Jam

人生はRPG

今から10年前、私は16年勤めていたゲーム会社を辞めました。

副業禁止の会社だった事もあり、何かを新しく始めるにはそこを辞めるしかありませんでした。

そして起業する仲間に誘われて退社を決意しました。

当時は「ドラゴンクエストX」というゲームを作っていました。

壮行会も開いていただき円満退社でした。

部長のご厚意で堀井雄二さんとすぎやまこういち先生の連名サイン色紙をいただきました。

それは今も大事に仕事部屋に飾ってあります。

色紙には”人生はRPG”という言葉と”全休符”が書かれていました。

すぎやま先生が「ゲーム引退しちゃうの? じゃあ全休符だね」と書いてくれたそうです。

粋な人だなぁと思うと同時、「もう後には引けないなぁ……」と思いました。

この時は後にあんな事が起こるとは思っていませんでした。

「人生はRPG……」

住み慣れた故郷から旅立つ冒険者には、必ず苦境が訪れるのです。

フリーランスに強制ジョブチェンジ

9月に退社して10月に仲間が起業した会社に入社する予定でした。

準備期間を経て投資家も決まり何もかもうまく行くと思った矢先、

リーマンショックが起こりました。

それを機に投資家が撤退しプロジェクトの進む方向が激変しました。

会社の立ち上げが保留となり、中心メンバーだから抜けるわけにもいかず、

雇用保険も申請できない状況に…。

そしてプロジェクトのためにお金も貸す形となり、

無休で一年働く事となり……自己破産を覚悟する直前、

働きすぎて体を壊してプロジェクトを抜けました。

今まで築いてきたものが0になってしまいました。

“全休符”で旅立ったゲーム業界……。

前にも進めず後ろにも戻れずリセットボタンも押せず…。

私はならざるを得ない形でフリーのデザイナーとしてスタートする事になりました。

冒険前に詰む

そんなこんなで、私はフリーランスとして活動する事にしました。

幸い一年の間にお金は失いましたが、そこで得た人脈やご縁に支えられ、

なんとか食いつないでおりました。

でも、このままじゃいつ仕事が途絶えるかわからない……。

そこで私より先にフリーランスとして独立した方達にアドバイスを聞く事にしました。

私がこれから冒険に出る村人Aなら、その人達は既に戦っている経験者、

どうか導いてほしい……。

「絵の上手い下手より営業ができないと仕事は取れない」

「数打ちゃ当たるで飛び込み営業をする」

「それでも仕事が取れない事が多いからアルバイトと兼業で始める」

……という啓示をいただきました。

村人Aな私はお金の心配もあり、まずアルバイトを始めました。

ただ、いくつかのバイトを経験してわかった事は……、

私がものすごく接客や営業に向いてないという事です。

実戦で営業を武器に戦ってる人たちでさえ仕事が取れないと言ってるのに……

ひのきの棒も使えない私がどう戦えというのでしょう?

冒険を始める前に詰んだ気がしました。

好きな事をしてください

そんなある日、某所の忘年会で尊敬するデザイナーさんと同席する機会を得ました。

その時の私は……「営業ができないとデザイナーとして生きていけない……」

常にそのことばかりを考えてました。

そこでお酒の席という事もあり勇気を出して聞いてみました。

「◯◯さんは、どうやって営業をしてますか?」

それに対する返事は……驚くものでした。

「ぼく、営業した事ないです」

営業が必須だと言われてきたのに

憧れのその人は営業をした事がないと言っている……。

これが勇者と呼ばれる選ばれし者なのだろうか……?

そこで自分がフリーになったばかりで、営業が必須だと言われ悩んでる事を話しました。

それでもその方は『好きな事をやってれば仕事は来ます』と穏やかな顔で言いました。

(あなたはすごい人だから好きな事をしても仕事が来るんじゃ…)

…と、ひねくれた事も考えました。

でも、どんなにすごい人も始めからすごかったわけではありません。

勇者だって冒険の始めはレベル1です。

「あれをしないとダメ」「これができないとダメ」が真実なら、

今の時点で私はダメでダメダメで未来に光なんかないのです。

だったら一度試してみようと思いました。

“好きな事”について初めて真剣に考えました。

好きな事を始めたら仕事が来た

その後紆余曲折はありましたが、結果だけ言うと……、

フリーランス10年目の今も一度も営業する事なくお仕事をいただいてます。

好きな事をしようと決めた途端、それ以外の悩みやプライドがどうでもよくなりました。

なんとなく言いづらかった退社後の失敗も正直に周りに話せました。

それにより仕事を紹介してくれる人が現れました。

“好きな事をするために”と思うと苦手な仕事が来ても真剣に取り組む事ができました。

その後は手が空くと偶然声をかけられ……

その繰り返しで不思議とお仕事の縁が途切れませんでした。

好きだった漫画やペン画を外に向けて発信したところ、

書籍のお誘いや執筆のお誘いをいただくようになり、昨年は初の書籍も出版させていただきました。

好きな事を始めたら本当に仕事が来てしまいました。

好きな事をしたほうがいい理由

今だから思うのですが、”好きな事をする”って、実は苦手な事をするより大変でした。

失敗した時の挫折感が半端じゃなかったし、向いてない仕事以上に自分の無力を認めるのが悔しかった。

でも、好きだから誰に何を言われても止めたくないし、続けたいと思いました。

そして”続ける”という事は”止めない”という事で、止めなければ経験が増えていくわけで……

少しずつ「好きで続けられる事」に変わっていくのだと思います。

人生は長いです。私もこの先の人生はどうなるかわかりません。

実のところ、どんなアドバイスを聞いても絶対に生涯上手くいく保証はないと思ってます。

嫌な事をしてれば安泰とは限らないし、好きな事をしたら失敗するとも限らない。

だったら人生で一度でもいい。「好きな事」をしてみませんか?

私のように何かが変わるかもしれません。

この記事を書いた人

Jam

Jam

ゲームグラフィックデザイナー。イラストレーター。漫画家。日常で起こる人間関係の悩みを描いたマンガ「パフェねこシリーズ」がTwitterで累計50万以上リツイートされるほど話題になる。書籍化されて『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。』として発売、8万部を突破(2019年2月現在)

Twitter:@jam_filter