芸人さんがお笑い以外の副業に挑戦するのも、めずらしいことではなくなってきました。

インパルスの板倉俊之さんが小説を書き始めたのは、20代の頃。結果的に、コンビとしての活動が減った後も、個としての仕事をつかむきっかけにもなりました。板倉さんの小説『トリガー』『蟻地獄』は漫画化され、この3月には原作を手がける漫画『マグナレイブン』の単行本が発売されました。

「あくまで好きなことしかしていません」と語る板倉さんに、小説・漫画などの作品にかける想いと、インパルスを続ける理由について聞きました。

芸人になったのは「大きな笑い」を求め続けたから

インパルス・板倉俊之
板倉俊之(いたくら・としゆき)。1978年生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。お笑いコンビ、インパルスのボケ担当。

──小説や漫画の原作は自分から持ち込みをしたんですか?

板倉俊之さん(以下、板倉):2006〜07年当時、劇団ひとりさんの「陰日向に咲く」とか麒麟・田村さんの「ホームレス中学生」が大ヒットしていたタイミングだったので、僕にも出版社の方が声をかけてくれたんです。

──未経験から、すんなり書けましたか?

板倉:いやいや。作家のみなさん、壮絶な人生経験を書いてるじゃないですか。僕の人生、超普通なんですよ。品川さんみたいにヤンキーと乱闘した経験もないし(※)、麒麟の田村さんみたいに段ボール食べてないし。でも、コントにできるわけではないアイデアがいっぱいあったんです。日常生活でひっかかること、いろいろありますよね。

(※)品川庄司の品川祐が自身の体験をもとに小説『ドロップ』を出版

──たとえば、どんなことでしょう。

板倉:電車のドアがまだ開いてないのに後ろから押してくるヤツとかさ。走行中、横入りして急ブレーキするヤツとかもそう。そういう嫌なヤツをバンバン拳銃で撃ったら、みんなスッキリするんじゃないかな? そんな思いから生まれたのが小説『トリガー』でした。当時まだ29歳でその時の感性や知識で書いてるから今読み返すと青いなって思いますけど。

──前から、アイデアはあたためていたんですか?

板倉:出版の話がきてからですね。「そういえばあんなことあったかも」を、掘り出していきました。作品づくりは、お笑いとまったく別のアプローチ。芸人として発言する時は、自分がどう思われるかよりも、その場でウケるかどうかしか考えてないんで。

──プロフェッショナルですね。

板倉:毒吐きすぎて後悔することもあるけど(笑)、真面目なこと言ってもカットされてしまうだけですからね。小学校の頃からずっと、「自分が人にどう思われるか」より、人を笑わせたいって考えています。笑い声って、中毒性があるんですよ。目の前の数人を笑わせることに始まり、「クラス全員40人に笑ってほしい」「もっともっと」「もっと大きな笑い声!」が重なって、いつの間にか芸人になってました。

軸になるのはあくまでも自分。好きと思えることしかできない

インパルス・板倉俊之
「笑い声って中毒性がある」と語る板倉さんは楽しそう。

──思春期って、スポーツができる子が人気出るじゃないですか。お笑い以外の道で注目を集めようと思うことはありませんでしたか?

板倉:昔から、「カッコつけないことがカッコいい」って思ってるところがあって。こういうことをすれば女子にモテるかもしれないと思っても、できなかったですね。女子にウケるより、それをやることで男子に「あいつ、頑張っちゃってるよ」って見られるほうが怖い。学生時代から、女の子と一緒に帰るとかもできなかったタイプなんです。

──同性ウケが大事、ということですか?

板倉:今はそういうのも関係なく、自分が面白いと感じるかどうかだけを考えてますね。あくまで、軸は自分。たとえばテレビだったら、「この番組はこういう人が見ているから、こういうネタをやればいい」って考えればいいんだろうけど、それができないんです。だから売れないのかな(笑)。

──趣味のサバゲーも、アクション漫画の制作に活きているのでは。

板倉:いやいや、好きだからってだけですよ。「仕事になると思ってやってる」感が出ちゃうと、すごい嫌なんです。仕事になることを狙って「これ好きです!」とアピールする人もいるんだろうけど、ちょっとでもそういうのを感じると「うわ〜、あいつやってるな!」って思っちゃうんですよね。

インパルス・板倉俊之
「やってるな!って思っちゃう」と軽く拒否反応が……。

──仕事としておいしいかどうかより、自分の心の声を優先するんですね。

板倉:だから僕、タレントとして大成しないのかな(笑)。小藪(千豊)さんに言われたことがあるんです。「もしお前が映画を撮ろうと思って、警察官役で呼んだ役者が”僕は殺人鬼役のほうが巧いんです”って勝手に殺人鬼を演じ始めたら、もうそいつ呼ばないだろ?」って。そう言われてすごく納得したんです。

──どういうことでしょうか。

板倉:以前は、自分がやりたい笑いをテレビでやれるのが一番だと思っていたんですけど、テレビはそういう場所じゃなかった。テレビに合うスタイルがあるし、ディレクターやプロデューサーの期待に応えることが求められますから。

──なるほど。

板倉:そこで別れると思うんです。求められることに合わせられる人と、そうじゃない人とに。僕は合わせることができない側だったんです。

──柔軟になってみようとか、考えることはありますか?

板倉:思ったこと、ないですね。うん。ないない。ずっと自分本位なんです。幼少期から集団行動が苦手で、小学校のフォークダンスもダメだった。踊りに興味がないから振りを覚えられないし、運動会でも一人だけ動きが遅れるんですよ。見に来た親に「お母さん、恥ずかしかった!」って怒られるくらい。本当に、好きなことしかできない性分なんです。

「やりたい」と言うだけで踏み出せないのは、その「好き」が偽物だから

インパルス・板倉俊之
「好きなことしかできない」から? 撮影中はちょっとぎこちない感じに。

──インパルスでのお笑いをずっと続けられているのも「好き」が原動力なんでしょうか。

板倉:そうですね。お笑いが好き、という気持ちだけでここまできました。でも「お笑いの世界で食っていくぞ」と頑なに思っているわけではないですね。ただ、好きだからやってる。

──芸人になると決められたきっかけは。

板倉:お笑いが好きすぎて、「このまま自分が何もやらない側でいたら、もうTV観られないな」と思ったんです。「俺、芸人になったらどうなってたのかな」って、ずっと考えちゃいそうで。

──後悔しないように、お笑いの世界に飛び込んだんですね。

板倉:そうそう。後悔を消す作業を続けているんです。お笑いやってみて、ダメだったら一般企業に就職しようと思ったけど、たまたま今までつながっています。養成所で「俺、つまらない側だな」って思っていたら、すぐやめていたと思いますよ。

──1歩踏み出すには勇気が必要だったのでは?

板倉:「やろうと思ってるんだけど」って言ってるだけのヤツ、いっぱいいるじゃないですか? そういうの、嫌なんですよ。やってダメならやめればいいじゃん! って思っちゃうんです。

──なかなか厳しい言葉ですね。

板倉やりたいことに一歩踏み出せないのは、その「好き」が偽物だからですよ。本当にやりたいことだったら、「やらないでいること」がストレスになって耐えられないはず。やらない人のほうが不思議ですね。僕には、その気持ちがわからないので。

インパルス・板倉俊之
「その好きは偽物」に返す言葉がありません……。

コンビ活動は表現方法のひとつ。依存はしていない

──インパルスには、さまざまな困難がありました。今はほとんどピンでの露出ですが、それでも解散しない理由は。

板倉:正直言うと「相方とずっとやっていくぞ!」って気持ちもないんですよ。もともと、コンビに依存してないですもん。別に、堤下と組んだからって、「コンビなら一生安泰」なんてことはないですよね。相方が月々固定給を払ってくれるわけじゃないし(笑)。

──現実的なんですね。堤下さんの問題があったけど、相方愛があるから継続しているのかと思っていました。夫婦みたいな感じなのかと。

板倉:「次のネタ見せどうしよう? 舞台どうしよう」が続いて、今に至るというか。インパルスを打ち切る意味があんまりないっていうだけなんです。ひとりでやったほうがいいお笑いもあるし、ふたりで面白いことをやるならコントだな、っていうだけで。

インパルス・板倉俊之
板倉さんがコンビを続ける理由は想像していたものと違っていた。

──ご自分の中にやりたいこと、表現したいことがあって、そのアウトプット先を変えているだけなんですね。

板倉:文章のほうがわかりやすいネタなら小説にするし、アクションシーンいっぱいいれたいなら漫画。それだけです。

──いろんな出し先があって、柔軟に使い分けられるのは板倉さんの強みですね。

板倉:でも、実際にドーンと売れてたらこんなことやってないですね。タレントとして成功してないから、いろいろ取り組みができただけだと思ってますよ。でも、何をやってでも売れたいかって言われたらそうじゃない。「犬のVTR見て『かわいい〜』ってリアクションとったり、地方のメシ食べて『美味しい〜』って言ったり、そういう仕事なら別にいらないな」って思っちゃう(笑)。

インパルス・板倉俊之
たしかに犬を見て「かわいい〜」って言ってる姿が想像できません。

僕にとって安定は苦痛。未来は見通せないほうがいい

──制作期間は「この作品、リリース後に世間で認められるのかな」と不安と戦ったり、自分と向き合ったりする期間だと思います。どう乗り越えていますか。

板倉:作品づくりにかける時間には、一切無駄はないと思ってるけど、やっぱりギャンブルですよね。でも、僕にとっては安定している道に行くほうが不安なんです。もし僕が大企業に勤めていたとしたら、僕がいなくても何も変わらない、「俺、いなくてもいいじゃん」って考えちゃうんですよ、きっと。ネタや作品だと、自分ありきじゃないですか。だから気持ち的に合ってるんですよね。

インパルス・板倉俊之
「俺、いなくてもいいじゃん」、会社員でそんなふうに思ったことがある人は少なくないはず。

──安定よりも、自分の存在が認められるかのほうが大切なんですね。

板倉:まあ、僕は異常なんだと思いますけどね。昔、占い師に「あなたは不安定な状況でないと、心が落ち着かないんです」って言われたことがあるんですけど、自分でもそう思います。ずっと先が見えない仕事をしているのも、そうなんです。数年後の収入が見えないから、稼いでいるかもしれないし、路上で寝てるかもしれない。でも、65歳までの年収が見通せちゃうほうが僕にとっては苦痛なんですよ。

──苦痛? 先が見通せないから不安という人は多いですが……。

板倉:自分に、何が買えて、何が手に入らないかがわかっちゃうのが嫌で。安定しなくても、未来が想像つかないほうがいいんです。

──板倉さんは、進学校の出身です。そうはいっても大学進学する同級生たちの空気に飲み込まれなかったですか?

板倉:兄貴が東大だし、何でもできるタイプだったんです。そんな優秀なヤツが近くにいたので「俺、一番にはなれないな」って幼少期のうちに気づいちゃったのは大きかったかもしれないですね。勉強も中学生くらいまではちゃんとやってたけど、「結局、暗記勝負じゃん」って気づいたら真面目にやる気になれなかったし。

──「一番にはなれない」。ここまで板倉さんは「自分の気持ちを軸に動いてきた」と語られていましたが、外からの評価もやっぱり気になるんですね。

板倉:外からの評価というよりも、できるだけマイナスの自己採点をする機会をなくしていきたいんですよね。「俺、だめだ」って思うの、しんどいじゃないですか。

──自尊心は削られますよね。

板倉:それに、人が見ていなくても、やったほうがいいことはやります。たとえば誰もいない夜道で看板が倒れてたとして、それを起こしたからって誰からも評価されない。だからって「他の人が見てないからやらなくていい」っていう思考はないです。もしそれを放置したら、放置した自分を認められなくなっちゃう。あくまで、人の評価じゃなくて、自分が正しいと思うことをやるようにしています。

インパルス・板倉俊之

板倉俊之(いたくら・としゆき)

1978年生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。お笑いコンビ、インパルスのボケ担当。兵庫県宝塚市生まれ、埼玉県志木市育ち。2009年にはハードボイルド小説『トリガー』を出版、同小説は漫画化されている。著書として小説『蟻地獄』『機動戦士ガンダム ブレイジングシャドウ』『月の炎』がある他、原作を手がける漫画『マグナレイブン』が単行本化され発売中。

Twitter:@itazuratoshiyuk

取材・文/小沢あや(@hibicoto
写真/鈴木勝