誰かの生き方をお手本にして、一生懸命にそのルールからはみ出さないように生きること。でも、果たしてそれは「自分に合った生き方」なのでしょうか。もし、今あなたが無理をしているとしたら。本当は、心のどこかで辛いのだとしたら。それは、少し自分を見つめ直す機会なのかもしれません。

今回は、フリー素材モデルとして活動をしている大川竜弥さんにお話を伺いました。そんな大川さんが今の働き方にたどり着いた背景には「20代の頃に無理をして、体を壊してしまった経験」が大きく関係しているといいます。

「無理をしない生き方」を選んだ理由は? 「今が楽しい」と言う大川さんに、お話を聞きました。

20代、グイグイ行く営業ができなかった。そして、ついに体を壊した

大川竜弥
大川竜弥(おおかわ・たつや)。さまざまな職を転々としたのち、フリー写真素材サイト「ぱくたそ」にてフリー素材モデルの活動をはじめる。自称・日本一インターネットで顔写真が使われているフリー素材モデル。

──今や「フリー素材モデル」として有名な大川さんですが、元々は何をされていたんですか?

大川竜弥さん(以下、大川):僕、いろいろやってるんですよ。映画製作の専門学校に通っていたんですけど、家庭の事情で1年間で辞めて。で、近所のユニクロで働き始めて、ウェブ開発会社へ就職し、1年で辞めてライブハウスの店長になりました。その頃はザ・グレートサスケさんやアイドルの付き人の仕事もしていましたね。

──それぞれ全然職種が違いますね……。

大川:流されるままやっていたので……(笑)

──今37歳ですよね。ライブハウスでは何歳の頃まで働いていたのですか?

大川:ライブハウスは24〜29歳くらいまで5、6年くらい働いていましたね。そのうち任されることが増えて、店長の通常業務は午後から終電前くらいまでなんですけど。そのあと、さらにライブハウスの系列会社が運営しているスタジオの管理も、僕が深夜にやっていました。

──ということは、お昼頃から朝方まで働きっぱなしということですか……?

大川:そうですね。それだけ働いても生活に余裕がなくて、さらにクロネコヤマトで深夜1時〜5時までバイトしていたんですよ。なので、お昼からライブハウス、深夜にスタジオ管理とクロネコヤマトのバイトを同時にやるという。

──ん、同時に?

大川:はい、例えば深夜23時からバンド練習の予約が入っているとき、受付や機材の搬入などを済ませたあと、バンド練習が終わる朝5時半くらいまで僕はやることがないんですね。なのでお客さんに事情を説明して、そこからクロネコヤマトのバイトに行って、朝5時半にスタジオに帰ってくる、という生活をしていました。

──体壊さなかったんですか……?

大川:壊しました(笑)。検査をしたら明らかに体調が悪くなっていて、自律神経失調症的なことになってしまって。ライブハウスの店長の仕事は、基本給+出来高制、要は営業成績だったんですけど、僕は出来高制の部分が全然ダメだったんです。接客は得意なんですけど、営業がまったくできなくて。イベントを企画して、自分から声をかけてお客さんを呼んで、っていうのが苦手で、どんどんできなくなっちゃったんですよね。

──営業が苦手だというのは意外です。

大川:向こうから来てくれた人に関しては、全然いいんです。体調を壊したのをきっかけにライブハウスを辞めて、ソフトバンクの契約スタッフとして働いたときは、営業成績は良かったですし。ただ自分からグイグイ行くのが苦手で、それはできなかったんです。「自分には合ってないし、やりたくない」と思っちゃったんですよね。

何ができるかと考えたら、フリー素材モデルに行き着いた

大川竜弥

──その後、「フリー素材モデルになろう」と思ったんですね。

大川:はい。もともと「インターネット上で個人で仕事をしたい」と思っていたんです。だけど当時僕が王道だと思っていたデザインも、プログラミングも自分には向いてないなぁって。それで「何だったらできるかな?」と考えた時に思いついたのが「顔出しをすること」だったんです。

──顔出し、ですか?

大川:当時、2012年頃ですね、一般的にインターネットで顔を出す人はあまりいなくて、これなら可能性があるな、と。フリー素材は、あくまで脇役なんです。イケメンや、個性がある顔は向いていないんですよね。でも僕の顔は当たり障りもなくて、まさに「フリー素材モデルをやるために生まれてきた顔」で、ぴったりだなと思って。

──大川さんの前に、フリー素材モデルを専業でやっている人はいなかったんですか?

大川:いなかったです。当時、フリー素材モデルの方ってタレントや役者の卵がひっそりとやっているものだったんですよね。サイトにフリー素材モデルのプロフィールがあるサイトなんて、どこにもなかったんです。だからSNSを使ってどんどん発信していけば、「あの人が最初に始めたんだよ」って思ってもらえるな、と。最初はそういう考えで始めたんです。

──『ぱくたそ』というフリー素材サイトで活動をされていますが、それは始めからですか?

大川:そうです、たくさんあったフリー素材のサイトの中から、写真が一番綺麗で、デザインも良かったので、当時立ち上げて半年くらいだった『ぱくたそ』を選びました。で、調べてみたら運営管理人のすしぱくさんの家も近くて。そこからTwitterでやりとりをして「なんでもやります」と応募をして、活動することになりました。

──当初は、今みたいに忙しくなるとは思ってなかったですか?

大川:漠然と仕事になるかなとは思ってましたけど、具体的にはあまり考えていませんでした。そんな中、フリー素材モデルを始めて1年くらいで企業の東洋ゴムさんからお仕事をいただいて。当時は30歳くらいだったし、もし3年くらい何も仕事がなかったらさすがに焦ったかもしれません。でも1年でそういうお仕事をもらえたというのは、この仕事を継続できた大きなきっかけでした。

──心が折れそうな瞬間はなかったですか?

大川:なかったんですよね、これは昔からそうです。僕、物事を深く考えないんですよね。お昼から朝まで働いていたときと、借金に追われてたときは「ヤバイ」と思ってましたけど、心は折れなかったです。

やりたいと言った仕事の9割が実現している

大川竜弥

──フリー素材モデルというお仕事は自分に合っていると思いますか?

大川:そうですね、総合的に見て合っていると思います。僕あんまり自分にも人にも興味がないんですよ。自己顕示欲がないというか。

──自己顕示欲がないんですか?

大川:同じフリー素材モデルでも「自分が表に出ていきたい!」という人もいるんですけど、僕にはそれがなくて。多分、良くも悪くもフラットな性格なんです。そういう意味で、僕にとってフリー素材モデルは天職だと思っています。

──そういえば先ほども「フリー素材はあくまで脇役だ」、と仰っていましたね。

大川:クライアントさんからすると、例えばSNSとかで「自分の意見や思想」をガンガン言いたい人は、使いづらいと思うんです。「あの人はこういう思考だから、このデザインには使いにくいよね」って思われちゃうことがあるので……。

──心の中では何かに対して「これは許せん!」と思うことがあっても、発信しないようにしているんですか?

大川:いや、それがそもそもあんまり思わないんですよ(笑)。もちろん人並みに政治や社会問題に興味関心はありますけど、それをネット上で言おうとは思わないんです。好きなもの、かつ「その仕事をやりたい!」と思うことは言いますけど、悪口や人が傷つくかもしれないことは、絶対言わないですね。

──そういう意識を徹底されているあたり、さすがです。実際にそれが仕事につながったことはありますか?

大川:狙いを定めてるのもあるんですけど、実は僕が「この会社さんと仕事がしたい」と言ったことは、ありがたいことに9割くらい叶ってるんです。

──えっ、9割!?

大川:たとえば僕、もともとキングジムさんの製品を使っていたんですね。で、キングジムさんってネットやSNSの使い方も上手なので「何か一緒に仕事したいな」と思っていて。そんなとき、キングジムさんが本社のロビーに、七夕の笹を飾ってたんです。

──ん、七夕ですか?

大川:で、入ってみると「みなさんのお願いごとを書いてください」と書いてあったので「キングジムさんと仕事したいです」と書いて、それを写真に撮って、ブログにアップしたんです。

──まさか…

大川:そのまさかです。それを見た担当者の方から連絡があって、本当に、数カ月後にキングジムさんのキャンペーンサイトのモデルのお仕事をさせていただけたんですよ。他にもちょうど良いタイミングで自分を売り込んで、お仕事をいただいているケースが多いですね。

──すごいです。

大川:僕が仕事をいただいた企業は、僕が好きな企業だし、ネットに広告費をかけているんです。ネットに力入れてない会社は、僕のことなんて絶対使わないじゃないですか。だから、そういう部分は見極めつつ……という感じです(笑)

──客観視する能力が高いのかもしれないですね。だからこそ「あ、今ここのイスが空いてるな」とか、そういう場所を見つける能力がすごいのかなと、お話を聞いていて思いました。

大川:よく言えばそうかもしれません(笑)。でも、何事もタイミングを見定めてやることが大事だと思います。僕、こちらからカンガン行く営業は苦手ですけど、何か機会があったら、そのときに来たものを全力で打ち返すタイプなんです。格闘技でいえば、カウンタータイプですね。

無茶はするけど無理はしない

大川竜弥

──大川さんはフリー素材モデルという肩書き以外にも、俳優、ライター、タレント、司会業などたくさんの肩書きがありますよね。「一つの生き方」に決めないのはどうしてなんでしょう?

大川:なんででしょうね。多分僕は「やれることも、やりたいことも全部やろう」って思ってるんです。単純に、好きなことは全部やりたいっていうだけなんですけど。

──好きなことは全部やりたい、というのは自分に正直な生き方ですね。仕事をする上で、生きていく上で大事にしていることはありますか?

大川「無茶はするけど無理はしない」という生き方を徹底してますね。

──と言うと?

大川:僕の中で「無茶」は、ほんの少しでも可能性が見えるものなんです。でも「無理」は可能性が見えないことや、自分がやりたくないこと。そういう意味では営業は、僕にとっての「無理」なんです。

──確かに「無理」をし続けるのは、心身ともに良くないかもしれませんね。

大川:先ほども言いましたが、僕の場合、来たお客さんを迎えるのは得意です。だけど自分から売り込んでいくのは苦手なんです。それこそ格闘技でも、自分からガンガン攻めるファイタータイプと、距離を取りながら闘うタイプに分かれるし、両方できる人はいないじゃないですか。だから自分にも、両方求めなくてもいいと思うんですよね。

──大川さんは「無茶はするけど無理をしない」ですが、多くの人は「無理はするけど無茶をしない」というか、逆なのかなって思うんです。

大川:確かにそうかもしれないです。

──たとえばブラック企業で「無理」している人でも、なかなか辞める決断をするまでに時間がかかるじゃないですか。だから「可能性を感じるし、やりたいこと」に対しても、なかなかアクションが起こせない、大川さんの言う「無茶」ができない人の方が多いような気がしていて。

大川:みんな大変な思いをしてるんですよね。僕も20代の頃は流されるまま生きてきたし、「無理」をして体を壊しました。だから今は無理しないんです。今はたまに人から「大川さんは30歳から新しいことに挑戦してすごいですね」と言われることもあって。

──フリー素材への挑戦は、「無理」じゃなくて「無茶」だったんですね。

大川:そうですね。あと、僕は、長い目でみると、人生はこれから長いので「20代のうちに結論を出さなくてもいい」と思うんですよ。僕も今、フリー素材モデルでたまたま生活できますけど、数年後に全然食べていけなくなったとしたら、絶対やめたほうがいいじゃないですか。

──確かに…。

大川:だから僕は「ダメだな」と思ったら、見切りをつけてやめるのも、大事なことだと思っています。だから詰まったら、人に相談したりしたほうがいいかもしれないです。自分だけで考えずに。人生、持久走ですからね。

大川竜弥(おおかわ・たつや)

1982年生まれ、神奈川県出身。O型。ユニクロ、Web制作会社、ライブハウス店長、ザ・グレート・サスケのマネージャーなどを経て、2012年3月からフリー写真素材サイト「ぱくたそ」にてフリー素材モデルの活動をはじめる。ニュースサイトやバナー広告、テレビのバラエティ番組からドラマまで、さまざまな場所にフリー素材が使用されている。キャッチコピーは、「自称・日本一インターネットで顔写真が使われているフリー素材モデル」。

Twitter:@ryumagazine

取材・文/吉川ばんび(@bambi_yoshikawa
撮影/ケニア・ドイ