誰にも言えない悩みを抱えて、深夜にネット検索したり、不安や弱音を吐き出すためのサブアカウントを作ったりしている人も少なくないのでは? 

「漠然とした不安や悩みをぶつける先がない問題」は結構深刻です。そんな不安や悩みを抱えた人たちが頼る人、それが凛として時雨のドラマー・ピエール中野さん。深夜にインスタのストーリー機能を使ってファンから投稿された悩みに回答し続けています。

「ファンサービスがすごい!」と話題になっていますが、彼はどんな気持ちでSNSを運営しているのでしょうか。本音に迫りました。

みんな、もっと弱音を吐いていい

ピエール中野
ピエール中野(ぴえーるなかの)。凛として時雨のドラマー。凛として時雨とは別に即興ユニットなどにも参加する他、DJやコラム連載など、ドラマーとしての可能性を模索し、幅広く精力的な活動を展開している。

──27万人以上のTwitterフォロワーを抱えるピエール中野さんですが、SNS上で自分の考えをはっきり発信していますよね。

ピエール中野さん(以下、中野):ほかのミュージシャンやアイドルに「こんなに自分を出せて、うらやましい」と言われます。そんなことは出さないほうがいいっていう意見もわかるけど、自分の場合はこのスタンスが合ってると思ってます。

──時には「死にたい」なんて投稿をされることも。落ち込んでいることも隠さないのは、なぜでしょうか。

中野:その投稿は何年も前で、精神的にかなり弱っていた時ですけどね(笑)。僕が弱音を吐くのは、そのほうが楽になることがわかったからです。溜め込むとそれがストレスになってしまうけど、吐き出すと意外と楽になるんです。

──「弱っている人の投稿には優しくしてあげて」という呼びかけもされてますね。

中野SNS上で飛び交うやりとりをもっと優しいものにしたいっていう思いがあるんですよね。僕が最初にSNSで「死にたい」と弱音を吐いた時、かなり叩かれたんです。その時、「なんで追い詰められた人をさらに殴るようなことするんだろう?!」と、不思議に思ったんですよ。

──弱っているところを叩かれるなんて、超しんどいですね。

中野:自分が叩かれた経験でつらさがわかったからこそ、「ネガティブな発信をしている人には、こう接するのがいいですよ」という部分もしっかり伝えるようにしました。いわゆる「病み」投稿にどう反応していいかわからない人って結構多いと思うんです。でも、適切に対応できれば追い詰められている人の気持ちを楽にしてあげることもできるから。

──周囲に弱みを出すことによって得られるものは何だと思いますか?

中野:何かが得られるというよりは、溜め込むこと自体がよくない。さっきも言ったけど、マイナスの要因は言葉にして吐き出したら楽になるんですよ。我慢し続けると潰れてしまうから、まずは周囲にどんどん伝えてみるのがいいのかなと思います。

──「かまってちゃんだと思われるのが怖い」とか「スルーされたらどうしよう?」みたいな感覚はないですか。

中野:ないない。僕も弱音はどんどん吐くけど、相手から特に言葉が返ってこないこともある。大型フェスの時も、出演直前まで「ステージ出て誰もいなかったらどうしよう〜〜〜」ってずっとスタッフに弱音吐いてますけど、ウチのマネージャーは「まあまあ……」しか言わない(笑)。

──素っ気ないですね(笑)。

中野:でも、それで全然大丈夫なんですよ。「不安だわ〜」って口に出すことで楽になるし、それが笑いに変わるから

 「自分が受け皿になる」それがDMを開放している理由

ピエール中野
弱音は吐いたほうがいい。「僕もずっとスタッフに弱音吐いてます」と笑顔で。

──周囲との信頼関係が築けていないと、弱みを出すのって難しくないですか?

中野:僕は、そういう人たちの受け皿になってるつもりなんです。インスタもTwitterも、DMを開放しています。送られてくる悩み相談も、すべては返せないけど全部読んでる。既読をつけて「ちゃんと読んだよ」ってことだけでも伝えたいんです。

──Instagramのストーリー機能を使って、ひとつひとつの相談に回答していますよね。数も多いから、「表示がキリトリ線みたい」と話題になっています。

中野:一人ひとりの悩みに、きちんと向き合いたいんですよね。SNSの使い方については結構考えていて、他の人がやらないことをやろうと決めました。1投稿で複数人にまとめて返す人もいるけど、僕は一つひとつに対して1投稿で返す。そのほうが、相談者もうれしいと思って。

──Instagramって、ちょっと前まで「連続投稿NG」みたいな暗黙ルールがありましたよね。

中野:ストーリーをあんなにたくさん更新してるの、たぶん僕が最初なんですよ。できるだけ要点をまとめて、少ない文字数で返信しています。可能な限り多くに回答したいから。それでも全然答えきれてないんだけど。

──たとえば、若い社会人のお悩みで多いのは「給料が安くてしんどい」ですが……中野さんはどう返しますか?

中野:「副業して、 メルカリやって、 生活水準を上げない」。ほら、会社辞めなくてもお金の問題は解決する。

──秒で解決(笑)。「職場の人間関係がつらい」とかは?

中野:「自分が“我慢してあげてる”ポジションをつくる」かな。「我慢しなきゃ」じゃなくて「自分から率先して我慢する」。「こいつら、本当にしょうがないな〜」って、心の中でこっそりマウントをとる。自分がコントロールできない状況で仕事しなきゃいけないのってすごいストレスですよね。

──お悩みに回答する時に、気をつけていることはありますか?

中野否定はできるだけしないようにしている、かな。相談者に原因がある案件だったとしても、否定的な言葉を目にすると、それが更なるストレスになるじゃないですか。しんどい情報を視覚的にフォロワーにも与えたくないですし。相談者の問題点を指摘しなければいけない場合は、公開せずにDMで個別に回答するようにしていますね。

──今のところ、ピエールさんがきっぱり相談者を否定してるのは、不倫のお悩みくらいですよね。

中野:不倫は本当に地獄だから! よく不倫相談が届くけど、絶対ダメって言い続けています。あとは「貸したお金が返ってこない」っていう相談もよくあるけど、それはそこまでダメとは思わないんですよね。「友人と金銭のやりとりはするな」っていう人もいるけど、余力がある範囲で返ってこなくてもいいと思える金額なら問題ないと思う。一般論だけじゃ関係性はわからないし。

悩みを相談するなら、まったく知らない相手のほうがいい

ピエール中野
否定はできるだけしたくないというピエール中野さんだが、「不倫は本当に地獄だから絶対ダメ」ときっぱり。

──今までで、ご自分が役に立てたと実感するお悩み回答は?

中野:「受験勉強を頑張れません」っていう人がいて「タイムマシンで未来から戻ってきて、もう一度やり直すチャンスを与えてもらってると思って取り組んでみて」って返したんですよ。これ、自分もいつも支えにしているんですけど、たしか関根勤さんがTVで話していた内容をヒントにした思考法なんです。

──中野さん個人の考えだけでなく、他の方の意見も取り入れて回答しているんですね。

中野:相談に回答する時は、できるだけ人の発言や根拠などもネットで調べるようにしていますね。この問題について自分はこう思ったけど、これでいいのかって答えあわせをする感覚です。そうすることで、人と向き合いながら考え方の整理ができるし、自分にとってもカウンセリングになるんです。

──中野さん、毎日いろんなお悩みを浴びていたら、ネガティブな気持ちにひきずられませんか?

中野:ないない! そりゃ、友達に面と向かって深刻な悩み相談されたら「マジかぁ……」ってなると思うけれど、ストーリーは他人に近いから。そもそも、悩みって関係が遠い人にしたほうがいいんですよ。よく知ってる相手だと、その後も関係が続くから思ってることを全部話すって難しいでしょ? だからまったく知らない人、第三者に相談したほうがラクになる場合がある。カウンセラーも、まったく関係ない第三者じゃないですか。

──確かに。利害関係がない人にふと語りたくなることはありますね。

中野:「あんまり仲良くないしな〜」とか「相談していいのかな?」って考えるより、気軽に他人を頼ったらいいと思う。僕でもいいし、僕以外にもDMを開放してる人はいるから、そこに相談してみればいいんじゃないかな?  それに、文字にすることで自分の悩みを整理できるから。悩みを書き出すって大事で、スッキリするからみんなもっとやったほうがいい

答えはひとつじゃない。自分に合う答えを選べばいい

ピエール中野
悩みを書き出すことで頭と気持ちを整理できるから「みんなもっとやったほうがいい」。

──Dybe!読者は社会人が多いんですが、年次が上がると人から相談を受けたり、人に注意しなければならない機会も増えます。相手が後輩だったりすると、「何かためになることを言わなきゃ」とか「老害とかお局って言われないかな?」と揺れ動くことがありますが……どうしたらいいでしょうか?

中野:年を取ったらほぼ全員老害になるんですよ(笑)。だから心配しなくても大丈夫! でも、そうならないように抵抗する姿勢は大事ですよね。受け取るほうも、いろんな人の意見から自分に合うものを選べばいい。答えはひとつじゃないですから。自分がドラムクリニックをする時も「僕がやってる方法がすべてじゃないからね」と常に伝えています。

──気楽にかまえたらいいんでしょうか。

中野:何かトラブルが起きた時にも、責任の所在よりも、問題解決の方向に視点を切り替えることが大事。キングカズの名言で「学ばない者は人のせいにする。自分に何が足りないかを考えないから。学びつつある者は自分のせいにする。自分に何が足りないかを知っているから。学ぶことを知っている者は誰のせいにもしない。常に学び続ける人でいたい」ってのがあって、僕も大切にしてます。

──人のせいにしても問題は解決しませんからね。

中野:ごちゃごちゃ言うヤツがいても、「そんなこと言ってないで問題解決の方法を考えましょう」って言えるしね。

徹底的にエゴサーチする本当の理由

ピエール中野
凛として時雨のドラマーは、どんなツイートでも見つけ出すと言われるエゴサーチ能力の持ち主だった。

──ピエール中野さんといえば、「鬼のエゴサーチ」。「『ピ』とか『ピ/エ/ー/ル/中/野』とか、検索回避してつぶやいてもいいねやRTされる! どう見つけたんだ!」という声が多くありますね。

中野:エゴサは引き続きめちゃめちゃ細かくやってます。「他の人から見た自分はどんな人間なんだろう?」って、すごく興味があるんですよ。「あ、こう見られてるのか。じゃあこうしよう。」って。いいイメージを持ってくれてるならその期待に応えるためにも、よく思われていないところがあるなら改善していくためにも、視点をいろいろ持っていたいので。

──ネガティブな情報も拾うんですね。

中野:ヤフトピについてるコメントとかも見るし、アンチアカウントも見ますよ。精神壊してしまうからヘタに真似しないほうがいいと思うし、「よくこんな言葉が出てくるな」って思うこともあるけど、彼らにとってはそれが正義だからしょうがないですよね。止めようとも思わないけど、自分の周りではそういう言葉が飛び交うことがないようにしたい。そのほうがSNSも居心地よくて、楽しくなるから。

──アンチからの意見に凹んだりすることは。

中野:今はもうないかな。前は否定的な意見にイラっとしてコメント返して、いっぱい燃えたけど(笑)。「まあ、そう見る人もいるよな」って思う程度になりましたね。否定的な意見でも「自分にない考えだな」と思ったら、きちんと相手にDMでお礼する場合もあります。そこは素直に、柔軟でいたいと思ってます。

──最近受けた攻撃ではどんなものがありましたか?

中野:ピエール瀧さんとの2ショット写真を載せたら「犯罪者載せないでください!」って言われましたね。こっちはこっちで「君、アイコンにタレントの写真使ってるけど肖像権の侵害じゃん!」って思ったけど(笑)。

ピエール中野
かつてはネット上の否定的な意見にコメントを返して炎上したこともあるそう。

──人のこと言えないのに、なんで堂々と批判しにくるんでしょうね(笑)。

中野:過去の発言を引っ張り出されて「前言ってたことと違いませんか?」って言われることもあるけど、「そりゃそうだよ! 変わるよ!」って思うんですよ。経験を積み重ねれば考え方も変わるし、時代によっても変わる。今までタブーとされていたことについて、社会はどんどん寛容になっているじゃないですか。個人だって、変わらないほうがおかしい。

──イメージが大切なお仕事だと思いますが、中野さんがそこまで自分をさらけだせるのはなぜでしょうか。

中野:僕はアーティストじゃなくて「人」だから。神格化されると、やれることが限られてきちゃうし、毎日がつまらなくなっちゃうと思うんですよね。どんどん自分をさらけ出して「こいつは何やってもおかしくない」「ピエール中野だからしかたない」って立ち位置になったほうが楽なんです。そのぶん仕事をちゃんとやれば誰も何も言わなくなりますから。

──仕事を頑張るから認めてもらえるんですね。

中野:もし壁にぶち当たったら憧れの人になりきるのが一番早い。「あの人だったら、どう考えるかな」ってお手本にすればいいんです。ドラムで、上手いプレイヤーのプレイをトレースするのも同じで、僕も「YOSHIKIさんならどう叩くかな?」ってよく考えます。これはドラムをやったから身についた考え方だけど、ドラム以外にも応用できるんですよね。仕事も同じで、自分が経験して身につけたことは人生のいろんなことに役立つはずですよ。

ピエール中野

ピエール中野(ぴえーるなかの)

凛として時雨のドラマー。高度なテクニックと表現力で、豪快かつ繊細な圧倒的プレイスタイルを確立。「カオティック・スピードキング」という3人組即興ユニットやクリエイター集団「ZiNG」に参加する他、DJやコラム連載など、ドラマーとしての可能性を模索し、幅広く精力的な活動を展開している。星野源やももいろクローバーZなど、ドラム参加楽曲も多数。

Twitter:@Pinakano

インスタグラム:@pinakano0718

取材・文/小沢あや(@hibicoto
撮影/飯本貴子(@tako_i