これからますます加速していくであろう、会社員の複業。ライティングやコンサルなど、得意なことを活かして稼ぐ人が多いですが、「好き」をベースに挑戦してみるのもいいのかもしれません。

今回は、とにかくラーメンが好き過ぎて「ラーメン評論家」になったという本谷亜紀さんにお話を伺いました。会社員としての本谷さんは、人材紹介の企業で広報を担当。時間や体力のやりくりや、継続のコツ、会社でにらまれないための複業マイルールも教えてもらいました。

教員志望だったはずが、たまたまラーメン評論家に

──ラーメン評論家って、どうやってなるのか想像がつかない職業です。最初のきっかけは、何だったんですか?

本谷亜紀さん(以下、本谷):大学3年生の時に、TV番組「お願い!ランキング」のラーメンレポーターの募集を見かけたのがきっかけです。教員を目指して教職をとっていたし、就職活動はしてなかったから時間はあったし、「ロケ中に3食もラーメン食べられるなら最高!」と思って(笑)。ラーメンに関する仕事ができるなんて、思っていませんでした。

本谷亜紀
本谷亜紀(ほんや・あき)。ラーメン評論家。テレビ朝日「お願い!ランキング」でラーメン女子大生として評論家デビュー。会社員としては広報を担当している。

──「選ばれるため」の発信はしていたんですか?

本谷:mixiのラーメンコミュニティーにはよく投稿していたけど、発信のためのブログもやっていませんでした。でも、TVに出たら、そこからどんどん仕事がくるようになって。当時、ラーメンを食べ歩く女性が少なかったからかもしれません。

──では、たまたま?

本谷:たまたまです。食レポもできないし、素人がポンッと出てきた感じですね。とにかくたくさん失敗してきました。言葉遣いができてなかったり、食レポなのに派手なネイルしちゃったりとか……。「大学卒業を期に辞めよう」と思ったタイミングで、不思議とメディアからの依頼が増えて、今ここにいます。

──本当に「ただ、ラーメンが好き」という気持ちから始まったキャリアなんですね。

本谷:好きじゃないと、厳しいですよ。飲食業界って、移り変わりも早いし、リサーチのためにお金もすごくかかります。女性の場合はやっぱり、体型コントロールも大変。でも、スープは飲みほしたい! という葛藤もあります。

──そして卒業後は教員ではなく、民間企業を選ばれたんですね。就職先は「複業できる会社」を選んだんでしょうか。

本谷:教職の実習で、違和感を覚えたんです。当時少しずつYouTuberなどSNSをはじめとして「好きなことで生きていく」っていう流れがきているのに、勉強だけを教えていく自信がなかったんです。5歳の頃からずっと先生になりたかったけど、世間を知るために民間企業も経験しなきゃいけないと思ったんです。

──「民間を経験しよう」っていう意識が、真面目ですね。

本谷:最初はアルバイトから始めました。やっているうちに、「面白いし、ラーメンの仕事ももっとやりなよ」と言ってもらえるようになりました。今では、肩書きをひとつだけにすることに、不安を感じるようになりましたね。

「ラーメン評論家」ってどんな仕事? 時間のやりくりは?

本谷亜紀
教育実習で違和感を覚え、5歳の頃からなりたかった教職をあきらめて民間企業へ。「勉強だけを教えていく自信がなかった」と話す本谷さん。

──「ラーメン評論家」、馴染みがない職業ですが、具体的にはどんな仕事をされているんでしょうか。

本谷:水着じゃないけど、漫画雑誌でラーメングラビアを持たせてもらったり、食ライターとか、イベントMCとか。取材は、ラーメン屋さんだけでなく、製粉所、製麺所などにも行きますね。あとは、ニュースのコメンテーターもさせてもらうこともあります。

──コメンテーターまで!

本谷:ラーメンも、経済です。小麦の高騰をどうのりきるか、外食産業はどう伸びているのか? 等、自然と経済情報が身につくんですよね。やってみたら、いろんな仕事につながりました。

──時間のやりくり、どうしているんでしょうか?

本谷:有給をフルで使ったり、スキマの時間を活用したり。フルタイムの会社員の時間帯と、取材の時間帯が上手くずれていたのがハマったから、上手く働けているのかもしれません。

──とはいえ、かなりハードですよね。

本谷:本当に大変だった時は、過労で救急車にのったことがあります……。1回失敗したことで「これをやったら倒れるな」というラインがわかりましたね。そこから、ちゃんと休息日を設けています。

──休息日でも、SNSを見ちゃったりしませんか?

本谷:「休む!」と決めたら、家で何もしないんです。Netflixも観ないし、3食すべてEatsの時もあります。PCも触らない。月に1回は、完全なオフの日をつくるようにしていますね。

──健康・体型維持はどうしてるんでしょうか?

本谷:ラーメンを食べる前に、必ず野菜をとります。食べ終わったあとも、消化に良いとされている唾液を出すためにガムを噛みます。あとは、かなり厳しいパーソナルトレーニングにも通っています。おまじない的なところもあるのですが。

会社で信頼されるための複業マイルールは?

本谷亜紀
健康・体型維持のために厳しいパーソナルトレーニングに通うなど、ラーメンのために本谷さんはストイックを貫く。

──本谷さん、かなりストイックですね。本業の会社で「あいつ、ラーメンばっかりだな!」とならないためのバランスは、どうとっているんでしょうか。

本谷:会社員としてやっている広報の業務は、デスクにベタ付きしなくてもいいけど、結果がすべて。「あの人、何をやっているんだろう?」と思われないように、常に結果を出さなきゃいけないんです。

──それはプレッシャーですね。

本谷:日中は、昼休みが勝負ですね。会社公認で会議室でトマトかじりながらブログを書いたり、原稿の手直しをしたりしています。

──会社で信頼を得るためにしていることは?

本谷:地味ですけど、忘年会の幹事とか、業務上の評価につながらない雑務をどんどん引き受けるようにしています。

──複業は、不向きな人もいると思うんです。本谷さんが考える「複業しないほうがいい人」って、どんな人でしょうか。

本谷:「睡眠時間を削ってでも、労働時間を伸ばして稼ぐ」という状態なら、やめたほうがいいですね。私も、1回そうなっちゃったんですが、体調を崩すし、いいことないですよ。重要なのは、本業のスキルと、それ以外の何かを掛け合わせて仕事をつくることです。

──具体的には、どんな仕事でしょうか?

本谷:わたしの場合だと、本業・広報とラーメンの知識を組みあわせて、店舗のPRをしたりしています。一般的な会社員の感覚を求めている人が多いんです。

──それは大きな強みですよね。

本谷:会社員の感覚を分解していくと、必ず何かの仕事につながります。自分にとってはあたりまえのことも、もしかしてすごいスキルかもしれない。普通の会社員でも、10時間くらい毎日同じ課題に取り組んでいたら、みんな何かのプロフェッショナルですよ。

配信方法を考え抜いて選んだ「17Live」

本谷亜紀
昼休みは会社公認でトマトをかじりながらブログを更新するという。とことんラーメンと真摯に向き合う姿勢が伝わってくる。

──SNSでの発信、本谷さんはほかのインフルエンサーがあまり使っていない「17 Live (以下、イチナナ)」を主軸にされていますよね。YouTubeやSHOWROOMを選ばなかったのはなぜでしょうか。

本谷:YouTubeは編集コストが高いから、短時間でやるには難しいと思ったんです。イチナナなら、事務所に入っていない一般の方が上位にいたりするんですよ。「食カテゴリで配信している人もいないし、これなら、時間のない私にも入り込めるかも」と考えて。手軽だし、自分でもできそうだと思って。お店からの配信とかもやれるし、毎日休まず更新してます。配信中もコメントがすぐ出るし、モチベーションにもなります。

──毎日、ストイックに継続するコツは?

本谷:配信を、デートの約束だと思うこと! 配信時間が遅れるなら、SNSアカウントできちんと告知します。

みんなスマホを持って待っていてくれるし、それを裏切れないんです。楽しみにしていたドラマが、野球延長などで時間がズレると、がっかりすることってありませんか?

──なるほど。いい意味で「普通の感覚」を持ってるんでしょうね。

「ラーメン女子大生」というブーストがなくなった時の迷い

本谷亜紀
「ラーメンに人生を変えられたから、その楽しさを多くの人に知ってもらいたい」と話す本谷さんはとても楽しそう。

──本谷さんのお仕事は、「評論家」でありながら、タレント性も求められますよね。バランスはどうしているんでしょうか。

本谷:基本的に、自分よりラーメンが主役。配信やメディアに出る時にはわたしが白い服を着て、ラーメンのレフ板にならなきゃいけないと思っています。

──ラーメンのレフ板!?

本谷:自分が好きじゃない服でも、取材の時はラーメンが優先だから、白や明るい色の服を買います。配信の時も、自分が盛れるかどうかは考えません。うっかり美肌加工しちゃうとラーメンの色が飛んじゃう。色も美味しくなさそうになっちゃいますし。

──すべて、ラーメン優先!

本谷:若い頃は「私を見て!!!」っていう自我もあって、それでたくさん失敗もしました(笑)。「ラーメン屋さんのためにこれをやりたい」「お昼に迷っている人を助けたい」と、周囲のことを考えるようになってから、仕事も増えて、少しずつですが収入も上がってきましたね。

──自我! それでいうと、ラーメン評論家”女子大生”のブーストがなくなったタイミングで、いろいろと迷いませんでしたか?

本谷:当時は評論家というには若いし、アイドルというには年上。メディアの人も、扱い方を迷っていたと思うんです。自分も「どうしたらいいんだろう」と悩んでいました。でも、「30代になっても、ずっとラーメンで生きていきたい!」と考えた時に、「“かわいい”を優先するだけではダメ」と思ったんです。

──アイドル性じゃなくて、知識で勝負だ、と。

本谷:評論家を10年やっていることで、自信もつきました。「情報が役に立ちました」とか「お昼にラーメンに行くのが楽しみになりました」と言われると、うれしいですね。タレントになろうとか思ってないんです。ラーメンに人生を変えられたから、その楽しさを多くの人にもっと知ってもらいたいんです。

──今後、ラーメンのためにどんな活動をしていきたいですか?

本谷:資金力があるラーメン屋さんが、海外展開してどんどん有名になっていますが、資金がなくて1〜2店舗しか展開していないところも、有名店になれるように広報の力で引き上げていきたいですね。何店舗が実験的にお手伝いをしていますが、成功してきているので自信がつきました。味を変えなくても、SNSなどやりようはあります。「知名度が低いから」で、ダメになるお店をなくしたいです。

本谷亜紀

本谷亜紀(ほんや・あき)

ラーメン評論家。年に350杯のラーメンを食べる。テレビ朝日「お願い!ランキング」でラーメン女子大生として評論家デビュー。大学卒業後、さらに活動を本格化させ「日本初の女性ラーメン評論家」として幅広く活躍中。会社員としては広報を担当している。

Twitter:@akichi0518

Instagram:akichi0518

取材・文/小沢あや(@hibicoto
撮影/飯本貴子(@tako_i