「何か面白い話ないの?」。会社の先輩や彼女に無茶振りされて、必死で面白エピソードを話したのに、まったくウケずにしらけてしまった……。なんて経験ありませんか?

そんな苦い経験はもうしたくない……。そこでDybe!では、お笑い芸人のトークがなぜウケるのか、その秘密を研究している人に話を伺いました。人気放送作家で、芸人養成所の講師としても活躍する田中イデアさんです。

深夜ラジオにハマっていたことから放送作家の仕事を始めたものの、以前は人と話すことが苦手で「どうしてこんなに話せないんだろう……」と思い悩んでいたという田中さん。これじゃダメだと、お笑い芸人のトークを研究したところ、「面白いトークには法則がある!」と気づいたそうです。

今ではトークで笑いを取ることが快感だという田中さんに、特別なテクニックがなくても使える「すべらないトークのコツ」を聞いてみました。

きちんとリアクション取ってますか?

田中イデア
田中イデア(たなか・いであ)。放送作家、クリエイティブ集団「プラトン企画」代表。若手芸人の発掘や育成を目的として、お笑い芸人養成所で講師、ネタ見せの活動を行う。

──「何か面白い話はないの?」って先輩に無茶振りされて困ってます。なんとかしてください。

田中イデアさん(以下、イデア):なんとかしてくださいって、それも立派な無茶振りですよ(笑)。

──すみません。でも、面白い話ができるようにならないと……。

イデア:わかりました。でも、面白い話ができるかどうかの前に、まずは無茶振りされないようにすることも大事です。そもそも無茶振りされやすい人ってどんな人だと思いますか?

──うーん……、僕みたいに気弱な人でしょうか?

イデア:実は、リアクションの薄い人や、ぼーっとしてる人が標的になりやすいんです。「お前、ずいぶん静かだな。何か面白い話でもしろよ!」という感じですね。

──え? 昨日、まったく同じ経験をしました……。

イデア:で、面白い話をするどころか、あたふたしているうちに別の人に振られてしまう。それでおしまいならいいんですが、後々「あいつはダメだ」みたいに言われちゃうから怖いですよね。

──きっとそう言われてると思います……。

イデア:聞く側としては相手の話に対して、「へぇ、そうなんですか!」「勉強になります」などと、きちんとリアクションを取ることが大切です。話してる人も気持ちいいし、悪目立ちすることもありません。

──逆に、リアクションが下手で変に目立つなんてことは……。

イデア:そんなことありません。よっぽどズレたリアクションなら別ですが、何もせずボ~ッとしているというのは、アイドリングができていない状態なんです。普通に話を振られてもついていけませんよね。まして面白い話だなんて、アイドリングなしにいきなりトップギアに入れようとするのと同じ。そもそも無茶ですよ。

ネタ探しのコツは「アニキとタケシがカコ住職」

──それでも話を振られちゃった時はどうしたらいいでしょう。

イデア:まずは日頃からネタを用意しておくことです。芸人さんはトークのネタをたくさん持っていますが、芸人だからって特別面白い出来事があるわけじゃありません。彼らは常にネタを探してストックしているんです。

──常にネタを収集してるわけですね。

イデア:普段からアンテナを張っておきましょう。「アニキとタケシがカコ住職」って覚えておくといいですよ。

──アニキとタケシ……?

イデア:ネタ探しをする時のキーワードで、「遊び」「ニュース」「季節」「友達」「旅」「健康」「仕事」「学校」「家族」「恋人(恋愛)」「住居(暮らし)」「食事」の最初の1文字を並べたものです。トークのネタって、ほとんどがこのどれかに当てはまるはずなんです。

──たとえば「遊び」だったら、どうやって探せばいいんですか?

イデア:「遊び」の場合は、今自分がハマっている遊びや最近遊んだ人やもので何か面白いことはなかったか? または過去を振り返って、子どもの頃の遊びで何かなかったか? と思い出してみるのもアリです。

「共感される」ネタを選ぶことが大切

田中イデア
芸人養成所の講師もしているイデアさんだが、以前は人と話すのが苦手で悩んでいたという。

──アニキとタケシなら何でもいいわけじゃないですよね。ウケるネタ、ウケないネタを見分ける方法はありますか?

イデア:大前提として作り話はダメです。話を少しくらい「盛る」のはOKですが、「ウソだ」って気づいた瞬間に聞き手はシラけてしまいます。たまに、プロの芸人さんで、「10」を「100」くらいに盛れる人もいますが、それはきちんと自分の頭の中で、まるで映像のようにリアルなストーリーができあがっているからです。我々素人は、盛りすぎると自分の中に映像が作れず、質問された時などに、すぐにボロが出てしまいます。

──ただのウソつきになっちゃいますね。

イデア:ネタの面白さだけでウケるのは難しいので、クスッと笑える程度のエピソードでいいんです。ただし、「共感」をキーワードに考えてみてください。それができれば、爆笑は取れなくてもすべってつらい思いをすることはなくなると思います。

──共感ですか?

イデア:たとえば、自分が恥ずかしい思いをしたとか、つらかったという話をすれば、「それは恥ずかしいよね」とか共感してもらえて笑いが生まれやすくなります。ネタを選ぶ時は「共感されるかどうか」が一番大事なポイントですね。

──つらかったり、恥ずかしかったりという話がいいんですね。

イデア:そういえば……、妊娠中の妻と2人で散歩していた時のことです。公園のベンチに妻を座らせて、「飲み物を買ってくるよ」って自動販売機に向かったんです。すると、妻が大きな声で「コカインの入ってないやつね!」って。

──えっ?

イデア:僕も周りにいた人たちも、「えっ?」ってなって。そうしたら、妻が「妊娠中はコカイン入りダメなんだよ!」ってまた叫んだんです。「いやいや、妊娠中じゃなくてもコカインはダメだから」ってあわてて答えたんですけど、もうびっくりしたし、むちゃくちゃ恥ずかしかったですよ。

──あはは(笑)

イデア:妻自身は、完全にカフェインと言ってるつもりだったんですね。こうした恥ずかしさや焦りは誰でも共感できることだから、素直に笑ってもらえることが多いんです。

──たしかに、イデアさんのあわてる様子が浮かんできました。

イデア:ネタをストックしたら、それを使う場面にも気をつけましょう。ひな壇形式のバラエティ番組で、若いタレントさんとかが「こんなことあって」とエピソードを披露した後に、場の空気が「……」って感じになることってありませんか?

──あります。僕も話した後に「あれ? 空気が変わった」って感じることが多いです……。

イデア:ああいうケースはだいたい、「なんとか爪痕を残したい」って頭がいっぱいになって、話の流れを無視して準備してきたネタをぶち込んじゃうことが原因なんです。

──やっちゃったな……って感じですよね。

イデア:さっきのコカイン話も、共演者に、子どもが薬物で捕まった大御所芸能人が居た場合、その人の前で話すと、周りは「……」ってなってしまいますよね。共感を呼ぶネタを、空気を読んで話すことが大切です。

お笑いの秘訣は「緊張の緩和」にあり

田中イデア
「妻自身は完全にカフェインって言ってるつもりだったんです……」と語るイデアさん。

──他に何か注意することはありますか?

イデア:よくやってしまうのが、話す前に自分でハードルを上げちゃうことです。

──どういうことですか?

イデア:たとえば「先日、すっごく面白いことがあって」とか「最近、めっちゃ爆笑したんだけど」って前置きして話し出す人がいますね。こうした言葉は相手の期待を高めることになるので、笑いのハードルが上がってしまいます。

──たしかにやりがちですね。逆に「あまりトークは得意じゃないので……」とハードルを下げて話し始めるのはどうでしょうか。

イデア:上げるよりは下げたほうがいいですが、そう言われても聞く側はどうしようもないですよね。話す本人がそれで気が楽になるならOKですが、それ以外に意味はないと思います。

──むずかしいですね。

イデア:落語家の桂枝雀さんが言ったことなんですが、お笑いには「緊張の緩和」理論があります。笑いは緊張(不安)から緩和(安心)に変わった瞬間に起こるというものです。

──たとえばどんな話になるんでしょうか。

イデア:たとえば、「父と喧嘩していたアラサーの姉が仲直りのきっかけに『今度のお父さんの誕生日プレゼント、何欲しい?』とLINEした。しばらく既読スルーされ、まだ怒っているのか? と思ったら(不安)、2時間後にひと言『孫』と返ってきた。(安心)」といった展開です。

──たしかに、不安や緊張が安心に変わる話ですね。怒って無視していたのではなく、本当に欲しいものを考えた結果が、孫の顔が早く見たいってことだったってわけですね。

イデア:逆に「安心から不安」でも緊張の緩和は成り立ちます。たとえば、「近所の中華屋でチャーハンを頼んだら間違えて醤油ラーメンが届いた。『頼んだのはチャーハンだけど、コレでいいです』と言い食べていたら、店主があわててチャーハンを持ってきた(安心)。ところがお会計で2品分請求された。(不安)」といった流れがそうです。

──お店側が間違えたのに、2品分払うとかイヤですね!

イデア:この話を細かく見ていくと、一度間違えられた時に(不安)になります。その後、店主が慌ててチャーハンを持ってきてくれたことで(安心)に変わります。しかしお会計の時に、2品分の代金を請求されたことから(不安)になるわけです。店主のミスで2品きたけど、チャーハンの料金しか取られなかったという話では、当たり前なので誰も笑いませんからね。

話す時は全力で感情を込めて話す

──ちょっと復習させてください。話の流れに合った「共感されるネタ」を、「緊張の緩和」理論を使って話すということですね。

イデア:その通りです。さらに、話す時には感情を込めて話すといいですよ。芸人さんのトークを聞いていると、「ほんまムカつくわ」とか「もう超ハズくて」と感情表現がわかりやすいと思いませんか?

──たしかに!

イデア:そもそもトークが苦手な人は、話に感情が入ってないことが多いんです。さっき、ネタ探しには「共感」が大事という話をしましたが、どんなにいいネタでも感情が入らない棒読みだったら誰にもウケません。

──感情がないと共感できない。だから笑えない、ということですね。

イデア:芸人さんは当たり前にやっていますが、身ぶりや手ぶりなど大げさな動きをしたり、表情の変化で感情を表したりすることで、臨場感あふれるトークになります。思い切り感情を込めて話せば、自然と体が動いて表情も変化しますから、より共感を得やすくなりますよ。

──そういえば、芸人さんのリアクションは大きいですね。

イデア:他にも「驚いた」というのを「ドキっとした」といった擬態語で表現したり、ただ「ぶつかった」だけでなく「ドッカーンとぶつかった」と擬音語を使ったりするのもおすすめです。

──他にもおすすめのテクニックはありますか?

イデア:そうですね……。たとえばオナラの臭いを「象が気絶するほど臭い」と比喩を使って表現する、落語のように登場人物を演じ分けるといった方法も効果的ですよ。こうしたテクニックも感情を込めて話すことができれば自然と出てくるようになります。

──演じ分けなんて、実際にやると照れちゃいそうですね。

イデア:最初は恥ずかしいかもしれませんが、大げさなくらいがちょうどいいと思います。同じ失敗話だとしても、恥ずかしかったのかつらかったのか、恥ずかしかったのならどれくらい恥ずかしかったのかで、聞く人の反応は違ってきますから。

──でも、そこまでやってウケなかったら、とてつもないダメージを受けそうです。

イデア:大丈夫です。たいてい他人の話なんてすぐ忘れてしまうものですから、気にする必要はありません。話を振られて何も話せずに終わってしまうよりも好感度は高いはずです。

──そうですか……?

イデア:もし、その場にふさわしいネタが思い浮かばなかったら、「全然関係ない話なんですけど、いいですか?」って前置きしてから話すのもアリだと思います。ウケるかどうかは気にせず、感情を込めてディテールまでしっかり話せば、聞き手の共感度は高まるはずです。

──早速、ネタ探しから始めてみます!

イデア:ネタ探しが難しかったら、他人から聞いた面白いトークを内容から話し方まで丸パクリしちゃうのもアリです。正直に「実は僕の友人の話なんですが……」って始めればいいと思いますよ。

田中イデア(たなか・いであ)

放送作家、クリエイティブ集団「プラトン企画」代表。テレビやラジオの企画構成の他、イベントやライブの構成も行う。若手芸人の発掘や育成を目的として、芸人養成所で講師、ネタ見せの活動を行っている。「笑い」に関する著書多数。

Twitter:@ IdeaTanaka

取材・文/飯野実成
撮影/黒澤宏昭
イラスト/小田原ドラゴン(@odawaradoragon