わが人生、モーニング娘。と共にあり

私は20年来のモーニング娘。ファンだ。

人生の3分の2を、モーニング娘。と共に歩んでいる。モーニング娘。が結成されたのは1997年。彼女たちがブレイクするきっかけとなったオーディション番組『ASAYAN』を、小学生だった私は食い入るように見ていた。当時のメンバーは自分より少し年上。色っぽく歌う姿に魅了されていた。

金髪で加入してきた後藤真希さんには度肝を抜かれたし、2001年にはついに自分と同い年の高橋愛さんが加入し「愛ちゃんが頑張っているので観なきゃ!」という感覚が芽生えた。もともとは「何者」でもなかった普通の女の子たちが猛レッスンで努力し、アイドルスターとして輝いていく姿に心を打たれ、気がつけば涙していた。

社会人となった今も、私は変わらずモーニング娘。を追い続けている。

モーニング娘。’19を擁するハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)は、容赦なく平日に重大な武道館公演を打ってくる。主力ファンは社会人なのに、つらい。お仕事と推し事の両立は難しいが、実はこれが人生においてかなり支えになっている。

私はやりたい仕事に前のめりな性格。深夜もメールチェックしてしまうし、会社員時代から休出や残業も平気なタイプだったが、「絶対に外せない現場」があることで、生活にメリハリがつくのだ。アイドルは、私のワークライフバランスを支えてくれる存在でもある。

仕事とオタク活動の両立を追い続けた20代

現在、フリーランスの編集者として働いている私だが、初めから編集職に就いていたわけではない。

学生時代から、文章を読み書きするのが大好きだった。できれば仕事につなげたいと思ったが、「アイドルが好き過ぎて」大手出版社を受けるのをやめた。もしもゴシップ系雑誌に配属されたら……と思うと心臓がキュっとなるからだ。しかし、実のところは「超狭き門である出版業界の新卒採用枠を、私なんかが勝ち取れるわけがない」というのが本心だったかもしれない。

就活で選んだのは、音楽メディアだった。あえてアイドルからは離れ、ロック系を得意とする企業を選んだ。配属されたのがレーベル事業だったのは正直予想外だったが、アーティストフレンドリーでとても良い会社だった。やりがいもある。ライブやイベントで夜も土日も働くことが多かったが、そのぶん平日早退もできたので、アイドルオタクにとってはありがたかった。

20代後半、初めての転職をしたIT系スタートアップも、オタク活動との両立ができて助かった。やらなければならないことは無限にあったが、業務フローは効率化され、オンラインツールも整備されていたからだ。

余談になるが、「娘の保育参観日なので早退します」という同僚と「娘。が武道館なので早退します」と話す私を、同じように尊重してくれた会社には、感謝しかない。育児や介護中の人だけでなく、趣味のためにも、誰でも気軽に休めるのがあたりまえの社会になればいいとも思う。

アイドルが好き、娘。が好き。それで幸せと思っていたけれど…

30代になってからすぐ、フリーランスになった。ついつい目先の欲が出て、仕事を詰め込んでしまう。だが、手帳やスケジュールアプリにはまず、好きなアイドルのツアー日程を書き込むことにした。

そしてできるだけ「行けそうなら行く」ではなく、事前にチケットを取る。場合によっては、地方遠征のための新幹線もだ。

人間、楽しみのために働いているのだ。趣味を優先できる範囲で働くのが、精神衛生上良い。同時に「趣味を楽しめるくらいに仕事を頑張る!」の指標もできる。いいことだらけだ。

先日、ハロプロリーダー・和田彩花さんの卒業公演という超プラチナチケットを知人から譲ってもらえることになった。あいにく夫が不在の日だったが、あきらめる選択肢はない。数時間子守りをしてくれる人員を確保すべく、ベビーシッターを爆速で予約した。

シッターだけでも、約16,000円。チケット代や交通費を合わせると、結構な額だ。働いているとはいえ、零細個人事業主の身なので「プライスレス!」「実質無料!」とは言えない。しかし、アイドルの卒業式は一生に一度なのだ。ここぞという時に迷わず駆けつけられるくらいには、稼げる女でいたい。

アイドルが好き、ハロプロが好き、モーニング娘。が好き。選挙の日は投票に行って外食をするなど、日常の中でひっそりとモーニング娘。仕草を意識して、ニヤリと笑う。そんな人生を送ってきた。私自身、生活を楽しんでいるし、幸せだ。

でも、ある出会いをきっかけに、心が大きく揺さぶられた。それが「モーニング娘。になれなかった女」との出会いだった。

「モーニング娘。になれなかった女」との遭遇

「小沢さん、モー娘。好きなんですよね?」

出会ってすぐ、笑顔で話しかけてくれた取引先企業の女性がいた。モーニング娘。ファンは「娘。(むすめ)」と略すことが多い。おそらく、彼女はライトファンだろう。共通の話題を投げかけるべく、寄り添ってくれたのだとすぐわかった。その気遣いがとてもうれしく、私も笑顔で「モー娘。大好きです!」と返した。すると、彼女も即応えてくれた。

「私、モー娘。の4期メンバーオーディション、受けてたんですよ(笑)!」

「そうなんですかー!」と最初はあっさり返したが、正直驚いた。仕事上、過去に娘。のオーディションを受けていたアイドルにはよく遭遇するが、一般社会では初めて出会ったからだ。すると、まっすぐな笑顔で、彼女はこう答えた。

「モー娘。って、キラキラしているのに親近感あるし『私でもなれる!』って気分になれたんですよね。みんな、そうじゃない?」

いやいや、そうじゃない! そうじゃない! 「それ、モーニング娘。本人の前でも同じこと言えます?!」と、娘。のすごさを一気に語りたくなったが、やめた。彼女の目が超マジで、キラキラしていたからだ。彼女自身についてもっと知りたくなったので、後日改めて食事に誘った。

彼女とは好きな漫画や本が似ていて、一児の母という共通項もあり、すぐ仲良くなった。打ち解けたところで、インタビューに入る。彼女はなぜ、モーニング娘。になろうと思ったのだろうか。

「単純に、応募してみれば、なんとかなる気がしたんですよ」と、彼女は語った。
「周りの子も軽いノリで結構応募してたから、当たって砕けろっていう気持ちも別になかったな」
「『友達が勝手に応募して〜』っていうアイドルよくいるけど、私はやる気満々で応募したんだよね」
「もしかしたら、私も石川梨華みたいになってたかもしれないな」
「小沢さんは応募したことないんですか?」

……すっかり彼女のペースに引き込まれていた。まったく嫌味がなく、あっけらかんとしていて好感が持てる。なんなんだ、この圧倒的な前向きさは。強い。

「軽いノリ」で開拓されるキャリアもある

私は、アイドルをどこか神格化しているかもしれない。チャートの順位に貢献したいのでもちろんCDも買うが、いわゆる「握手会」「チェキ会」の類は避けている。スターと同じ場に並ぶことが、なんだかとても恥ずかしいのだ。

そんな状態だから、オーディションに応募しようと思ったことなんてもちろん一度もないし、ステージで輝く彼女たちを眺めるだけで満足だった。私は「モーニング娘。になろうとしなかった女」なのだ。

今私は、「モーニング娘。になれなかった女」と食事をしたあと、このエッセイを書いている。この文章を書くにあたり、エピソードの利用許諾を確認すると、即OKしてくれた。そんな彼女は今、企業でバリバリに働いて、成果を出し活躍している。きっと、これまでも前のめりにいろんなものにチャレンジしてきたのだと思う。

私はどちらかというと、「まず、手持ちのカードでどう戦うか?」を考えるタイプである。就職活動も、受かる可能性が高い領域でエントリーシートを練り、その中から一番合うと感じた会社を選んだ。楽しんできたし、一片の悔い無しだ。

しかし、彼女みたいに、怖いもの無し精神でいれば、また別の人生とキャリアがあったかもしれないとも思ったのだった。

「私なんか」精神を捨ててから、人生が始まる

フリーランスになって、もうすぐ1年が経つ。

近年は、会社を辞めよう過激推進派の意見が目立つこともあり、いろんな人からキャリアの相談をされるようになった。フリーランスの生存戦略や就活の正攻法を聞かれることもあるけれど、自分もキャリアについて常に悩んでいる身だ。背中を押すことはできても、はっきりとしたアドバイスはできない。

しかし、これだけははっきりと言える。やっぱり「私の人生エンジョイ!」な、前のめりモーニング娘。精神を持っている人間は、どんな場面でも強い。

独立したフリーランスであっても、仕事はひとりでできるものではない。もちろん新たな仕事を引き寄せるためには、実績をアピールすることは大切だが、その実績は関係者全員との連携があってこそで、おごってはいけない。しかし、プロなのだから「いやいや、私なんか……」精神自体はどこかで捨てなければいけない。謙虚とネガティブのさじ加減は、とても難しい。

まずはオーディションに応募する。そうしないとステージには立てない

人生に対して、後ろ向きな気分に襲われたとき、私はこれからもモーニング娘。になれなかった女のことを思い出すだろう。

「応募してみれば、なんとかなる気がしたんですよ」

このスタンスは、仕事論としても心に刻みたい。企画が通るかとか、自分が受け入れられるかどうかとかウジウジ悩むよりも、まずは打席に立ってみることが大切なのだ。オーディションに応募しないと、前には進めない。興味を示してくれる人と出会えて、ステージに立つことが決まってから、足りない部分は真剣に追い上げればいいのだ。

今の私があるのも、もともとは新卒入社した企業でめげずに「文章を書きたい」と言いまくったからだ。Twitterアカウントを立ち上げ運営したり、他部署の先輩に直談判してCDレビューやライブレポートを書かせてもらった。

最初は文章も下手くそだったが、やがてそれを読んでくれた他社の方からも執筆のお声がけをいただけるようになった。IT企業に転職したあとも、兼業で書き続けた結果が、今につながっている。アイドルの企画を担当することも増え、後藤真希さんや高橋愛さんへのインタビューも実現した。

迷う前に一歩踏み出そう。そうすれば人生はきっと明るい

30代にもなると、仕事では即戦力として成果が求められる。フリーランスだとなおさらだ。臆病になってしまうこともあるが、「今できそうなこと」「すぐやれそうなこと」だけに気をとられてはいけない。スケールがどんどん小さくなってしまう。

私は、20年以上もモーニング娘。を見てきた。パフォーマンスの上手い下手だけではなく、まずは努力し、時には恥をかきながらも前進していく。そんなメンバーの姿に、魅了されてきた。ファンなら、もうこのまま一生、彼女たちとともに「娘。イズム」で突き進もうではないか。

間もなく、モーニング娘。’19 LOVEオーディションの結果が発表され、15期メンバーが加入する。それは同時に、この地球上に「モーニング娘。になれなかった女の子」たちが新たに生まれることを意味する。しかし、まず応募というアクションを起こした勇気は素晴らしいものだ。一歩踏み出した彼女たちの人生はきっと明るいし、全員を讃えたい。

現在のモーニング娘。’19メンバーにも、過去にオーディションの落選を経験している、元「モーニング娘。になれなかった女の子」たちがいる。めげずに何度もトライを続けた結果、ステージで輝いている。

いくつになっても、「私なんか」と迷う前に、まずは行動してみることが大切だ。チューニングは、後からでも間に合う。そう思って私も、私の人生をエンジョイしたい。

この記事を書いた人

小沢あや

小沢あや(おざわ・あや)

フリーランスのコンテンツプランナー / 編集者。音楽レーベルで営業とPRを経験後、IT企業を経て、2018年に独立。エッセイのほか、女性アイドルやミュージシャン、経営者のインタビューを多数執筆。Engadget日本版にて「ワーママのガジェット育児日記」連載中。豊島区公認の池袋愛好家としても活動している。

Twitter:@hibicoto