ダメ就活生、「自分らしい服装」で四苦八苦する

「自分らしい服装でお越しください」

就職活動に身を投じたことがある人なら、誰もが聞いたことがある言葉だろう。Google検索で「自分らしい服装」と打ち込めば、「“自由な服装”の正解って?」「スーツ? 私服?」「色つきのシャツは大丈夫?」などのウェブ記事が大量にひっかかる。企業の指すものがわからずに右往左往している就活生が、とてつもなく多いということだ。

2012年——大学院に合格していたものの、「やっぱり本にかかわる仕事がしたいな」という気持ちが捨てられずに留年覚悟で就活を始めた私の身にも、この罠はふりかかってきた。

大好きなアニメ系雑誌を擁する出版社。書類選考、筆記試験をどうにか通過した後の一次面接。案内メールの「自分らしい服装でお越しください」を読んだ私は、「自分らしい」の咀嚼の結果として、夢見る乙女に愛用されているロリータ系ブランド「MILK」のうさ耳パーカーに黒いショートパンツにスニーカーというコーデを選んでしまったのだ。

会場に着いた瞬間は「ふふん、私が一番ユニークじゃんと得意になった私だったが、その鼻っ柱はすぐにへし折られた。お辞儀をしてドアを開けると、迎え入れてくれた面接官たちの表情はかなり戸惑ったもので、選考は苦笑につつまれながら早めに切り上げられた。

最後に「前田敦子さんの卒業についてどう思う?」という、いかにも投げやりな(絶対に私に興味なさそうな)質問がされたことだけ、よく覚えている。

7年後、こうして思い出を振り返っている自分は、あまたのウェブ記事を読むまでもなく、あの服装が不正解だったことはわかっている。一方で、当時の私がその選択をしてしまった気持ちもよくわかっている。

「出版業界の就活においては、とにかく個性的であることをアピールしないといけない」という強迫観念にとらわれていたからだ。

「なぎなた初段」「ペヤング」に惑わされて

大学4年の12月までなんの就活対策もしていなかった私。そこから就活を始めるにあたってとにかく頑張ったのは、知人づてに年の近い内定者や編集者を紹介してもらい、その人たちの就活体験談を聞くことだった。

私のように大学院進学をやめて、就留後に内定を得たという人もちゃんといて、それはとても励みになった。けれど、彼らが教えてくれた個々の体験談ゆえに、私の就活は迷走していくことになる。

「履歴書にとにかくアピールできることをたくさん書いた。なぎなた初段とか、NHK俳句大会出場とか」

子ども電話相談室の相談員のバイトをしていたのは良かったな。面接でも会話が盛り上がって」

「最終面接で“あなたを形作ってるもの”を持ってこいって言われたんだよね。それで、毎日食べてたペヤングの焼きそばにお湯入れて持っていった。同期で受かったやつはたしか、ピンセット持ってきてたんだよなあ。毎日解剖に使ってるやつ」

「面接の格好? 私は当時金髪のショートヘアだったんだけど、赤いスーツ着て行ったらかなり好評だったよ。それで短歌研究してるの? って面白がられた。その場で一首詠まされちゃったし」

私はなぎなたの段位も持っていないし、子ども電話相談室の相談員もやっていないし、金髪でもないし、その場で一首詠むのも無理である。

無理じゃん!!! と思いながらも、とにかく自分なりにあがこうとした結果が、MILKのうさ耳パーカーを面接に着て行くというような“個性”アピールだった。だが……あとから当時の写真を客観的に見ると、いかにもだるっとしたシェイプで、髪の毛もボサボサ、メイクもテキトーで、全然似合っていなかった。

「自由にしろと言っておきながら、型にはまった正解を求めてる企業だったんじゃないの」

とか、そういう話はさておき、私に全く欠落していた視点があった。前述の内定者や編集者たちのエピソードにはあって、私のうさ耳パーカーにはなかったもの——それは「自分の“個性”をフックとして、相手とのキャッチボールを生み出そうという態度」だった。

人の話を聞けなかった女の修行

思えば小学校のころから、通知表に「人の話を聞かない」と書かれてきた。ずらりと並ぶ「A」の列の中、必ずその項目だけが「B」か「C」だった。

それは当然、学業や教師とのやりとりに限らなかった。進学した中高一貫校は「校則が4つしかない」を誇りとするくらい自由な校風の女子校で、同級生たちも型にはまらないユニークな子たちばかりだったが、その中でも私は「自分の話ばっかしすぎ」「変なタイミングで流れをぶったぎる」と怒られることが多かった。よく言えばマイペース、悪く言えば自分勝手ということである。

たとえば、大勢でカラオケに行った時に、「烏龍茶の人〜、オレンジジュースの人〜、ジンジャーエールの人〜」とわざわざ集計をとってくれている子がいるのに、そこで手をあげず、「ひらりさは何がいいの?」と個別に聞かれてから「烏龍茶!」と答えて、「いやさっき私が言ったじゃん! ちゃんと聞いててよ!」と怒られることがしばしばあった。

あらかじめ決められた部屋割りが決まっている部活の合宿で、「私の部屋はAだけど、でも○○ちゃんと同じBの部屋がいいな〜」と考えて、勝手にBの部屋に自分の布団を移動して寝るということをして、同級生から連名で「中学生にもなってそういう自分勝手なことをするのはやめてほしい」というメールをもらったこともあった。

どちらも、人の話を音声としては聞いていたが、内容としては聞いていなかったというエピソードである。

すごく細かい話ばかりではあるのだけど、細かいことだからこそ無意識に行われていて、そうした日々の自分勝手さ、他人をないがしろにする姿勢みたいなものが20年以上集積していって、面接にすっぴんでうさ耳パーカーを着ていく、他人とのキャッチボールのできない女ができあがったのであった。

「人の話をしっかり聞く」経験の大切さ

そんな手がつけようがないダメ人間だった自分だが、ちょうど人手を欲していたベンチャー企業になんとかすべりこんだ。その後、二度の中途採用選考を乗り越え、社会人7年目として、満足のいく会社員生活を送っている。

新卒の就職活動と異なり、中途採用選考では「これまでに何をしてきたか」ベースで見てもらえる。ポジションに合った経験をちゃんと積んでいれば、他の候補者と差別化できた。しかし、私の転職がうまくいった一番の理由は、新卒の時と違い、「人の話をしっかり聞く」という経験を、編集・ライター業によって積めたことにあったと思う。

新卒からの4年間は、ウェブメディアの編集者として、たくさんの「インタビュー取材への同席」を経験することができた。インタビューにおける編集者の仕事は、座組みをアレンジし、日程を調整し、ライターがあげてきた原稿を後からチェックする……だけではない。

現場にて、取材対象が気持ちよく取材に応じられるように心を配り、取材するライターが過不足なく話を聞き出せているか確認し、必要最小限のトスも出す。「オブザーバー」としての立場に立ったからこそ、「問いそのもの」と「問いを受けた人が答えやすいこと」、「その問いを発した人が本当に聞きたいこと」の3つの間には、けっこうなズレが発生しやすいということが、身にしみてわかるようになった。

自分がライターとしてインタビュアーを務めるようになると、このズレを極力減らす実践の日々が始まった。つまり、聞きたい話をきちんと相手から引き出せるような質問の技術を実地で磨くようになったのだ。結局、相手にちゃんと受けてもらえる質問を発する技術は、相手の話をきちんと聞く技術なのだった。相手がどういう人間なのか、相手が何を今話したそうかに注意深く耳をすませてこそ、有効なボールが投げられるのである。

このことを実感し、ライター仕事での鍛錬を重ねるようになってからは、取材以外での対人関係や、仕事でのコミュニケーション力もかなり向上したようになったと(自分では)思っている。

実際、今の職場では「ひらりささんに聞いてほしいことがあるんですけど……」と聞き役として求められることも増えてきた。これまでの人生を考えると、本当にありがたいことだ。まあ私を面接してくれた同僚から「こっちの話聞かずにずっとボーイズラブの話してくるからこわかった。申し送り事項に“人の話聞かない”“ボーイズラブ”って書いたもん」と最近明かされて、いたく申し訳ない気持ちにもなったのだが……(笑)。

自分の個性を殺さないためにこそ、人の話を聞こう

就活・転職の話に戻ろう。

個性やなにがしかのオンリーワンっぽさが必要となる企業や職場でも、実際にその裏で求められているのは、「その個性を通じて見える、その人の強み」「その個性と職場との相性」である。

ひとりで過ごしている時間は、「自分がこうしたい」という気持ちオンリーで突っ走っても問題ないし、プライベートでつきあう相手には、そうした100%自分らしい自分を理解してもらえる相手を選べばいい。

ただ、多くの会社においては、仕事は「他人のニーズをくむようなアウトプットを出す」か「出したアウトプットが結果的に他人のニーズを満たす」ことで成り立つのであって、それは、自分ひとりの主観だけで暮らしていると、なかなかうまくやれないものと言える。

「こういうことをすると、こういう受け取られ方をするんだな」「こういうふうにすると、他人は快適なんだな」という、客観的な視点があってこそ、自分らしいアウトプットで成果を生み出せるのだ。

だから、面接で本当に大切なのは「その“個性”をフックとして、自分がどんな人間かを伝えること」「自分はこういう人間だから、あなたと同じ会社のニーズを満たせる人間だと伝えること」といえる。

そしてそれを有効に伝えるうえでは、「企業メッセージや相手の言葉の中から、相手の求めているものを聞き取る力」が必要になってくる。この「相手の求めているものを聞き取る」ことを意識するだけでも、面接に限らず、もう絶対に全然、仕事がまわりやすくなるし、人生もスムーズに行くようになるし、友達も増えるんじゃないかと思う。

今の会社で働いていても、仕事のできる同僚は、周囲の話を誰よりもよく聞き、他者の意見を取り入れながらプロジェクトをすすめていく。「困ってるよ〜!」と言わなくてもこちらの窮状を察して、絶妙なタイミングで助け舟を出してくれる。なのでこちらも、相手が大変そうなときには、助けてあげたい気持ちになってくる。

もちろん、相手の求めるものがわかるようになったからといって無理にそこに合わせる必要はない。「相手が一緒に働きたいと思う自分」を演じる必要はまったくないのである。

どんなに志望度の高い企業であっても「あ、この会社/この人たちが求めてる人材って、全然自分のなりたい自分じゃないんだな」と思ったならばすぐに撤退するべきだ。

また「うわー、この面接官/この上司、全然こっちの話聞かねえな」と思ったら、同様にすぐ撤退していい。時間を無駄にする必要はない。そういう、合う合わないの判断を正確に行うためにも、やはり聞く力が欠かせないと言える。

「聞く力」はべつに、インタビュー取材をかさねるなんてことをしなくても、磨くことができる。まわりのいろんな人にアドバイスをもらってみるとか、逆に自分の就活や転職とは全然関係ない他人の悩みの相談に乗ってみるとか。

プライベートでの人とかかわったり喧嘩したり話し合ったりしたことは必ず経験として蓄積して、仕事上のコミュニケーションにもダイレクトに影響してくるものだ。

まわりのことが見えるようになってこそ、自分の“個性”とうまくつきあえるようになる。自分をよく見て、本当の「自分らしさ」をつかみとれるよう、一緒に頑張っていきましょう。

この記事を書いた人

ひらりさ

ひらりさ

平成生まれのアラサー腐女子。BLと酒を主食に、会社員のかたわらライター活動をしている。同人サークル「劇団雌猫」としての企画・編集・執筆も行っており、近著に『一生楽しく浪費するためのお金の話』がある。

Twitter:@sarirahira