体のどこかが悪いわけではないのに、出勤前の朝がとてもダルい。特に休み明けの月曜朝ともなると、もはやプチうつ状態に…。

「その原因の多くは、脳の疲れにあります」と話すのが、脳神経外科医の菅原道仁さんだ。こうした症状は、現代の社会環境も原因になっていると言う。

そこで菅原さんに、朝のダルさを解消する脳メンテナンス術を聞いた。キーワードは「脳を気持ちよくする」だそうだ。

週末に寝まくると、かえって月曜の朝がダルくなる

菅原道仁
菅原道仁(すがわら・みちひと)。脳神経外科医。菅原脳神経外科クリニック院長。緊急の脳疾患を専門にこれまで数多くの救急医療現場を経験。著書に『一生疲れない人の「脳」の休め方』など。
 
 
 
 
Dybe!編集部男性記者

編集部

朝、「仕事に行くのがダルい……」となるのは、いったいなぜなんでしょう? 決して仕事がすごくイヤなわけでも、体の具合が悪いわけでもないんですが…。

菅原さん

おそらくそれは、「脳の疲れ」が原因です。

疲れというものは、肉体的な疲れと、精神的な疲れの2つに大きく分けられます。基本的に肉体的な疲れは体を休めればとれるのに対し、精神的な疲れは体を休めるだけではとれません。

その証拠に、土日に家でたっぷり寝たのに、月曜の朝がものすごくダルいということがあるのではないでしょうか。

Dybe!編集部男性記者

編集部

そういえばありますね。むしろ土日に寝まくったり、家でダラダラした時ほど、月曜の朝にダルく感じる気がします。

菅原さん

まさにそれは、脳の疲れがとれていないからです。体が休んでいる間も脳は働いているので、ただ休むだけでは脳の疲れはなかなか取り切れないんです。

特に現代人は、昔の人より歩く量も、仕事で体を使うことも減っています。その分、脳の負担は増している。だから精神的な疲れを感じやすくなっているんです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

そうだったんですね。

菅原さん

加えてインターネットの影響もあります。ネットの普及でとても便利になった反面、昔の人よりはるかに多くの情報に日々触れるようになり、そのぶん脳は疲れやすくなっています。

またSNSを見ていると、妬みや怒りなどネガティブな感情を覚えることも少なくありませんよね。そうした感情も脳を浪費させる原因となります。

あとはスマホも一因です。

Dybe!編集部男性記者

編集部

やはりスマホも。

菅原さん

スマホによっていつでもどこでも仕事ができるようになったし、ゲームや動画などのエンタテインメントも四六時中楽しめるようになりました。

それ自体はとても便利で素晴らしいことですが、睡眠時間が削られたり、画面を集中して見続けたりすることで脳に負荷がかかりやすくなっている面もあります。

Dybe!編集部男性記者

編集部

ちょっと耳が痛いです……。

菅原さん

そのため、従来はよしとされてきた「家でゆっくり休む」というような休養法では、脳の疲れに対応しきれなくなってきているんです。それが朝のダルい気持ちにつながっているというわけです。

「活動」することで心身の回復を促す

Dybe!編集部男性記者

編集部

「家でゆっくり休む」だけじゃダメなのであれば、朝のダルさを解消するにはどうすればいいのでしょう?

菅原さん

原因である脳の疲れを取るのが大事ですが、そこでぜひ行ってもらいたいのが、「アクティブレスト」と呼ばれるものです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

アクティブレスト、ですか?

菅原さん

アクティブレスト=積極的休養とは、軽い運動や遊び、旅行など、あえて活動することで心身の回復を促すことです。

対して、何もせず横になるなどして休むことを、パッシブレスト=消極的休養と呼びます。

Dybe!編集部男性記者

編集部

活動しながら回復するということですよね。

菅原さん

はい。仕事で体は疲れているけど、予定に入っていたゴルフや飲み会に行ってみたら、なんだか元気が出た、というような経験があるのではないでしょうか。それはアクティブレストによって心身がリフレッシュできたからです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

確かに、疲れていて外出するのが面倒だったけど、いざ出かけてみたら楽しくて疲れが吹き飛んだ、ということがあります。

菅原さん

欧米の会社では有給休暇は必ず取るものとされていますが、それはちゃんと休養を取らないと仕事の効率が悪くなることをわかっているからです。そして欧米の人たちの多くは、旅先などで積極的にアクティビティに参加し、休暇を能動的に楽しみます。そうすることで心身がリフレッシュするのを、本能的にわかっているのでしょうね。

Dybe!編集部男性記者

編集部

アクティブレストって、重要なんですね。

菅原さん

私も休日は、ジムに行ったり人に会ったりと、なるべくアクティブレストをするようにしています。

Dybe!編集部男性記者

編集部

それでは、アクティブレストの中でも、特に出勤前のダルさを解消できそうなものを具体的に教えてください。

菅原さん

ひとつは、やっぱり体を動かすことですね。ジムに行ったり、ゴルフに行ったりということ以外にも、早足のウォーキングや、スローペースのジョギングなど、少し汗ばむくらいの運動がおすすめです。運動の負荷が高すぎると、逆に体が疲れてしまう場合があるので。

Dybe!編集部男性記者

編集部

軽く体を動かすことで、心身にどんな効果がもたらされるのでしょう?

「感動の涙」が疲れをきれいに洗い流す

菅原さん

人が疲れを感じるのは、自律神経の疲労が大きな原因だと言われますが、適度な運動には自律神経の疲労を回復する作用があります。

また、ウォーキングなどのリズミカルな動きをすることで、脳内物質・セロトニンが分泌されます。セロトニンは情緒を安定させ、自律神経のバランスを整えます。また体を動かすことによる爽快感ももたらしてくれます。

Dybe!編集部男性記者

編集部

セロトニン、すごいですね……。

菅原さん

また、全身の血流がよくなることで、体内の疲労物質が排出され、筋肉のコリもほぐれます。

よくスポーツ選手が練習や試合の後に少しジョギングしたり、試合翌日に軽く体を動かしたりするのも、疲労回復を促すためなんです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

あれはアクティブレストだったんですね。

菅原さん

そしてもうひとつ、脳の疲れを取るのに最高なアクティブレストがあります。それは「感動の涙を流すこと」です。

Dybe!編集部男性記者

編集部

感動の涙ですか?

菅原さん

たとえば映画やスポーツの試合を見たり、本やマンガを読んだりして流す涙ですね。

Dybe!編集部男性記者

編集部

それが、なぜ脳の疲れを取るのでしょう?

菅原さん

感動の涙は、心を揺さぶられる体験によって副交感神経が刺激を受けて活性化し、その結果もたらされます。副交感神経には心身をリラックスさせ、体を修復する働きがあります。泣く行為自体は激しい感情の表れですが、その結果として心と体が大きくリフレッシュされるというわけです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

そんな効果があるんですね。

菅原さん

しかもある研究によると、感動の涙を流すと、その後一週間はストレス緩和効果が続くそうです。だから「日曜日は感動の涙を流す日」などと決めて毎週実行すれば、脳が疲れにくくなり、朝のダルさも相当緩和するかもしれませんね。

Dybe!編集部男性記者

編集部

一週間って、けっこう長く続くんですね。

中には“疲れを増やす活動”もあるので注意

菅原さん

また、涙は流さないとしても、「心を動かすもの」には、同じように副交感神経を優位にして脳の疲れを洗い流す効果が見込めます。美術館巡りでも演劇鑑賞でも好きな人とのデートでもなんでもいいので、自分が心から楽しめるものに努めて触れるようにしてはいかがでしょう。

Dybe!編集部男性記者

編集部

週末だけでなく、時間が許せば平日に触れるのもよさそうです。

菅原さん

ただ、アクティブレストを行う際には、いくつか注意していただきたいことがあります。

まず体調が優れない時は活動を控え、しっかり休養を取ることです。無理に活動を起こしてしまうと、体調をさらに悪化させかねません。

Dybe!編集部男性記者

編集部

無理は禁物ということですね。

菅原さん

それと活動をする時は、きちんと楽しめるものを選んでいただきたいです。人から誘われて渋々出かけたら、楽しめなくてかえってストレスがたまった、なんてことになると本末転倒です。そういう意味では混雑や行列、渋滞にも注意です。一緒に行く人も重要になってきますね。

あと、飲み会にも注意したいところです。

Dybe!編集部男性記者

編集部

飲み会ですか。

菅原さん

楽しいとか、得るものがあるとかであれば飲み会も非常に有効です。でも、なんとなく2次会、3次会に参加してみたものの、あまり楽しめず、収穫も特になく、しかも終電を逃し、最終的にはタクシーで帰ったなんてことになっては、時間的にも金銭的にも大変な損失になります。

Dybe!編集部男性記者

編集部

行く前にきちんと考えたほうがよさそうですね。

菅原さん

それともう1点。朝のダルさはもしかすると心の疾患の可能性もあります。あまりにダルさの程度が強いとか、長く続くとかでしたら、一度医療機関で診察を受けることをおすすめします。会社の産業医制度を利用するのもいいでしょう。

Dybe!編集部男性記者

編集部

あまりにダルい場合は要注意ですね。

菅原さん

あらためて、脳が疲れやすくなっている現代だからこそ、従来の何もしない休養だけでなく、脳に気持ちいいことをして活性化させる「攻めの休養」をぜひ意識してもらいたいですね。そして、すっきりした気持ちで朝を迎えていただければなと。

菅原道仁(すがわら・みちひと)

脳神経外科医。杏林大学医学部卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞など緊急の脳疾患を専門に、国立国際医療センター、北原脳神経外科病院にて数多くの救急医療現場を経験。2015年、八王子市に菅原脳神経外科クリニックを開業。「病気になる前にとりくむべき医療がある」との信条で、予想医学を研究・実践する。近著に『0~3歳の成長と発達にフィット 赤ちゃんの未来をよりよくする育て方』。

Twitter:@michihito1105

WBサイト:菅原脳神経外科クリニック

取材・文/田嶋章博(@tajimacho
撮影/津田聡