「どうすれば、人とは違う“特別”になれるのか?」――仕事でもプライベートでも、私たちがつい考えてしまうテーマです。

昨年から「コンフィデンスマンJP」「SUITS/スーツ」(いずれもフジテレビ)などの人気ドラマに、立て続けに出演していた俳優の小手伸也さん。自称“シンデレラおじさん”というキャッチコピーが示すとおり、印象的なお芝居とルックスで、大ブレイクを果たしました。

その勢いは止まらず、女優の広瀬すずさんが主演を務めるNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「なつぞら」への出演も決まった小手さん。

多くの個性的な役者さんがいる中で、なぜ小手さんは選ばれ続けるのでしょうか。まさに、人とは違う“特別”な存在に見えるけれど、小手さん自身は「自分は何者でもない」と語ります。いったいどのようにして自分の武器を見つけ、伸ばし、現在のポジションに立ったのか? その仕事術を、じっくりと伺いました。

演劇を続けるために、できることは何でもやる

小手伸也
小手伸也(こて・しんや)。1973年生まれ。劇団innerchild 主宰、作家、演出家、俳優、声優と幅広く活躍。舞台での活躍が中心だったが、ドラマ「コンフィデンスマンJP」「SUITS /スーツ」に出演。「シンデレラおじさん」として注目を浴びるもコールセンターでのバイトを継続中。

──小手さんは俳優のかたわら、たくさんのお仕事をされてきたと伺いました。演出家や脚本家といったお芝居に関わるものだけでなく、Webデザイナーなどもしていたんですよね。

小手伸也さん(以下、小手):そうなんです。ひとつは、俳優として行き詰まった時に生き残れるように、何かしら手に職をつけておくため。もうひとつは、ありていに言えば“人件費の削減”のためです。

──人件費の削減?

小手:劇団で公演を打つ時には、フライヤーや予告動画を作ります。それを外注しないで、主宰の自分が作ってしまえば、コストはかからない。予算がないなら僕の時間を削ればいいという気持ちから、デザイン系の仕事にも手を出したんですね。突き詰めればどの仕事も「自分がやりたい演劇を続けるために、やれることは何でもやろう」というのが出発点でした。もしかしたら、外でのいろんな経験がお芝居に活かせるかもしれない、という思いもあったし。

──まったく別の仕事は、たとえばどんなふうにお芝居に活きましたか。

小手:演技の勉強だけしていれば演技がうまくなるかっていうと、そういうわけでもないんですよね。たとえば会社員の役を演じる時に、演劇しかやってこなかった人は、リアルな会社員というものが想像できない。でも、いろんなバイトで社会の空気に触れていたり、働く人たちとふれあったりしていたら、それをヒントにイメージを膨らませられるんです。

──経験があるから演技のイメージが膨らむんですね。

小手:パソコンを打つとか煙草を吸うとか、女性との距離感とか、日常のちょっとした仕草もそうですよね。経験の有無がリアリティにつながってくる。いろんな役をやらなければいけない僕らは、率先して多くの経験をしたほうがいい気がしています。今もコールセンターのバイトを続けているのは、そういう“外からの刺激”を大切にしているからです。

──これほどお芝居の仕事が増えても、バイトを続けている! 本当に、俳優以外の経験値を大切にしていらっしゃるんですね。

主役を振り回す脇役が僕には輝いて見えた

小手伸也
「今もコールセンターのバイトを続けているのは、“外からの刺激”を大切にしているから」。小手さんは本業以外の経験値を大切にしている。

──“面白いバイプレイヤー”としての評価が高い小手さんですが、そもそも「主役をやりたい」といった意識はなかったんでしょうか。

小手:どうでしょう……主役か脇役かというところを、僕自身はあまり意識したことがないですね。呼んでくださった方のオーダーに応えてお芝居をすることが、僕の主なモチベーションなんですよ。「自分を出したい」よりも「自分を使って作品がよくなるなら、何にでもなりたい」という気持ち。

──作品のために自分が存在している、という感じですね。

小手:それに、バイプレイヤーのほうがやっていて面白いというのもあります。物語の構造上、主役ってどうしても“巻き込まれる”側になるんですね。他のキャラクターが主役を振り回して、ドラマが生まれる。真ん中で振り回されるより、外から振り回すほうが、僕は好きだったんです。だから、中心にある棒をもっと面白く回転させるために、突起がいっぱいついていて引っかかりの多い棒でありたいな、と思うようになっていきました。

──そんなふうに考え始めたのは、何かきっかけがあったんでしょうか。

小手:自分でお芝居を書いたり、演出したりするようになってからですね。

──俳優ではない視点で、お芝居に関わり始めてから?

小手:そうです。物語を進めていくために、どんなふうにキャラクターを動かそうか考えている時、自分が演じてみたいと思うのはいつも主役以外だったんですよ。最終的にお客さんの心を揺さぶるのは主役だったりするけれど、その主役を動かす脇役のほうが、僕には輝いて見えた。視点の変化も経て、気づけばそんな役ばかり狙うようになりました。

小手伸也
こうして名バイプレイヤー小手伸也が生まれた。

芸術性だけでなく、伝えるための職人技も大事

──少しだけ立場を変えて本業に関わったことで、自分の方向性が見えてきたんですね。以降、より優れたバイプレイヤーであるために、心がけてきたことはありますか。

小手:主役をしっかり輝かせることです。たとえば大立ち回りがある時代劇などで、主役の侍がどれだけ強いかを表現する時に、主役自身ができることってそんなに多くないんですよ。

──そうなんですか?

小手:その人が圧倒的に強いと思わせるには、周りがいかに派手にやられるかのほうが重要だったりする。そのパワーバランスは、立ち回りシーンに関わらず、いろんな作品で存在するんです。周りがいるからこそ、真ん中が引き立つ。そのための“職人技”みたいなものに、すごく憧れがありますね。

──役者は“職人”という感覚なんですね。

小手:演劇を始めた学生の頃なんかは、もっと芸術家寄りだったんですよ。「俺のこの世界観をわかってくれれば、売れなくてもいい。評価はあとからついてくる」みたいな。でも、仕事としてお芝居をやるようになってから、感覚が変わってきた。

──どういうことでしょう?

小手:自分の芸術性も大切だけど、観客の「これが見たかった!」というニーズに応えることともバランスを取りたい、と思うようになってきたんです。

小手伸也
「自分の芸術性も大事だけど、観客のニーズに応えることともバランスを取りたい」。仕事としてお芝居をやることで意識が変わったそう。

──ビジネスとして成立させることを考えた時、芸術家から職人にスライドしてきた、ということですね。それがなかなか難しいように思うんですが……小手さんは、どうしてシフトできたんでしょうか。

小手:少しずつ仕事の規模が大きくなったことは、やっぱり関係あると思いますね。200~300名クラスの小劇場でお芝居をする時は、こまかな動作もちゃんと伝わるんです。でも、その倍以上の大きな劇場やホールでは、同じことをしていても全然伝わらない。そうなると、自分の芸術的信念だけに沿っているお芝居ではダメで、技術的な制約を抱えながら演じなければならないんです。動きを誇張したり、マイクとの相性を考えながら発声したり……思うがままの演技ではなく、もう少し商品化されたものが求められる。そういう経験を経て、職人技が必要だし、大切だと感じ始めました。

──今、小手さんが活躍していらっしゃるテレビの世界にも、技術的な制約が多そうです。

小手:言い方はすごくアレなんですけど……テレビは、演劇の6割くらいの力でやるようにしているんです。もちろんやる気がないってことじゃなくて、そのくらいのエネルギーで演じないと、画として成り立たないんですよ。限界を超えた演技力みたいなものは、馴染まない。そもそも僕は、テンションを上げることに関しては青天井なんですね(笑)。

──青天井! それだけお芝居に対する熱量をお持ちなんですね。

小手:でも、野田秀樹さんに「テンションを10段階でコントロールしたほうがいい」と教わってからは、自分の出力を数値で把握するようにしているんです。舞台で絶叫する時も、レベル10だと段取りを忘れちゃうから9くらいまで。ドラマだと、映り方や距離感、角度といったいろんな要素を踏まえながら演じないといけないので、どんどんその出力を減らすことになるんです。

小手伸也
「テンションを上げることに関しては青天井」という小手さん。……圧が強い。

──テレビドラマというパッケージにとって、出力が高すぎる演技は最適じゃないということでしょうか。

小手:そうそう。舞台演技とドラマ演技は、絶対的に違うものにしなければいけないと思っています。そして、そういう緻密なコントロールに対してのリスペクトが、すごくありますね。「テクニカルなことを追求するのは、演技の本質から離れている」みたいな論もあるけれど……僕は技術的なポイントをちゃんと押さえて、伝えられてなんぼだと思っているんです。

──役作りなども、テクニカルに進めていらっしゃるんですか?

小手:僕はいわゆる“憑依型”の俳優ではないので、役をプロファイリングして演じています。この人がこの台詞を言うためにはどういう気持ちの変化があって、そのきっかけになっているのは何ページ前のこのシーンで……となるとこの台詞は、15年前くらいにさかのぼるのか、みたいな。台本から読み取れる情報に、性格を肉付けして、そこから立ち方や癖を考えて演じる。これもやっぱり、職人的なアプローチだと思いますね。

──ビジネスとして「観客に伝える」という目的のために、どんな技術を使って、どんな戦略でいくか。ものすごく緻密に考えているんですね。

小手:演じている役とかなり印象が違うので、よく「結構まじめなんだね」って言われます(笑)。三谷幸喜さんには「もうちょっと乱暴な人かと思った」って言われました。

小手伸也が「何者でもなくていい」と考える理由とは

小手伸也
三谷幸喜さんに「乱暴な人かと思った」と言われた小手さんは、とても穏やかで真摯に仕事と向き合う人だった。

──ここまでお話を伺ってきて、俳優という仕事への真摯な姿勢がブレイクにつながったんだろうな、と感じました。

小手:でも僕、あんまりブレイクって考えてないんですよね。役者という仕事は終わりがないし、完成しないから、ずっと何かの途中なんです。つまり、永遠に何かの下積みをしているところ。今まで積み重ねてきたいろんな経験があって、そのグラデーションの中で仕事をしているイメージなんですよ。だから、こんな取材のオファーをいただくのも、僕なんかでいいのかなぁって思っちゃう(笑)。

──いやいや、すっごく面白いお話が聞けてますよ!

小手:ありがとうございます(笑)。でも「僕なんか」みたいに自分を下げる謙虚さって、自分を評価してくださってる方に申し訳ないとも思うんです。「じゃあ、あなたのことをいいと思っている私の審美眼は、大したことがないのかい?」ってなっちゃうでしょ。だから最近は、あまりそういうことを言わないようにしています。

──ブレイクのお作法ですね。

小手:お作法です(笑)。でも、謙虚な心持ちは大事にしたいですね。

小手伸也
「役者という仕事は終わりがないし、完成しないから、ずっと何かの途中なんです」。だからブレイクしたという意識は持っていないという。

──これからまた続いていくグラデーションの中で、俳優として、どんな存在になっていきたいですか。

小手:「小手伸也だから面白い」よりも「このキャラが面白い」とか「小手伸也? あ、あの時のあの人?」みたいな認識のされ方が、僕としてはしっくりくるなと思います。何者でもなくていい。「どこどこのブランド」「誰々が作ったもの」ということよりも「この道具、使い勝手がいいね」みたいに認めてもらえるような生き方がいいんです。

──であれば、小手さんのキャラクターが強すぎたりはしませんか? もっとマイルドなほうが、いろんな作品に馴染むような気もしますが……。

小手:現状はスマートな小手伸也よりも、何かをやらかすであろうクレイジーな小手伸也のほうを、みなさんが求めてくださっているんです。であれば、そっちに応えて、みんなが盛り上がってくれるのが一番。それに、個性が強い道具って、ちょっと愛着が生まれると思うんですよ(笑)。

──たしかに!

小手:小手伸也を使いこなせる自分かっこいい、みたいな(笑)。だから「俺のほうが小手をうまく使った」「俺もあいつでホームランを打ってみたい」なんて取り合っていただけるような、面白い素材でありたいですね。

小手伸也
「個性が強い道具って、ちょっと愛着が生まれると思うんです」。たしかに小手さんから目が離せません。

──「面白い小手伸也」じゃなくて「面白い素材」なんですね。何者でもないけれど、すごく特別な存在のように思います。

小手特別かどうかは自己判断じゃないと思うんです。自分で自分のことを特別だと思ったところで、何も進まない。特別というのは「特に別ける」ことですよね。もし僕が今、特別な存在になっているとするならば、それは僕以外の誰かが、僕を“特に別けてくれた”からなんです。

考え方を切り替えたらぐっと仕事が増えました

──誰かに特別にしてもらうために、自分ができることは何だと思いますか。

小手:まずはやっぱり、いろんな立場や視点を経験したりして、己の武器が何なのかを明確にすることですね。すごいカリスマを持っている人でない限り、どこかに特化しないと打席に立てない。芝居のキャスティングでも、第2候補、第3候補みたいな立場って絶対生まれるんです。でも本当は、ピンポイントで「このキャラクターはこの人に!」って名前をあげてもらえるほうが、絶対にいい。いろんな役の第2候補にあがるより、数少ない役でも不動の一番に選ばれるほうが、確度は上がりますから。

──選ばれないと、結局は打席に立てないですもんね。

小手:僕自身もそういう考え方に切り替えて、自分が持っているアクの強いキャラクターを伸ばし始めてから、ぐっと仕事が増えました。明確な自分の武器があれば、仕事として求められることに応えながら、自分のやりたいことも続けられると思うんです。

──どういうことでしょうか。

小手:たとえば僕は今、同業の演劇人から「あいつはドラマに魂を売った」って冷やかされたりするけれど(笑)、本当にやりたい舞台演劇のエッセンスを、ドラマに忍ばせたりしている。自分のやりたいことにだけ固執しない、というのもポイントなんですよね。そのバランスをうまく取れれば、自分も人も満足できるし。

小手伸也
「特別かどうかは自己判断じゃない!」

失敗を恐れて平均点を狙うより、やりすぎても120点を目指す

──最終的なやりたいことをやるために、ニーズのある武器を磨く。打席に立つ。ということですね。

小手:ただ、僕はこういう性格やルックスだから、こういう戦略が向いていた、ということかもしれないけど……。

──では何か、どんな人にも勧められるやり方はありますか? 自分を確立するために、私たちにもできること。

小手:自信を持つことかな。自分のやることに自信を持っていないと、100%の実力って出せないんですよ。迷いながらしているお芝居は、誰の心にも響かなくって、共演者すら困らせてしまったりする。だから僕は、嘘でもいいから自信を持って、全力で取り組むようにしています。失敗を恐れて平均点を狙うより、やりすぎてもかまわないから120点を目指したほうがいいんじゃないですかね。それでケガしたなら、もうしょうがないし(笑)。

──自信を持って挑んだすえのケガなら、納得もできそう。

小手:やった後悔とやらなかった後悔なら、やらなかった後悔のほうが後を引くっていうじゃないですか。実際「やっちゃったな」って思ったら対策を考えればいいだけだけど、「やらなかったな」という時にできることって、何にもないんですよ。ただ悔やみながら、解決もできずに一生を終えていくことになりかねない。それって、何の成長もないですよね。

──最初から最後まで、何も起きてないですもんね。

小手:そう。だったらブレイクスルーするために、何か起こしたほうがずっといい。怖がってたら、いつまで経ってもひと皮むけられないですから。

小手伸也

小手伸也(こて・しんや)

1973年生まれ。劇団innerchild 主宰、作家、演出家、俳優、声優と幅広く活躍。舞台での活躍が中心だったが、ドラマ「コンフィデンスマンJP」「SUITS /スーツ」に出演し、アクの強い演技で話題に。「シンデレラおじさん」として注目を浴び、名脇役としての地歩を固めるもコールセンターでのバイトを継続中。

Twitter:@KOTEshinya

取材・文/菅原さくら(@sakura011626
撮影/鈴木勝