本来は地味なジャンルである、ゴミ清掃についての本が売れています。『このゴミは収集できません ゴミ清掃員が見たあり得ない光景』(白夜書房)の著者は、お笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一さん。

コンビとしての芸歴は長くともテレビのレギュラーはわずかで、生活のために流されて始めたゴミ清掃。ところが、人生なにが起こるかわからない。ゴミについての考察ツイートが注目され、この本の出版に至ったのだとか。

芸人としての仕事も忙しくなるなか、今日もどこかでゴミ収集をつづける滝沢さんに、お仕事とは? を伺いました。

親父が死んだ。銀行の預金は5万円

滝沢秀一
滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2014年、生活のためにゴミ収集会社に就職。現在、お笑い芸人とゴミ清掃員、小説家の三足のわらじをはく。

──Twitterに”夜逃げ“って書いてありましたけど?

滝沢秀一さん(以下、滝沢):昼間だったので、正確には夜逃げではないんですけど、夜逃げ同然に家族で引っ越したんです。足立区の、他になーんにもないようなところにポツンとあったボロッボロの家に。

──それはいつ頃?

滝沢:小学校に入る前ですね。親父の事業がダメになっちゃって。ボロ家にも借金取りの人がドンドンってよく来て。

──苦労されたんですね

滝沢:う~ん子供だったから、家がオンボロとかはそれほど気にしていなくて。印象に残っているのは、オヤジに知らない女の人のところに連れていかれて「今日だけはあの人をお母さんと呼べ」と言われたこととか。

──今日だけ!?

滝沢:その話を家に帰って母ちゃんにしたらブチ切れて……。考えてみたら愛人なんですよね。そのうちバブルが来て親父の事業も盛り返して、ポルシェ2台買って、またその借金ができて、それもコツコツ返して。結局、死んだときには銀行に貯金が4、5万くらい。ちょうどすべて使い切りましたみたいな、人生をやり切った感があります。くよくよ考えたりしない明るい人だったんで、そこらへんは、見習いたいなと思いますね。借金も残さなかったし。

──芸人を目指したきっかけは?

滝沢:学生時代は、学校の先生になろうと思って教職をとってました。ある日、お昼の番組で爆笑問題さんを見て大爆笑、そのとき突然”お笑いがやりたい!”って思って、その日のうちに学校の先生になるのをやめる宣言して周りはパニックになって。今は教育実習とかむしろ行きたいんだけど、当時は先生になる道をきっぱり断たないと、そのまんま学校の先生になっちゃうなって思ったんで。

──決断早っ。結婚するときも即決で?

滝沢:相手もいることなんで一人で決められることではないけど、自分は”楽しいかもなー”と思っていて、結婚してみたら、実際楽しくて。まあお金は足りなくて、芸人以外の仕事を探すことになるんですけど。

──清掃の仕事を見つけたときも迷いなく?

滝沢:そうですね、仕事が見つからなくて困り果てていたところ、元芸人の知り合いに紹介してもらったから、”働けてラッキー!”って。ゴミがいやだなとか、元々興味あったとかもなくて、なんでもよかったんです。もちろん、実際やってみたら大変なことも楽しいこともあったんですけど。

──元々、お子さんの出産費用が必要で、ゴミ清掃のアルバイトをはじめたんですよね。本が売れて、取材も増えた今でもお金の感覚は変わりませんか?

滝沢:もちろんです。芸能界は浮き沈みがはげしいですからね。それに、ゴミの仕事は今、本業。一人目の子供が生まれる時に始めて、二人目が生まれるタイミングで、正社員になりました。

──正社員に! 周りには相談したんですか?

滝沢:いや。相方にも番組の中で報告したくらい。芸人を続けるために清掃員になったから、正社員になっても芸人は辞めないし、変わったのは、保険関係とか。給料が増えたとかもないんだけど、芸人より清掃の仕事の方が収入が多いんで、本業は清掃員です。

人生どうにでもなる感。与えられたところで楽しむのがいい

滝沢秀一

──お父さんの影響もあって、人生どうにでもなるっていう考え方になったのかも?

滝沢:そうですね。どうにでもなるというか、与えられたところで、楽しむのがいいのかなって。

ゴミ清掃の仕事をやっていて、今まで知らなかったことを知るのは、単純に面白いです。ゴミの分別も嫁よりくわしくなったけど、まだまだ知らないことがあって、Twitterで主婦の方に教えてもらったり。

一緒に働いている70近いおじいちゃんが、「昨日40円で買った見切れ品のコロッケ、あれうまかったなー」って話してくれたり、ゴミ業界に意外とイケメンがいることや、女の人は缶ジュースをもらいやすいことを発見したり。いろんな人の声が聞こえるようになりました。

──それがまた芸人の仕事にも活かせそうです。

滝沢:ゴミの仕事と芸人の仕事、両方あるからそれぞれの役にも立って、どっちも楽しいですね。もちろん失敗することもあるから、そのときは「こっちの仕事でがんばろー」って自分の中での逃げ場を作れたり。

ゴールを決めて流されるのを楽しみ、つらいことも乗り切る

滝沢秀一

──なりゆきに任せてるように見えるけど、芸人であり続けるってことはブレてないですね。しんどいときでも目標を見失わないコツはありますか?

滝沢:一応ゴールは決めておくってのはあります。ゴールを設定しておけば、手段はなんでもいいから、流されても、その流されてるのを楽しめばいいかなって。

──どういうことでしょうか?

滝沢:たとえば、芸人として「売れる」ことをゴールに設定したら、ゴミ清掃でものすごく大変な日があっても、それはゴールまでのすごくいいシーンとして、必要になるわけじゃないですか。きっといい画が撮れているはずで。

悶々とするときもあるけど、ただ悶々としてるよりはなにかやってみた方が、失敗してもそれがネタになります。周りの人は、自分が思う以上に何も気にしてないですからね。芸人の場合、なにかやるよって言って失敗しても「でへへ」で済ませちゃいます。「でへへ」って、覚えておくと意外と便利ですよ。

清掃も芸人の世界も、人がいて、つながっている

──そうは言っても、周りの芸人が先に売れたとき、焦りや嫉妬はありましたよね?

滝沢:オードリーとかナイツとか、ずっと一緒にライブをやってたから、この中から売れるヤツが出てきたらいいねみたいな話をしてたんですよ。で、そんなこと言いつつ「俺らが一番最初に売れるけどねー」と思ってたんですけど、すっかり先を行かれてちゃって…。最初は嫉妬もしたんですけど、ここまで来ると逆にラジオでゴミの本のことやマシンガンズのことを話してもらったりして、「いい奴だなー。ありがとう!」の気持ちの方が強い。昔ラーメンおごっておいてよかったなって。

──つながりが大事ですね。ゴミ清掃についてのツイートは、事務所の先輩の有吉さんがリツイートしてくれたことがきっかけで広まったのもあるんですよね。

滝沢:ゴミについてのツイートって、元々そんなにしてなかったんですよ。たまたま一個つぶやいたときに、有吉さんがリツイートしてくれて。次の日も。それで、やってみることにしたんですけど、最初は「ゴミ清掃あるある」ってタイトルで。そしたら有吉さんに「あるあるって言葉が弱い。ちゃんとした題名考えろよ」って言われて。それからも「お前の気持ちよりゴミのことについて書いた方がいいぞ」とか、アドバイスをくれて。“こっちのほうに仕事があるぞー”って教えてくれたのが、有吉さん。

──いいアドバイスですね! でも、本の帯の推薦文は伊集院光さんなんですね。

滝沢:それも最初は有吉さんにお願いしようと思ってたんですけど、そうすると「仲間内でキャッキャッ楽しんでるだけに見えちゃうから、一回本気で探してみた方がいい」と言われて。

──それで伊集院さんに?

滝沢:それも偶然の産物で。伊集院さんのラジオのテーマが「今年ハマったもの」というテーマのとき、僕のTwitterについて送ってくれたリスナーさんがいたんですよ。そしたら伊集院さんが面白がってくれて。面識もそんなにないから無理かなと思いつつ帯をお願いしたら、快諾いただいて。やっぱり伊集院さんがものすごくファンの方々に信頼されているので、それで僕の本も買いましたって声をたくさん聞きました。

──いい先輩方ですね。

滝沢:特に有吉さんと伊集院さんの方面には足を向けて寝ないようにしています。

わらじは手段。何足あってもいい

滝沢秀一

──なにがどう転ぶかわからないですね。

滝沢:同期や後輩もみんなあちこちで話してくれたり、本当にありがたいです。僕も後輩がなんかやるって言ったら全力で応援したいですし。

──人が大事…

滝沢:虐(しいた)げられることがある分、芸人はやさしいと思います。元々芸人はいろんなバイトをしているし、副業の方が収入が多い人もいます。「二足のわらじ」と言われることもあるけど、僕はもともと小説も書いているし、特にこれだけで食べていく! みたいな意識は薄くて。うちの息子は、みんな職業は二つくらい持つものだと思ってるんですけど、これからは本当にそんな人が増えるのかもしれないですね。

──最後に、ゴミ清掃の仕事と出会って得た“気づき”について教えてください。

滝沢:ゴミは、いろんな人がいること、いろんな仕事があることを教えてくれた、宝の山ですね。世界中にゴミはありますから、僕の仕事も世界中にあるんです。

滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)

1976年、東京生まれ。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。「THE MANZAI」2012、2014年認定漫才師。2012年。定収入を得るために、お笑い芸人の仕事を続けながらもゴミ収集会社に就職。ゴミ収集中の体験や気付きを発信したTwitterが人気を集め、『このゴミは収集できません ゴミ清掃員が見たあり得ない光景』(白夜書房)を執筆。発売後、即重版。

Twitter:@takizawa0914

取材&文/樋口かおる(@higshabby
撮影/奥本昭久