嫌な上司。ソリが合わない取引先。理不尽な顧客……etc.。仕事をしていると、対人ストレス=「人疲れ」はつきものです。それだけに、人疲れを上手く解消できたら、それだけで仕事に大きなプラスとなります。

そこで今回は、自衛隊で長年心理教官を務めた人気カウンセラー・下園壮太さんに、人疲れをグッと軽くする方法を教えてもらいました。

ガマンは「自己否定」することと同じ

下園壮太
下園壮太(しもぞの・そうた)。心理カウンセラー。陸上自衛隊初の心理教官として、長年に渡り隊員のメンタルケア、惨事ストレスコントロールの指導・教育を行う。現在は退官し講演や研修、著作活動を展開。

編集部

仕事をしていると、「人と接することで生まれるストレス」を感じることがけっこうあります。それで、ふとした時にそれを思い出してモヤモヤしたり、出社するのが嫌になったり……。対人ストレスがなくなったらどんなにいいだろうと思います。

下園壮太

下園さん

対人ストレスでやっかいなのが、多くの人が「ガマン」でやり過ごそうとすることです。なぜなら、小さい頃から「人とは仲良くしなくてはいけない」「ガマンして努力してこそ一人前」という意識を植え付けられているからです。

たしかに、ガマンというのは人間として大切な機能のひとつです。でも、ガマンだけで乗り切ろう思うと、いつかは破綻してしまいます。

編集部

それは破綻しますよね。

下園壮太

下園さん

人間関係のストレスがあると、その相手から離れたい、会社から離れたいといった欲求が自然と生まれます。なぜなら、その状況のままだと自分の身が危険だからです。要は欲求を通して心が危険を伝えてくれている。つまりそうした感情は、生きる上で本来必要なものなんです。

だからそれをガマンするとなると、かなりのエネルギーが必要となる。もちろんガマンしたまま時が経つことで問題が解決することもありますが、解決しないままのことも多い。だから、自分の感情を抑え続けることでどんどん疲れ、いつかは抑えきれなくなって爆発してしまう。そして何よりも問題なのが、ガマンは「自己否定」につながることです。

編集部

自己否定ですか?

下園壮太

下園さん

たとえば、この人から離れたいという感情に対し、「いやいや、社会人としてこれくらいで逃げてしまってどうする」と考え直したり、会社に行きたくないという感情に対し、「いやいや、みんなができているんだから、自分もそれくらいちゃんとやろうよ」と考える。

編集部

たしかに、考えます。

下園壮太

下園さん

そう、ガマンしている人は、こんなふうに一日に何度も自分の本能的な欲求を反射的に否定しています。そうやって「自己を否定すること」でどんどん自信がなくなり、気分も沈みがちになる。そうなると当然、人間関係もよりうまくいかなくなる。ガマンを続けると、そんな悪循環に陥ってしまうんです。

「離れる」だけでストレスは相当小さくなる

下園壮太

下園壮太

下園さん

ガマンだけでなく「忘れる」という対処法にも同じようなことが言えます。嫌な感情やできごとを忘れるには、やはり相応のエネルギーが必要。そもそも忘れられたと思っても、生きる上で必要な警戒の感情などは、脳から完全には消えません。だから忘れているつもりでも、脳を浪費し続け、疲れてしまう。

しかもガマンと同様、忘れて放置するだけでは、たいてい事態は変わらないまま。むしろ悪化することも少なくありません。

編集部

忘れられたら楽だろうと思っていましたが、ちがうんですね。では、どうすればいいのでしょう。

下園壮太

下園さん

まず考えていただきたいのが、ストレス源から「離れること」です。離れる方法は、たとえば仕事の担当を変わってもらう、異動願いを出す、会社を辞めるなどなど状況に応じてさまざまですが、いずれにせよ物理的、時間的、精神的にストレス源と距離を取ることで、ストレスはかなり小さくなります。まずはこれをぜひ目指してください。

ただ、多くの場合は簡単に離れられる状況ではなかったり、「●●を考えると会社を辞めたくない」という相反する感情も同時に持っていたりするもの。そんな時はどうすればいいか。ここで重要になるのが、「極端な行動を避けること」です。

編集部

極端な行動?

下園壮太

下園さん

たとえば、とても理不尽な上司がいるけど、将来のことを考えると会社は辞めたくない。そんな時は「会社を辞める」とか、反対に「ひたすらガマンする」といった両極端の行動はできるだけ避ける。

編集部

それはなぜでしょう?

下園壮太

下園さん

まず極端な選択は、メリットもあるが、デメリットも大きいからです。たとえば、会社を辞めるというのは、楽になるかもしれないが、そのあと生活に困るかもしれない。一方であきらめてガマンし続けるというのも、お給料はもらえても、毎日が相当に大変です。

また、そうした極端な選択(ひたすらガマンして会社に残る)は、満たされなかったもうひとつの感情(上司から離れたい)を完全無視することになります。それではいつか破綻するか、あるいはいつまでも後悔を引きずることになりがちです。

編集部

たしかに。では、極端ではない選択とは具体的にどんなものですか。

下園壮太

下園さん

目指していただきたいのが、極端な選択ではなく折衷案で考える「7-3のバランス」です。たとえば会社をすぐ辞めるのが(10)、ガマンし続けるのが(0)だとすると、その両極の間には、先輩に相談する(3)、担当替えを希望する(5)、転職の情報収集を始める(7)といった“折衷案”的な選択肢がいろいろあります。その折衷案の中から、7と3の間に収まるものを選ぶのです。

「折衷案」が人疲れをラクにする!

下園壮太

編集部

7-3というのは意識したことがなかったので、目からウロコです。でもなぜ、7〜3の間なのでしょう?

下園壮太

下園さん

7~3の選択肢であれば、どちらの感情もある程度満たされるからです。それがたとえば座禅に通ってガマン力を鍛える(1)や、上司をパワハラで労働基準監督署に訴える(9)などを選ぶと、一方の感情を抑えることになり、苦しみが大きくなってしまいます。だから、白黒つけるのではなく、どちらの欲求も受け入れ、それなりに満たしてあげる。

ツライと感じた時にこれができるようになれば、人疲れはだいぶラクになります。3~7のどれを選ぶかは、その人の性格や状況によって変わってくるでしょう。

編集部

あえて「白黒をつけないこと」が大切なんですね。

下園壮太

下園さん

他にも7-3バランスの例をいくつかあげてみましょう。たとえばランチに誘われたけど、誰かと食事する気分にはなれない。でも正直には言いにくい。そんな時は「今月は金欠なので、僕はコンビニで買います」とやんわり断る。先輩の話が長くて苦痛だけど、途中で遮(さえぎ)る勇気はない。そんな時は誰かにLINEなどで「3分後に電話かけて」と頼み、電話を機に中座する。

編集部

それだと、角が立たないですね。

下園壮太

下園さん

その他、出張で上司と新幹線で長時間一緒になるのがすごく嫌だけど、別々で行きましょうとはとても言えない。そこで「総務の方が別々の席を押さえてしまったようで……」と部長にチケットを渡す。まさに大人の知恵です。大切なのは、行動のバリエーションをたくさん持っておくこと。それには経験豊富な年配者など、他者に意見を聞くというのも非常に有効です。

編集部

7-3バランスの考え方は、さまざまな局面で使えそうです。

下園壮太

下園さん

ただしこれをきちんと実行するためにも、もうひとつ非常に重要なことがあります。それは「休むこと」。弾が切れた状態で戦場に行っても戦えないのと同様、エネルギーが充分でなければ大人の知恵もなかなか湧きません。

特に7〜3の間で上手くバランスを図るには、それなりのエネルギーが必要です。裏を返せば、エネルギーが低下している人ほど、白黒ついた極端な行動に出てしまいがちということ。なので疲れを感じている時は、とにかく休んでエネルギーを充実させることを心がけましょう。

先ほどお話しした「ストレス源から離れること」と「休むこと」が、ストレスへの対処でまず目指すべき2原則です。

編集部

休むというのは、どんな方法がいいのでしょう。

動画やゲームはストレス回復に役立つ

下園壮太

下園壮太

下園さん

これは私が自衛隊時代に試行錯誤して導き出した数字なのですが、20~30代であれば3日間休めばたいていエネルギーが復活します。休むというのはストレス源から離れ、しっかり睡眠を取ることを差します。寝ないで遊んでしまっては回復しません。

ちなみに40代になると、エネルギーを回復するのに1週間ほどの休養が必要になります。

編集部

睡眠。やはり大切なんですね。

下園壮太

下園さん

それとエネルギーが低下している時に、もうひとつ注意してもらいたいことがあります。「SNS」です。

疲れている時ほど誰かとつながりたい、承認してほしいという欲求が大きくなり、気軽にできるSNSにそれを求めがちです。でも実際のところSNSでは、自分が求める言葉や行動が返ってくるとは限りません。承認を求めているのに得られないとなると、より疲れてしまいます。またSNSはワードが短いだけに、疲れていると人の投稿からムダに悪意を読んでしまいがち。

編集部

そうなんですね。

下園壮太

下園さん

また、他の人の充実した生活ぶりを見ることで、「それにひきかえ自分は……」などと落ち込んだりもします。だから心の疲れを感じたら、意識的にSNSから離れる。それだけでもエネルギーの回復にはかなりプラスです。

編集部

うっかり他人と比べたり、危険ですね。

下園壮太

下園さん

とはいえスマホが全面的にNGというわけではなく、嫌なことから距離を取るには、実は動画やゲームが有効です。

編集部

え? 動画やゲームはOKなんですね。

下園壮太

下園さん

動画やゲームは、没入して異空間にいける。だからストレス源から一時的に離れ、回復できます。特に嫌なできごとを頭の中で反復し続けてしまうのを一旦止めたい時などに便利です。映画ももちろんいいですが、ゲームならより短い間隔でトリップできます。

動画やゲームは若い世代が得意とする分野でもあるので、ぜひ上手く活用していただきたいです。

編集部

普段やっているゲームが人疲れを癒やすのに有効というのは、なんか嬉しいです。

下園壮太

下園さん

いずれにせよ大切なのは、自分の自然な感情を押さえつけないこと。すべての感情は生きる上で必要なものなので、それを無視すると余計疲れてしまいます。

だからこそ、「社会人としてこんなふうに思ってはダメだ」といった決めつけはやめ、自分の感情を受け入れ、満たしてあげる。強い感情が同居する時は、一方に偏らないよう上手く「折り合い」をつける。そんなしなやかな心が、対人ストレスの絶えない現代を生きるのに何より大切だと思います。

下園壮太(しもぞの・そうた)

心理カウンセラー。MR(メンタルレスキュー)協会理事長、同シニアインストラクター。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。同隊初の心理教官として長年、衛生隊員やレンジャー隊員などにメンタルケア、惨事ストレスコントロールの指導、教育を行う。2015年に退官し、現在は講演や研修、著作活動を通し独自のカウンセリング技術の普及に努める。著書に『自衛隊メンタル教官が教える 人間関係の疲れをとる技術』など。

公式サイト:下園壮太公式HP

      NPO法人メンタルレスキュー協会

取材・文/田嶋章博(@tajimacho
撮影/津田 聡