仕事では経験が重視されることが多くあるもの。そのため、「まだ若いから」という理由で、若手にチャンスが与えられなかったり、アイデアの芽を潰されてしまったり……。「20代はひよっこ」という風潮に、不満を感じている人もいるのではないでしょうか。

そんな世間の風潮を打ち破るかのように「若さ」を尊重する会社があります。それは、時代を牽引するクリエイターが集うコンテンツスタジオ・株式会社チョコレイト。「私立スマホ中学」「6秒商店」といった話題のコンテンツを次々に生み出し続ける注目の企業です。

同社の執行役員であり、2017年には米国の広告・マーケティング誌Advertising Ageの「40 under 40」(注目すべき40歳未満の40人)にアジアで唯一選出、“バズマシーン”として数々のコンテンツを生み出してきた栗林和明さんに、チョコレイトが斬新なアイデアを生み出し続けられる理由を聞いてみました。

やらなきゃわからないことは死ぬほどある

栗林和明
栗林和明(くりばやし・かずあき)。1987年生まれ。2011年に博報堂入社。サントリー「忍者女子高生」や日産自動車「#猫バンバン」など、数々のバズプロモーションを手がけ、2017年には、米国の広告・マーケティング誌Advertising Ageの「40 under 40」(注目すべき40歳未満の40人)にアジアで唯一選出。現在は、株式会社チョコレイトの執行役員兼プランナーとして、広告ではなく「次のコンテンツづくり」に注力。

──チョコレイトは、“世界一たのしみな会社”をつくるために「若さ」を大事にしているそうですね。その理由は?

栗林和明さん(以下、栗林):今ってすべての変化が激しい時代じゃないですか。メディア環境が変化すれば、コミュニケーションのしかたやコンテンツとの触れ合い方も変化する。そうなると、ものづくりのしかたも当然変わります。新しい作り方を編み出すには、慣習に縛られずにフラットな視点で解を見つけ続けないといけません。だからこそ、固定観念を脱することができる若い感性を持った人材をとても大切にしています。

──ここでいう「若さ」は年齢ではないのですね?

栗林:はい、感性のことです。アイデアを考える時は、年齢はもちろん、学生なのか社会人かなんて関係ありません。逆に、たとえ年齢が若くても、これまでの慣習に縛られていたら若くない、という意味でもあります。

──アイデアに年功序列は不要という考えは、栗林さんの過去の経験が関係していますか?

栗林:広告会社で働いていた20代の頃の経験が、めちゃめちゃ関係していますね。チームで動く時は、いわゆるクリエイティブ・ディレクター(以下、CD)という立場の方が、アイデアの最終セレクトをします。もちろん、CDが素晴らしいディレクションをしてくれたり、自分には到底たどりつけない次元でアイデアを判断してくれたりすることはたくさんありました。

──なるほど。

栗林:その一方で、高いポテンシャルを持ったアイデアがあっても、その前提にある文脈や感覚を共有できずにボツになることが多々あるのも事実です。「経験値の高い人がすべてを判断するのが当たり前」という年功序列の考えが、良いアイデアの実現を阻害してしまうことがあるということです。その時ほどもどかしいことはありません。

栗林和明
「新人時代は本当にもどかしかったですね」と前職時代を振り返る栗林さん。

──バズるかもしれないアイデアを試せずに終わった、と?

栗林:そうですね。やらなきゃわからないことは死ぬほどある。新しいアイデアは、時に過去の経験や計算を超えた “何か”を必要とします。当時から、大人のフィルターで除外せずに、若い感性を信じて世に出すことが絶対必要だなって、ずっと考えていましたね。

──年功序列によって失われるものって、何だと思いますか?

栗林:いろいろありますが、一番はスピード感ですね。時代の変化が激しくなると、わからない領域が増えていくんですけど、わからない人にわかるように説明する工程が入ると、余計な時間がかかっちゃいますから。

──スピードを上げるにはどうすればいいのですか?

栗林:わかる人に裁量を与えることです。たとえ、これまで実績がない人だったとしても、失敗を恐れずに任せてみる。失敗は悪いことじゃないですからね。今僕がいるチョコレイトでは、とにかくいっぱい失敗して、そこから得た経験を見識に変えて、新しいものを作ろうとしています。だから逆に、失敗できないのが一番のリスクかな。

若手クリエイターのアイデアが学びになる

──若者の意見に救われたエピソードはありますか?

栗林:常に救われているのですが、新人のコッペくんのアイデアにはすごく刺激を受けています。彼はTwitterで「喫煙女子」(@smoking__girls)というアカウントを運営しているのですが、投稿しているのはコッペくんが撮った写真ではなく、コンセプトに共感したカメラマンさんが撮った写真なんです。

──では、コッペくんは「喫煙女子」という企画を立ち上げただけ?

栗林:そうです。写真のルールと世界観を作ったら、あとは自ずと人が動いてくれる。彼は「この指とまれ」みたいな、みんなが参加したくなる“原液”を作るのがすごくうまいんですよね。Instagramでは、「ズレて、重なる物語。」(@zure_mono)を作っています。Instagramって、画像を投稿するとプロフィールページの画像のマスがどんどんズレていくじゃないですか。その“マスのズレ”を利用したグリッド小説というジャンルを、彼は生み出しました。

「ズレて、重なる物語。」(@zure_mono)
「ズレて、重なる物語。」のInstagramアカウント。新たに投稿した画像は左上に追加され、過去の画像は押し出されるように右または下にズレる。マスがズレたりすれ違ったりする特性を生かして、ストーリーの登場人物の噛み合わない感情を表現している。

──インスタの新しい見せ方というか、ひとつの可能性の提示ですね。

栗林:僕もこのアイデアには驚きました。ものづくりの方法は、年齢に関係なくとても勉強になります。

──斬新なアイデアが出る一方で、経験が浅いと現実味のないアイデアも出るのでは?

栗林:もちろんありますね。ただ、アイデアを作る土壌は2つあると思っていて。ひとつはスポンサーがいる場合で、これはお互いにメリットがある現実的な着地がめちゃくちゃ重要なので、元々広告会社でそのスキルを培ったプランナーがしっかりリードしていきます。もうひとつは純粋なオリジナルコンテンツや、個人作品の場合。これは、現実離れしたアイデアでも誰も困らないし、もしかしたらこの先実現できるかもしれないので、どんどん自由に発想してもらいます。

──現実味がない=実現不可能、というわけではないのですね?

栗林:現実味の幅によりますね。自分だけでは技術が足りないなら、チョコレイトの仲間に協力してもらえばいい。たとえば、ストーリーメーカーとイラストレーターが組めばすぐ漫画を作れるかもしれない。制作資金が足りないなら会社で投資することもあるし、すごく必要性があるなら大きいスケールで協力します。

──ただ、投資してもビジネスにならなかったら損といいますか、もったいないのでは?

栗林:ビジネスにならなくても、アイデア自体が話題になって、発案者のファンが増えたら収穫だし、失敗したという事実が組織の財産になります。とにかくひとつでも多くのアイデアを世に出して、反応を見ることを大切にしています

若者が意見を言いやすい環境をどう作るか

栗林和明
「最終的にはすべての仕事が義務ではなく、やりたくてやってしまう“あそび”になっている状況にしたい」と栗林さん。

──「年功序列はない」と言われても、やはり若手が年上の人に意見するのは気が引けるものではないでしょうか。若手が発言しやすい環境を作るために実践していることはありますか?

栗林:僕たち、社内でしょっちゅうゲームしてるんですよ。特に、「大乱闘スマッシュブラザーズ」にハマってます。ゲームをしている間は、みんな急にタメ語になるんですよね。完全に友達ん家みたいになります(笑)。少しの時間でも年齢や肩書きを取っ払うと、現業でも話しやすくなったり、「今の若い子はそんなこと思っていませんよ」「この作品も知らないんですか?」なんて、かなり率直な意見を言ってくれたりします。

──仕組みや環境づくり以外で、意図的に心がけていることはありますか?

栗林:高圧的にならないこと。圧が強い人がいると、どうしても意見が言いにくくなります。僕らは基本、領域の違う分野の意見や、新しい考えを融合させ続けなければいけないので、とにかく柔軟性を大切にしています。逆に、そうすると自然と発言しやすい環境になるのかな、と。

──ただ、誰も圧がないと、引っ張る人がいないといいますか、組織がまとまらないこともあるのでは?

栗林:まだ顕在化していませんが、今後はあるかもしれないですね。ただ、圧がない=意思がないというわけではなく、意思があるけどすごく柔軟という稀有な人が集まっています。どうしても圧が必要な時は、どうやって場の空気を重くせず、圧さえも楽しめる空気を作るか、楽しい圧を作るか、ということをすごく意識しています。

──なるほど! 組織で新しいものを生み出すには意見の対立や議論がなければいけないと思っていました……。

栗林:基本、みんな柔軟ですね。面白かったのが、この前プランナー陣でFFS理論(※)を使った性格診断をしてみたんですよ。そしたら全員「凝縮性」が低いという結果が出まして。

(※)人が日常生活において、何気なく考えたり行動したりする「思考行動の特性」を客観的に分析する理論。思考行動の特性を5つの因子とストレスの状態で表すもの。

──凝縮性?

栗林:自分の中での正しさを大事にして、「当然〜でなければならない」という考えを持つ傾向です。チョコレイトはそもそも、ジャンルを越境した人たちが集まって、「自分が信じている正しさ」以外の正しさを受け入れることで新しいものを作ろうとしているので、「凝縮性」が低いプランナーが集まったのは、ある意味必然なのかもしれませんね。

若手が成長スピードをあげるには?

──若手社員が主導のプロジェクトはありますか?

栗林:「6秒商店」(@6sec_shop)(※)は20代の新人プランナーが店長になっていて、彼に映像化するアイデア選定やSNSアカウント運営の判断を、すべて委ねています。もちろん周りも「これが反応よさそう」ってアドバイスはしますが、最終判断はおまかせです。

(※)「あったらいいな」と思う商品アイデアを6秒動画で紹介するSNSアカウント。反響が大きいアイデアは、実際に商品化されることもある。

──責任のある仕事を任せられるまで数年かかると考える企業、あるいは上司は世の中に少なくないかと思います。チョコレイトはなぜ、若手にすぐおまかせできているのですか?

栗林:スポンサーやクライアントがいる仕事は、失敗してしまうとプロとしての責任が果たせないし、期待を裏切ってしまう形になる。でもチョコレイトは、6秒商店をはじめとするオリジナルコンテンツの枠があるので、その中であれば失敗しても社内で完結する。だから新人にも任せやすいんです。

──若いうちに責任のある仕事を担うメリットをどのように考えていますか?

栗林:実は、最近編み出した「人が成長する法則」があるんですけど……。

栗林和明
「これ見てほしいんですけど」と、社内共有用の資料を使って法則を教えてくれた。

栗林絶え間なく“リーダー”と“弟子”を往復することですね。まずは自分がリーダーになって、人を巻き込む。次は違う流派を持つ人の弟子になって知恵を吸収する。そして、吸収したものを使ってまたリーダーとして積極的に動く。それを絶え間なく繰り返すと……こんな感じで、前進するなと。

──確かに前進していますね。たとえがわかりやすい、そしておしゃれ!(笑)

栗林:ははは。ありがとうございます(笑)。これは、僕の中で成長の三角形と呼んでいて、勝手に法則を編み出した気持ちになっていますが、当たり前かもしれません。この往復を若いうちからやっておくと、とにかく成長スピードが上がると思ってます。

なんでもいいから“小さな専門家”になる

栗林和明
完璧に見える栗林さんでも、新人時代はしばらく悶々とした日々が続いたそうだ。

──栗林さんは、新卒入社した会社ですぐに責任のある仕事を担当できたのでしょうか?

栗林:いや、新人の時は会社でまったく評価されていませんでしたね。自分でも、秀でた点はひとつも無かった自覚があります。最初に任された仕事はFacebookページの研究で、ひたすら企業がどうやって運用しているか調べて、レポートを作っていました。続けているうちにSNSのポテンシャルが見えてきて、その延長で、これからウェブ動画の形がどんどん変わってくるなと確信したんです。その後、生まれたのが「忍者女子高生」(※)でした。

(※)サントリーのPR動画。女子高生が忍者のごとくアクロバティックに街を駆け抜ける。世界中で話題となり、これまでに1000万回以上も再生されている。

──なるほど。当時話題になったあの動画は、日々の業務の学びから生まれたのですね!

栗林:はい。もちろん自分が持っている知識だけでは実現できず、理解あるクライアントと大先輩たちのリードで生まれた案件でしたが、それがきっかけで、ようやく「ソーシャル動画」の専門家として軸足ができました。そうやって“小さな専門家”になることで、「この分野はあいつに任せよう」って責任のある仕事をもらえるようになりましたね。

──若手が軽視されがちな風潮に負けて、くすぶっている人に伝えたいことはありますか?

栗林:とにかく仮説を持って動くこと。今後世の中はこうなるから、こういう人材が必要で、そのために自分はこうして、こういう仕事を作り出していくっていう仮説を持たないと、与えられた仕事に飲み込まれて専門性が身につきづらくなります。これは気をつけてほしいですね。

──これから必要となる人材を逆読みする、というのは目からウロコでした。

栗林:僕の新人時代で唯一よかったと思うのは、これからソーシャルメディアがコミュニケーションの中心になるとか、動画が中心になるとか、そういう自分で考えた仮説が当たっていたこと。今では当たり前なんですが、当時信じきっている人はほとんどいなかったんです。もし、仮説が間違っていても、それは悪いことじゃない。自分で判断して行動したという事実が、自分自身を成長させてくれますから。

栗林和明(くりばやし・かずあき)

1987年生まれ。2011年に博報堂入社。サントリー「忍者女子高生」や日産自動車「#猫バンバン」など、数々のバズプロモーションを手がけ、2017年には、米国の広告・マーケティング誌Advertising Ageの「40 under 40」(注目すべき40歳未満の40人)にアジアで唯一選出。現在は、株式会社チョコレイトの執行役員兼プランナーとして、広告ではなく「次のコンテンツづくり」に注力。

Twitter:@kri1226

取材・文/水上アユミ(ノオト/@kamiiiijo
撮影/井上依子