エンジニアとして技術ブログをしたためるそーだいさんは、現在の仕事を「自分しかできないこと」と感じているそうです。誰もが追い求める、でもどこにあるのかわからない「自分しかできないこと」の見つけ方を綴ってもらいました。

はじめまして。株式会社オミカレという会社で副社長 / CTO(Chief Technical Officer)を務めるそーだいと申します。

と、肩書だけ並べるとなんかすごそうですが、実はそんなことはありません。「副社長」も「CTO」も役割のひとつに過ぎず、「マネージャー」や「リーダー」、あるいは「新入社員」のように、誰もが担うなにかしらの責任と本質は何も変わらないでしょう。

さて、私がここに至るまでにはオミカレを辞めたり戻ったり、といった紆余曲折があったのですが、今の役割を担ったのには「これは、自分“しか”できない仕事だ」という予感があったからです。誰にも定義することなどできない「自分しかできない仕事」を私がどのようにとらえたのか、その過程をお伝えしたいと思います。

あえて実績を捨ててみる

私は同社の創業メンバーでありCTOだったのですが、実は一度辞めてある会社に、いち社員として転職しています。

多くの人にキャリアとしてはダウンだ、せっかく偉くなったのにもったいないなどと驚かれたりもしましたが、これには重要な狙いがありました。それは「実績を捨てる」つまり成功体験を捨てるということでした。

言葉にするのは簡単ですが、いざ行動に移すのは簡単なことではありませんでした。わずかでも成功体験があると、変化に対する恐れが生まれるからです。役職や立場、実績がつけばつくほどそれを捨てることが怖くなります。

しかし、だからこそ私は実績を捨てることが必要だと考えたのです。心地良いけど同じ道を歩くのではなく、まったく別の道を歩いてみよう。そうしたら新しい世界が見えるはずだ、と。こんな風に考え、僕はCTOという肩書を捨てることを決めました。

マネージャーからプレーヤーへ越境する

実績を捨てる中でこだわったのは、マネージャー職ではなくプレーヤー職に移ることでした。幸いにも私はエンジニア、つまり技術職でしたので、プレーヤー側での採用機会は豊富です。

私が管理職ではなく、現場のプレーヤーにこだわったのは、自分自身、CTOとしてメンバーを管理するにつけ、マネージャーとプレーヤーの「視点の違い」を感じることが度々あったからです。だからこそ、“マネージャーの視点を持ったプレーヤー”は強みがある人材のはず、と考え、私は現場の技術者としての役割を求め、CRE(Customer Reliability Engineer:エンジニアと技術コンサル営業を合わせたような職種です)として採用されたのです。

マネージャー目線を持ったプレーヤーの強みはどのような部分があるでしょうか。

たとえば顧客が抱える問題解決のために新しい技術を導入すべき、という意見を持ったとします。現場担当のCREならば、「新技術の導入手順は〇〇です。他社の導入実績はXXです」といった説明になるのが自然です。

しかし、私の提案を採用するかどうかは、顧客の上司の方が決済すべき事柄です。そして、決済のためには、新しい技術が便利かどうか、だけでなく「本当に事業成長に必要かどうか」といった判断材料が必要です。なんといっても、自分は元“技術責任者”です。あの頃の自分を思い出し、「こんなロジックが欲しいよな。だったらAとBの技術なら、Aのほうが費用対効果が高いな」といった判断材料も込みで顧客をサポートできるのです。

現場のプレーヤーとしての仕事は、私の目論見通り、強みを生かせる充実したものになっていったのです。

2度目の「実績を捨てる時」

しかし、そんな私に前職場から「帰ってきてほしい」という連絡が来ます。開発チームの立て直し、そして次のフェーズに行くための組織作りを手伝ってほしいという依頼でした。

古巣からの突然のオファーに私は悩みましたが、考えれば考えるほどCREを辞める理由よりも、続けるべき理由が強く感じられました。マネージャーを辞め、あえてプレーヤーに戻ったのに、またマネージャーに戻るのは得策ではなく、今のまま「マネージャー視点を持ったプレーヤー」を続けることが最良だと感じたのです。結局、私はこのオファーを断りました。

さらに数カ月経った頃、再度アタックをもらいます。その時のオファーは、もうひとつの役割を加えたものだったのです。技術面とビジネス面、そして経営という3つの側面で活躍してほしい、と。

この話を聞いたとき、転職した理由が思い出されました。私は実績を捨て、新たなチャレンジをするために現場のエンジニアになったのです。そしてそのチャレンジは実を結びつつある実感がありました。しかし同時に、実を結びつつあるからこそ「CREとしての5年後の自分」のイメージもできていました。CREとしての働き方は自分の中で完成しつつあったのです。

私にとって2度目の「実績を捨てる時」がやってきた。そんな直感が私の背中を押し、復職を決断をしたのです。

自分にできること

と、ここまで私の転職の経緯についてお伝えしてきましたが、それは同時に「私自身の価値」の追求でもありました。価値とは非常に漠然とした言葉ですが、よく語られる表現を引用すると、仕事においては次の3つの要素が重なる部分が大切な価値です。

  • やりたいこと
  • できること
  • 求められること

3要素の重なりを最大化することは、自分だけの意思や行動では難しいかもしれません。しかし、少なくとも「できること」は自分で大きくすることができ、大きくした分だけ「求められること」との重なりも増やしていけると私は思っています。

では「できること」を増やすにはどうすればいいでしょうか。私の場合、今回ご紹介している転職の流れがまさにできることの増やし方の実践でした。CTOという実績を捨て、CREという新しい職務を求める。さらにCREというプレーヤーから経営に携わる仕事にチャレンジする。こうした変遷はいわば「経験したことのない、やれないこと」に飛び込んでいくことです。新しいことにチャレンジすれば、その分、新たな経験やスキルが手に入るでしょう。

しかし、新しいことにチャレンジすることには注意が必要です。経験がないことを行うには、得てして苦痛が伴うからです。経験が豊かなことであれば、どれくらいの作業や時間が必要か想像できますし、できないことをやるよりも気持ちの中のハードルも低いでしょう。ですが、成長は「経験したこと」ではなく、往々にして未経験の苦痛の中にあり、苦痛から目をそらすことは成長するチャンスを逃すことになる。私はそう思うのです。

痛みをやわらげるのは「やれることをやる」という思考

苦痛を低減させ、チャレンジを継続していくために、私が大事にしているのはやれることをやるという考え方です。

やれないことをやるために、「やれることをやる」というのは一見矛盾しているように感じます。しかし、経験がないことを成功させるための秘訣は、目の前にある「できること」を積み上げていくことだと私は考えます。

たとえば、仕事上の大きなプロジェクトを初めて任せられたとします。それまでは、ひとりで企画を考えたり、製造の調整をしたことがあっても、大規模なプロジェクトを任されたことがないため、何から手をつければいいのか、途方にくれるかも知れません。だからこそ、まず眼の前のできることから手をつけるのです。

企画を作り、それを提案し、製造のための予算を見積もってみる。上司や周囲への報連相を徹底する。こうした作業は、それまでこなしてきたことと大きくは変わらないでしょう。しかし、そのうちに新たなプロジェクトを完成させるには新たな技術が必要で、そのためには新たなパートナーを探す必要がある、と未経験の領域が見えてくるはずです。

目の前の「できること」をひとつひとつクリアしていくことで、経験のないことでも達成への道筋が見えてくるのです。

「自分しかできないこと」をやる

こう考えると、未経験の領域へのチャレンジも少し気が楽になってきそうです。しかし、その先にもうひとつ大事なことがあります。それは、自分しかできないことです。他の誰にもできない、「自分しかできないこと」は文字通り唯一無二の価値です。

とはいえ、自分しかできないことなど、そうそう見つからないと感じられます。できるようになったことが多少増えたとしても、それが自分以外の人間にはこなせない、という証はありません。

では「自分しかできないこと」をどうとらえるか。私は逆説的に考え、「誰にもできないこと」、さらに言うと「誰もやらないこと」ととらえています。「誰もやらないこと」とは決して大げさなものではありません。みなさんも少し振り返ってみてください。

みなさんの職場に、誰もが口にする不満ははないでしょうか。

たとえば、会議をしても議論された内容が残っておらず、何が決定し、誰がいつまでにそれをやらなければいけないかが分からない、ということはありませんか。だったらまず自分が議事録を作り、周囲の人に共有してみるのはどうでしょうか。

もっと些細なことでも構いません。誰も在庫の確認をしないから月末の棚卸で在庫がズレる。だったら隔週で在庫管理表のチェックをしませんか、と上司に意見を伝えるだけでもいいかもしれません。いやいや、もっと些細な朝10分だけ乱れた資料棚を整理することでもいいかもしれません。

「誰もやらないこと」が生み出す課題は身近にたくさんあり、その中には自分が解決できることがいくつもあるはずです。

やれることをひとつひとつやっていき、同時に誰もやっていないこと見つけてトライしていくと、いつしか誰にもできないことがうっすらと見えてきます。誰にもできないことは、ある日突然にできるようになるのではなく、積み重ねの中で少しずつ育っていくものだと思うのです。

エンジニア×マネージャー×営業×企画!できることの掛け算

「誰にもできないこと」はとても難しいものに見えますが、実はパーツのひとつひとつは簡単なことの組み合わせです。パーツを増やす、とは「できること」を増やすことであり、増えたパーツをさらに組み合わせれば、誰にもできないことを生み出すのです。

私の場合も、できることのパーツの掛け算でなんとか価値が作れてきたのだと思います。まず、私にはソフトウェアエンジニアという「できること」がありました。仕事を進めていくうちに、次はチームリーダーやプロジェクトリーダーというチャレンジがあり、やがてそれは「できること」になっていったのです。

エンジニアという職責もリーダーという職責も決してめずらしいものではなく、「自分しかできないこと」ではないでしょう。しかし、エンジニア×マネージャーという掛け算の結果、私はCTOというチャレンジできる未経験の領域を得たのです。

そしてCREという未経験の領域は、私に営業と企画という新たなスキルを与えてくれました。結果、エンジニア×マネージャ×営業×企画=代替しにくい私のスキルが得られたと感じています。

このような少しずつ広げた「自分にできること」の掛け算があったからこそ、現職に再び必要とされ、経営というさらに新たな要素も含めた、私にしかできない仕事にチャレンジする機会を得たのだと思います。

チャレンジには苦悩がつきもの

と、積み重ねやチャレンジとはなんともポジティブな言葉ですが、苦悩ももちろんあります。たとえば私の場合……

  • 本当に自分しかできないことなのか不安
  • 相談相手がいないという不安
  • 自分のチャレンジが周囲に理解してもらえていないのでは、という不安

このような不安をときに感じますが、これもつきあい方次第。考えようによっては、自分にしかできないことのための成長痛となってくれるはずです。

たとえば、自分しかできないことを本当にやっているか、という不安。特に自分にとって得意で当たり前に感じる仕事ほど、そのように感じることがあります。

しかし、自分が得意なことはとても大切な価値提供です。自転車に乗るのは自分にとって簡単なことかもしれませんが、同時にある人にとってはとても難しいことかもしれません。その誰かのかわりに自転車に乗り、助けになるのであれば、それは自分しかできないことだと思うのです。

自分の価値はときに他の誰かでも代行できるものに見えるかもしれません。ですが、今その瞬間、あなたしかやっておらず、誰かを幸せにしていることなのであれば、それは自分しかできないことだと私は考えるようにしています。

また、仕事をしていく中で相談相手が思い浮かばないことがあります。

他の人がわからない、まさにそれこそ自分しかできないことをやっている証のひとつだと思います。

私の場合、同じ職場に相談相手がいないなら、学生時代の友人に助言を求めることがあります。もうひとつ支えになってくれるのは、自分と近い職種の人たちがいる集まりです。ソフトウェアエンジニアはなんらかの問題を解決するために、勉強会と題した集まりが開催されることが多いです。そのような場所で交流することで、相談相手となってくれる人との出会いが時にあるのです。はたまた、もっと手軽に本の中にヒントを探すことも少なくありません。

悩みが生まれ、立ち止まってしまいそうな時、視野を広くすることで解決の糸口が見えてくることがあります。

求められるようになる

「やりたいこと」「できること」が自分の中で整った上で、最後に重要なのは「求められること」です。

もっとも、誰かに求められることは自分ではコントロールできません。しかし、「求められること」のすべてに応じられなくとも、わずかでもいいので、自分にできること、経験がなくともやってみたいことを繰り返していくことで、ある日、求められるようになります。私が現職から3度目のオファーをもらったときが、その瞬間だったように思います。

私にとっての「やりたいこと」「できること」「求められること」の3つの円が、すべて重なった場所が、今の仕事だったのかもしれません。

私は転職したり、復職したりと流転をしてきましたが、その過程は「自分にできること」を少しずつ広げていくことでもあった、といま振り返ると感じます。これまで繰り返してきましたが、自分しかできない仕事は、自身の日々の積み重ねであり、今の自分が育てていくしかありません。

私自身は特別なことはしていません。まずはできることから始め、少しずつできることを増やしてきました。その結果、少しだけ丁寧に仕事ができる、少しだけ早く仕事を処理できる、といった、自分にできる得意なことが見えてきました。得意なことをみつけたら、あとは「できること」の掛け算をすればいいのです。

掛け算は1×1や1×2の時、大きな変化は自覚できないかもしれません。しかし、これが2×2になったとき、自分の価値、結果としての「自分しかできないこと」がぼんやりと見えてきます。私にとってはエンジニア×マネージャー×営業×企画というパーツがそろった時です。

次は3を目指すのか、新たに“掛ける数字”を作るのか、それは選び方次第でしょう。ただ、大事なのは「自分にできること」のパーツのひとつひとつを、着実なものにすることです。その上で、

  • 今、自分に何ができて、何ができないのか
  • 自分のやりたいことは何か
  • 周囲にはどんな役割があり、求められているか

この3つを考えてみることをおすすめします。そうすると明日からできる「まず自分ができること」が見えてくると思います。

最後に、どんなに知識を蓄えても行動しなければ変化はありません。イチローのバットを持ったとしても、イチローになれるわけではないのですから。本稿がみなさんにとって自身を振り返る機会になり、どんな些細なことであったとしても、行動を起こすきっかけになってくれたら嬉しいです。

この記事を書いた人

そーだい

そーだい

株式会社オミカレ副社長兼CTO兼格ゲー好き。数々の業務システム、Webサービスなどの開発・運用を担当し、株式会社はてなを経て現職。普段ブログで書くのは主に技術の話で、特にデータベース関連の話題が多いです。

ブログ:そーだいなるらくがき帳

Twitter:@soudai1025