プレイヤーとして、自分の仕事に自信はあるのに、なぜかチャンスがこない。気がつけば、成功してもてはやされるライバル。「なぜ自分が評価されないのか」とモヤモヤしている時間に、もっとやれることはあるはず。でも、何をしていいかわからない……。

そんな人に向けてヒントをくれたのが、ブラックマヨネーズの吉田さん。いつでも自分に正直なスタンスの吉田さんですが、最新のエッセイ集『黒いマヨネーズ』でも、長く売れなかった時代やコンプレックスにまつわるエピソードを包み隠さずに、思わず笑いを誘う読み物に仕上げています。

もともと「油断したらすぐサボってしまうタイプ」だと話していた吉田さん。売れなかった時代に感じていた周囲への嫉妬を断ち切り、芸人としてのステージを引き上げた、たったひとつの習慣とは?

ブラックマヨネーズ・吉田敬
ブラマヨ吉田さんの最新刊「黒いマヨネーズ」(幻冬舎)が大好評発売中

「浮気、しゃーないやん」と本音を言えるのはなぜ?

──吉田さんは、TV出演時のコメントも正直ですよね。好感度を狙ったり、バランスを取る方法もある中、率直な意見を発信している印象があります。著書の『黒いマヨネーズ』にも正直な吉田さんが綴られていると感じました。

吉田敬さん(以下、吉田):「自分が思ってもいないことを言うのはやめよう」と思っているからですね。今、芸能人の不倫のニュースが多いじゃないですか。

──著書の中でも「不倫と浮気は別物論」で触れていましたね。

吉田:視聴者も「TVだからこういうコメント言うやろな」って予想してると思うんです。お昼の生放送番組のコメントとしては「浮気はアカンよね」「うん、アカンな」って言ったほうがラクやと思う。でも、それでいいのかな? って思うんですよ。

ブラックマヨネーズ・吉田敬
吉田敬(よしだ・たかし)。1973年生まれ。98年に小杉竜一とお笑いコンビ「ブラックマヨネーズ」を結成、ボケを担当。

──「こういうことを求められてるんだな」と考えることもないですか?

吉田:極端にいえば、食レポでマズいものを食って「うまい!」って言っても、もう見透かされちゃうはずなんです。だから正直な気持ちでコメントしますよ、「浮気、しゃーないやん」って。芸人なんで、もちろんウケは狙いますけど、無理して自分の意見を寄せることはしません。それで「もう吉田は出すな」ってTV出られへんようになるんやったら、それはしかたないかなと思うんです。

──「愛想をよくして営業する」がオーソドックスなスタイルだと思いますが、逆ですね!

吉田:でもね、僕も新人時代は、きっちり求められたものをやってました。結果も出してないうちに、いきなり言いたいことだけ言ってもダメ。やらなあかんこともきちんとやって周りに認めてもらえるようになってから、「そろそろええんちゃうか?」って自分の色を出す。それが大事やと思います。

相方がブレイクした時、天狗になるのが許せなかった

──小杉さんが「ヒーハー」でブレイクして、コンビ間格差がうまれていました。著書の中には、小杉さんをカワイイという意見へのモヤモヤとした気持ちや、「小杉に腹立ってきました」というストレートな一言まで綴られていましたが、吉田さん、当時はしんどかったのでは。

吉田:ヒーハーの時ねえ、小杉が天狗になるのが、一番許せなかったんですよ。収録本番の時にこっちも仕返ししてやろうかなと思ったこともあるくらい。まあ、我慢しましたけどね。

──そんなに! 関係に亀裂がはしったのに、ブラマヨはどうやって立ち直ったんですか?

吉田:シンプルに喧嘩しましたね。「その言い方なんやねん」って。気に入らないことはお互いあると思うんですけど、不満が大きくなったら、取り返しがつかなくなる。爆発する前に、2人で細かいこともちゃんと指摘して話し合いました。はっきり言うのって、勇気がいることなんですけど、逃げずに向き合ってきたのが大きかったですね。それがなかったら、ブラマヨは解散してたと思います。

ブラックマヨネーズ・吉田敬
「不満が大きくなる前に細かいことも指摘して2人で話し合いました」。そうすることでコンビの信頼関係は深まっていった。

──著書でもコンビの関係について「ボヤはボヤの内に消す事。火事は放っておくと更に消すのが難しくなる」と書かれていたのを思い出しました。吉田さんから先に小杉さんに弱みをさらけ出したとも。

吉田:今もまだ、小杉にイライラすることもあるんです。けど、何も言わずに悶々と日々を過ごすことのほうがしんどいですから。もちろん、相手にも言いたいことは言ってもらうようにしてますよね。正直、20年コンビ組んでても、改まって「お前、あれなぁ……」って話すのは嫌なんですよ。でも、きちんと話せた日は、お互いに晴れやかですね。

遠慮なくものが言えるのは、漫才があり舞台があるから

──吉田さんは、とにかく正直で真っ直ぐなんですね。小杉さん以外の方々にも、同じように接しているのでしょうか。

吉田:小杉だけじゃなくて、スタッフさんにも全部言うてますよ。レギュラー番組は全部OAをチェックして、「なんでや!」と思ったポイントはきちんと言います。「なんで俺のボケをカットして、ヒーハー使うんや!」とかね。

──すごいです。スタッフさんもビクビクしちゃうのでは?

吉田:普段から親しくさせてもらってるスタッフさんでも、そこの緊張関係はもっておきたいんです。やっぱり編集で自分のボケをカットされるのはやりきれないんですよ。それはこっちの都合なんですけど、向こうは向こうの都合があってカットする。だからってそのまま流してしまったら気持ち悪いんで納得いくまで聞きますね。

──理由を知って、次の笑いに活かすためなんですね。

吉田:もちろんそうです。あとは、僕は根がもうダメ人間なんで。自分は「隙があったらサボったろ」っていうタイプだと思ってるからっていうのはありますね。会社でも「この人の仕事はサボれへんな」「チェック細かいからな〜」って人、いませんか?

──いますね(笑)。

吉田:仕事相手に「この人の時にはサボれへんな」って思ってもらえれば、僕もサボれへんし、スタッフさんも本気でいい仕事してくれると思うんですよ。

ブラックマヨネーズ・吉田敬
真剣な表情で一言一言を噛みしめるように話す吉田さん。お笑いに対するどこまでもストイックな姿勢が伝わってくる。

──吉田さんが、本気でお笑いを愛しているからできることなんですね。現場スタッフさんだけでなく、お偉いさんにも言います……?

吉田:誰にでも言いますよ。まだ若手でペーペーの頃から、目上の放送作家さんにもガンガン質問してました。この仕事を長く続けたかったんで、そのためにはモヤモヤしたままではアカン、ここで言わないと! って。それで結果的にTVを干されたとしても、僕には舞台があるし。「面白い漫才やってたら大丈夫やろ」っていうのが前提にありますからね。

売れなかった時代、これだけはやると決めた習慣が救ってくれた

──漫才に絶対的な自信があるからこそ、正直に生きられるんですね。ご著書にあった、将来への不安からホームレスの取材に行かれたエピソードは衝撃的でしたが、「笑い」に手応えをおぼえるまでは、どうしていましたか?

吉田:僕ら、売れるのが遅かったんですよ。21でこの世界入って、小杉と組んだのが24の時。で、30くらいまで、全然仕事がなかったんです。周りの同期や後輩はどんどん売れていくし、「俺、何やってんのやろ」って情けなくて。もう、悔しくて夜も眠れない時期があったんです。「あんなん何がおもろいねん」「アイツは顔が男前だから売れてるだけや」って、とにかく何か理由探して難癖つけてました。

──その状況から、どうやって立ち直ったんですか?

吉田「頑張らなアカン時に、頑張ってない自分」が多分、一番の敵だって気づいたんですよ。嫉妬した自分に何ができんねんって。売れてるヤツの揚げ足取りまくって、環境がアカンだけやとか言い訳してても、何も変わらないじゃないですか。そう思って、「とにかく毎日これだけはしよう」って自分で決めた習慣があるんです。

──どんなことですか?

吉田:「1日1個でも2個でも、何かおもろいネタ考えてから寝よ」って。そんなことしたからって急に売れるわけはないんで、何も状況は変わらないんですけどね。でも、「俺、今日やるだけのことやったよな」って思えた日の夜って、全然仕事もなくて金もなかったけど、幸福感がすごかったんですよ。

──それってすごく素敵な話ですね。

吉田:だから、「こういうことが大事なんちゃうかな」と思って。自分で納得できる毎日を小杉と一緒に積み重ねていったら、いつの間にか結果がついてきたんです。「今できることはやったよな」と思えるかどうか、それで自分が納得して満足できるかどうかがほんまに大事やと思いますね。

ブラックマヨネーズ・吉田敬
「嫉妬した自分に何ができんねん」。そう考えて努力を重ねたところ、いつの間にか結果がついてきたという。

「むき出しの自分」を面白く、笑えるように伝えたい

──考え方もポジティブになったのでは?

吉田:気持ちの切り替えも速くなりました。トークで一発スベっても、スベった事実は頭の中に残ってるんですけど、次の瞬間から狙ってますよ。この切り替えは犬から学びましたね。

──犬……? どういうことですか?

吉田:僕、ポメラニアン飼ってるんですけど、散歩してて別の犬とすれ違う時にめちゃくちゃ吠えるんですよ。でも、「おい」って引っ張って歩き出すと、次の瞬間から今まで吠えてたことなんて何もなかったかのようにスタスタ歩いて行くんですよね。コイツのこの切り替え、かっこええな! って。トークも、その感覚でええんやろなって思うんです。

──吉田さんのように正直に、正面から人とぶつかり合いたいけれど、それができないと感じている人は多いと思います。そんな人にアドバイスをいただくとしたら……。

吉田:うーん、僕の場合は「絶縁上等!」くらいの気持ちで言うてるんでね……。そのかわり、「これは絶対に手抜いてへんからな」って胸を張って言えるものを何か持っておくことが必要だと思います。そういうものがあれば、自信をもって言いたいことを言えますから。

──改めて、コラム集『黒いマヨネーズ』は、まさにありのままの吉田さんの思いが詰まった内容になっていますね。冒頭の「初体験」から、コンプレックスを赤裸々に綴っていらっしゃいます。

吉田:この本ではむき出しのままの僕を出させてもらいました。

──「インタビュー:ブラックマヨネーズ吉田敬(聞き手・俺)」なんてパートも。全編通して、吉田さんが言いたいことを自由に語っていらっしゃますね。

吉田:でも、言いたいことをただ言うだけじゃ、僕の仕事じゃない。それをどう楽しみながら伝えられるか、笑いながら読んでもらえるようにできるか、そういう十字架を勝手に背負ってやってたので、書くのはもうめちゃくちゃ大変でした。

TVは「面白くない」って言われても「編集でカットされたからや」と言い訳ができる。でも、本は編集もカットもない、言い訳が一切できない場。絶対面白いものになった自信があるので、僕の全力のコラムをぜひ読んでもらいたいですね。

ブラックマヨネーズ・吉田敬

吉田敬(よしだ・たかし)

1973年京都府生まれ。大阪NSC13期生。1998年に小杉竜一とお笑いコンビ「ブラックマヨネーズ」を結成、ボケを担当。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。著書に『ブラックマヨネーズ吉田敬のぶつぶつ』(幻冬舎文庫)など。最新刊『黒いマヨネーズ』(幻冬舎)が大好評発売中。

Twitter:@bmyoshida

取材・文/小沢あや(@hibicoto
写真/鈴木勝