自分とはタイプが違う人とのつきあい方に、悩むことはありませんか。「あいつは野心がない」「あんなにギラギラしなくてもいいのに」なんて、お互い思っていたりして。

今回は、結成22年目を迎えるお笑いコンビ、カラテカのおふたりにお話を伺いました。会社を経営しながら講演活動を続け、「人脈のため、飲み会はハシゴします」と話す入江さんと、エッセイ漫画で大ブレイクを果たしたものの「欲があんまりないんです」とおっとり語る矢部さん。

まったく違うタイプのふたりが、それぞれまったく違う複業をしながら、良い関係でいられるのは、なぜでしょうか。ピンで成功しているのに、カラテカを続けている理由は? 17年ぶり(!)だという単独ライブ前に、正直なところを聞いてみました。

「22年やってるけど、芸人になる覚悟なんてまだないです」

──カラテカは、入江さんが矢部さんをお笑いに誘ってスタートしたんですよね。入江さんは、矢部さんに光るものを感じていたんですか?

入江さん(以下、入江):彼は昔からNOを言えないタイプで、僕がやることを全部受け入れてくれたんですよね。もともと、矢部は教師を目指して、大学も教育学部に行ってたんですけど。

──同級生からいきなり誘われて吉本入り。矢部さん、芸人になる覚悟はいつ決まったんでしょうか?

矢部さん(以下、矢部):22年やっているけど、芸人になる覚悟なんて、まだないですね。”なんとなく”で、ここまできちゃってるんです。入江くんがいなかったら、お笑いをやることもありえなかったです。

カラテカ
カラテカ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑いコンビ。1997年11月結成。左:入江慎也(いりえ・しんや)。右:矢部太郎(やべ・たろう)。

──なんとなくなんですね。その温度感のまま、ギラギラしていた入江さんより先に『電波少年』でブレイクしたのは矢部さんでした。コンビをリードしていたのは入江さんだっただけに、ふたりのバランス、崩れませんでしたか?

入江:矢部に対して、ずっと嫉妬していました。先輩からも、入江じゃなくて「矢部の相方」と呼ばれていました。「どうしたら自分を認識してもらえるかな」と考えて、麻雀やったり女の子ナンパしたりとか、プライベートで目立つようにしました。そうしているうちに、だんだん覚えてもらって。「入江は人脈がすごい」なんていわれるようになりました。

──会社経営につながったり、大成功ですよね。ここまでのロードマップは、昔から描いていたんでしょうか?

入江:全然! 最初は「何かやらなきゃ」と焦ってばかり。ふなっしーが売れていた時に、「クロコダイラ」って、小平市の非公式ゆるキャラを作ってみたりとか。けっこう迷走してましたよ。

──それも、もしかして「自治体に人脈を作ろう」と考えて……?

入江:いやいや、まったく思ってない(笑)。とにかく手当たり次第に新しいことをやって「どうやって矢部に追いつくか」をずっと考えてきた22年でした。

ずっとバラバラに活動。「お互い歩み寄ることもなかった」

カラテカ・入江慎也
「先輩からも“矢部の相方”と呼ばれてました」と話す入江さん。どうやったら自分を認識してもらえるか考えたという。

──今年結成22年で、17年振りの単独ライブが実施されますよね。それぞれが忙しくなって、カラテカとしての活動は、あえてセーブしていたんですか?

入江:いや、たまたまですね。結果的にそうなってしまっただけなんです。僕らは2002年頃から、ずっとバラバラに活動していて。お互い、歩み寄ることもなかった。

──矢部さんが俳優業で忙しくなってきた時期ですね。

入江:矢部の舞台稽古があるから、数カ月稼働ができない。その間に「俺もどうしようかな」と考えて。パン屋でバイトした時期もありました。矢部が気象予報士の資格を取ったから、それに乗っかろうと思って、お天気パンを企画したんですよ。「くもりーむぱん」とか(笑)。

──芸人業だけに固執してないのが、カラテカの強みですよね。柔軟です。他のことで十分生計が立てられて、コンビの仕事がない時期も長かったのに、カラテカの看板を降ろさなかったのはなぜでしょうか。

矢部:コンビで出られない時期は、ずっと罪悪感がありました。僕のせいなんじゃないか、と考えてしまって。でも、カラテカを辞めるとか、解散とかは、過去に1回も考えたことはありませんでした。

カラテカ・矢部太郎
「コンビで出られないのは自分のせいじゃないか」という罪悪感があったという矢部さん。それでも解散を考えたことは1度もないという。

──罪悪感を覚えてしまうほど苦しかったのに、入江さんとカラテカを続けたかったんですね。

矢部:ふたりでお笑いをやりたい。けど「これをやりたい」っていうのが、カラテカにはなかったんです。もともとは、入江くんがボケだったんです。でも、関係者にネタを見せると、「矢部のほうがボケっぽいビジュアルだよね」と言われることが多くって。それでコロコロ変えることもあって。

──すごい柔軟性ですね。

矢部:僕も入江くんも意志が弱くて、すぐに結果が出そうなものに飛びついてしまう時期があったんです。人に何か言われたら、流されていて。

──常にモヤモヤしていたんですね。

矢部:でも、そんな時期も大切だったのかなと思っています。作家さんや、周りの先輩に作ってもらった部分は大きいですね。

売れる方法を考えたい入江さん。目の前のネタを考えたい矢部さん

カラテカ
カラテカは結成22年。人に言われてボケとツッコミを変えるなど、すぐに結果が出そうなことに飛びついてしまう時期もあったそう。

入江:カラテカって本当にめずらしいコンビなんですよ。デビュー1年目くらいまでしか、ふたりでネタ番組に出ることがなかったんです。

──うまく結果が出せず、呼ばれなくなってしまった?

入江:ふたりでいると、矢部のほうが目立つんですよ。お笑いライブも、彼だけが呼ばれることがありました。僕は、その姿を客席から観ているだけのことも多くて。

──当時、20代ですよね。入江さん、精神的にしんどかったのでは。

入江:「俺も出してくれ」と、マネージャーに抗議したこともありましたよ。限界がきて、楽屋で矢部に「もう辞める」って言ったことがあるんです。そうしたら、「僕のギャラをあげるから、入江くん辞めないで」って言われたんですよ。

──そんなことがあったんですね……。

入江:プライドがあるから断ったけど。今思うと、もらっとけばよかった! クズキャラでいけたかもしれないのに(笑)。

カラテカ・入江慎也
「クズキャラでいけたかもしれない」と笑う入江さんは「売れるための方法」を常に考えている。

──すごい覚悟です。そして矢部さんはエッセイ漫画『大家さんと僕』で、大ブレイク。人気も収入もドーンと上がったと思うのですが、なぜそんなに謙虚でいられるんですか?

矢部:「宝くじで1億円当たった人の末路」とか「宝くじに当たった人がやるべきこと」みたいなネット記事を読んで、それを心がけているんです。1回ドンと当たったからって、おかしくなってはいけないと思って。

──なんて堅実なんでしょう……! 入江さんはおっとりしている矢部さんに対して「欲出せ!」とか「もっと頑張れよ!」って思うことないですか?

入江:コンビで集まる時も、思考が対照的なんですよね。僕は、これからのプランを考えて「カラテカは売れるために何をするべきか」を考えたい。でも、矢部は「目の前のネタをやりたい」ってタイプで。僕は、常に動いていたいし、もっと上に行きたい。

──経営者タイプの入江さんと、職人気質の矢部さん。本当に対照的ですね。

今もお互いのスケジュールは知らない。「あえて共有はしないです」

カラテカ
経営者タイプの入江さんと職人タイプの矢部さん。対照的な2人は、考える時の視線の向きも真逆だった。

──リードするのは入江さんだけど、ネタを作るのは矢部さん。この関係性、不思議だなと思います。上下関係はなく、フラットなんですか?

入江:「入江、なんでそんなに太郎ちゃんの前でイバれるの?」ってよく先輩から言われてましたけど、全然ピンときてないんですよ。相方に気をつかったことなんて、1回もないな。

矢部:入江くんがコンパに行った時、「相方の太郎は、何してるの?」って聞かれたらしいんですよ。そしたら「アイツ、バカだから飲み会にも行かず、ネタ作ってるんですよ」って返したらしくて。ひどいですよね(笑)。

──お笑い芸人の本業と向き合っていたのに(笑)。

入江:僕は矢部に何でも話すけど、矢部は漫画で手塚治虫賞をとったことも教えてくれなかったんです。Yahoo!ニュースで知りました。今も、お互いのスケジュールも知らない状態です。

矢部:あえて共有はしないですね。

入江:僕は昔、仕事がない時のことを矢部のせいにしたり、マネージャーのせいにしたりしてた。でも、自分で動かないとだめ。『行列ができる法律相談所』も、『24時間テレビ』も、『徹子の部屋』も、矢部ひとりで出たけど、昔だったらもう口聞かなかったでしょうね。

──今は変わりましたか?

入江:以前は「腹立つわ」が原動力だった。でも、「見返してやろう」じゃなくて、「自分がやろう」という気持ちになってから変わりました。今思うと、僕ひとりが呼ばれた番組もあったんですよね。その時はわかってなかったんです。

コンビはふたりでひとつ。「苦手なことは任せちゃえばいい」

カラテカ・矢部太郎
手塚治虫賞をとったことも入江さんに教えなかったという矢部さん。「あえて共有はしないですね」と当たり前のように言っていた。

──出会って25年、コンビを組んで22年。こんなに違うタイプなのにずっといられるのは、レアなことだと思います。おふたりは、お互いの「トリセツ」を熟知しているんでしょうか。

入江:矢部はね、群れるのが嫌いなんです。ライブの打ち上げも、いつもつまらなさそうなんですよ。余韻にひたることなく、気がつけばフワーッと帰っちゃうし、二次会も絶対に来ないです。後輩からも「矢部さん、怒ってました?」なんて聞かれるくらいで。

矢部:入江くんがしっかり後輩のケアをしてくれるから、安心感があるんですよね。「僕、帰っても大丈夫だ」って。

──信頼できる相方がいるから、「任せちゃえ!」と思えるんですね。

矢部:そう、そんな感じです。

入江:僕はね、矢部の人生、何が楽しいのか全然わからない。女の子も好きじゃない、海外も行かない、酒も飲まない。「矢部、何なの?!」っていつも思ってる。不思議です。

──矢部さん、本当に欲がないですよね。稼ぎも最低限でいい、っていつも言ってますし。

矢部:それぞれの人格があるけど、コンビはふたりでひとつ。苦手なことや欲は、入江くんに任せちゃえばいいなと思うんです。そのほうが面白いし、だから関係が続いているのかなあって思います。

──入江さんは、もっとガツガツお笑いの向上心がある人と組もう! とか、思ったことは本当にないんですか?

入江:辞めようと思ったことはあるけど、コンビ解消を考えたことは本当にないです。焦りすぎて、もう一人入れてトリオにしようと思ったことはあるけど(笑)。『白戸家シリーズ』CMのダンテ・カーヴァーさんに本気でオファー出そうと考えてたんです。

17年ぶりの単独ライブにかける思いは?

カラテカ
「入江くんがいるから安心感があるんです」(矢部さん)、「矢部の人生、何が楽しいかわからない」(入江さん)。

──今回、17年ぶりの単独ライブをやろうと思ったきっかけは?

入江:僕はずっとやりたかったんですよ。でも、矢部にずっとはぐらかされてて。説得して、やっと実現しました。

──矢部さんは、やりたくなかったんですか?

矢部:僕らだけを1時間半観てもらう自信がないんですよ。5分が限界なんじゃない? 普通のネタライブでいいんじゃないか? って、ずっと思っていて。

──そんなに自信がないんですね……! どうして納得したんですか?

矢部:僕は自分から積極的に動くことはないし、「入江くんが誘ってくれたからこそ、今がある」と、感謝があるんです。今までにも、入江くんが無理やり背中を押してくれたことでジャンプアップできたことがたくさんあります。だから、今回のライブも、そうなればいいなと。

入江:僕はもっと、カラテカとしての活動を増やしたい。けど、なかなかチャンスがないんですよね。ふたりのキャラが違いすぎて、トークも散らかってしまうんですよね。だからセットで呼ばれないし、TVも出られない。今回の単独は、いい機会になるんじゃないかと。

──今回のライブタイトルは「元友達」。カラテカふたりの関係を振り返った内容になるんですよね。

矢部:ずっと、ふたりのことを振り返って作品にしたいと考えていました。でも、漫画だと僕だけの視点になっちゃう。ライブにしたほうが、入江くんの目線が入って公平になるかなと思ったんです。

入江:今はそれぞれ会社経営や漫画など、複業をしているけど、お笑いがベースにあるんですよね。

カラテカ

カラテカ(からてか)

よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。1997年11月結成。

入江慎也(いりえ・しんや)

生年月日:1977年4月8日。出身地:東京都小平市。

Twitter:@karatekairie

矢部太郎(やべ・たろう)

生年月日:1977年6月30日。出身地:東京都東村山市。

Twitter:@tarouyabe

取材・文/小沢あや(@hibicoto
撮影/鈴木勝