人間関係でつまずいて、仕事がうまくいかない。

「そうした問題の多くは、『話し方』を変えることで改善できます」

そう断言するのが、コミュニケーションに関する数多くの書籍を手掛ける心理カウンセラー・五百田達成先生です。いわば話し方のプロ。自身のことを“コミュニケーションおたく”とも呼びます。

なぜそんなに「話し方」が重要なのか。そして話し方をどう変えれば仕事や人間関係を大きく好転させられるのか。五百田先生に教えてもらいました。

仕事も人間関係も、言葉の使い方でほぼ決まる

五百田達成
五百田達成(いおた・たつなり)。作家、心理カウンセラー。コミュニケーション術や職場の人間関係、ことばの伝え方などをテーマに執筆・講演活動を行う。最新刊「話し方で損する人 得する人」は10万部を超えるベストセラーになっている。

──今回は仕事での「話し方」がテーマなんですが、そもそも、そんなに話し方って重要なんでしょうか?

五百田達成さん(以下、五百田):重要ですね。正直、仕事も人間関係も、9割は言葉の使い方次第といっても過言ではありません。

──9割!? でも、言葉よりも、結局は仕事の質や人間性のほうが重要な気もするのですが……。

五百田:いえいえ。どんなに美味しいコーヒーでも、看板を出しておらず、しかも口コミもなければ、誰も飲みにきませんよね。WEB記事だって、どんなにいい記事でもページを訪れる人がいなければ意味がありませんよね。

──確かに……。

五百田:それと同じでコミュニケーションも、どんなに仕事の質が高かろうが、クリエイティブであろうが、真心があろうが、人に伝わらなければ意味がありません。つまり「相手がどう受け取るかがすべて」なんです。

だからこそ伝え方、要は「外側」の部分がとても重要になってきます。自分ではパワハラじゃないと思っていても、相手がパワハラだと思ったらパワハラなのと同じです。

──実際のところ、話し方を変えることで、仕事の数字が目に見えてよくなったりもするんでしょうか?

五百田:数字にもバリバリ表れます。

“組織内でのコミュニケーション芸”を磨くだけで、今まで通らなかった企画が通ったり、営業の成績が上がったりと、確実に成果として形に表れるでしょう。

──斬新な発想力とか、強いリーダーシップとかのほうが大きな成果を出せそうな気もしますが……。

五百田:先ほども言ったとおり、それも相手に伝わらなければ意味がありません。もちろん伝え方うんぬんを超えた天才もいるでしょうが、残念ながらそれはごくひと握りで、多くの人は凡人です。そもそも、会社は20~30代の社員にそんな能力をあまり求めていません。

だから組織でのコミュニケーション芸を磨いた方が断然手っ取り早いんです。私もそれで会社員だった20〜30代を生き延びました。

──それを磨くのもけっこう大変そうですが……。

五百田コミュニケーション術はしょせん技術です。だから正しいやり方で反復練習すれば、必ずうまくなります。

大部分の人と距離を縮められる「型」がある

五百田達成

五百田:まずひとつ言えるのが、コミュニケーションで得している人は、相手のことを考えてコミュニケートしています。売れている営業マンほど、相手のニーズをきちんとつかんでいるのと同じですね。

逆にコミュニケーションで損している人の多くは、「自分が伝えたいこと」を伝えています。相手のことを考えるより、自分が伝えたいことをどう伝えるかに心を砕いてしまっているのです。

──なぜ、そうなってしまうのでしょう?

五百田:「自分のことを見てほしい」という意識が強いからだと思います。その裏には、現状に満たされていない、自分に自信がない、あるいは自意識過剰といった要因が往々にしてあります。そうやって“自分が、自分が”となることでコミュニケーションが円滑でなくなり、かえって自分をわかってもらえなくなる・認めてもらえなくなるという悪循環です。

──なんかすごくわかります……。

五百田:でも得している人は、自分をいったん殺し、相手の気持ちを優先します。それによってコミュニケーションが円滑になり、結果的に自分が引き立ち、認めてもらいやすくなる。ここがコミュニケーション術の大きなポイントだと思います。

たとえば、相手が「かなり大きな事故渋滞に巻き込まれて、遅れてしまいすみません」と言ったとする。あなたは、何と返しますか?

──「え、事故ですか? どこで?」ですかね。

五百田:ダメですね。「どこで事故があったか」はあなたが知りたいことであって、相手が伝えたいことではない。そこはそのままストレートに、「それは大変でしたね」と受け止めるのが正解です。

──なるほど(汗)。とはいえ、相手のことを考えるというのは、言葉で言うほど簡単ではなさそうです。

五百田:おっしゃるとおり、相手のことを考えるといっても、人によって思考のクセや対処法はいろいろなので、簡単ではありません。それに“自分を出したい”とうのは人間本来の欲求でもあるので、抑えようと思ってもなかなか抑えられません。

そこでぜひおすすめしたいのが、「型」から入ることです。

──型ですか? 空手や茶道であるような?

五百田:そうです。話し方の世界にも、これさえやっておけばコミュニケーションが円滑に進むという型があります。もちろん相手によって例外もありますが、大多数の人には通用するようなものです。

──たとえばどんなものでしょうか?

相手の言葉をひたすらオウム返しする!

五百田:相手の名前を覚え、何度も口に出すというものです。

たとえば会ったばかりの人から「そうなんですよ、◯◯さん」とか、「◯◯さんはどう思われますか?」などと言われたら、自分のことを気にかけてくれているんだなと、親密感を覚えますよね。基本的に自分の名前をきちんと呼ばれて嫌がる人はいません。

──なんか自分に寄り添ってきてもらっている感じがします。

五百田:そうなんです。だからぜひ相手の名前を正確に覚え、脳に定着させる意味も込めて意識的に口に出すようにしましょう。シンプルながら、相手との距離を縮める効果は絶大です。

それと、相手に共感を示すための型もあります。

──共感を示す?

五百田:人は、相手が自分の話をちゃんと聞いて共感してくれると、グッと親密に感じるものです。

でも人の話を聞くときって、どうしてもアドバイスをしたり、質問を挟んだり、「要は◯◯でしょ?」とまとめたり、「そういえば私も」と自分の話をしてしまいがちですよね。でもそれでは、相手との距離はなかなか縮められません。

──それ、よくやっちゃいます……。

五百田:そこでテッパンですが「オウム返し」が役に立ちます。オウム返しとは、相手が言った言葉をそのまま返すことです。

「いやあ、PVが伸びなくてねー」と言われたら、「伸びないんですね」と返す。まちがっても、「●●が原因じゃないですか?」と言ってはいけません。「あそこのラーメン屋、超うまかったよ」と言われたら、「へえ、うまかったんだ」と返す。「いや、向こうのラーメン屋はもっとうまいよ」と言うのもよくありません。何か質問や提案したくなっても、グッとこらえる。

──そうするどうなるのでしょう?

五百田:話し手は聞き手に対して「この人は自分の話をちゃんと聞いてくれる人だな」「話が合いそうだな」と感じます。そして自分の話に共感し、自分を認めてくれた相手に対し、親近感を覚えます。

実際に相手に共感できれば一番ですが、それにはある程度の訓練が必要ですし、やっぱり共感しにくい相手もいます。だからこそ共感しているフリをする。

言葉には、心を変える“魔法”が宿っている

五百田達成

──フリ? 実際に共感しているかどうかは関係ないと。

五百田:そのとおりです。これは他のすべての型にも通じますが、うまくやりきるには「しょせん、型なんだから」と割り切り、演じることがコツです。極端な話、そこに心はいりません。

──心はいらない…。ちょっと意外です。

五百田:なぜかというと、“真心”とか“本当の自分”とかを考え始めると迷いが生じ、型が中途半端になってしまうからです。だから心があろうとなかろうと、とにかく必要な役を徹底して演じ切る。演技であれば、失敗しても傷つきません。

──確かに、型ってそういうものかもしれませんね。

五百田:でも面白いことに、型やフリを続けているといつのまにか、中身も変わってきたりします。

──どういうことでしょう?

五百田:例をあげましょう。

知り合いの会社員の女性なのですが、彼女は私が書いた本を参考にして、仕事が終わって退社する時に『何か手伝うことはありませんか?』と一応周りに聞くようにしたんです。すると『お気遣い、ありがとね』などと言ってもらえるようになり、彼女的にも『本当に何か役に立ちたいな』という気持ちが芽生えてきたそうです。そうやって次第に社内の人間関係がよくなり、いい仕事が自分にまわってくるようになったということです。

──フリだけだったのに、いつのまにか役に立ちたいなと……。中身が変わるとはそういことだったんですね。

五百田:こんな例もあります。友人が経営する会社に、AさんとBさんというとても仲の悪い社員がいました。いつも関係がギスギスしているので、どうしても周りが気を使ってしまう。そこで友人の経営者は二人を呼び出し、こう言いました。「仲良くならなくてもいいので、仲のいいフリをしてください」と。二人は、「まあフリでいいのでしたら」と承諾しました。

──どうなったんですか?

五百田:二人は演技ではあるものの、穏やかに、笑顔も交えながらコミュニケーションするようになりました。それで社内の空気はよくなりました。

ところがそれだけでは終わりませんでした。なんと二人が以前より打ち解けた関係になったのです。人間の脳は単純なもので、外側が変わることで、自然と心もそれに影響を受けて変わっていくものなんです。

──ただの型やフリでは終わらないと。

五百田:演じるというと、なんか冷徹に思うかもしれませんが、言葉がもつ力や魔法みたいなものを信じているからこそといえます。

──言葉の力、強いですね。人間関係まで変えてしまうなんて。

五百田:はい。同じ数秒でも「どう話すか」によって雲泥の差なんです。

だから、みなさんもぜひ「型やフリでもOKだから、相手の気持ちに立った話し方をする」というのを磨いて、 仕事も人生もより充実させてほしいですね。

五百田達成(いおた・たつなり)

作家、心理カウンセラー。東京大学教養学部を卒業後、角川書店や博報堂を経て、2007年に独立。「男女コミュニケーション」「きょうだい型性格分析」「ことばと伝え方とSNS」をテーマに、精力的に執筆・講演活動を行う。米国CCE, Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。著書に『話し方で損する人 得する人』、『察しない男 説明しない女』シリーズ、『きょうだい型・生まれ順性格分析』シリーズなど。

Twitter:@ebisucareer

WEBサイト:五百田達成オフィシャルサイト

取材・文/田嶋章博(@tajimacho
撮影/津田 聡