つらい仕事からつい逃げたくなる、フィットネスジムに入会したけど続かない、何でも思うように結果が出ないとすぐ投げ出したくなる……。そんな弱い自分を「今のままでいいの?」と思っている人、少なくないと思います。

そこで今回、Dybe!は世界レベルの強さを持った人にお話を伺いました。大学3年でプロデビュー、勝負師として格闘技界に身を置いて15年。DREAMライト級王座、ONE世界ライト級王座など、世界の舞台で戦って、さまざまなタイトルを獲得してきた総合格闘家の青木真也さんです。2019年5月には36歳を迎えますが、「今が一番コンディションがいい」そう。

強さを象徴する格闘家という職業を選び、多くの実績を残してきたにも関わらず、青木さんは、「自分は弱い」「試合するのは怖い」と自分の弱さや苦悩を包み隠さずにさらけ出します。

自らの生き様を通じて、うまくいかない人や弱い人たちの希望でありたいと語る青木さんに、自分の弱さとの向き合い方や、格闘技を仕事にすることの意味について伺いました。

僕は「怖くない」というヤツを嘘つきだと思ってます

青木真也
青木真也(あおき・しんや)。1983年生まれ。早稲田大学に在学中、柔道から総合格闘技に転身し、「修斗」ミドル級世界王座を獲得。大学卒業後に就職した静岡県警を2カ月で退職。総合格闘家として活動を再開し「DREAM」「ONE FC」などで世界ライト級チャンピオンに。

──青木さんは、自分のことを「弱い」と言われていますが、格闘家にはめずらしいタイプのような気がするんです。

青木真也さん(以下、青木):僕は強くないし、才能があるわけでもないんですよね。すぐに不安になるし、つらいし、やめたくなる。そんな自分をいいとは思えないし、認めたくないし、克服したい。弱いから、そうやって自分と闘い続けてきました。

──自分の弱さと向き合っているということですね。

青木:あと、自分の弱さを表に出すのが、悪いことだとは思ってないんですよ。格闘技やってると、「怖い」って感情は必ず湧きますからね。

──試合を控えている時期って、恐怖とどう戦ってるんですか?

青木:大会の2〜3カ月前に試合が決まってからは、恐怖と押し合いへし合いしています。でも、逃げられないし、逃げるつもりもなくて、ただただやり過ごしてる。逃げたらいいものは絶対にできないですから。恐怖と闘ってないヤツが作るものを人は見ないでしょ、って僕は思ってて。感情移入できないですからね。人の心は動かせない。

──逆に「(試合が)怖くない」とアピールする人もいますね。

青木:僕は「怖くない」と言うヤツを嘘つき、詐欺師だと思ってますよ(笑)。本当に怖くないって思ってるヤツがいたら、むしろ心配になるよね。僕は怖いです。それに「怖くない」と言ってしまうと、見ている人は「自分とは違う人間が闘っている」と思ってしまうんです。

──「自分とは違う人」には感情移入できない、と。

青木:みんな弱いし、僕も弱い。僕は自分が弱いことを知ってるけど、その弱さを認めたくない。だからやるしかない。闘うしかないし、働くしかないんです。僕は、僕みたいに自分の弱さを克服したいって思ってる人たちの希望でありたいから、これから先も闘うしかないと思ってます。

──本当にストイックですね。辛くないですか?

青木:辛いですよ。生きるのって辛くないですか? できれば明日にでも逝ってしまいたいけれど、生きるしかないから毎日全力で生きてます。

格闘技には中毒性がある。だからやめられない

青木真也
「弱い自分を認めたくないから闘い続けている」と語る表情は、どこまでもストイックだった。

──青木さんも昔から参戦している「ONE Championship™」(シンガポールを拠点とする格闘技団体)が2019年3月31日、両国国技館で日本初の大会をしますよね。試合が決まっていますが、今はどういう気持ちですか?

青木:やりたくない!(笑)。「イヤだな」って感じです。でも、決められた日に、今できる最高の試合をしないといけない責任がある。だからいつも通り練習をするだけです。

──本番が近づくにつれて、心境はどう変化していきますか?

青木:本番直前、試合の2〜3日前には、すべてがどうでもいいなと思うようになります。お金のこととか、仕事のこととか、生活に関わる雑務とか、普段考えていることがホントにどうでもよくなるんです。達観しちゃう、って言ってもいいかもしれない。もう何もいらねえな、みたいな感情にもなるし、思考すらしなくなって無の状態になります、その時期は。

──ちょっと想像しにくいのですが、どういう感覚なんでしょうか?

青木:たとえば「海外試合の場合、控え室で盗難とかないんですか?」って質問されたことがあるんですけど、そんなことどうでもいいんですよ。今からすべてをかけた試合で、死ぬかもしれないっていう時に、財布やパスポートが無くなったら……なんて考えるわけがない。まさに極限状態、“無”の状態なんです。抱えていたすべてのことがどうでもよくなる。

──想像を絶する状態ですね。試合が終わってからはどうでしょうか?

青木:ものすごい解放感があります。人って苦痛から開放される瞬間に快楽を感じるんです。試合の極限状態から解放される瞬間は、ものすごい快楽がありますよね。勝っても負けても気持ちいいもんですよ。限界ギリギリまでサウナに入った後の水風呂って気持ちいいじゃないですか。あの関係に似ているかもしれません。

──サウナと水風呂ですか。

青木:この快楽があるからやめられない。僕はまだこの先に、今まで感じたどんな快楽をも超えるものが待っていると信じてるので(笑)。そう考えると、格闘技って中毒性がある。麻薬みたい。好きだからずっとやりたいし、闘い続けたいと思っています。

格闘技の経験を「翻訳」するのが自分の役目だと思う

青木真也
「格闘技って中毒性がある」と楽しそうに語る青木さん。全身から格闘技への愛が伝わってくる。

──今は選手として大会に参戦するだけではなく、試合の解説やメディアへの寄稿、テレビ出演にプロレス参戦……と多岐に渡る活動をされていますね。仕事のオファーを受ける・受けないの基準はあるんですか?

青木:「青木が必要」と言われるなら、基本的に全部受けて、すべて一生懸命やります。僕、仕事を断ったことはほとんどないです。どれが当たるかわからないけど、どんな仕事であれ反響があると嬉しいし、気持ちが高揚する瞬間をたくさん経験してきたから。

──格闘技はある程度の知識を持っていないと楽しめない部分があると思いますが、青木さんは、誰にでも理解できるよう、ご自分の言葉で伝えるのがうまいですよね。わかりやすい説明をしてくれる、というか。

青木:スポーツになぜ価値があるかといえば、たとえば記録を出すに至る過程や葛藤、試合の緊張感やそこで生じるさまざま感情を、見る人が自分に置き換えて感じることができるからだと僕は考えています。

──そうですね。スポーツの感動は自分に置き換えて感情移入するから生まれるんでしょうね。

青木:試合に至るまでの過程や試合で抱いた感情を、試合を見る人たちの人生に置き換えて、彼らの実生活で生かせる形に「翻訳」したい。僕はこれを「横移動」って呼んでるんですけど、それができたら、格闘技に新しい価値が生まれるんですよね。格闘家が格闘技だけやっていても、それ以上の価値は生まれないんです。

──たしかに、青木さんは翻訳家に近い役割を担っているのかもしれません。格闘技界の中と外とをつなぐパイプ役というか……。

青木:何かを人に伝えるのが好きだし、格闘技も表現活動なんです。僕の強みは格闘技を知らない人にもわかりやすく伝えて、その人の人生に横移動させられることだと思います。逆に、全然違う分野の人から聞いた話を自分に横移動させることで、格闘技に活かせることもあります。

自分の言葉でわかりやすく語れるようになりたい

青木真也
「何かを人に伝えることが好きだし、格闘技も表現活動なんです」。青木さんは自分が生み出す「価値」について、とても真剣に考えている。

──仕事をする上で、その考え方って大切ですね。青木さんの著書『空気を読んではいけない』(幻冬舎)って、一般的なアスリートの自伝本とは全然違うんです。単にご自身の記録を綴っているんじゃなくて、どんな人が読んでも何かしらヒントを得られる「生き方」が書いてあると感じました。

青木:買う側からすると、1000円払ったら1000円以上のものが返ってこないとイヤでしょ。だから、僕が格闘技を続ける中で経験してきたこと、考えたことを、みんなが使える内容に落とし込んで書いたつもりです。

──どう落とし込むか、かなり意識して言語化されているのでは?

青木:自分の言葉でわかりやすく説明できる人になりたい、と中学の頃に思ったんですよね。

──何がきっかけだったんでしょうか?

青木:柔道の先生の指導を聞いていて、「えっ?」と思った瞬間があったんです。膝の裏を「ひかがみ(膕。膝の後ろのくぼんでいるところを指す言葉)」って言ったんです、その人。

──ひかがみ? 初めて聞く言葉です。

青木:昔の教則本では、膝の裏のことを「ひかがみ」って書いてるんですよ。でも、今はもちろん僕が中学の頃も、ひかがみなんて言う人はいないし、もっと別の表現があるだろって。わかるように伝えようっていう考えがないからそうなってしまう。それってダサいと思いましたね。

みんなと同じ方向を向けない、うまくやっていけない子どもだった

青木真也
中学生の頃に抱いた「自分の言葉でわかりやすく説明できる人になりたい」という思いが今の活動につながっている。

──反面教師にしたわけですか。学校では青木さんって、どんな子だったんですか?

青木:あまりいい思い出はないな(笑)。大勢の中でうまくやっていけない子でした。みんなと同じ方向を向けないというか、「なんでみんな一緒じゃないといけないんだろう?」と疑問に思っちゃうタイプ。先生からは疎まれる存在でした。「面白い子」「変わった子」と好意的に受け止められたことはなかったですね。

──先生に「それ、おかしくないですか?」みたいに反論したりも?

青木:ひかがみの話に通じますが、先生が言うことを真に受けずに、「でも、違うんじゃない?」と思考する子でした。「なんで?」「どうして?」と考えるクセは、今も変わらずありますよね。

──子どもの頃って、「先生の言うことは正しい」と思いがちですし、「違うんじゃない?」と思っても口に出せませんよね。

青木:僕はシニカルに見てましたね(笑)。教則本をたくさん読んでいたから、先生たちよりも自分のほうが知識があると思ってましたし。だから部活中に「こいつ、わかってねえな」「その練習ってどうなの?」と感じたら、独自の練習をしてましたね。常に自分の頭で考えて、自分が一番良いと思える練習をする、というのは、プロになってからも変わらないです。

自分の「持ち場」で一生懸命やれることがあれば幸せ

青木真也
青木さんの話し方はとても穏やか。そんな中にも鋭い表情が垣間見える。

──青木さんは元警察官ということですが、今のお話を聞いて思うんですけど、警察のような上下関係の厳しい組織で働くのは向いてないのでは……?

青木:だよね(笑)。大学卒業後、警察官になったんだけど、2カ月で辞めました。上官の指揮命令が絶対という組織の中で、自分が抑圧されて生きていくことが辛すぎて無理だったから。

──厳しい組織なんでしょうね。

青木:でも、若い時は「俺はできる」と思っちゃう。それが若さってもので。警察官の仕事と比べると、格闘技はラクですよ。「試合をやりたくない」っていう気持ちと矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、根底に好きっていう気持ちや愛があるから、毎日の練習を辛いと感じることはない。

──格闘技がラク? いやいや、格闘家ってすごい仕事だと思いますよ。

青木:全然すごくないですよ。僕は他のことができないから、格闘技をやってるんです。ただ、さっきも言ったようにベースには格闘技への愛があるし、自分にとって大切なものだから、15年も続けてるわけですけど。

青木真也
「自分の弱さを克服したい」という青木さんの目線は、優しく温かかった。

──そこまで大切に思える好きなことを仕事にしたいと憧れる人は「Dybe!」読者にも多いです。一方で、今の仕事が好きではないことに引け目を感じる人もいます。そういう人に何か助言をするとしたら……。

青木:「好き」を仕事にすることを賞賛する風潮って、けっこう暴力的だと僕は思うんですよね。だって、そうはできていない人のほうが多い中で、好きを仕事にしている少数の人のほうが上だと思ってる世界観ですよ。一部の恵まれた人をすごいと持ち上げて、その他大勢を小馬鹿にするような考え方はどうなのかな。

──なるほど。

青木:それから「会社員よりも独立するほうがいい」みたいな論調も違うと思っています。「適材適所」っていう言葉があるように、人には向き不向きがあるし、それぞれ「持ち場」があるから。組織に所属して働くのも、僕みたいな働き方をするのも、どんな仕事をするにしても、どれが良いとかすごいとか、そういうもんじゃないと思うんですよね。やっていることが自分に合うか、合わないかが大事なんじゃないかな。

──青木さんの目線は温かいですね。

青木:好きなことを仕事にできたら幸せかもしれないけど、必ずしも好きを仕事にしないといけない、とは思わないんです。休みの日とか空いている時間に、好きな趣味を楽しむのもいいじゃないですか。自分の持ち場を見つけて、そこで一生懸命取り組めることを、自分に合う形でやるのが幸せなんじゃないかって、僕は思っています。

青木真也

青木真也(あおき・しんや)

1983年、静岡県静岡市出身の格闘家。小学生の時に柔道を始め、2002年に全日本ジュニア強化選手に選抜される。早稲田大学に在学中、柔道から総合格闘技に転身し、「修斗」ミドル級世界王座を獲得。大学卒業後に就職した静岡県警を2カ月で退職。総合格闘家として活動を再開し「DREAM」「ONE FC」などで世界ライト級チャンピオンに。著書に『ストロング本能』(KADOKAWA)『空気を読んではいけない』(幻冬舎)がある。

Twitter:@a_ok_i

Instagram:@shinya050983

取材・文/池田園子(@sonoko0511
撮影/鈴木勝

【修正履歴】記事タイトルを変更しました。(2019年2月25日12時00分)