上司にイラッ。家族にイラッ。電車でイラッ…。日々生きていれば、イライラすることも多々あります。

でも、いちいち目くじら立てて怒るほどのエネルギーはないし、そもそも怒って相手との関係がおかしくなるのもイヤ。だから日々のイライラはどうしても「溜め込む」という選択肢になりがちです。でも溜め込むばかりでは、メンタルがやられそう…。

そこで今回、「怒りのプロ」である日本アンガーマネジメント協会代表理事・安藤俊介さんを取材。怒りを溜め込まず、かつ突発的に爆発させない方法、つまりは「怒りと上手く付き合う方法」をズバリ聞いてきました。

安藤俊介
安藤俊介(あんどう・しゅんすけ)。日本アンガーマネジメント協会 代表理事。米国でアンガーマネジメントを学び、日本に導入し第一人者となる。企業や官公庁、医療機関などで多くの講演・研修を行う。

溜め込むだけでは、状況は変わらない

Dybe!編集部男性記者

編集部

最近は、怒りを表に出さず、溜め込む人が多い気がします。それはなぜなんでしょう?

安藤俊介

安藤氏

若い世代では多いかもしれませんね。いくつか理由が考えられますが、一つは若い世代が怒りに慣れていないことです。自分自身が今まであまり怒られてこなかったし、反対に人にもあまり怒ってこなかった。だから怒りという行為そのものに不慣れなんです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

それはあるかもしれませんね。慣れてないからこそ、怒りの受け止め方も怒り方もよくわからず、溜め込んでしまう…。でも、そもそもの話、怒りを溜め込むというのは、いけないことなんですか?

安藤俊介

安藤氏

よくないですね。

Dybe!編集部男性記者

編集部

それはなぜでしょう?

安藤俊介

安藤氏

まずは当然、ストレスが溜まります。そしてもう一つは、怒りを溜め込むだけでは、何も状況が変わらないからです。溜め込むというのは、相手の主張をそのまま受け入れたり、理不尽な状況を放置することに等しいからです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

確かにそうかもしれません…。

安藤俊介

安藤氏

だから怒りは溜め込むのではなく、相手に伝える必要があるのです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

でも、怒りを相手に伝えると、関係性がおかしくなりそうです。

安藤俊介

安藤氏

確かに、感情のままに怒ってしまっては、積み上げてきた相手との関係性が台無しになりかねません。大切なのは怒りをコントロールし、適切に怒ることです。そこで役に立つのが、アンガーマネジメントの手法です。

Dybe!編集部男性記者

編集部

アンガーマネジメントとは、どんなものなのでしょう?

安藤俊介

安藤氏

アンガーマネジメントは1970年代にアメリカで生まれたもので、「怒り」を論理的にとらえ、対処法を示すメソッドです。決して性格を変えるといったものではなく、怒りの感情と上手くつきあうための「技術」なので、誰でも習得できます。

Dybe!編集部男性記者

編集部

なるほど。ではそのアンガーマネジメントの理論を活かし、「溜め込み世代」が怒りにどう対処すればいいかを教えてください。

イライラが生じにくい体質作り法

安藤俊介

安藤俊介

安藤氏

先ほど、怒りを相手に伝えるべきと話しましたが、実はそれ以上に大事なことがあります。そもそも怒りやイライラが生じにくい体質を作ることです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

確かにそれができれば何よりです。いったいどうすれば?

安藤俊介

安藤氏

手軽にできて効果が高いのが、「アンガーログ」をつける方法です。

Dybe!編集部男性記者

編集部

アンガーログ??

安藤俊介

安藤氏

アンガーログとは、怒りの記録帳です。生活の中でイラッとしたことを書き留めておくのです。たとえば「上司に『同期のAはあんなに成果を出しているのに、それにひきかえおまえは…』と小言を言われ、かなりムカついた/7」などです。最後の数字は怒りの強度です。

Dybe!編集部男性記者

編集部

怒りの日記帳みたいなものですね。

安藤俊介

安藤氏

はい。ただ日記帳と違うのは、怒りをその都度書き留めることです。後になると忘れてしまったり、解釈が変わってしまうからです。だからメモアプリや日記アプリなどを上手く活用しましょう。自分宛てにショートメールを送ってもいいですね。

Dybe!編集部男性記者

編集部

そのように怒りを記録することで、どんなメリットがあるのでしょう?

安藤俊介

安藤氏

まずは書くことで、自分の怒りを一歩引いた目線で見ることができ、少しクールダウンできます。

Dybe!編集部男性記者

編集部

なるほど。

安藤俊介

安藤氏

それと、後で読み直すことで、自分の怒りの傾向や歪みが見えてきます。「俺って思った以上に、容姿のことを言われるのがイヤなんだな」とか、「そこまで目くじら立てるほどのことではなかったな」などです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

自分の怒りを冷静に客観視できると。

安藤俊介

安藤氏

そうです。ただし見直すのは、1週間くらい経って気持ちがある程度落ち着いてからにしましょう。なぜなら気持ちが落ち着いていないと、見直すことでイライラの感情がまたよみがえってしまうからです。そして見直す時に、ぜひやってもらいたいことがあります。

Dybe!編集部男性記者

編集部

なんでしょう?

安藤俊介

安藤氏

それは、怒りの元となっている「べき」を見つけ、それを検討し直すことです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

「べき」とはいったいなんでしょう??

ものごとを「許せる範囲」が大きく広がる

安藤俊介

安藤俊介

安藤氏

「べき」とは、「~べき」あるいは「~べきではない」というような怒りの元になっている自分ルールです。たとえば先ほどの上司の小言の例では、「他の人と比較して蔑(さげす)むべきではない」という自分ルールが怒りを生んでいます。

Dybe!編集部男性記者

編集部

確かにそうなりますね。

安藤俊介

安藤氏

こうした怒りの原因となる「~べき」あるいは「~べきではない」を、もう少し寛容に置き換えられないかどうかを検討するのです。

それを表で表すと、この三重丸(上の写真)の黄色い「少し違うが許せる」の領域を広げ、赤い「許せない」の領域を狭めるイメージです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

黄色の領域を広げる…。それは具体的にどういうことでしょう?

安藤俊介

安藤氏

たとえば「上司もそんな余計なひと言をつい言ってしまうほど、現状に頭を悩ませていたんだな」とか、「上司は自分のためを思ってくれ、なんとか奮起させようとあんなことを言ったんだな」などと考えたら、許せる気もします。

Dybe!編集部男性記者

編集部

うんうん、そういう解釈もできないことはなさそうですね。

安藤俊介

安藤氏

つまり、イライラの原因となる「べき」を見つめ直し、これをどう置き換えればイライラせずに済むかや、プラスの方向に捉えるためにはどう置き換えればいいかを考える作業です。

Dybe!編集部男性記者

編集部

なるほど。これができれば、次に同じような状況になった時には、あまりイライラせずに済みそうですね。

安藤俊介

安藤氏

そうなんです。このように価値観を少し置き換えることで、手放しで許せるわけではないけど、断じて許せないわけでもない、要は「まあ許せる」と思える領域が広がります。それにより、イライラしにくくなるのです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

三重丸の黄色を広げて寛容になるとは、そういうことなんですね。

安藤俊介

安藤氏

そしてイライラを感じるたびにアンガーログをつけ、後で解釈を置き換えれば、さまざまな怒りのポイントで「まあ許せる」の領域を広げていけます。人はけっこう同じようなポイントで怒っていたりするので、しばらく続ければ効果が実感できると思いますよ。

Dybe!編集部男性記者

編集部

これはさっそくやってみたいです。

ぜひ覚えておきたい「正しい怒り方」

安藤俊介

Dybe!編集部男性記者

編集部

とはいえ、どうしても許せないケースというのもある気がします。

安藤俊介

安藤氏

おっしゃるとおり、人には絶対に価値観を譲れない領域というのがありますし、どうしても許せないようなひどいことをされる場合もやはりあります。ましてやパワハラやセクハラなどは、むしろ許してはいけないケースです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

そんな場合はどうすれば?

安藤俊介

安藤氏

そんな時は、「怒る」ことです。とはいえ、ただ怒ればいいわけではありません。正しい怒り方があります。

Dybe!編集部男性記者

編集部

正しい怒り方…ぜひ教えてください!

安藤俊介

安藤氏

まず大切なのが、怒りの感情に頭をハイジャックされないことです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

ハイジャック!?

安藤俊介

安藤氏

はい、要は怒りに任せて怒鳴り散らしたり、キレたりしてしまわないことです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

たしかに、キレて怒鳴ってる人を見ると理不尽だなって思います。

安藤俊介

安藤氏

そうですね。しかもそうやって怒りの強度を上げれば上げるほど、怒っている人の「こうしてほしい」というリクエストが伝わりにくくなってしまうんです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

リクエストというと?

安藤俊介

安藤氏

怒ることの一番の目的は、許せない部分を改善してもらうことです。それには怒りの強度を上げずに、リクエストを明確に伝えることが大切です。前述の例であれば、「人にはそれぞれの状況があるので、同僚と比べられるのは正直辛いです」などと淡々と伝えます。

Dybe!編集部男性記者

編集部

確かに怒鳴り散らすより、その方が断然、こちらの要望が伝わりそうです。

安藤俊介

安藤氏

また、怒る時は主語を「私」にするのもポイントです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

なぜでしょう?

安藤俊介

安藤氏

たとえば「同僚と比べるなんて、課長はひどいです」と「あなた」を主語にしてしまうと、相手を責めるような形になり、相手が反発したり心を閉ざしたりしかねません。でもそこを前述のように「…辛いです」などと自分を主語にして伝えれば、相手はグッと受け入れやすくなります。

Dybe!編集部男性記者

編集部

確かに…。

安藤俊介

安藤氏

だから怒る際は、私を主語にした伝え方、通称「I(アイ)メッセージ」を心がけるようにしましょう。

Dybe!編集部男性記者

編集部

Iメッセージですね。ぜひ覚えておきます。

安藤俊介

安藤氏

それともう1点、重要なことがあります。それは大げさな表現を使わないことです。たとえば「課長はいつも人と比べますよね」と言うのはNGです。「いつも」が大げさ表現にあたります。他にも「絶対」「必ず」「すべて」「みんな」「常識」「普通」などが該当します。

Dybe!編集部男性記者

編集部

怒っている時ほど、思い知らせてやろうと、そういう言葉を使いがちです。なぜNGなのでしょう?

安藤俊介

安藤氏

言われた方は「いつもとはなんだ!」と、論点とは別のところで反発を覚えてしまうからです。だから怒る際は大げさな言葉は避け、正確な事実だけを丁寧に話すことがとても大切になります。

いざという時の「怒りの緊急回避法」

Dybe!編集部男性記者

編集部

おかげで正しく怒る方法がつかめてきました。では、突発的に「イラッ!」としてしまった場合に冷静になる方法ってありますか?

安藤俊介

安藤氏

そういう場合は、頭の中で「1、2、3…」と6まで数えます。なぜかというと、怒りの感情のピークは長くて6秒と言われているからです。ひとまず怒りのピークにアクションを起こさなければ、反射的に取り返しのつかない言動をしてしまうのを避けられます。

Dybe!編集部男性記者

編集部

6秒数えればいいんですね、いざという時に役立ちそうです。それともう一つ、ぜひ教えてもらいたいことがあります。後になってイライラやモヤモヤを何度も思い出してしまうことがあります。それで目の前のことが全然手につかなかったり…。これを改善するには?

安藤俊介

安藤氏

自分にとって「気持ちいいこと」を思い出し、イライラ・モヤモヤを頭の中から追い出すことです。たとえば「大好きなあの店のカレーを食べた瞬間」や「趣味のスノボを滑っている時」などです。できるだけ五感の刺激を鮮明にイメージすることがコツになります。

Dybe!編集部男性記者

編集部

ああ…(妄想する)…。確かにこれなら、しょうもない思考のループを止められそうです。

安藤俊介

安藤氏

今日お伝えしたようなアンガーマネジメントを上達させるには、練習が必要です。でも逆上がりや自転車と同じように、練習すれば必ずできるようになります。

Dybe!編集部男性記者

編集部

それは心強いお言葉です。

安藤俊介

安藤氏

そして上手くなると、たいていのものごとは「まあ、いいじゃない」と許容できるようになります。そうなると、毎日がすごく楽になります。ぜひ少しずつ練習してみてください。

安藤俊介(あんどう・しゅんすけ)

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事。2003年に渡米してアンガーマネジメントを学び、日本に導入し第一人者となる。ナショナルアンガーマネジメント協会が認定する最高ランクのトレーニングプロフェッショナル15名に米国人以外でただ一人選ばれている。2017年に厚生労働省「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」委員に就任。最新著書『怒りが消える心のトレーニング』。他にも著書多数。

Twitter:@andoshunsuke

取材&文/田嶋章博(@tajimacho
撮影/津田 聡