なくありません。さらに言えば、事実があったか否かは交渉の第一段階にすぎません。

会社に問題がある、と声をあげると、「本人にも問題がある」という同僚も出てくるでしょう。働いている時は「仲間」として扱ってくれた人たちも、いったん声をあげたら、その人を「敵」とみなし、付き合いも制限することでしょう。どちらが正しいか論理的に理解してもらえるというのは甘い期待です。組織に残る人は当然ながら、組織を守るほうにインセンティブが向かいます。

先ほど理想を語る優等生の話をあげましたが、普段、勇ましく「ハラスメントに声をあげよう」「被害を受け止めよう」と公言している人たちが、足元では「いじめられる側にも問題がある」という論理で行動しているなんてことはめずらしくありません。

社会的人格Aでは「ハラスメントは許さない」と正義の味方然と公言し、足元の社会的人格Bでは「ハラスメントの当事者」になるか「ハラスメントを黙認」する=「いじめを黙認する」となるからです(この辺の議論は高橋源一郎「『文藝評論家』小川榮太郎氏の全著作を読んでおれは泣いた」を参考にした。)

「彼らの行動は矛盾している」と指摘するのは簡単です。でも、今の僕は彼らほど悲哀に満ちた人はいないと考えています。なぜなら、矛盾していることを受け止められないからです。矛盾を認めてしまえば、彼らの人格はきっと崩壊してしまう。だからこそ、「あいつも悪いところがある(だからしかたない)」と責任を逃れ、矛盾も事実も見て見ぬ振りをしてしまうのです。

僕自身もできているとは言えないのですが、あえて言います。そんな人たちは放っておくことです。

いじめを放置しても問題ないという人たちの相手をまともにしていると、理不尽なことを言われ続けて時間だけが過ぎていってしまいます。それよりも大事なのは、自分の仲間を集めること=パーティを作ることです。仲間といっても大げさに捉える必要はありません。

弁護士を雇って論理と法の力を補強する、同じような思いをした人に相談することで一人ではないと思う、信頼できる友人たちに辛い思いを打ち明ける、心身のコンディションを整えるために医師の力を借りる、嫌な職場を変えるために人に相談する——。

パーティを作るとは自分を支えてくれる人を見極めることです。あなたを支えてくれる人は必ずいます。やっぱり一人ではハラスメントとは戦えません。大いに人を頼りましょう。大いに人の好意に甘えましょう。

これを「引け目に感じるよ」と思ってしまうあなたはとても優しい人です。この先、きっと誰かがあなたを頼り、誰かがあなたに甘えることがあるでしょう。その時、誠実に対応すれば引け目は帳消しになりますよ。これも忘れないでほしいことです。

この記事を書いた人

石戸諭(いしど・さとる)

石戸諭(いしど・さとる)

記者・ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。2006年立命館大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanを経て独立。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)がある。

Twitter:@satoruishido