できる先輩や同期に囲まれて、なかなか成果が出せない自分に焦ってしまうことはありませんか?

ビジネスパーソンと同じように、アイドルも、もがきながら努力しています。今回お話を伺ったのは、モーニング娘。OGで女優の飯窪春菜さん。小・中学生で加入するメンバーが多い中、歌もダンスも未経験のまま高校2年でモーニング娘。に加入。同期たちがすぐにパフォーマンスを発揮する中、当初は苦労したものの、レッスンでの努力や立ち振る舞いでメンバーやスタッフの信頼を集め、歴代最速でサブリーダーに就任した実績を持つ彼女。

成長の秘訣や、組織の中で人間関係を円滑にすすめるためのヒントをもらいました。

素直に周りを頼れば、みんな歩み寄ってくれる

飯窪春菜
飯窪春菜(いいくぼ・はるな)。1994年生まれ。2011年、オーディションに合格し、10期メンバーとしてモーニング娘。に加入、史上最速でサブリーダーに就任する。2018年にモーニング娘。及びハロー!プロジェクトを卒業。女優、モデル、VTuberアイドルNi-naのプロデューサーなど活躍の場を広げている。

──卒業コンサートでは過去を振り返り「(加入時、9期10期の中で)何もできない最年長でいることが何よりしんどかったです」と語っていたのが印象的でした。歌もダンスも未経験で加入した飯窪さん、苦労も多かったのでは。

飯窪春菜さん(以下、飯窪):モーニング娘。に入るまでは、当たり前のように「私も歌ったり踊ったりできる」と思い込んでいたんです。夢いっぱいで加入したけれど、ダンスレッスンですぐに現実に直面しました。

──やっぱり、現実は厳しかったんですね。モーニング娘。は、パフォーマンス重視の体育会系。レッスンもかなり大変ですよね。

飯窪:コンサートに向けて、長時間の厳しいレッスンがあるんです。先生が細かく指導してくださるんですけど、他のメンバーよりできていない部分が圧倒的に多くって……。「飯窪! できてないよ!」って、何度も名前を呼ばれましたね。

──みんなの前で注意されるのは、やっぱり辛いですね。

飯窪:このままじゃダメだと思って、鏡の前で自主練習していました。でも、ひとりで鏡を見てもカッコよく踊れているかががわからないんです。ダンスは単に振りを覚えればいいだけではなく、ちょっとした体の向きや腕の角度で見栄えが大きく変わってしまうので。

飯窪春菜
「もともと自分に自信がないタイプ」という飯窪さん。でも「応援してくれる人のためにも、ステージの上では自信に満ちた姿を見せたい」と考えるようになったそう。

──先輩や同期には相談しましたか?

飯窪:最初は言いづらかったんですが、「上手になりたい! できないとか言っていられない!」と思って、同期の石田亜佑美ちゃんに「一緒に踊ってくれる?」と個別ダンス指導をお願いしました。そしたら、嫌な顔せずに、しっかり付き合ってくれたんです。ふたりで踊っているうちに「私も」「私もやる」って、みんなが集まってきてくれて。自分がきちんと周囲を頼れば、みんな歩み寄ってくれるんですよね。

──いいチームですね。その後、飯窪さんの歌とダンスは、どんどん上達していきました。

飯窪:恥を捨ててから、成長できたと思っています。周囲にSOSを出すのって勇気がいる。でも、自分ができないことをきちんと認めることが大事なんだと気がつきました。メンバー全員が、「もっと素敵なパフォーマンスをファンの方に届けたい」っていう共通意識を持っているんだから私の恥ずかしさなんてどうでもいいことなんだって。

飯窪春菜
「自分ができないことを認めるのも、周りに助けを求めるのも最初は勇気が必要でした」と当時を振り返る。

「話聞くよ」とは言わず、“話してくれるのを待つ”ことが大事

──加入時の苦労があったからこそ、飯窪さんは人の気持ちがわかるのだと思います。メンバーから相談を受ける機会も多かったと思いますが、周囲をケアするうえで、気をつけていたことはありますか?

飯窪:「この子、何かあったのかな」「元気ないな」と思ったら、楽屋では話さずに、個別にご飯に誘うようにしていました。他のメンバーがいる場で話し込んでしまうと、「何か深刻なことがあったの!?」って、みんな心配になっちゃうし、知りたくなっちゃいますよね。憶測で変な噂が広まっちゃうのは避けたかったんです。

──さすがの気づかいです。

飯窪:声をかける時も「話聞くよ」じゃなくて、ただ「ご飯に行こう」とだけ誘ってました。ふたりきりになった時に、相手から悩みを話してくれたらしっかり向き合う自分からは無理に聞きださないことです。相手が何も話さなければ、ただ食事だけを楽しむことにしていました。

飯窪春菜
相手に悩みを話してもらうには「等価交換じゃないけど、自分も悩みや弱みを話すことが大事」。

──「相談しやすい空気」を作るために心がけていたことは?

飯窪:向こうが話しやすい状況を作るには、自分が先に弱みを出さなきゃいけないって思って、私も悩みを相手に話していました。相談って、受けるだけだと相手の秘密を一方的に握ってしまうことになるから、フェアじゃないですよね。これは明石家さんまさんから学んだことです。さんまさんが木村拓哉さんと親友になったのは「お互い墓場にまで持っていく秘密があるから」と笑って話しているのを聞いて、「これだ!」って思ったんです。

──ひとりだけ中途採用で入ってきた人みたいな立ち回り……! だからこそ、サブリーダーという重要な役にすぐ抜擢されたんですね。

飯窪:いやいや(笑)、サブリーダーになった当初は「歌もダンスもできないのに、年齢だけで任命されちゃった……」って、後ろめたさがありました。でも、そのおかげで「完璧なサブリーダーじゃなくてもいいのかな」って思えたんです。自分の悩みやダメなところも、後輩にも出しやすかったですね。それが、後輩と打ち解けた関係を作るのに役立ったのかなと思います。

飯窪春菜
「完璧じゃなくてもいいのかな」と思えたことで、後輩にも悩みを話しやすかったという。

メンバー以外にも友人を持つことで視野が広がった

──飯窪さんは、モーニング娘。時代から交友関係が広いですよね。メンバー以外の友達から得たものも多かったのでは。

飯窪:自分に自信が持てなくて悩んだ時に、他の事務所で活躍している友達がいたのは大きかったですね。みんなと話すことで、いつの間にか自分がモーニング娘。っていう限られた環境の中だけで物事を考えていたことを実感できたんです。「卒業後も芸能界でやっていくためにはもっと視野を広げなきゃ」って気づかせてもらえたのは大きかったです。

──考え方はどんなふうに変わりましたか?

飯窪:自分の苦手なこと、ダメなところを克服するのも大事だけど、そこにとらわれるだけじゃなくて、自分の長所だと言ってもらえるところを伸ばそう! と考えを変えました。

──モーニング娘。以外の友達で力になってくれたのは。

飯窪:中川翔子さんですね。漫画やアニメなど、好きなことをお仕事につなげている中川さんの働き方って、理想なんです。モーニング娘。を卒業して、どうやっていこう? と思った時にもアドバイスをいただいて、とても勉強になりました。

飯窪春菜
トーク力に定評のある飯窪さん。台本の「MC:飯窪」の文字を見て、「周りの人がそう思ってくれるならトーク力を伸ばしたい」と考えたそう。

もっとモーニング娘。を知ってもらいたい──「ジョジョ立ち」に込めた想い

──そういえば、歌番組に出演する時によく飯窪さんが「ジョジョ立ち」をしていたのが印象的でした。

飯窪:「アイドルに興味がない人に、私とモーニング娘。を知ってもらうには、どうしたらいいんだろう?」と考えてやったんです。私は漫画オタクだから、漫画やアニメが好きな人に届けられたらいいなって思って。

──実際に、Twitter上で「モー娘。にジョジョ立ちしている子がいる!」と、話題になっていました。

飯窪:ありがたいですね。ビジュアルを極めよう! とメイクや体型管理も頑張っていたけど、毎回一瞬しか映らないから、ジョジョ立ちにかけていました(笑)。

飯窪春菜
ジョジョ立ちについて聞くと、「メンバー全員が、ここという時に自分の一番の角度やポーズを見せるよう意識してました」と教えてくれた。

──他にも個性を出そうとトライしたことはありますか?

飯窪:好きな漫画もどんどん発信するようにしました。同じ漫画オタクの人たちに「モーニング娘。に漫画オタクの子がいるぞ」って知ってもらえたらと思って。私だけでなく、メンバーそれぞれが自分の強みの部分で幅広く発信ができたらいいなと考えてました。

──どんな結果につながりましたか?

飯窪:ブログに好きな漫画の話を書いたら、それを見てくださった方から漫画に関する仕事をいただけることもあって、とても驚きました。それまでは、ブログはファンの方に届けるものだと思っていたんですが、自分の履歴書にもなるんだなって。

飯窪春菜
過去の楽曲も、「先輩たちのコピーではなく、今のモーニング娘。らしいねって言ってもらえるパフォーマンスを届けたい」とメンバー同士で話していたという。

今語られる「イイクボスタート」の真実

──飯窪さんに、どうしても聞きたかったことがあるんです。道重さゆみさんの卒業コンサートで、道重さんが足を痛めて、メインステージから動けなくなりましたよね。あの時、道重さんだけを残して、みんな花道を歩いて前方にあるサブステージに向かいました。

飯窪:はい。動けない道重さんだけ残って、他のメンバーは移動しました。

──あの時、先陣を切って花道へと歩き出したのは飯窪さんでしたが、あれは、飯窪さんの判断だったんでしょうか? 

飯窪春菜
「どうしても聞きたかったことがあるんです」。ついにライター小沢あやが「イイクボスタートの真実」に踏み込んだ。

飯窪私の立ち位置が一番前だったので、独断で決めました。メインステージに全員で残ったほうがいいのか、メンバーみんな迷っていたと思うんです。でも、その場で大幅なアレンジを加えるよりも、当初の演出にしたがって、練習通りにやってきたことを優先させたほうが、良いパフォーマンスができると思ったんです。

──最初の1歩を踏み出した飯窪さんの度胸を、ファンの間で「イイクボスタート」と評価する声もあるんです。道重さんが主役の日でしたし、不安はありませんでしたか。

飯窪演出が変わって失敗してしまったら、何より道重さんが悲しむだろうと思ったんです。「自分が足を痛めたせいだ」って道重さんに思わせてしまったら嫌だと思ったので行きました。

──そう判断できたのは、自分たちのパフォーマンスに自信があったからでしょうか。

飯窪:いいえ、逆に自信がなかったからですね。まだまだ未熟な私たちが、道重さんが動けずにいるメインステージで、ファンに満足してもらえるパフォーマンスができるのか、そこに絶対的な自信が持てなかったので、だったら何度も練習してきた通りのことをやろうと考えたんです。

──とっさにその判断ができるのがすごいです。厳しい練習を繰り返し、積み上げてきたものがあってのことだと思います。

飯窪:でも、私は次の曲が道重さんと譜久村さんのデュエット曲だったことまで気が回らなかった。曲が終わると同時に譜久村さんがダッシュで道重さんのところに戻って次の曲につなげてくれたんです。本当に、譜久村さんに救われましたね。

飯窪春菜
迷って当然の場面でメンバーを引っ張った「イイクボスタート」。ピンチの場面を次の曲へつなげた「フクムラダッシュ」。モーニング娘。の連携プレーが素晴らしすぎた。

──あの時の譜久村さんの猛ダッシュ、「フクムラダッシュ」はファンの間で語り継がれる伝説になりました。まさに連携プレーのたまものですね。お互いを信頼しているからこそできるワザです。

飯窪:不測の事態もうまく乗り切るには、練習だけでなく、普段のコミュニケーションが大切だと思います。楽屋でも、積極的にみんなと話して盛り上げるようにしていました。

──卒業し、夢への一歩を踏み出した飯窪さん。今後の野望は?

飯窪:個人の名前でお仕事いただける存在になりたいです。これまではモーニング娘。という看板があったけど、今は「飯窪春菜」だけ。おしゃべりが大好きだからラジオ番組も続けたいですし、これから女優業を頑張って、お芝居で映画やドラマに出させていただくのが理想だなって思ってます。

飯窪春菜

飯窪春菜(いいくぼ・はるな)

1994年生まれ。2011年、オーディションに合格し、10期メンバーとしてモーニング娘。に加入、史上最速でサブリーダーに就任する。座右の銘として「1日1冊」をあげるほどの漫画好きとしても知られている。最も好きな作品は『ジョジョの奇妙な冒険』。2018年にモーニング娘。及びハロー!プロジェクトを卒業。女優、モデル、VTuberアイドルNi-naのプロデューサーなどとして活躍の場を広げている。

Twitter:@haruna__iikubo

Instagram:@harunaiikubo_official

ブログ:Honey coming BLOG.

取材・文/小沢あや(@hibicoto
撮影/飯本貴子(@tako_i