人の目を気にせず、ありのままを自分を受け入れる。好きなことを思いっきりやる。それがかっこいい。

世の中、だんだんとそんな流れがきています。しかし、頭ではわかっていてもなかなか踏み切れないのが正直なところ。自分を貫くって、どうしたらいいの? そんなにハート強くないよ……そんな時に出会ったのが、62歳のインスタグラマー・八木恵利子さん。

八木恵利子氏のインスタグラム

毎日更新されるInstagramアカウントには、トレードマークのミニスカートをまとい、ハイヒールで大胆なポージングの写真がずらりと並びます。セレブが集まるパーティーでも、ひときわ目立つ彼女。自身のコーディネートを記録したお手製のフリーペーパーを名刺がわりに配り歩きます。その様子が編集者の目にとまり、アメリカ版「VOGUE」や「THE NEW YORKER」でも紹介され、世界のファッション関係者が、八木さんに注目しています。

彼女の強さの原動力は、どこにあるのでしょうか? 他人の意見に流されず、ブレない生き方について聞いてみました。

自分と人は違う。自分を貫くことは違いを認めること

八木恵利子
八木恵利子(やぎ・えりこ)。1956年生まれ。自身のファッションをまとめたフリーペーパー「YB」が話題となり、「THE NEW YORKER」でも紹介される。最近はInstagram(@yagieriko)も毎日更新。世界から注目を集め、国内外のブランドのパーティーにひっぱりだこに。

若い頃からユニークなファッションだったのかと思いきや、「昔は内面を磨くことに集中していたから、おしゃれを封印していた」という八木さん。40代に入ってから、服にのめり込むようになったそう。

──理想の大人を描いた時、外見からイメージする人が多いと思います。八木さんが子どもの頃から「まずは中身を充実させなきゃ」と思えたのはなぜでしょうか。

八木恵利子さん(以下、八木さん):若い頃って、それだけでサマになると思うの。自分の肌がピチピチなのに、お化粧やファッションで綺麗にする意味を感じなかったんです。外見も、ありのままの自分が出せる期間って、短いじゃない? 若いとすっぴんでも健康的だけど、年齢を重ねると、ある程度きちんとしないと、みすぼらしく見えてしまうから。

──周りがおしゃれに目覚めていく中で、流されませんでした?

八木さん:大学も理系だったから、おしゃれしなくてもいいかなって(笑)。とにかく、いろんなことに興味があるし、見たいこともやりたいことも多すぎたの。服のことを考えることはなかったかな。美術館に行ったり、本を読んだりしてたの。国語が苦手だったから、克服したくって。

──苦手なジャンルに向き合うなんて、真面目ですね!

八木さん:日本の国語教育って、答えがひとつしかないじゃないですか。それに納得がいかなかったんです。「作者の気持ち」とか、模範回答を見ても「ホントかよ!」って思っちゃうの。そもそも、文学に秀でてる作者が、普通の人と同じ気持ちなわけがないじゃない? 

──(笑)。

八木さん:先生につっこんで聞いてみても、答えてもらえないのが嫌だったの。読んだ人それぞれ別の気持ちを想像していいと思ってた。

──多様性を若い頃から意識してたんですね。

八木さん:自分と人は違う。「自分を貫く=人を認めない」ってわけじゃなくて、違うからこそ考えを認めなきゃいけない。わたしの言葉は全部自分に問いかけて出てきた言葉。こうして取材で話すこともあるけど、「わたしはこうする」ってだけで、他人に対して「こうしたほうがいいわよ」なんて、思ってないの。

──ファッションを解禁したタイミングって何で決めたんですか?

八木さん:自分で稼げるようになってからかな。わたしは、何をするにも、自分が働いたお金で楽しむ! っていうのが基本なの。親や他人のお金でしかできないなら、無理してるってこと。そもそも、他人のお金なんて夫婦であってもいつ崩れるかわからないでしょ? 自分だったら、収入の波もなんとなくわかる。自分のことは、自分でやらなきゃ。

自分がどんな人間かわかるまで、たくさん失敗した

八木恵利子氏 私物の40cmヒール
「かわいいー!」とライター小沢あやが食いついた40cmヒール。八木さんはこれで銀座松屋を1時間歩き回れるという。

──八木さんは、考えがピシッとしてますよね。一貫性があって。

八木さん:自分自身のことがわかるまでは、たくさん失敗しましたよ。そもそも、自分がどんな人間かなんて、若い頃はわからないじゃない? 

──幼少期の八木さんは、どんな子だったんですか? ご両親も、自主性を重んじる教育だったんですか?

八木さん:全然! 母親は気性がとにかく荒くて、よく叩かれてた。何が悪いかもわからないまま、我慢するしかなかったの。小学生になって、お友達の家に遊びに行った時に「自分の家とは違うな」って初めてわかったの。

──辛かったんですね。

八木さん:でも、グレたら結局は自分を不幸にしちゃう。「絶対に幸せになるぞ」って思ってました。一人っ子で、家の中に相談相手もいなかったから、常に自分と対話してましたね。理不尽なことばっかりだったからこそ、人には自分の意見を押しつけちゃいけないなって思ってる。

──自分のお子さんにも?

八木さん:小さい頃は、親がおかしくてもわからないでしょう? 自分で判断できるようになるまでは、教育でも考えを押しつけちゃいけないと思って。

──たしかに、10代までは家庭と学校が世界のすべてだと思っちゃいますよね。

八木さん:自分も、行動してみてどんな人間かわかるようになったの。人が多いところに行ってみたり、リーダーシップとってみたり。でも、居心地が悪くて長続きしないことってあるじゃない? やってみてからわかるけど、それって自分に合ってないってこと。私は人づきあいは消極的ですよ。人に話しかけることもあんまりしない。でも、誰とも友達になれなくても平気なの。

──苦手なことも、やってみたからこそわかった?

八木さん:積極的に人づきあいしたら、最後まで明るく積極的な人でいなきゃいけないじゃない? やってみればできるけど、疲れちゃう。だから、向いてないなって思ったの。企業だって、リーダータイプと副リーダータイプの人間がいる。みんなが明るいリーダーでいる必要ないのよ。

最初の一歩は大変。でも、踏み出せれば後は簡単

八木恵利子
ヒールを履かない人には実感できないかもだけど、八木さんの体幹の強さはハンパじゃない。

──八木さんの若い頃は、今よりもっと世間からの同調圧力があったと思います。枠からずっと外れていたということですが、叩かれても折れない自信を持てたのは、なぜですか?

八木さん:もともとの性格がキツいからかな(笑)。自己アピールできないでいたら、自分がその場にいる意味がなくなっちゃう。誰でも、最初の一歩は大変。でも、そこを踏み出せれば、あとは簡単なの。

──八木さんが一歩を踏み出せたのは、きっかけがあったんですか?

八木さん:失敗したとしても、ノーリスクって思ってるから。派手なファッションなら、ちょっと恥ずかしい思いをするくらいでしょ? ダメージを受けるのは、自分自身の気持ちだけなの。誰かに迷惑をかけるわけではない。だったら失敗してみようか! くらいの感じ。

──思い切りがいいですね。

八木さん:わたしも、最初はネットで叩かれまくっていたの。いちいち嫌なコメントに反論して、火だるまになってたわよ(笑)。でも、自分が経験しないとそれもわからないでしょう? 失敗してどうするか、というのが大切。いろんな人が言ってくる「こうなると思うからやめたほうがいいよ」っていうアドバイスは、実体験じゃないから身にならないの。どこかで大失敗しちゃう前に、痛い目にあったほうがいいですよ。

──八木さんが行動をする時の判断軸は?

八木さん:まず、自分が本当はどうなりたいか? をよく考える。わたしだって、判断つかない時はありますよ。そういう時は一回寝て、その場から離れる。わたしの場合は、即決できなかったら「違う」ってことかなって思ってる。服を選ぶ時でも、何でも。

八木恵利子
たくさん失敗してきたから自分がどうありたいかがわかるという。八木さんの生き方は本当にカッコいい。

──直感で選べない時は、やめておく。わかりやすいですね。

八木さん:でも、そうなるまではいっぱい失敗してきたの。失敗する勇気ってすごく大事。失敗して、初めて「何が失敗だったのか」がわかるのが一番の収穫。どんな時でもポジティブに考えること。次やる時の改善案が持てるから。そうそう、昔は年齢を言うととにかく叩かれたのよ。

──そうなんですか? 60代で好きなことを貫いているからこそ、かっこいいなと思います。「アンチエイジング」という語を使わなくなった化粧品会社もありますし、八木さんもやりやすくなったんじゃないでしょうか。海外セレブも、「自分のありのままを愛そう」とか、ポジティブなメッセージを発信しています。

八木さん:でもさ、海外セレブは整形してるじゃん。豊胸とかさ。全然ありのままじゃないじゃん、あの人たち。

──(笑)。

八木さん:そういう人の発言を持ち上げていいのかな、とも思うわけ。一貫性がないから、他人の発言を気にするよりも、自分が何者なのかを知ることが大切よね。

調子が悪い時でもいつもと同じことができるかが大切

八木恵利子氏が9年間発行を続けているフリーペーパー
八木さんが9年間発行を続けているフリーペーパー。「THE NEW YORKER」でも紹介されたことがある。

──八木さんは、毎日のInstagram更新のほか、フリーペーパーの発行を9年間も続けています。継続も、強い意志がないとなかなかできないことだと思います。

八木さん:チャンスが来た時に逃さないよう、準備をしておかないとね。夢は、デザイナーに服を作ってもらえるレベルの顧客になること。だから、ショーやパーティーでファッション関係者にアピールするために、全力でやってる。呼ばれたら、知らない人だらけのパーティーでも、ひとりで踊りまくってその場を盛り上げるし、フリーペーパーも配りまくってますよ。

──実際に、そこから取材依頼やセレブとの交流につながったんですよね。

八木さん:チャンスをものにできるかどうかは、運じゃないのよ。準備が大切なの。わたしは、流しそうめん理論って言ってるんだけど。

──流しそうめん理論???

八木さん:流しそうめんを手早く確実にすくうには、箸を構えてスタンバイしなきゃいけないでしょ。流れて来てから構えるんじゃ、遅いの。いつやってくるかわからないからこそ、常にアンテナをはって、見逃さないことが大事なの。

──流しそうめんは、やってくるチャンス。箸は、キャリアとか経験っていうことですね。

八木さん:そうそう。自分自身がいい状態の時って、何でもうまくいくの。調子が悪い時にも、いつもやっていることができるかどうか。他人のことを考えるよりも、日々の習慣や自分自身と向き合って、備えておかなきゃね。

八木恵利子(やぎ・えりこ)

1956年生まれ。自身のファッションをまとめたフリーペーパー「YB」が話題となり、アメリカ版VOGUEでも紹介される。最近はInstagramも毎日更新。世界から注目を集め、国内外のブランドのパーティーにひっぱりだこに。

Instagram:@yagieriko

取材・文/小沢あや(@hibicoto
撮影/飯本貴子(@tako_i