飲み会であっても、職場での下ネタはNG! エロ話を楽しむなら、「猥談バー」があります。

経営するのは、元漫画編集者の25歳。エロをプロデュースする「エロデューサー」として活動する佐伯ポインティさんです。開店資金700万円をクラウドファンディングで集めて話題となった彼は、「知らない人たちと、明るくヘルシーにエロスを楽しむ場を作りたかった」と話します。

猥談バーってどんな人がくるの? という誰もが気になることから、「脱サラしてエロで起業」という一風変わった佐伯さん自身のキャリアについて聞いてみました。

現実世界でも、みんなサブアカを使い分けている

──漫画編集者から「猥談バー」の経営って、すごいキャリアチェンジですよね。

佐伯ポインティさん(以下、佐伯):退職後、暇だった時に「バーの1日店長をやってみない?」と誘われて、エッチな妄想や体験談を話す「猥談バー」を1日限定開催したのがきっかけです。当時は僕のTwitterフォロワーも少なかったし、「友達6人くらい来てくれたらいいな〜」思ったら、超満員! しかも、20代から50代くらいまで、性別バラバラ!

佐伯ポインティ
佐伯ポインティ(さえき・ぽいんてぃ)。エロデューサー。早稲田大学卒業後、漫画編集者を経て独立。ポジティブに猥談を楽しむ人が集まる「猥談バー」を企画するなど明るいエロで上場を目指す。

──みんな、下ネタを話したかったんですね。

佐伯:猥談バーを月1で開催していた時、Twitterで事前告知してたけど、RT(リツイート)もいいねも全然されなかったんですよ! でも、毎回、当日にはたくさんの人がやってきた。

──なかなかRTしにくいですよね。エロは。

佐伯:「なんでこんなに人がくるんだろう?」って共同創業者と話してたんですけど、みんな、家庭、職場、恋人、友人、学生時代の同級生……場と相手によって会話もキャラクターも、微妙に変わるじゃないですか。SNSでいうと、無意識にいろんなサブアカウントを使い分けている状態。猥談バーでは、他では出づらいその人の”裏アカ”的な部分を引き出すんだと思うんですよね。

──リアルの場だけど、匿名性がある。普段とは、全然違う人格になれるということですね。

佐伯:ひとつの場でずっと同じキャラをやっていると苦しいと思うんですよね。僕の仕事はたまにびっくりされるんですけど、顔出しで猥談を発信してるから「えっ、それ本アカウントにしちゃっていいの?」っていう感じなのかな(笑)。

──「エロデューサー」って肩書き、ぱっと見だと怪しいですしね。

佐伯:今、好きなことを仕事にするのがいい! って流れだけど、「好きなこと」が職業的にNGだったり、本業にしても稼げないことって多いじゃないですか。エロって多くの人が関心あるのに、エロの仕事となると、反社会勢力とつながっていたり、搾取構造だったり、男尊女卑の世界だったり……グレーなことが注目されがち。どんなにエロいことが好きでも、サブアカウントとしてこっそり身をひそめちゃう人が多い。だからこそ、猥談バーにたくさんの人が集まってくれたんだと思います。

お店を開くのも「ノーリスクじゃん!」って思っちゃった

佐伯ポインティ
「明るく健全な、面白いエロの会社を作りたい! と思って起業しました」と語る佐伯さん。どんなビジネスを展開するのか気になります。

──会員制の猥談バー、本格オープンしてからさらに盛り上がっているそうですね。

佐伯:限定開催した猥談バーが盛り上がって「こういう場が欲しかった!」「店舗は作らないの?」という声が増えて。でも、店を構えるには、大きな借金をしなければならない。怖いじゃないですか。当時の僕、月収10万円くらいだったんですよ。

──リスクが大きいですよね。

佐伯:「うーん、ちょっと店舗は厳しいかな、返済する自信もないなあ〜」と思って、飲食チェーンの店舗開発をしたことある友達に相談してみたんです。そしたら「銀座で一晩に100万使っちゃう人が存在するんだから、猥談バーも出資者を探せばいけるよ! お金持ちでエロ好きな人、絶対いるから! ノーリスクだよ!」って言われて。そう聞いたら「そっか、ノーリスクじゃん! ノーリスク、ノーリスク〜!」って思ってきちゃって。

──お友達もポインティさんも、ポジティブ過ぎます! 

佐伯:「いざとなったら、SMバーに通いつめて、出資してくれるエロいお金持ちを見つけちゃえ!」って(笑)。結局、クラウドファンディングで700万円が集まったので、本当にリスクなしでお店を持つことができました。

──しばらくは「猥談バー」中心のビジネスモデルでいくんですか?

佐伯:人にフランチャイズする形で猥談バーを増やしながら、バーで聞いた猥談を漫画や映像などにコンテンツ化したりとかですね。「こういうのあったら、盛り上がっちゃうな〜」と自分が思ったら、全部やりたいですね。僕は僕自身のファンで、常に自分の漫画を読んでる感じなんで、いい展開もトラブルも「わあ、漫画みたーい! ウケ!」って思っちゃうんです。

「僕、極端に自分を甘やかしちゃってるんです」

佐伯ポインティ
「僕は、僕自身のファンだから〜」と語る姿は、ゆるキャラみたいでちょっとかわいい。

──ポインティさん、どうしてそんなにポジティブでいられるんでしょうか。

佐伯:僕、極端に自分を甘やかしちゃってるんです。みんなそんなもんかな? と思っていろんな人に話を聞くと、どうやら違って。心の中に鬼コーチがいる人が多いんですよ。

──心の中に鬼コーチ?

佐伯:「お前、こんなもんじゃないだろう!!」「もっと頑張れ!!」って叫び続ける、謎のコーチ。だから頑張るんだけど、いったい自分が何の大会を目指してるのかもわからない状態の人が多いんですよね。疲れちゃいますよね。

──わかります。自分で自分を追い詰めること、ありますね。

佐伯:それで、結局辛くなっちゃう人って、たくさんいます。うつで休職しちゃう友達も同世代に増えてきてて。みんな「私がやらなきゃ!」「俺はこんなもんじゃない!」って、コーチの声がどんどん大きくなっちゃった感じがしますね。

──ポインティさんは、会社員時代に落ち込むことなかったですか?

佐伯:僕は、自分が可愛い気持ちが強すぎて、会社ではうまくいかなかったんですよね。他人より自分を重んじる人、組織には向かないじゃないですか(笑)。新卒入社した企業では、とにかくずーっと叱られてて、ずーっとポンコツ扱いだったんです。

──どんな失敗を?

佐伯:僕は「眠い」っていう気持ちと「今メールを送らなきゃ」という気持ちだと、「眠い」が勝っちゃうんです。で、寝ちゃう(笑)。それに気づくまでは「なんでこんなに仕事ができないんだろうね〜?」って、自分でもずっと不思議で。

佐伯ポインティ
「極端に自分を甘やかしちゃってるんです」「自分の中に激甘な上司がいる感じ」。……はい、その感じよくわかります(笑)

──疑問だけで終わるの、すごいですよ! 反省したり、自分を責めたりはしないんですか?

佐伯:自分の中に、激甘な上司がいる感じですね。なんでこんなにポジティブかというと、「自分のダメなところも、ちゃんと認めて可愛がってあげよう!」って思っているからですね。

──自分を過信しない、ということですね。それは大事なことかもしれません。

佐伯:あと、ポジティブでいうと、僕は「相手が死ぬ時の走馬灯に出てくるレベルでひどいことをしなければ、全部オッケーでしょ!」って思ってるんです。

──走馬灯? どういうことですか?

佐伯:今日の取材もしれっと遅刻しましたけど……(笑)。みなさん死ぬ寸前に「あのデブ!!あん時の取材に15分遅刻しやがってこの野郎!!」って、わざわざ思い出したりはしないでしょう? だからオッケーだと思うんです。

──あはは(笑)。

佐伯:生きてたら、何かしら迷惑かけるし、人を傷つけちゃうこともあるんですよ。「あいつの人生めちゃめちゃにしてやる!」とか、悪意をもって酷いことをするのはダメだけど、ちょっと迷惑かけちゃうくらいならいいかな〜! って思ってるんです。極端だけど。

──今、ポインティさんが会社員時代にずっと叱られ続けてきた理由が、わかってきちゃいました(笑)。

「カナダ事件」が勃発、ついに上司もサジを投げた?!

佐伯ポインティ
「日常的なエロは公序良俗に反しないと証明する」。カナダを北欧の小国と思っていた男の決意は固い。

佐伯:そういえば僕、ずっとカナダをヨーロッパの小国だと思ってて。

──えっ、いきなりなんの話ですか?! 怖い。

佐伯:「カナダはメープルシロップが有名だから、北欧あたりのほっこりした小さい国なんだろうな〜」くらいのイメージでずっと生きてたんです。新卒時代、翻訳した漫画をカナダに送る仕事があって。打ち合わせの時に「カナダって、英語でもいいんですか?」って聞いたんです。そしたら社長がピンときた感じで、「おまえ、カナダどこにあると思ってる? カナダの位置わかる?」って聞いてきたんですよ。

──怖い!

佐伯:「わかりますよ〜! 北欧ですよね?」って返したら、社長がびっくりして。打ち合わせ中なのに、会議室を飛び出して「おい、こいつカナダの場所も知らないぞ!」「仕事教えるの難しいわけだわ!!」って。

──サジを投げられちゃったんですね。カナダ事件……。

佐伯:でも、僕も一応大学受験して、早稲田出てるんですよ。やっぱり、学歴なんてあてにならないな〜と思いましたね。

──(笑)。

佐伯:悪気がないし、人との違いも、なんで自分ができないのかもわからないんです。一応、ビジネスマナーとか自己啓発本もたくさん読んでみたけど、「やっぱり自分、変えられないかも〜!」って気がついちゃって。

──潔いですね。

佐伯:「今いる会社が合わない」とかじゃなくて、「組織や企業ルールが合わない」ってわかったから、エロデューサーの仕事を思いついた時、サクッと独立しちゃったんです。今は本当に、毎日がラクだし楽しいです。得意なことしかやらなくていい〜!

──ポインティさんの話を聞いているうちに、ちょっと元気が出てきました。

佐伯:自他共に、期待をしないほうがいいですよね。世の中、期待通りにいくことなんてあんまりなくないですか? だから、期待すると気持ち的に損することが多いんです。人生を合理的に楽しむために、最初から期待値ゼロでいるほうがおトクです。

──そこは現実的なんですね。

佐伯:今、僕は周りに仕事ができるかどうか、とか一切期待されてないです(笑)。付き合いが長い人は、わかってくれるから楽なんですよね。共同創業者も、みんな友達。ダメな部分と得意なこと、全部知ってるからうまくいくんです。

──ダメな部分を開示しているし、怒られないですむと。

佐伯:あと猥談って、ビジネスパートナーを見つけるうえで、うまくいくんですよ。性癖って、人生がわかるから面白いんです。過去にどんな経験があって、どういう状況で興奮するのかがわかったら、その人の精神のモチベと人生の痕跡がわかる。社員やスタッフはもともと猥談好きで集まってるんで、個々人への理解が深まった状態で接することができて助かってます。

──猥談で、相互理解も進むんですね。

佐伯:そうすると、人と一緒に何かができるから人生が少し面白くなりますよね。僕、基本退屈ベースで考えていて。やっぱり生きてても、ドラマチックなことって起きないんです。他人や世界に期待するより、自分で動いて面白くしちゃったほうが楽しいなって思っています。僕にとっては、それがエロの世界だった。今は公序良俗に反する事業は上場できないんですけど、日常的なエロは公序良俗の中にあると思うんです。ヘルシーで面白いエロで上場を目指します!

佐伯ポインティ

佐伯ポインティ(さえき・ぽいんてぃ)

株式会社ポインティCEO(チーフ・エロデュース・オフィサー)。1993年、東京生まれ。早稲田大学を卒業後、クリエイターのエージェント会社コルクに漫画編集者として入社。2017年に独立し、男女楽しめるエロスのあるコンテンツを作る「エロデューサー」として活動を始める。2018年、日本初の完全会員制「猥談バー」をオープン。エロくて楽しいことが大好き。赤子のような体型で、精神はアゲなハッピーギャル。可愛がられて生きていきたい。

Twitter:@boogie_go

取材・文/小沢あや(@hibicoto
撮影/鈴木勝