「旅する写真家」として、南アジアをバイクで巡りながら現地の日常をカメラに収めてきた三井昌志さん。中でも一番多く訪れているインドは、すでに7周もしています。

数多く撮ってきたのが「働く人たち」。アジアの国々では、経済的に豊かでなくとも自分の仕事を愛し、仕事に誇りや充足感を感じる人が多いと言います。

そうした人々の働き方を見てきた三井さんに、仕事とは何か、自分に合った仕事を見つけるにはどうしたらいいのかを聞きました。

アジアの人々が“幸せな労働者”である理由 

三井昌志
三井昌志(みつい・まさし)。写真家。1974年生まれ。2000年より、インドをはじめ南アジアを旅して周り、現地の人々の写真を撮り続ける。これまでにインドをバイクで7周し、合計10万キロを走破。

──「日経ナショナルジオグラフィック写真賞2018」のグランプリを獲得されたとのことで、おめでとうございます。

三井昌志さん(以下、三井):ありがとうございます。ドキュメンタリー写真家として長年目標にしていた素晴らしい賞なので、すごく嬉しいです。

──一年間にどのくらいの期間、旅に出ているんですか。

三井:日本が寒くなる11月とか12月に南アジアの国々に出かけ、日本が暖かくなる3~4月に帰ってくるというのが多いです。まさに渡り鳥ですね(笑)。そんな生活をもう10年以上続けています。

──約半年も。 ご家族は?

三井:妻と小学2年生の娘がいますが、本当にありがたいことに、こうして旅することが僕にとって、そして家族の生活にとって必要なんだというのを理解し、受け入れてくれています。そのかわり日本にいるときは、娘は僕にべったりです。

──旅先ではどんな活動を?

三井:現地でバイクを借り、ガイドブックには載っていないような非観光地を気のおもむくままに巡るというスタイルです。道で素敵な人とすれ違ったら声をかけてみたり、気になる工場や市場があれば入ってみたりして、現地の人々の飾らない日常を撮っています。

──そうした場所で多くの「働く人」を撮られてきましたが、働く人を撮る理由は何ですか。

三井:人間が一番絵になる場面はどこかというと、働いている時だと僕は思うんです。働いている人って、働いていることに集中していて、すごくその人らしい、かっこいい表情が撮れるんですよね。

撮影:三井昌志
インド南部の染色工場で、化学染料で糸を染める人。室内は40度を優に超え、湿度も極めて高い。40歳前後と思われる男性の、日々の仕事で自然に鍛えられた筋肉が目を惹きます。(写真提供:三井昌志)

──彼らはとてもエネルギッシュで美しく見えますね。

三井:それは、彼らが仕事というものを非常にシンプルにとらえているからだと思います。彼らの多くが、仕事を純粋に「生きるためのもの」と考えています。生きるために一日身を粉にして働き、それで実際に自分と家族が生きていける。仲間と楽しいひとときも過ごせる。それで充分に幸せじゃないかといった価値観です。

彼らは本当に幸せそうに見えるし、実際に幸せなんだと思います。

──私たち日本人とは何が違うのでしょうか。

三井:彼らの多くは、職業の選択の余地がありません。インドでは未だにカースト制度の影響が色濃く、多くの人が代々受け継がれてきた職業を継ぎます。特に僕がまわる田舎の人々はその傾向が強いです。だからこそ日本人みたいに迷ったり後悔したりせず、シンプルに仕事に没頭できるのではないでしょうか。

日本とはだいぶ環境がちがいますが、複雑に考えすぎないということが参考になるところはあります。

自分より才能がある人に挫折感を覚えた

撮影:三井昌志
インド北部の羊飼い。民族の伝統スタイルである白の上下に赤いターバンを全ての人が着ていて、この姿で羊を追いかけます。伝統的な仕事に対する自負や誇りを存分に感じさせます。(写真提供:三井昌志)

──三井さんは大学卒業後にいったん就職して会社員として働いていますが、そこから写真家になった経緯を教えてください。

三井:僕はもともと機械をいじるのが好きで、ずっとなりたかった機械メーカーのエンジニアの職に就くことができました。仕事はそれなりに充実していて楽しかったんですが、当時のメーカーの開発部署はめちゃくちゃハードで、残業なんてあたりまえ。チームのみんなが夜中まで働いているようなところでした。

それでも3年も続ければ慣れてしまえるだろうなと思ったのですが、「本当にこれが自分のやりたいことか?」という疑問が心にずっとありました。

──というのは?

三井:高校の時から理系だったので自然とその進路を進んだのですが、本当は何かを表現したいんじゃないかという思いがあったんです。それが文章なのか映像なのか写真なのかはわからないけど、とにかく自分の感じていることを表現して、それが仕事になったらいいなという漠然とした思いがありました。

──そうだったんですね。

三井:あとは理系の才能があまりなかったというのもあります。大学時代も、社会人になっても、僕が一生懸命考えてもわからない理系の問題をあっさり解けるような人が周りにいました。そのたびにある種の挫折感を覚えました。

やっぱりそこは才能だし、機械の仕事はやっぱり物理と数学がものをいうので、この仕事を10年、20年と続けても彼らのようになるのは無理だなと感じていました。だから学生時代からずっと、人生をやり直したいなという気持ちがどこかにあったんです。

──人生をやり直す…。

三井:それで就職して2年経った時に、会社を辞めることにしました。その時点で、それ以降のプランはまったく何もありませんでした。

なりゆきにまかせたら思わぬ結果が待っていた

撮影:三井昌志
インドの卸売市場で、唐辛子を広げて乾燥させる人。唐辛子の粉塵が激しく舞い、男性はくしゃみを連発。かといってマスクを付けるわけでもないところがインドらしいです。(写真提供:三井昌志)

──親には反対はされませんでしたか。

三井:両親とも公務員だったので堅いといえば堅い家で、やっぱりいい顔はされませんでした。でも最後は僕を信じてくれたのか、「自分の人生なんだから、生きたいように生きるのがいい。好きなことをやってみなさい」と言ってくれました。とても感謝しています。

両親には、30歳までには何らかの結果を出すから、20代のうちは好きにやらせてほしいと伝えました。

──いいご両親ですね。その後は…

三井:しばらくブラブラしていたのですが、何かを表現するにしても、自分の中に何もないことに気づいたんです。それで旅に出てみようと考えました。旅をするなりして、自分の中に何か波を起こさないと、このままじゃ何も成し遂げられないなと。

──旅…どこに?

三井:そこで2000年、26歳の時に10カ月にわたってユーラシア大陸一周の旅をしました。最初はヨーロッパに行きたくて、アジアはそのついでに寄る感覚だったのですが、そのアジアが面白過ぎて、すっかりハマってしまいました。そこから現在に至るまでアジアをぐるぐる周り続けているので、実は未だにヨーロッパは行ったことがないんです(笑)。

──写真家への道はどうやって拓(ひら)けていったのでしょう。

三井:最初の旅の時点では、プロの写真家になろうなんて夢にも思っていませんでした。どちらかというと書く方面にいきたいと考えていました。ただ写真自体は撮っていたので、文章と一緒にメルマガやホームページにアップしたんです。

当時は今と違って写真付きの旅行記をウェブで更新している人が少なかったこともあって、徐々に注目が集まり、読者の数も増えていきました。その結果、ある出版社の編集者が「写真集を出してみませんか?」と声を掛けてくれたのです。それが29歳の時です。

以降は毎年のように長期の旅に出るようになり、写真集を出版したり、講演したりと、写真家と名乗って10数年なんとかやってこれました。振り返ると、本当になりゆきでここまでやってきたなという感覚です。

「頑張れば人より上手にできそうなこと」を探す

撮影:三井昌志
差別や迫害、難民化が大きな問題となっているミャンマーのロヒンギャの青年。絶望的な状況に置かれる彼らではありますが、その働く姿はとても美しいものがありました(写真提供:三井昌志)

──そんな三井さんにとって、「仕事」とは何でしょうか。

三井:やっぱり一つは、生きていく手段です。僕も家族があるし、自分の生活もあるので、仕事はしなくてはいけない。それは、僕が撮ってきたアジアで働いている人たちもそうですが、大事なことだと思います。

でも、決してそれだけではなくて、僕にとって仕事とは、少しでも世界のプラスになることをする行為だと思っています。

──世界のプラスになること?

三井:僕はそれを「贈り物」とも呼んでいます。お客さんのために、家族のために、所属する共同体のために、そして世の中のために、ささやかな贈り物をすることが仕事だと思っています。

そして誰もが自分の中に、何かしらの贈り物を持っている。「本当にやりたいこと」、あるいは「頑張れば人よりうまくできそうなこと」を。人によっては道路を作ることだったり、サービスを提供することだったり、お米を作ることかもしれません。自分がそうだったように、予想もしないところに意外な答えが転がっていたりするものです。

──三井さんにとってはそれが写真だった、と。

三井:そうですね。写真を通じて少しでも「地球にはこんな美しさがあるんだ」「人間にはこんな美しい面があるんだ」というのを知ってもらうこと。それが自分が世界に贈ることのできるささやかな贈り物だと思っています。

──自分の中の贈り物を見つけるにはどうすればいいのでしょうか。

三井:それこそが、旅に出ることだと思います。旅といっても旅行に限らず、今ある環境とは違うところに身を置くという広い意味での旅に出て、自分の新しい可能性を知ることです。

自分に無理をして頑張り続けなくてもいい

撮影:三井昌志
インド中部マハラシュトラ州の織物工場で働くムスリムの男。綿ぼこりが舞う古い工場に、窓から強い光が差し込む。美しい光景は、きっとどこにだってある(写真提供:三井昌志)

三井:たとえば今の仕事がしっくりこないなら、全然違う仕事にアプローチしてみるとか、あるいは別に仕事を変えなくても、ボランティア活動をしてみるとか、何かのコミュニティに参加してみるなどです。そうやって未体験のものごとに触れて自分の新しい面を知ることが、「自分にはこんな贈り物があったのか」と気づくきっかけになると思います。

僕にはそれがまさに世界を旅することでした。旅を続けることが、自分の中の贈り物を磨くのにどうしても必要でした。

──未体験のことをやるといいんですね。

三井実際に「体験すること」が大事です。今はネットやテレビで何でも見られて、すぐにわかったような気持ちになれますが、実際に体験をするとしないでは雲泥の差があります。やっぱり体験することで得られる情報量、五感への刺激というのは圧倒的です。

新しいことをするのは最初は怖いし、間違えることも、イヤな目にも遭うこともあるでしょう。それまでの価値観とのギャップも感じるでしょう。そうしたギャップを楽しむ気持ちを持つことが、自分の潜在的な可能性に気づく秘訣だと思います。もし新しいことが自分に合わなくても、逆に今までの価値観の良かったところに気づけます。まさに旅と同じです。

──これから“贈り物”を見つけようという読者にアドバイスをお願いします。

三井:僕はなんとなく20代で区切りましたが、本当は30代でも40代でも迷い続けて全然いいと思います。何歳からでも人生は変えられます。自分も今までさんざん悩んできたし、そこで新しい環境に身を投じることで、実際に思いもよらない結果を得てきました。そしてこれからも悩み続けるでしょう。それが新しいことをする原動力ともなります。

だから自分に無理をして今の環境で頑張り続けるだけが道じゃない、新しいことにチャレンジして“なりゆき”に身をまかせる道もあるというのを、ぜひ念頭に置いてもらえればなと思います。

三井昌志(みつい・まさし)

1974年生まれ。大学卒業後、機械メーカーのエンジニアとして2年間働いた後、退社。2000年にユーラシア大陸一周の旅を敢行。以降、写真家としてアジアを中心に旅を続け、人々の飾らない日常と笑顔を撮り続けている。旅の経験をつづったフォトエッセイの執筆や講演活動、広告写真やCMの撮影など活動は多岐にわたる。「日経ナショナルジオグラフィック写真賞2018」でグランプリ受賞。写真集『渋イケメンの世界』など9冊の著作がある。

Twitter:@MitsuiMasashi

ウェブサイト:たびそら

取材・文/田嶋章博(@tajimacho
撮影/奥本昭久(kili office)