あまり親しくない会社の同僚や初対面の客と二人きりの時など、話すことが見つからず、なんとなく気まずくなったことはありませんか? 何か適当に雑談すればいいのだろうけど、口下手や人見知り、内向型の人にはなかなかうまくいきません。
そこでDybe!では、「よく知らない人と話す時の気まずさ」を解消する方法を、うってつけの人に聞きました。自身が無口で悩み、それを克服した経験を持つセールストレーナー・渡瀬謙さんです。
その雑談術は意外なほどシンプルで、あらゆる場面に使えそうな、「技術」でした。
いい雑談とは、自分がしゃべらない雑談


編集部
よく知らない人と一緒になる場面で、気まずい思いをすることがけっこうあります。
たとえば、接点があまりない知り合いと帰り道が一緒になってしまったり。あるいは仕事で名刺交換をした後に、話すことが見つからず変な空気になったり。

渡瀬さん
日常でよくある場面ですね。

編集部
あとは食事や飲みの席で二人で話す時なんかもです。
こうした場面で起こる気まずさを解消する方法を教えてください。

渡瀬さん
それにはやっぱり、雑談術を磨くことです。

編集部
やっぱり雑談ですか。
ただ社交的な人ならまだしも、口下手や人見知りの人が雑談でなんとかするというのは、けっこうハードルが高い気がします。

渡瀬さん
そういう人でも問題なくできる雑談術があるので大丈夫です。その証拠に、子供時代からずっと無口で悩んできた私にもできました。

編集部
そうなんですね。教えてください。

渡瀬さん
わかりました。まず、雑談と言うとがんばってしゃべらなくてはいけないと思うかもしれませんが、そうではありません。むしろしゃべらないほうがよかったりします。
無口な人でも大丈夫だというのも、そのためです。

編集部
え、雑談なのに、しゃべらないほうがいい??

渡瀬さん
むしろこう言い切ってもいいでしょう。雑談とは、「聞くこと」だと。

編集部
「聞くこと」は大事だとよく言いますが、雑談も「聞くこと」なんですね。

渡瀬さん
要は自分が話すより、相手に話してもらうのです。そうすれば自分がペラペラ話す必要はなくなりますし、何よりも相手の心が和み、警戒心が解かれ、コミュニケーションがいい方向に進むからです。

編集部
そうだとは思いますが、相手がそんなに自分から話してくれるかどうか…。

渡瀬さん
あとで話しますが、相手に話してもらう技術があるんですよ。
売れる営業マンほど、聞き上手である

渡瀬さん
雑談というと、こちらからおもしろい話や気の利いた話をどんどんして、場を盛り上げるイメージがあります。でも、それは言ってみればただの“漫談”で、決していい雑談とは言えません。
なぜかというと、それでは会話のキャッチボールが起こりにくく、よほど話がヒットしない限り、相手の心は開きにくいからです。

編集部
一方的にしゃべる人は好かれないですよね。

渡瀬さん
反対に、相手の話を熱心に聞いてあげると、相手は「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれる」「自分に興味をもってくれている」「自分を認めてくれている」というふうに感じます。

編集部
確かに、自分が話をする時のことを考えてみると、その通りですね。

渡瀬さん
そうして話を聞くうちに、相手の警戒心が解け、話を聞いてくれる相手に対する信頼感のようなものが高まっていきます。いったんこうなってしまえば、あとは自然と会話も弾むでしょう。
雑談で目指すべきは、まさにこの状態なんです。

編集部
そこまでいけば、理想的な状態ですよね。
でも、たとえば営業マンって、自分からしゃべりまくって売っているイメージが強いです。なぜそれで売れるのでしょう?

渡瀬さん
実は営業の世界でも、成績を上げている営業マンほど、相手の話をきちんと聞いています。口が上手くてよくしゃべる人も少なくないですが、売れている人ほど本質的には聞き役に回っているものです。
そうやって上手く相手のニーズを聞き出し、かつ信頼を得た後に、ニーズに沿ってピンポイントで商品の説明をするから、セールスにつながるのです。

編集部
渡瀬さんもそれでトップセールスマンに?

渡瀬さん
はい、私はかつてリクルートに入社して広告営業をしていたんですが、口下手で、半年間ほとんど何も売れませんでした。それを見かねた営業トップの先輩が、「俺の営業についてこい」と誘ってくれたんです。

編集部
いい先輩ですね。

渡瀬さん
トークがとても上手な先輩だったので、さぞや面白いことを言って盛り上げて営業するのかと思っていたのですが、なんと、ほとんど自分からしゃべることなく、聞き役に徹して契約を取ったのです。

編集部
え? ほとんどしゃべることなく?

渡瀬さん
はい。後で聞いたら、「お前に、しゃべらなくても契約を取れるところを見せてやりたかった」と言われました。普段はもっとしゃべって営業するみたいなのですが、あえて僕に見せるために、その時はしゃべらなかったのです。
それから僕は、口下手でもできる、聞き役に回る雑談術を身につけて、トップセールスマンになることができました。

編集部
ご自身の体験から来ていたのですね。めちゃくちゃ納得できる話です。
雑談の時に、天気の話はするな!

編集部
でも、肝心なことがまだわかりません。どうやって相手に話してもらうかです。こちらから質問しても、相手にとって興味のない話題だったら、一瞬で会話が終わってしまいそうです。

渡瀬さん
そうですね。だからこそ相手に話してもらうには、いかに相手が話しやすい話題を振るかがカギになります。そして、そのためには重要な「鉄則」があります。

編集部
鉄則とは何でしょう?

渡瀬さん
たとえば、営業や商談、打ち合わせで、ある会社を訪問したとします。そこで先方の担当者と名刺交換をします。ここで気まずい空気にしないために、ちょっと雑談をしたいところです。どんな話題がいいでしょう?

編集部
うーん、天気の話とか?

渡瀬さん
ここでぜひ覚えていただきたいのが、「話題のベクトルを相手に向ける」ことです。

編集部
ベクトルを相手に?

渡瀬さん
要は相手側の話題を振るのです。この場面であれば、「◯◯さんという名字の方に初めてお会いしました。どこかの地域に多かったりするんですか?」とか、名刺の裏を見て「へー、こんな事業もやっているんですね」とかです。
相手サイドの話題ですから、当然相手も話しやすいですよね。少なくとも「はい」「いいえ」のひと言で終わることはまずないでしょう。

編集部
そうでしょうね。

渡瀬さん
名刺以外にも相手の服装、部屋の様子、建物、駅からの道のりであったものなど、そこに行くまでに目に入ったものの中から話題は見つけられます。

編集部
話題の候補がいろいろある場合は、どういう基準で選べば? やっぱりなるべく面白そうなものでしょうか。

渡瀬さん
いえ、重視すべきはやはり、なるべく相手に話してもらえそうな話題であることです。相手に話してもらうことが目的なので、必ずしも楽しいことや盛り上がる話題である必要はありません。

編集部
おもしろくなくてもいい、盛り上がらなくてもいいと考えると、かなり気が楽です。

渡瀬さん
もし話題に迷ったら、相手に近いところの話題を振ります。たとえば駅前で変わった噴水を見て、会社までの道のりで飲食店の長い行列を見て、会社のロビーで変わったオブジェを見たのなら、まずは「1階におもしろいオブジェがありますね。何か会社と由縁があるんですか?」と会社内の話題を振ります。やはり相手に近いものほど、知っていて話せる可能性が高いからです。

編集部
確かに!

渡瀬さん
ちなみにさっき天気の話がチラッと出ましたが、正直、天気の話はしないほうがベターです。

編集部
え、なんででしょう!?

渡瀬さん
天気って、自分も含むエリアの人全てに共通する話だし、ずっと室内にいる人には逆に実感がわかなかったりもするので、“相手側の話”にはなりにくいんです。
だから天気の話を振っても、話はそう広がりません。わざとらしく思われてしまう可能性もあります。異常気象とかであれば、天気の話題もありですが。

編集部
そうなんですね(汗)。いつも天気の話をしていました。確かに「寒いですね」「そうですね」で終わっていた気がします。
「過去の質問」で相手の心をガバっと開く

編集部
今度は電車内での雑談法を教えてください。日常でちょくちょくあるケースなので。

渡瀬さん
電車内では誰が聞いているかわからないので、込み入った話は不向きです。あまり大声でしゃべったり笑ったりする場でもありません。それをふまえると、定番ですが「どちらまでですか?」「そこまでは、何線ですか?」「何分くらいかかります?」などと行き先の話から入るのがいいでしょう。

編集部
ひとまずは間がつなげそうですね。

渡瀬さん
そこから「◯◯駅といえば、駅前に△△がありましたよね」と駅周辺の話題を振ってもいいし、「どのくらい住んでいるんですか?」「ご家族は?」「お子さんは何歳?」「ペットは?」などと家や家族の話を振ってもいいでしょう。
当然電車でも、話題のベクトルを相手に向けるというのが基本となります。

編集部
振った話に相手が興味ないようで、会話が一瞬で終わってしまった場合はどうすれば?

渡瀬さん
話題を外した場合は、また次、また次とどんどん振っていけばいいのですが、もし2~3振ってみて相手が終始そっけないようなら、あまり話したくないんだなと判断するのも一手です。
そんな相手に無理矢理話しかけても互いにいいことがないし、おとなしい人同士の場合、むしろ沈黙の方が楽だったりもします。あえて黙るという選択肢もあることを覚えておきましょう。

編集部
電車といえば、出張などで新幹線で数時間も二人きりになる場面が生じてしまい、かなり苦痛のことがあります。長時間の場合はどうすれば?

渡瀬さん
とっておきの方法があります。相手の過去から現在に向かって話を聞いていくのです。

編集部
過去から現在?

渡瀬さん
たとえば相手が上司の部長であれば「部長は最初から営業だったんですか?」と聞きます。「いや、おれ最初は技術だったんだよ」「そうなんですか! なんで営業になったんですか?」…と会話がどんどんつながっていきます。そこで相手にいろいろなエピソードがあれば、気持ちよくしゃべってくれるでしょう。

編集部
確かに、これなら喜んで話してくれそうです。しかも時間も埋まりそうです。

渡瀬さん
特に人生の転換点というのは、人に話したくなる話題です。
加えて過去の質問は、相手への大きな興味を示すことになります。やっぱり自分の過去を熱心に聞かれたら、こう考えますよね。「こいつ、おれにすごく興味を持ってくれているんだな」と。
過去の話を聞くというのは、車の中や、二人きりの食事、サシ飲みなどの場面でもそのまま応用できます。

編集部
よく知らない人と話す場面の苦痛を解消できる、とてもいいお話をいろいろ聞けました。最後に、こうした「聞く雑談術」を身につけることで、生活がどう変わるかを教えてください。

渡瀬さん
知らない人と雑談をする場面は苦痛の種である反面、聞く雑談術を実行することで、相手に「この人なら何でも話せそうだな」「信頼できそうだな」と思ってもらえる貴重な場にもなります。
私自身も聞く雑談術を身につけたことが、ダメ営業マンからトップ営業マンになる大きな転機となりましたが、もっと早く知っていれば、人生がより劇的に変わっていただろうなと思います。
渡瀬謙(わたせ・けん)
サイレントセールストレーナー。小さい頃から極度の人見知りで、小中高時代もクラスで一番無口な性格。大学卒業後、精密機器メーカーの営業職を経て(株)リクルートに転職。社内では異色の無口な営業スタイルで、入社10カ月目で営業達成率全国トップに。現在は内向型で悩む営業マンの育成を専門に、全国でセミナーや講演などを行う。『“内向型”のための雑談術』など著書多数。最新著書『コミュ力ゼロからの「新社会人」入門 仕事の不安がスッキリ解消! 厳選メソッド49』。
WEBサイト:しゃべらない営業の渡瀬謙サイレントセールスオフィス
Twitter:@kenwatase
取材・文/田嶋章博(@tajimacho)
撮影/津田 聡