自分のこんなところが好きじゃない、こんなことができないなんてダメだな……。そんな思いにとらわれて、ネガティブな気持ちになってしまったり、新しいチャレンジに尻込みしてしまったり。
そのようなコンプレックスを、誰しもひとつは持っているのではないでしょうか。外見、内面、学歴、キャリアなどさまざまな面で、人は自分自身の至らない点を見つけては不安を感じる生き物なのかもしれません。
今回、Dybe!ではコンプレックスを生かして活躍されている方にお話を伺いました。クリープハイプのフロントマン・尾崎世界観さんは、コンプレックスから生まれる感情を作品づくりのエネルギーに変え、創作活動を続けています。尾崎さんはコンプレックスをどのようにとらえ、自らと向き合っているのでしょうか。
学生時代に成功したことは何もなかった

──尾崎さんはコンプレックスから生まれた感情を、楽曲づくりに生かしているそうですね。具体的にはどんな経験が生かされているのでしょうか?
尾崎世界観さん(以下、尾崎):学生時代は何をやっても成功したことがなかったんです。勉強も運動も苦手で、中学の時、バレー部に入ったけど、ずっと補欠でした。必死に練習してもレギュラーにはなれなくて。「選ばれない悔しさ」を当時はよく感じていましたし、その時の感情や気づきは作品をつくる原動力のひとつになっています。
──どんな気づきがあったのでしょうか?
尾崎:頑張っても手に入れられないものが世の中にたくさんあるというのは、この時にわかりました。でも今となっては、何かができなかったり、足りていなかったりすることを悪いことだとは思いません。
──コンプレックスには良い面もある、と?
尾崎:あの時ダメだったとか、これができなかったとか、そういうつらい経験をしたことで、今、信用してもらえる作品を作れているんだと思います。だって、一度も虫歯になったことのない歯科医に治療されるのは不安になるじゃないですか。同じしんどいものを抱えている人の作品や行動のほうが、説得力があるんじゃないかなと思います。
──確かに、同じ痛みや悲しみを経験している人のほうが、共感しやすいかもしれませんね。
尾崎:あと、僕は芸人さんが好きなんですけど、彼らは自分の失敗談で人を笑わせたりもするじゃないですか。過去の経験は良いことも悪いことも使い方次第なんですよね。
──作品づくりのほかに、コンプレックスが尾崎さんの味方になったことはありますか?
尾崎:人とつながるきっかけになりました。コンプレックスがあるということは、人が入ってこられる「隙間」があるということです。「この人、こういうところが足りてないな」と気づいたら、じゃあそこに自分が入っていけると思う人もいるだろうし。隙間があることで、親近感を持ってもらいやすくなる気がします。
──尾崎さんの“隙間”には、どんな人が入ってきましたか?
尾崎:まずはバンドのメンバーですね。僕の足りていない部分を受け入れて、自分の生活をかけて一緒にこれまでやってきてくれていますから。ほんとうにありがたいです。
自分が好きだから、自分が嫌いと言える

──これまでコンプレックスは自己否定、自己嫌悪のようなネガティブな印象がありましたが、決してマイナスなことだけではないんですね。
尾崎:「自分のここがコンプレックスです」という人は、言葉では自己否定しているように見えるけど、本当はどこかでその部分を受け入れてもらえる可能性を感じているんだと思うんです。照れ隠しというか、誰かから「そんなことないよ」とか「それこそがいいんじゃない」とか、たとえお世辞であったとしても、そう言われることを待っているんじゃないでしょうか。
──人に認めてもらうために、あえて自己否定をしていると?
尾崎:そうですね。自分を愛しているから期待するし、恥ずかしくなる。自分が好きだから認めてほしい。でも真っ直ぐに言えないから、遠回りをしながら伝えているのかもしれないです。
──「私のこと褒めて」って、なかなか人に言えないですからね。
尾崎:自分のことが嫌いなんですという人ほど、自分のことが好きなんだと思います。どこか潜在的に自信がない個性を、コンプレックスと呼ぶ時代なのかもしれないですね。
──めちゃくちゃ奥深い。
尾崎:今はコンプレックスだとは思っていませんが、僕は自分の歌声がずっと好きじゃなかったんです。よく「特徴的な歌声」なんて表現されていて、万人に愛される声ではなく、賛否が分かれる声なんだというのがだんだんとわかってきました。
──尾崎さんのハイトーンボイスは、クリープハイプの魅力のひとつですね。
尾崎:この声を良いと言ってくれる人もいるし、自分でもこの声だから届く層があると思っています。好きじゃないと思っていた部分が、結果的に個性として自分の強みになったりするんですよね。その分、批判もあるんですけど。
──どんな批判の声がありましたか?
尾崎:メジャーデビューをしてから、より多くの人に自分たちの音楽が届くようになって批判的な声も増えてきたのですが、「蚊が鳴いてるかと思ったら、クリープハイプだった」と言われたこともあって。全然笑えないですよね。そういう自分の声に対してどうこう言ってくる人への気持ちを歌詞にしたこともあります。
──「社会の窓」の歌詞ですよね?

尾崎:そうです。批判されたら腹が立つんですけど、その感情を音楽にしたりライブのMCやラジオのネタにしたり、そういう風にして使わせてもらっています(笑)。
悩むことは筋トレと一緒。考えた分だけ成長する

──これまでコンプレックスを乗り越えようと思ったことはありませんか?
尾崎:ないですね。そもそも「コンプレックスは乗り越えるもの」という打ち出し方に疑問があります。そう言われれば、乗り越えなければいけないとプレッシャーを感じるじゃないですか。その思い込みが、コンプレックスは悪いものだという印象を植え付けているのかもしれませんね。
──「乗り越えよう」という前向きな提示が、裏目に出ていると。
尾崎:だから、コンプレックスを乗り越えられないこと自体に苦しんでしまうのは、ちょっと違う気がします。できないことや足りていないことと、どういう関係性を築くべきか、ということに悩むほうが建設的だと思います。
──コンプレックスとの付き合い方を見つけるということでしょうか?
尾崎:はい。コンプレックスに対する悩みは、解決しても次々と新しいものが現れてキリがないし、根本的に解決できないことだってありますよね。だから、無理に解決しようとせずに、悩みと向き合い続けてみる。そうすると自分の特徴や癖に気がついて、うまく付き合うヒントを見つけられるかもしれません。
──悩みごとと向き合い続けるって、とても苦しいような……。
尾崎:自分でも、日々いろんなことに悩んだり考えたりしていますけど、それは良いことだと思っています。悩むことは頭の中で筋トレをしているようなもので、考えた分だけ成長しているし、人の気持ちもより見えてくるはずです。悩みを考えることと、ジムでトレーニングをすることは、同じようなものだと僕は考えています。
批判的な意見も大切。誰の意見にも惑わされないって寂しい

──先ほど歌声を批判されたという話がありましたが、そうやって他人から指摘されて、気になったりコンプレックスになったりするケースはありますよね。そういった他人の意見に振り回されないためには、どうすればいいですか?
尾崎:他人の意見に振り回されてもいいと思います。僕は歌い方を変えようとは思わなかったけど、仮にそこで変えたとしても悪いことではないです。「自分らしくいよう」とか「ブレない軸を持とう」という風潮がありますが、誰の意見にも惑わされないというのは寂しいですよね。
──寂しい、といいますと?
尾崎:自分以外の人間がいる意味がないというか……。人の意見の中には新しい発見があるだろうし、誰かに何かを言われて傷ついたとしても、人の言葉に対して心が動いたというのは事実ですから。
──人に指摘されて気がついた、自分自身の意外な一面はありますか?
尾崎:よく「第一印象が悪い」と言われます。自分では普通に振舞っているつもりなんですけど……。だから、ラジオ(※)で「第一印象を良くするプロジェクト」という企画をスタートさせて、アナウンサーの方やマナー講師の方に挨拶の基礎を教えてもらっています(笑)。
(※)2019年4月からスタートしたTBSラジオの新番組「ACTION」。平日15時30分から17時30分の生放送番組。尾崎世界観さんは火曜日のパーソナリティを務めている。
──「第一印象が悪い」という課題を解決できましたか?
尾崎:始めたばかりなのでまだ効果はわからないです。ただ、解決したいという気持ちでやっていますが、別に解決できなくてもいいという気持ちもあります。治すことを目標にするのではなく、まずはやってみる。たとえ治らなかったとしても落ち込まないで、ここは治せない部分なんだと発見に変えることが大切だと思います。
──人の意見は、自分自身を見つめ直すきっかけにもなるのですね。
尾崎:どの意見を取り入れるかは、言われた相手によって決めればいいと思います。同じ言葉でも、言う人によって響き方が全然違うじゃないですか。この人が言うなら聞いてみようとか、この人に言われたら腹が立つなんてこともあるし。この「腹が立つ」意見も、時には必要だと思います。
──ただ、そういった意見はなるべく聞きたくないものですが。
尾崎:振り回されないように人の意見をスルーしなさいという提示を、僕は正解だと思いません。スルーできることで得をするわけではないし、スルーできなくて傷ついたとしても、損をしたということではないですよね。
──批判的な意見は受け流すのではなく、受け止めるべきと。
尾崎:そうですね。もちろんすべてを受け止める必要もないと思います。批判されたら嫌になることもあるけれど、僕は人の意見に耳を傾け、自分なりに考えぬいたことが、今のクリープハイプを支える作品として残っていると思います。そして、そこに共感してついてきてくれる人がいることが、活動を続ける上での自信や安心につながっています。
【リリース情報】
2020年1月22日に約3年振りとなるCDシングル『愛す』が発売されます!
●初回限定盤(CD + DVD)UMCK-7052 ¥2,300(税抜)
●通常盤(CDのみ)UMCK-5688 ¥1,000(税抜)
収録内容はクリープハイプ公式サイトにて
【ライブ情報】
10周年全国ツアー「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた」
02月07日(金)札幌 Zepp Sapporo
02月15日(土)仙台 チームスマイル仙台PIT
02月16日(日)仙台 チームスマイル仙台PIT
02月27日(木)広島 CLUB QUATTRO
02月28日(金)広島 CLUB QUATTRO
03月01日(日)福岡 Zepp Fukuoka
03月06日(金)名古屋 Zepp Nagoya
03月07日(土)名古屋 Zepp Nagoya
03月15日(日)東京 幕張メッセ国際展示場9-11ホール
03月22日(日)大阪 大阪城ホール
<公式プレリクエスト先行>
※3/15(日)幕張メッセ国際展示場9-11ホール公演のみ
■受付期間:1/10(金)12:00〜1/14(火)23:59
尾崎世界観(おざき・せかいかん)
クリープハイプのヴォーカル・ギター。2012年にアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャー・デビューし、2016年には小説『祐介』を上梓。インディーズ時代によく言われた「世界観が良い」という、あいまいな評価に疑問を感じ、自ら「世界観」と名乗るようになった。
Twitter:@creephyp
WEBサイト:クリープハイプ オフィシャルサイト
取材・文/水上アユミ(ノオト/@kamiiiijo)
撮影/井上依子