お金がほしい。
私のキャリア観はとてもシンプルだった。

なぜお金がほしいか。
その答えもシンプルだ。
私は、親から逃げたかった。

親から逃げる子は、新卒で高い給与を求める

これまで1,000人以上の人生相談を聞いてきた経験から申し上げると、

新卒でわざわざリスクのある外資やメガベンチャーへ入りたがる学生の中には「親から逃げ出したい子」が一定数いる。

親の借金、DV、アルコール依存、うつ、宗教から逃げ出したい子にとって、就職で自立する資金を手に入れるのは死活問題だ。

私もまた、同様の子どもだった。母は「自称・神が憑いている」人間。

幼いころから魔術や霊感の世界にどっぷりつかる母に苦しんだ私は、親から離れられる、高所得で能力主義の外資系企業を選んだ。

そこからフリーランス、そして経営者へ

そんな私がフリーランスになったのは、前夫のイギリス転勤へ帯同するためだった。

私は外資系企業のマーケティング部門で楽しく働いており、それでも仕事をやめてついていきたいほど愛した夫がいた。

しかし私には駐在員の妻になる素質がまるでなかった。

お茶会で上司の奥様を上手に讃えるどころか空気を凍らせる達人だ。

なんせ、自分の上司だって凍らせてきたんだから。

貴重なことに、夫の会社が共働きに寛容だった。

伝統的な日系企業では、駐妻の就業を禁止している。それも「前例がないから」という理不尽な理由でだ。

うっかり先進国にでも駐在しようものなら、上がり続ける都心部の物価を夫1人が支えねばならない。

その点、前夫の会社はありがたかった。

私は引っ越してすぐ、フリーランスのマーケター、ライターとして働き始めた。

イギリスに4年留学していたので英語がもともとできる、というスキルのおかげで無事に現地でも案件を獲得し、日本では恋愛コラムニストとなった。

そして年商が800万を超えたころ、「法人成り」を知った。フリーランスでは経費計上できる金額に制限がある。さらに法人のほうが人を雇用しやすい。

そんな背景から、私は法人成りを果たした。

稼げども、稼げども。現金が得られない

法人成りして、マネージャーを雇い、案件を増やし……。

取引先はどんどん増え、業績は順調。

しかし私は稼げども稼げども「幸せ」にはなれなかった。

まず、経費の割合が膨大になった。

お金を稼ごうと思えば「原稿を納品してお金をもらうライター」だけでは限界がある。

講演に出る、教室を経営する、新規事業へ投資する、など……やることはどんどん増えた。

次に、「仕事をしてからお金を手にするまで」の期間が延びた。原稿を書く仕事はシンプルだ。納品すれば原則として翌月にお金が振り込まれる。

だが大型案件は取材や下調べが多いため、謝礼が多額でも支払いは遅い。

たとえば同じ2,000文字の原稿を書くとしよう。「過去の経験をもとに人生相談のコラムを書きます」と「官公庁と提携してイベントを企画し、開催後にレポを書きます」では労力の差が大きく変わる。

新規事業への投資や書籍化は特に、現金が手に入るまでが遠い。書籍は「書きましょう!」と言い出してから発売まで約6カ月かかる。そしてライターたるもの、それまで食いつながねばならないのだ。

投資家がいるわけでもない自分にとって、「働けば働くほど手元のカネが減る」のは大きなストレスだった。

税金、そして労働時間との闘い

それでもせっせと働く私に、イギリスの高額な所得税が降りかかった。イギリスの所得税は笑えるほど高い。帰国してから、日本こそタックスヘイブン(租税回避地)だと思った。

さらに引っ越し前の家に届いていたらしい「払い損ねた社会保険額」ウン十万円一括払い。住民税、社会保険料、消費税、源泉所得税……。これらは法人として支払うので、さらに個人としての住民税、社会保険料……と、どれが払い済みで、どれが払えていないかすらわからなくなることがあった。

(突然「わたし、なにか滞納してませんか?」と電話する私へ丁寧に対応してくださった大田区役所、大田年金事務所の方ありがとうございます)

会社員だったころとは比較にならないほど、税の種類も多く煩雑。

税金だけではない。労働時間も伸びた。

原稿を書く時間は1日4時間。

メールの返信に2時間、会計業務1時間、プレゼン資料作り4時間、打合せ2時間、それから飲み会……。

会社員なら「経理」「営業」「事務」「総務」「経営企画」はそれぞれ担当がやる。私はたとえば経理が大の苦手だが、それを会社なら誰かがやってくれる。

しかしフリーランスになれば、経費精算して、自分の法人から個人口座へ振り込み、請求書を作り、もらった請求書を期日までに振り込み、納税し……といった作業は全部自分の作業。

これが思いのほか時間を取られる。

本当に死を意識した。鬱ではなく、過労で。

フリーランスのメリットと、その裏側

「フリーランスや自営業者は、自分で仕事量をコントロールできる」

本当だろうか?

たとえばいま妊娠したら、私はしばらく失職する。

それくらいのたくわえを常に意識せざるを得ないのは、フリーランスや零細経営者あるあるだろう。

フリーランス女性の2人に1人は、産後1か月以内に復帰する。(※)

確かにフリーランスは働けば働けるほど稼げる。

だが、働かなければただの無職だ。

外資系企業には「産後1週間で復帰」など、ありえないバイタリティを発揮するキャリアウーマンもいる。

だが、法に守られたければ、産休育休をしっかりとれる職場を選ぶこともできる。

それが会社員だと痛感した。

もし、私の右手が明日事故で吹っ飛んだら。

もし、私の目が見えなくなったら。

私はいま、パートナーを養っている。

だからパートナーもろとも、路頭に迷うだろう。

フリーランスで稼ぎたいなら「宗教家」になればいい

これから逃れるには、「フリーランスの宗教家」になるしかないと思った。

恋愛コラムニストの私が、もし「年収1,000万の彼を引き寄せる祈りの言葉」や「子宮が語るあなたの運命」を伝えれば文字を書かずとも、音声配信だけで生きていけるかもしれない。

ライターでなくとも、カネが稼げる情報商材を売ったり、プログラミングで人生逆転講座を開いたり、宗教家になれば喉がつぶれるまで生きられる。

だが親が宗教家で悩まされた私にとって、それは選択になかった。

まっとうな占い師ならまだわかるが、教祖はどうしてもできなかった。

だから私は体を壊す前に、仕事を減らす決断をした。

この記事が公開されるころには、私が書く原稿量は従来の半分以下になっているだろう。

会社員最高、へ至るまでの道

私はいま、零細の経営者をしながら、実質フリーランスとして働いている。

しかし、会社員をやめる前から、「脱社畜」はできていたかもしれない。

脱社畜とは、会社に振り回されない生き方だ。

自分でキャリアを決め、描き、実現していくこと。

それは会社に所属しながらでもできた。

会社を辞めても20代でフリーランスになれるくらいのマーケターとして、私を鍛え上げてくれた新卒の会社に、感謝している。

もちろんそれをさせてくれない会社もある。

自分を振り回す会社から離れ、自分を育ててくれる会社へ転職するスキルを磨くことも

「脱社畜」の第一歩だろう。

だが一時の私のように、フリーランスでも目の前の仕事に追われ倒れそうになっているなら、それは「社畜」から社が取れただけの「畜生」ではないだろうか?

フリーランス「でも」経営者「でも」会社員「でも」生きられること。

それこそが脱社畜であろう。

そしてこれを読むあなたには、いまいる場所が何であれ、脱社畜をしてほしいと願っている。

※参考記事:「産後1カ月で仕事に復帰する割合は、44.8% フリーランス女性の出産・保育に「セーフティネットを」の訴え | ハフポスト