深刻な人材不足に、労働環境の過酷さ、低所得のイメージなど、あまり良い文脈で語られない「保育士」という職業。そうしたマイナス面でのニュースが目立つ中で、園児のほっこりとしたエピソードや、保育情報を積極的に発信しているのが、現役保育士のてぃ先生です。

保育士の仕事の楽しさをメディアが伝えようとしないことに疑問を持ち、「現場からポジティブな声をあげていけたら」と、Twitterを開設。フォロワー数は2019年6月時点で48万人超えです。

そんなてぃ先生に、つらい仕事でも楽しく働くためのコツを聞きに行ったら、「もっと自分の幸せを追求したほうがいい」というメッセージにたどり着きました。

「男性」だから、「女性だから」って気にしたくない

てぃ先生
てぃ先生(てぃ・せんせい)。関東の保育園に勤める男性保育士。全国での講演活動や、他園で保育内容へのアドバイスを行う「顧問保育士」など、保育士の活躍分野を広げる取り組みにも積極的に参加している。名前の読み方は「T」先生。

── 保育士になって11年目とのことですが、てぃ先生が保育士になった当時には、男性保育士はめずらしかったのでは?

てぃ先生:そうですね、高校の進路相談では先生に「男が少ない業界だし、給料も少ないからやめておけ」と釘を刺されたくらいですから。大学時代には実習先の保育園で男性用トイレや着替える場所がないなど、男性保育士を取り巻く環境としては厳しいものがありました。

── 続けるうちに環境が改善された実感はありますか?

てぃ先生:はい。新設の園では男性用のトイレや着替えるスペースが設けられていますし、昔からある園でもちょっとした物置を男性保育士の部屋にしてくれるなど、かなり改善されたと思います。保護者の対応が変わってきたという話も聞きますね。

── どのように変わりましたか。

てぃ先生:「オムツ替えは女性保育士にお願いしたい」という要望が保護者からあがっているというニュースもありましたが、最近は聞かなくなりました。保育園に男性保育士がいることが、ごく普通の光景に近づいてきたのかもしれません。

── 男性保育士だからこその強みもありそうですね。

てぃ先生:うーん。僕は働いていて、「男性だから」「女性だから」って気にしたくないんですよね。

てぃ先生
てぃ先生は働く上で「男性だから」「女性だから」と考えたくないという。その理由とは?

── というと?

てぃ先生:よく「男性脳」「女性脳」とか言うけど、僕はそんなものないと思っていて。結局のところ、育ってきた環境によると思うんですよ。たとえば保育の現場では、ある先生は「ご飯は残さず食べなきゃダメ」、別のある先生は「残してもいいよ」と言う。そんな指導のばらつきが出ることがあります。これって、「男性だから」「女性だから」って関係なくて、その人が「ご飯を残さずに食べなきゃダメだよ」って教わってきたかどうかですよね。

── たしかにそうですね。

てぃ先生:家庭や一般企業でも同じことが言えると思っていて、「女性だからこれをしなくてはいけない」「男性だからこれができて当たり前」という考え方は、自分の首を絞めてしまうと思います。得意な人がやったらいいんですよ。

努力しても解決できないなら、環境が合ってないということ

てぃ先生
「保育士の給料が安い」と言われるのは、単に金額だけでは説明できない理由があることを教えてくれた。

── 世間的に、保育士は薄給のイメージがついていたり、人材不足が叫ばれていたりと、マイナスなニュースが多いですが、現役のてぃ先生から見た課題は何ですか。

てぃ先生:保育士の作業量を減らすことができれば、いろんなことが解決していくと思っています。そもそも保育士になろうとする人は、給料が安いことは知っているし、大変な仕事だとわかった上でこの業界に飛び込んでいるんですよ。

──仕事量と給料のバランスが悪いということでしょうか。

てぃ先生:そうです。給料に見合った作業量以上のことをしなくてはならないから「給料が安い」という声があがるし、それが人材不足にも繋がっている。玄関の解錠をカード式や指紋認証にするとか、手書きの連絡帳をICT化するとか、もっと負担を減らす工夫はあるはずです。

── てぃ先生ご自身は、保育士の仕事を辞めたいと思ったことはないですか?

てぃ先生:若いときは毎日辞めたいと思っていた時期もありました。この業界って年功序列の意識が根強いんです。たった1年でも長く勤めている先生の意見が優先されてしまう。でも僕は、保育士って能力で評価するべきだと思っています。

 ── わかる気がします。

てぃ先生:もし悩んでいる人がいたら、園を移ることで解消されることもあると知ってほしい。ある園では認められなかったことが、別の園では当たり前に行われていることもあるので、園の方針が変わらないのなら自分が働く場所を変えればいいと思います。

──それって保育士だけでなく、どんな仕事にも言えることですね。

てぃ先生:保育の現場はアナログな世界だから園ごとの労働条件を比較しづらいんですが、だからこそ、積極的に情報収集して比べてみたほうがいいと思います。僕も11年の間で4園目ですが、いろいろ見てきてよかったです。

──比較して、自ら選び取ることが大事。

てぃ先生:最近も保育士の大量退職が話題になっていましたが、僕はむしろこの状況を歓迎していて。問題のある園が淘汰されて、是正される機会になりますから。

てぃ先生
問題のある園から保育士が退職すれば業界の底上げにつながると、てぃ先生は考えている。

── 保育士さんも我慢する必要はないと。

てぃ先生「もっと自分を大事にしていい」と、声を大にして言いたいです。人間関係や労働環境は、転職することで解決できることが多いですよね。自分自身で改善するための努力はもちろん必要だけど、努力でどうにもできないなら環境が合っていないってことですから。

「顔が見えない人間にアドバイスされたって説得力がない」

── てぃ先生がSNSで発信をはじめたきっかけを教えてください。

てぃ先生:6年くらい前のことだったんですが、保育業界についてネガティブな話題ばかり多くて、「こんなにすばらしい職業だ」という話題がまったく出なかったんです。楽しさや嬉しさもあるのに、それをメディアが伝えようとしないことに疑問を感じました。

子どもや育児、保育に対して、ポジティブな意見を発信すれば、イメージも少しはよくなるのでは? と思ったのがはじまりです。

── てぃ先生はお仕事を楽しんでいるような印象があります。Twitterは140字という制限がありますが、それでも読んだ人に最大限、伝わる工夫ってありますか?

てぃ先生:誰が見てもその光景が思い浮かぶような文章がいいと思います。わが子のエピソードを発信している方もいますが、その子のバックグラウンドを知らないと理解できない内容だともったいないですね。たとえば、「普段はこういう行動をとらない子なのに!」という意外性が面白くても、そのことを知っている人でないと伝わらない表現とか。まったく知らない人が読んでも、一目でわかるように要約することが大事です。

── こういった活動を始める時に、園や保護者の理解など、苦労もあったのでは。

てぃ先生:転職活動の時に「こういうことがしたい」という条件で探して、ようやくたどり着いた園でした。今はおかげさまで、最高の環境で自分の好きな活動をさせてもらっています。保護者のみなさんも理解してくださっていてありがたいですね。

── 2017年頃から顔出しをされているようですが、どういった心境の変化が?

てぃ先生:子どもたちのエピソードだけではなく、保育や子育てに関するHow Toを発信しはじめたのがその頃でした。でも、顔が見えない人間にアドバイスされたって説得力がないじゃないですか。それで顔出しを決めました。

講演などの仕事が増えても「現場にこだわる」のはなぜ?

── てぃ先生は講演活動や顧問保育士などもされていますが、SNSからそういったお仕事に発展しているのでしょうか。

てぃ先生:そうですね。最初の頃は、知っている保育園の方から「こういうことに困っているんですが、いい案ありますか?」と悩み相談がきて、普通にお返事していました。そこからどんどん量が増えていったので、顧問として契約しミーティングに参加するとか、企業主導型の保育園のスタートアップや軌道修正などの案件に携わるように。

── そうなると、他の仕事だけでも食べていくには十分に思えてしまうんですが、現役にこだわる理由は?

てぃ先生:当事者として関わることに意味があるからです。保育について研究している大学教授もいらっしゃるんですが、その方たちは現場で勤めているわけではない。現場からすると机上の空論に思えてしまうことが、やっぱりあるんです。当事者だからこそ見えてくることもありますし、情報は更新され続けなければ意味がない。

てぃ先生
園児たちのほっこりするエピソードだけでなく、子どもとの向き合い方などHow Toも発信している。

── すごく勉強熱心ですね。

てぃ先生:そうかもしれないです。保育園の他に学童でも働いていたことがあって。

── えっ、兼業ということですか?

てぃ先生:はい。21時頃まで開いている民間の学童だったので、夕方まで保育園で働いて、夜は学童で働いていました。

──勉強のために?

てぃ先生:保育園から小学校に上がった子たちがどう過ごしているか知りたくてはじめたことです。知った上で保育しないと、卒園までをゴールにしちゃう気がして。現場では「小学校に向けて、こういうことを身につけてください」って言われているんですが、本当にそれが正しいのか実際のところを知りたくて、学童で5年間勤めました。

── 学童で働いたことで、視点は変わりましたか?

てぃ先生:変わりました。それまでは「立派に送り出さなくては!」と、意識しすぎていたというか。例えば、小学校に進学するにあたって「授業中、座れるようになること」が必要とされています。この辺は意識して教えないと身につかないものです。

── 先生たちもプレッシャーですよね。

てぃ先生:でも、小学校1年生の子たちを見て、「まだ集中力のない子もいて当たり前だし、余裕を持ってもいいのかな」と思えるようになったんです。そこから、「楽しみながらイスに座っていられる遊びを考えよう」という発想になりました。

── 一歩先を知ることって大事ですね。ちなみに、てぃ先生のツイートを見ていて、保育の情報が社会人にも役立つこともあるなと思ったのですが、もしアドバイスがあればぜひ。

てぃ先生:僕は、もっと相手のパーソナルな部分に興味を持つことが大事なんじゃないかと思っています。「○○くんのお母さん」と呼ぶのではなく、苗字で呼ぶとか。子どもを介したコミュニケーションだけでなく、その人自身とコミュニケーションをとるんです。一般企業でも、取引先と仕事についてのコミュニケーションだけでなく、「今日の靴ステキですね」とか、相手自身のことをもっと見ることで、仕事にもいい効果が生まれるはずです。

── 日頃からの関係性が大事ということですね。

もっと自分の幸せに貪欲になっていい

てぃ先生
「子どもは大切。だけど、働く大人たちの人生も同じように大切にしていい」と真剣な表情で語る。

── てぃ先生の今後の展望はありますか。

てぃ先生:正直、園長になりたいとかはないんですけど、保育業界でスタープレイヤーが生まれたらいいなと。カリスマ美容師みたいなイメージですね。もっと、「あの先生にみてもらいたいから、あの保育園に入りたい」みたいなことがあってもいいんじゃないかなと思っていて。

── 一方で、「何者にもなれない」と悩みを抱えている人も多いかもしれません。

てぃ先生:それは適材適所ですし、組織の中での役割だって大事です。それでも、もし力を十分に発揮できないと感じているなら、努力の方向が間違えているか、活躍できるフィールドは他にあるかもしれないですね。

──なるほど。

てぃ先生:会社への不平不満は言うけれど、そこを辞めるまでのことはしない人って、自分の幸せに重きを置いていないんじゃないかなって思うんです。

── どういうことでしょうか。

てぃ先生:保育業界でいうと、どんなにひどい状況でも「子どものため」と言い聞かせて美化する傾向があるんですよ。でも、もっと働く人自身の幸せについてフォーカスされるべきだと思うんです。なんでもかんでも「子どものため」って言うけれど、子どもの人生の価値に比べて、自分の人生の価値ってそんな低いの? 今大切にしている子どもたちも、大人になったら人生の価値が下がっちゃうの? って。

── それは悲しすぎますね。サラリーマンの世界でも「会社のため」という言葉で自分を殺している人がいるんです。

てぃ先生:会社でも保育園でも、誰かが犠牲になることを美化するのはおかしいですよ。人生の価値に優劣はないし、誰もが自分の幸せを大切にすべきだと思います。僕は、大人たちがもっと幸せになるような子育ての環境をつくっていきたいですね。それって、子どもたちが大人になることを楽しみにできる世界だと思うんです。

てぃ先生

てぃ先生(てぃ・せんせい)

11年目の現役保育士。読み方はT先生。他にも保育園の監修やアドバイザー、講演、メディア出演、企画なども行う。著書はコミックも含め累計50万部を突破。最新の著書『保育士てぃ先生のつぶやき日誌 きょう、ほいくえんでね…!!』(マガジンハウス)が発売中。

公式サイト:てぃ先生 – 公式ホームページ

Twitter:@_HappyBoy

Instagram:@tsenseidayo

取材・文/栗本千尋(プレスラボ・@ChihiroKurimoto
写真/クロダミサト(@kurodamisato