「どうせ●●だから」「××だからダメなんだ」なんてレッテルを貼られたり、偏見を持たれたりして悔しい思いをした経験がある人、少なくないと思います。

今回は、「アイドルに総合格闘技なんて無理」という声を覆し、アイドル史上初めて、プロ総合格闘家デビューを叶えた異色の経歴の持ち主、川村虹花さんにお話を伺いました。

総合格闘技といえば殴り合いはもちろん絞め技や関節技、マウントポジションからの頭部や顔面への打撃もある激しい真剣勝負の世界です。出血する、顔が腫れあがるといったことはめずらしくなく、場合によっては骨折などの大怪我をすることも。しかも試合前には厳しい減量があります。

試合中の川村虹花(右)

川村虹花
試合での激しい殴り合いで、現役アイドルの顔に腫れと青アザが。(写真提供:株式会社クリープラッツ)

川村さんの日常は、想像以上にハード。ほぼ毎日、朝9時から夕方までみっちりジムで練習した後、夜から2本のライブに出演する日も。そんな中、果敢に挑戦を続ける川村さんは、昨年末、格闘家デビュー後わずか1年で、総合格闘技の一大イベント・RIZINへの出場を果たしました。

格闘家デビューの際、「本当にできるの?」と何度も自分に問いかけたという川村さん。「格闘家をやる上で、アイドルを言い訳にすることだけはしたくない」と語ります。

好きだけでは難しいけれど、好き以上の原動力はない。想像を超える努力を続ける川村さんに、格闘技にかける覚悟とRIZINのリングで見せた涙の意味を聞いてみました。

何度も自分に問いかけて決めた「総合格闘技への挑戦」

川村虹花
川村虹花(かわむら・ななか)。1995年、神奈川県出身。高校1年生の時に、アリスプロジェクトのオーディションを受けて、アイドルデビュー。仮面女子、アリス十番、Prismのメンバーとして活躍。2017年12月に総合格闘家デビュー。プロとしての現在の戦績は、2勝3敗。

──昨年末のRIZINをきっかけに、川村さんのアイドル活動に興味を持たれた方も多いと思います。出場されて、何か変化はありましたか?

川村虹花さん(以下、川村):最近、よく街で声をかけてもらえるようになりました。「あ! RIZINの子だ」って。あの試合をきっかけに、ファンになってくれる方も増えましたね。

──川村さんが所属するアイドルグループ「仮面女子」は、仮面をかぶってヘッドバンキングする激しいパフォーマンスが魅力ですよね。アイドルを目指そうと思った時、どうしてアリスプロジェクト(※)のオーディションを受けようと思ったのでしょうか?

(※)仮面女子が所属する事務所のアイドルプロジェクト

川村普通と違うことをやりたいって気持ちが強かったんです。仮面女子のライブに行った時、迫力のあるパフォーマンスに衝撃を受けて「これだ!」と、思いました。めちゃくちゃかっこよかったんですよ。

川村虹花
王道アイドルへの憧れは? と聞くと、気恥ずかしそうに「最初に好きになったのはAKB48。推しメンは大島優子さんと小嶋陽菜さんでした」。

──普通と違うことがしたい。格闘技を始めたきっかけもそうですか?

川村:格闘技は、母の影響ですね。母の小さい頃の夢がプロレスラーだったんです。話を聞いているうちに自分もやってみたいなと思い、プロデビューを目指して格闘技ジムに通い始めました。

──お母さまの影響なんですね! 実際に格闘技をやってみて、想像とギャップはありましたか?

川村:始めてすぐに「なんて自分は甘かったんだろう」と、思いました(笑)もともとバレーボールを小学校から6年間やっていて、運動神経には自信があったんですけど……。
「筋肉痛ってこんなに毎日続くものなの?」と思うほど、カラダもしんどかったです。でも、そうやって毎日追い込まれたからこそ、“格闘家の凄み”を体で理解できたんだと思います。

──なるほど。プロデビューを目指すと打ち明けた時、周囲の人はどんな反応でしたか?

川村:メンバーやファンには、とても心配されました。「本当にできるの?」って。自分でも、何度も自分に問いかけました。話を重ねているうちに、メンバーやファンが理解を示してくれて、「ななかちゃんのやりたいことなら応援する」と、言ってくれました。

川村虹花
「メンバーやファンの応援があったからこそ、より強い覚悟を持てました」

「ガタイがよくなった」は格闘家としての褒め言葉

──格闘家デビューされて、アイドルのファンの反応はどうでしたか?

川村:「ガタイがよくなったね」って、よく言われます(笑)

──それは、アイドルとしてはちょっと気になる発言じゃないですか?(笑)

川村:そうですね。だから、“格闘家としての褒め言葉”として受け取っています。アイドルとしてはファンに“可愛い”って言ってもらえるのがもちろん嬉しいですよ!
2つの顔を知るファンからは「別の人を見ているみたい」と、よく言われます。

──格闘家としてのスイッチが入ると、表情が凛とされますよね。

川村:アイドルの後輩も、「ななかちゃん、カッコいい!」って言ってくれます。でも試合の時って、結構ブサイクなアングルが多いんですよね(笑)技をかけられている時は特に……。

川村虹花
「技を掛けられている時は特にブサイク……、試合の録画を見て自分で笑っちゃうこともあります」

──真剣勝負ですもんね。練習や試合でできたアザは隠さず、ライブに出演していると伺いました。女性としては隠したい心理もあるかなと思うのですが……。

川村:隠すのが面倒なんです。いつどこで作ったアザかわからないほど全身にあるんですよ(笑)

──ファンの方は心配されませんか?

川村:してくださる方もいますが、最近はあまり言われなくなりました。たぶんファンの皆さんも慣れてきたのかな(笑)

──なるほど(笑) アイドルのファンの方も、試合を観にきたりするのでしょうか? 推しメンが殴られている姿を見るのはつらいという人もいるのでは?

川村:観にきてくれる人が多いです! 「両手で顔を覆って、隙間から試合を観た」と言われた時は、ちょっと申し訳ない気持ちになりました。それでも応援に駆けつけてくださるのは、本当にありがたいです。

川村虹花
「両手で顔を覆って、隙間から……」。ファンの話をする川村さんは嬉しそう。

自分の努力を伝えるには「勝つ」以外に方法はない

──昨年末の(※)RIZINは、格闘家としては初めての大舞台でしたよね。怖くはなかったですか?

(※)総合格闘技イベント

川村:緊張はしたけど、不思議と怖くはなかったです。私は試合に対する恐怖をあまり感じないんです。まだそんなに大きいケガをしたことがないからかもしれません。今は、それが強みかなとも思っています。

──RIZIN初参戦は、惜しくもTKO負けの結果に。試合の最後に見せた川村さんの涙が印象的でした。

川村とにかく悔しかったです。試合を止められて「まだやりたかったのに!」って。

──悔し涙だったんですね。試合後、応援に駆けつけたメンバーが待つ控え室に、なかなか戻れなかったと伺いました。

川村:試合が終わった後、まず頭に浮かんだのがファンとメンバーの顔でした。応援してくれたみんなの力を無駄にしてしまったんじゃないかと、申し訳ない気持ちでいっぱいで……合わせる顔がなかったです。

川村虹花
試合当日を思い出しながら、時折、涙が出そうな表情で語ってくれた川村さん。

──試合後のインタビューも、泣きながら受け応えされていましたよね。

川村:試合を振り返ったら、また悔しい気持ちが込み上げてきて、涙が止まりませんでした。インタビューを受けないという選択もあったと思うんですけど、ここまで付き合ってくれた人に感謝の気持ちを伝えたくて出ることにしました。

──きっと伝わっていたと思います。試合に対して、批判的な意見も多かったようですが……。

川村:試合後にエゴサーチして知りました。「アイドルだから弱い」「アイドルだからしょうがない」と言われたことは、むちゃくちゃ悔しかったです。
やっぱり試合は、勝たないと強さを証明できない。練習をどれだけ積んでも、試合を見てくれる人には、「勝つ」以外の方法では自分の努力は伝わらないんだなって。

──「アイドルだから」と言われたことはどう受け止めましたか。

川村:落ち込みました。自分ではアイドルであることを言い訳にしないと決めて努力してきたので結構キツかったです。でも、落ち込むだけ落ち込んだら、逆に「やってやろう」と、気持ちが湧き上がってきました。試合の結果を母に報告した時「次は勝とうね」って喝を入れてくれたんです。私の負けず嫌いは、母譲りなんですよ(笑)

川村虹花
休みがあると実家に帰るという川村さん。「会えない時はテレビ電話しています。姉の子どもと話すのが最近の癒しです」

応援してくれるファンや一緒に練習する仲間が力に

──アイドルと格闘家、二足のわらじを履いて一番変わったと思うところはどこですか?

川村:強くなりました。何事もあきらめなくなりましたね。

──即答! メンタルが強くなったんですね。アイドルと格闘家、両方やっていてよかったと感じた、思い出深いエピソードがあったら教えてください。

川村:これまで格闘技を見たこともなかったファンが、自分をきっかけに格闘技にハマってくれたことがあって。試合会場で「連れてきてくれて、ありがとう」と言われた時は、すごく嬉しかったし、元気をもらいました。

川村虹花
川村さんを見て格闘技ファンになった人も多いのでは?

──それは嬉しいですね! 逆に今だから語れる失敗談とかあったりしますか?

川村:激しい練習で筋肉痛になった日、ライブで足がもつれたことがあります! そういう些細な変化をファンの人ってちゃんと気づいてくれるんですよね(笑)その時は、「ちゃんと筋肉痛をカバーできるアイドルにならなきゃ」って反省しました。

──仮面女子は激しい曲調が多いから、筋肉痛の時のダンスはしんどそうですね(笑)そういう落ち込んだ日は、どうやって気持ちを切り替えていますか?

川村:練習や試合で落ち込んだ日は、ライブに立ってファンの人と触れ合うと、自然と忘れられます。逆にアイドルとして落ち込んだ日は、練習に打ち込むと忘れられますね。

──いいバランスですね。川村さんの中で、格闘家とアイドル、モードを切り替えるスイッチみたいなものはありますか?

川村:格闘技のジムに来ると自然に切り替わります。いつも一緒に練習してくれる仲間は、私のことを“一格闘家”として接してくれるんですよ。RIZINの試合で落ち込んだ時も、普段と変わらない仲間の態度に救われました

川村虹花
「どんな時も練習をやめない人が強い」。仲間から学ぶことが多いと語る川村さん。“格闘家としてのリスペクト”が伝わってきました。

──なるほど。格闘家とアイドルを両立するために、ハードスケジュールをこなされる日も多いと思います。正直、つらい、休みたいと思う時もありませんか?

川村:ありますよ(笑)でも、やると決めたことはやり通したい。中途半端だと全部おざなりになってしまうので……。

──そこまで頑張れる原動力は何でしょうか。

川村:今は、自分の成長を感じることが大きなモチベーションになっています。総合格闘技は、何万通りも技があるので、覚えることがたくさんあるんですよ。毎日、少しずつでもできることが増えていくと、もっと色んな技を覚えたい、もっと強くなりたいと、思えるようになりました。

──技ってそんなにあるんですね! 最後に、格闘家・川村虹花として、試合を通して伝えたいと思っていることを教えてください。

川村何かに挑戦する勇気を伝えられたらいいなと思っています。最初は、「アイドルなんかに格闘技はできないよ」と、批判する人も多かったですが、今は「やってみたら意外とできるじゃん」って言ってくれる人もいる。私の姿を通して、何かを“やってみよう”と思ってもらえたら嬉しいです。

川村虹花

川村虹花(かわむら・ななか)

1995年、神奈川県出身。高校1年生の時に、アリスプロジェクトのオーディションを受けて、アイドルデビュー。仮面女子、アリス十番、Prismのメンバーとして活躍。2017年12月に総合格闘家デビュー。現在の戦績は、2勝3敗。

Twitter:@nanaka_kawamura

取材・文/文希紀 (@gigi_kikifumi )
撮影/飯本貴子(@tako_i