声を聞けば誰しも顔が思い浮かぶ、国民的兄貴・ジャイアン! 声優を務める木村昴さんは、現在大ブームを巻き起こしている「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」の山田一郎の声も担当。

中学生での声優デビュー以来、ジャイアンのイメージが強すぎて苦労もあったという木村さんに、殻を破ることになった転機、チャレンジすることを躊躇しないでいられるのはなぜなのか? を聞きました。

ジャイアン歴14年、声優歴も14年

木村昴
木村昴(きむら・すばる)。声優。14歳の時に、「ドラえもん」のジャイアン/剛田武役の声に抜擢される。現在は声優×ラップの異色の組み合わせで注目をあびている「ヒプノシスマイク」の山田一郎役を担当。

──第13回声優アワードの歌唱賞も受賞、「ヒプノシスマイク」(以下「ヒプマイ」)の熱量がすごいです。

木村昴さん(以下、木村):ありがとうございます。おかげさまで。

──「ヒプマイ」は、武力での闘いが消滅した時代に、代わりにラップでバトルするという、文字でお伝えするのがむずかしい世界観を持っているのですが……。

木村:僕も最初に聞いた時は驚きました。声優業界にいて、ラップもずっと好きだけど、こういったコラボレーションは想像していなかったので。決まった時も本当にうれしかったです。

──これまでは、ジャイアン役だけの時代も長かったんですよね。

木村:“だけ”と言ったらちょっと変ですけど、声優としてはジャイアンだけを演じての6年間がありましたね。

──声優デビューが、ジャイアンだったんですよね?

学校で人気者になるために、記念お受験

木村昴

木村:そうです。児童劇団にいたのでお仕事はしていたんですけど。

当時中学生で、「ドラえもん」の声優陣が変わるという話を聞きつけて、「ドラえもん」のオーディションってあるんですか?」と、当時のマネージャーに聞いて、探していただいて。

──で、応募したんですね。

木村:「ドラえもん」って、子どもの頃からずっとみんなのそばにいる特別な作品ですよね。だから「ドラえもん」のオーディション”を受けるだけで、友達にめちゃくちゃ自慢できるなと。昔からお調子者だったので(笑)。

──友達にウケそうです。

木村:そうなんです。でも僕がいた事務所はいわゆる声優さんの事務所ではなかったので、スタジオで声を録って送信みたいな設備がなくて。自宅でMDプレーヤーに録音して、郵送したんですよね。そんなやり方もイレギュラー。

──歴史的な瞬間ですね。

木村:ポストに投函した時、僕の“記念お受験ミッション”としては、もうコンプリートしていて。

──ジャイアン役で応募したんですか?

木村:複数選んで応募しても良かったんです。でもジャイアンが一番好きだったっていうのと、自分のキャラクターに似てるなという思いもあって、ジャイアン役だけ受けました。

──そして記念受験だったはずが……。

木村:録音して送った一次審査が通り、オーディションが二次三次と進んでいったんですよね。そうしたら子ども心ながらにも、行けるところまで行ったみたいって、そんな情熱も沸いてきまして。

本気で挑まないと作品にも失礼だし、途中で燃えてきたんですよね。

──で、二代目ジャイアンに選ばれたんですね。当時、中学生がジャイアンの声に決まったと話題になりました。

木村:ジャイアンに決まったっていうのは、14年経った今でもおどろいてます。ひょんなご縁だったなといいますか、声優人生がそこから始まりました。

新しい役、でも「どうしたってジャイアンになっちゃう」

木村昴

──そこから6年間、ジャイアン一筋だったのはなぜなんでしょう?

木村:最初は中学生でキャパシティも小さく、声優のイロハも心得ていない状態だったのでまずはジャイアンに集中しようかと。

でも、ジャイアンのお芝居をより学ぶためにも、いろいろな役も経験するべきだと考えるようになりました。

──これ一本で! と決めていたわけではないと。

木村:まあそうですね。僕が20歳で児童劇団を辞めてフリーで活動していた時、「輪るピングドラム」の高倉冠葉役をやらせていただくことになりました。

──新たな一歩ですよね。どんな気持ちでした?

木村:新しい役を演じるということに対しての、意気込みみたいのはもちろんありましたよ。でも6年間ジャイアンだけっていうのは、良くも悪くも、根強くて。ジャイアン以外のキャラクターを演じる時に、どうしたってジャイアンになっちゃう、みたいな。

──監督さんに下手だと言われながらも合格したそうですが、自分でもそう思いました?

木村:そりゃ思いました。いまだに「俺、超うめー!」とかないですし。当時はさらにジャイアン以外の演じ方がわからなくて。さんざん言われましたね。

──評判は気になりました?

木村:気になるというか、耳をふさいでても聞こえてくるくらい、大きかったんで。この時期は、けっこうこたえた時もありましたね。

──それで“もう声優いやだ!”と思ったりとかは。

木村:それはないです。裏を返せば、“めちゃめちゃ話題じゃん!”みたいな。そういった気にもなってくるんで。

──挑戦した甲斐がありましたね。

木村:良かったです。ジャイアン以外の演じ方を、そこで知ることができたので、後はそれの応用ですよね。ここからはもう、技術的な話になっちゃいますけど、他のキャラクターも演じられるようになった大事な役ですね。

できない役はないし、人をうらやむこともない

木村昴

──こういう役は無理かなってあります?

木村:ないんじゃないですか。“どんなキャラクターでもやれたほうが、かっこいいっしょ”みたいな風に思うので。

──お母さん役とかは。

木村:全然ありですよね。女性声優さんが男性の声を演じるパターンはわりとよくあるので、逆もありでしょって。チャンスがあれば、なんでもやりたいです。

──他の声優さんについて“いい仕事しててうらやましい”とか思う事はありますか?

木村:まったくないですね。

──自分が現状に満足できているから?

木村:“あの人がやれてなんで俺にはできないんだ”みたいなのは、基本的に思わないので。

その人はその人のできることをがんばっているんだし、僕には僕のスタイルがありますよね。自分がやれることで、やるべきことがあるんだったらやればいいわけですし。

──世の中には、そういう風に考えられないこともあると思うんですけど、その場合どうしたらいいでしょうか。

木村:ネガティブに考えちゃうってことですよね……。それって、優劣つけたがるからじゃないですかね。僕は自分にできないことを他人ができるなんて当たり前なんじゃないかなと思うので。

そういえば、最近お寺に貼ってあった言葉でバッチーンて来ちゃったのがありました。

──なんでしょう。

木村:「ないものねだりより、あるものさがし」って。それを見て“そうだなー!”って思いました。ないもののことばっかり考えているとくよくよしてしまうので、あるものを見つけたほうがいいのかなと。

繊細になりすぎない

木村昴

──みんな、繊細になりすぎてしまうきらいがありますよね。

木村:“なんで俺にはなんでできないんだ”じゃなくて、“自分にもできることがあるはずだ”っていうような視点を持てればいいんじゃないかなと思います。

あと、“自分だけ損してるんじゃないか”みたいな感覚を、周りに押し付けない。

──あんまり細かいこと気にすんなってことですかね。

木村:自分の型にこだわりすぎて他人のことも同じ型にはめないというか。そうしてるうちは自分も他人の型にはめられて、ジャッジされちゃうと思うんで。僕はそういう風な考え方を、なるべくしないようにしてますね。

──“型にはめない”というのは木村さんらしいです。「ヒプマイ」でもポップカルチャーとラップを融合させていますし。

木村:僕は元々ラップが好きでMCバトルもしていたりするので、「こういう時どうしたらいいの?」って相談してくださる声優さんもいます。でも、「ラップってこういうものだから、みんなこうしろ」みたいには、絶対言わないようにしてます。

「こうじゃないとダメ!」って言うことで垣根を作ってしまうので、それよりは「ラップってこんな感じだけどどう?」みたいな。それで面白いと思ってくれた人が、より詳しく知ってくれたりすればいいなっていう。

──垣根はいらない…。

木村:優劣も、ジャンルの違いとかの垣根も、強調すればするほど先入観だらけになって分断されてしまうような気がするので。

──そう考えるようになったのはどうしてでしょう。

木村:自分のルーツ的に、僕がドイツと日本のハーフであることももちろんありますね。ドイツにいればアジア人と言われ、日本にいれば外国人と言われるという。偏見とか先入観でジャッジされてしまう経験を、けっこうしてきています。

だからラップとポップカルチャーもそうですけど、なんかそういう垣根みたいなものは、基本的にいらないものだと思っています。

サイコー!の人生を

木村昴

──木村さんにとっての仕事ってなんですか?

木村:仕事をしなきゃとか、やらされている感みたいなのは常にないんですけど、大人になったので、“ごはんを食べるために”みたいな感覚も片隅にはあります。

けれども最終目標として、自分が生涯を終える時に、「最高!」って言えたらいいなっていう、そんな感覚はありますね。超漠然としてますけど。

──「最高!」ですか!

木村:「わが人生、一点の悔いなし、最高!」ていう感じになっていきたいですよね。

僕の日本の祖父が言語学者で、自閉症や吃音があってうまく言葉を使えない子どもたちに、言葉を教える先生をやっていたんですね。子どもに「お母さん」と言わせてあげたい、と。88歳で亡くなる直前までその活動をやっていた人で。

そのじいちゃんが「いやあもう、最高の人生だー」みたいなことを言ってるのを見て、“かっけえ!”って思ったんですね。

で、常に口にしてたのが「日本の今の医療はすごいから、俺は死ぬわけがない」みたいな。

──ポジティブ!

木村:そうなんです。「もう、人が死ぬ時代は終わった!」みたいなことを言ってて。

だからぼくはこの話を笑い話として話しますが、亡くなるとき、一番驚いてたのが、本人。

──死ぬはずがないと。

木村:床に伏してる時も、僕らずっといっしょにいて。でも「今の医療はすごいよ~っ、明日は何しようか~」みたいな、そんな感じだったんですよ。で、じいちゃんが「いやーいい人生だなー」みたいなことを言いながら、もう本当に最期の時になったら、ふぁーって眠るようにして、一瞬だけ驚いた顔して。

──驚いたんですね。

木村:家族もみんな笑顔で「自分が一番驚いてるー」って。

僕は両親の仕事が忙しかったのもあって、じいちゃんに育ててもらったみたいな部分もわりとあるので、じいちゃんの考え方みたいなのは、自分の中にも根強くあるんです。

──それがお仕事にも活きてる…。

木村:じいちゃんが言っていたように、僕もこれからもっと世界は良くなるし、垣根だったり差別だったりもなくなると信じているんですね。それに対して自分のパワーが活かされたらいいですし、人生の最期、じいちゃんみたいに「一点の悔いなし」って言うために、お仕事をしてるって感じです。

木村昴(きむら・すばる)

声優。児童劇団に所属していた14歳の時に、「ドラえもん」のジャイアン/剛田武役の声に抜擢される。その後、「輪るピングドラム」の高倉冠葉の声優も担当。現在は声優×ラップの異色の組み合わせで注目をあびている「ヒプノシスマイク」の山田一郎役を担当している。今年、第13回声優アワードの歌唱賞を「ヒプノシスマイク」で受賞。

Twitter:@GiantSUBAru

取材&文/樋口かおる(@higshabby
撮影/奥本昭久(kili office) ヘアメイク/山崎眞衣