人の意見や考え方は変わっていくもの。むしろ経験や学習を積み重ねて、しなやかに、柔軟に、変わっていきたい。でも、その一方で、過去は変えられない。それなのに、過去の発言や失敗を引き合いに出されて今の自分を否定されたら……?

今回は、少年院出身のアイドル・戦慄かなのさんをお招きしました。10代の頃、窃盗、詐欺、JKビジネスなど、悪事に手を染めたという戦慄さん。少年院の中で2年間きっちりと勉学に励み、四年制大学の法学部へ進学。児童虐待や育児放棄を受けて育ってきた自身の経験から、同じような境遇の子どもたちの生活が少しでもよくなるよう、NPO設立に向けて動いています。

失敗した過去はきちんと反省しつつ、前向きな行動をするには? 更生した彼女に聞いてみました。

事務所に所属せず、セルフマネジメントで活動

──”少年院出身のアイドル”として、メディアに露出するようになって、周囲の人の対応は変わりましたか?

戦慄かなのさん(以下、戦慄):最近は、許容してくれる人も増えましたね。「不謹慎!」ってよく言われるし、叩かれもするけど。

──いきなり説教してくる人とか、たくさん寄ってきそうですよね。

戦慄:いっぱいいますね。褒められる時も「あんた、偉いね」みたいな、謎の上から目線なの。基本的に、なめられてるんですよ。でも、なめられてナンボだと思ってる自分もいる。

戦慄かなの
戦慄かなの(せんりつ・かなの)。1998年生まれ、大阪府出身。2017年2月にアイドルグループの一員としてデビュー。脱退後はセルフプロデュースでアイドル活動を再開。2018年4月から都内の大学に通う。育児放棄や児童虐待に関するWebサイト「bae-ベイ-」を立ち上げ、NPO設立に向けて活動中。

──なめられてもいい? 意外です。

戦慄:キャラがなめられるのは大丈夫。でも、「若い女だから」って、仕事でなめられるのは、本当に無理。「ワンチャンイケるんじゃないか」っていう目で見られたりとかね。無理……! こっちは、そういう空気、わかるよ。

──戦慄さんは、すべてセルフマネジメントで活動しているんですよね。つらいことがあると守ってくれる大人をつけたほうがいいのでは? とか考えることはありますか?

戦慄:妹と組んでいるアイドルユニットも、ダンス・衣装・物販まで全部自分でやっています。デザイン発注もできちゃうし、仕事の依頼も勝手にくるから、営業もいらないし。自分が100%正しいとは思ってないけど、自分の感覚を信じているんです。やりたくないことや、合わないことを受け入れられないんですよ。でも、他人にこの感覚をわかってもらうのは無理だし、求められないから、ひとりでやってます。

──いろんなメディアから出演依頼がきていますよね。「サンデー・ジャポン」(以下、サンジャポ)などバラエティ番組にも出演されましたが、売れて、もっとメディアに出たいという気持ちはありますか?

戦慄:今の目的は、NPOを設立して、虐待を受けている子どもたちを助けること。だから、バラエティーで忙しくなって、やるべきことがおろそかになるのはいけないなと思って。”少年院出身のアイドル”ってところだけを取り上げるメディアに出る必要はないかなって、ちゃんと考えるようになりましたね。

──切り口や露出は、慎重にコントロールしているんですね。

戦慄:するする! 自分自身「もう少し売れそうだから、ここで全部キャラを出すのはもったいないな」って思ってるかな。少年院を慰問する企画もサンジャポから打診されたけど、どうせならもっと頑張って『情熱大陸』でやりたいし(笑)。そういうの、とっておきたくない?

──マツコ・デラックスさんにも「今はあまりメディアに出ないほうがいい」と、言われてましたね。テレビで話題になって、いろんな事務所から声がかかっているのでは?

戦慄:くるくる! 大手からも、めっちゃ誘いがくるんですよ! でも、「テレビ出てたから声かける」って、ダサくない? 「 ちゃんと自分で発掘して声かけろよ!」って思っちゃって。大人、ダサいよ。

──正しいけど、厳しい(笑)! 

「少年院出身」を売りにしているわけじゃない

戦慄かなの
「“少年院出身”だけを取り上げるメディアに出る必要はないかな」。どんな切り口でどう露出するのか、自分でしっかりコントロールしている。

──「少年院出身を売りにしてるわけじゃない」と、よく発言されていますね。

戦慄:そもそも、少年院と刑務所は違うんですよ。保護・教育のための施設だから、たとえば家庭に問題があって家出を繰り返しているとか、法に触れていないことで入る子もいるんです。それなのに、殺人を犯したかのような扱いを受ける。「お前、シャバ歩くんじゃねえ」なんて言われて。

──それはひどい。もう更生しているのに。

戦慄:みんな、少年院出身=不幸自慢だと思ってるんですよ。「わたしのほうが過酷な人生」とか、謎のマウントとってくる人もたくさんいる。よく言われるけど、わたしはバラエティーに出たくて少年院入ったわけじゃないの。”少年院出身”は、センセーショナルな肩書きだけど、リスクのほうがデカいじゃないですか。どう考えても。

──そりゃそうですよね。

戦慄:19歳の女がいきなりクラウドファンディングでお金を集めるより、「虐待を受けた経験から非行に走り、少年院にいました。子どもを救うための活動をしたいです」って言ったほうがわかりやすくない? 当事者としてのリアルもあるし、拡散力もつく。そのほうが強いと思うし、できることの幅も広がってる実感がある。

人の意見が変わるのってあたりまえじゃん?

戦慄かなの
少年院出身はアピールじゃない。でも、子どもを救う活動のためには「当事者としてのリアルもあるし拡散力もつく」と自分を客観視する一面も。

──そもそも、1回の失敗でボコボコにされるの、おかしいですよね。それじゃあ、人は一生変われない。

戦慄:最近整形したんですけど、それも叩かれまくってます。昔、整形疑惑をかけられた時に「整形してねーよ」って言ったんですよ。でも、「『整形してねーよ』って言うくらいなら、なんで整形したんですか?」とか。わたしを叩くために捨てアカウントを作っている人までいます。

──いわゆるアンチですね。整形そのものを否定したわけじゃないのに……。

戦慄:っていうかさ、人の気持ちなんて変わるのあたりまえじゃん? 若いんだから、そりゃ、意見だってコロコロ変わるよ! 昔は赤リップとかケバくてダサいって思ってたけど、今は可愛いと思うし。それくらいの感覚でいる。だから「発言に一貫性がない」とか言われても、絶対謝らない。

──謝らないんですね。

戦慄:「謝ったら解決するからいいや」とか、考えたことない! 言ってることコロコロ変わるけど、自分はそれでいいと思ってる。揚げ足とりたいとか、そういう人もいるけど。

責任ある立場になったことで考え方が変わった

戦慄かなの
「謝ったら解決するからいいやとか、考えたことない!」。戦慄さんの言葉はどこまでも真っ直ぐだった。

──過去に悪いことをした事実は変えられないけど、考えや振る舞いは変えられると思います。戦慄さんが変わったきっかけは?

戦慄:少年院って、システムがよくできてるんですよ。罪の重さって、少年院の中では関係ないんです。

──えっ、そうなんですね。知りませんでした。

戦慄:プログラムとか生活態度を通して、進級していくシステムなんですよ。24時間、ずっと寮の中だから、ひとりでもメンタル崩すと、全体の空気がすごく変になるんです。

──共同生活ですもんね。

戦慄:大事なのが、上級生の存在。わたしは反抗的だったから長い間下級生だったけど、進級してからは責任がある、係仕事が任されるようになったんです。自分の更生というよりも「みんなの空気をよくしたい」って考えるようになりました。だんだんと、周りも慕ってくれるようになりました。

──意外でした。自分より、周囲とのバランスを考えるんですね。戦慄さん、経営者とか向いているのでは?

戦慄:ほんと? 私が会社とかやったらうさんくさくない?(笑) でも、人生まだまだ全然結果残せてないから、もっとドラマが必要だなと思ってる。何か賞とりたい。何の賞かはわかんないけどさ(笑)。

虐待を受けた経験を告白して……母親との関係は?

戦慄かなの
「わたしが会社とかやったらうさんくさくない?」と笑う戦慄さん。「まだまだ結果残せてないから、もっとドラマが必要」と自分に厳しい発言も。

──少し気になる部分があって。虐待を受けていた過去をいろんなメディアで話すようになってから、お母さんとの関係は、変わりましたか?

戦慄:びっくりするくらい変わってないです。お母さんのことを突き放したくはないけど、距離を置きたくて、最近妹とふたり暮らしを始めました。家を出てからは、お母さんは急に弱々しくなって、わたしに媚びてくるようになりましたね。

──いわゆる「毒親」だと自覚しても、母親を傷つけるのではないか? と、距離をとれない方もいます。戦慄さんは今まで、実家を出ようとは思わなかったんですか?

戦慄:最近までは、どんなにひどいことをされても「お母さんから離れよう」とは思ってなかったんです。昔から、殴ってきた後は、優しくハグやキスしてくるんですよ。普通の家より、スキンシップは多かったと思います。殴られても離れられない、DV男にハマる女みたいな心境だったのかも。

──優しくされたら離れられない、ということですね……。

戦慄:「うちの家族は異常だな」と気がついたのは、中学生の頃かな。その後、少年院に入って、図書館でたくさんの本を読んでいくうちに「どれだけ一緒にいても、お母さんは変わらない」とわかったんです。小さい頃からずっと、お母さんから「お前は何もできない」って言われ続けていて。

──自分を否定され続けるのは、とてもつらいです。今のお仕事のことは、応援してくれていますか?

戦慄:仕事のこと、自分からは1回も話してない。Yahoo!ニュースとか、サンジャポを見て、わたしの仕事を知ったみたい。鬼電がきたり、急に謝ってきたりする……。わたしにとっては自分が受けた虐待体験がトラウマだけど、その体験がNPO設立っていう今の活動につながってる。

──同じ境遇にいる子どもたちを助けたい、と。

戦慄:まだ何も成し遂げてないけど、少しづつ仕事で成功体験ができたことで、自信がついたかな。家を出て、お母さんからも離れられたことで、一歩前進できたと思ってる。収入が安定している家庭でも、虐待やネグレクトは起こるんですよ。立ち上げた「bae-ベイ-」の活動を通して、社会や当事者に、きちんと働きかけたいですね。

戦慄かなの

戦慄かなの(せんりつ・かなの)

1998年生まれ、大阪府出身。両親の離婚や幼少期からの虐待で小学4年生から今まで自律神経失調症とパニック障害を患う。高校では中退後に非行に走り、保護施設に入った後、少年院へ。同じような境遇の人と関わる仕事をするため、2018年4月から都内の大学に通う。2017年2月にアイドルグループの一員としてデビュー。脱退後はセルフプロデュースでアイドル活動を再開。「ミスiD2018」では「サバイバル賞」を受賞。育児放棄や児童虐待に関するWebサイト「bae-ベイ-」を立ち上げ、NPO設立に向けて活動中。

Twitter:@CV_Kanano

WEBサイト:bae-ベイ-

取材・文/小沢あや(@hibicoto
撮影/飯本貴子